軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29 祭りの準備と青色シロップ

祭り当日までの一月弱、時間を無駄にしないよう計画的に、こつこつと準備を進める。

まずは買い物リストを作って、休みの日を丸一日使って、必要なものを一気に買いそろえた。

かき氷を盛るグラスは充分な数そろっているので、同じ数だけスプーンを購入した。古物市場で安価なものを買い集めたので、思っていたより費用が浮いた。

返却された食器を洗うための水の魔石も、忘れず購入しておく。それに加えて、 空(から) 魔石もいくつか購入しておいた。

空魔石とは、その名の通り、まだ魔力の込められていない空っぽの魔石である。空魔石に火の魔法を込めれば火魔石になり、氷の魔法を込めれば氷魔石になる。諸々の制限はあるのだけれど、魔法を蓄えておくことのできる石だ。

今のうちに空魔石に自分の氷魔法を蓄えておいて、祭り当日に補助として使うつもりである。

あまり魔法を使い続けると疲れてしまうので、その対策に。

魔石類をそろえた後、シロップを入れるガラス瓶を購入した。蓋付きの透明な大瓶と、シロップをすくいあげるためのスープレードルも一緒に買っておく。

ざっと必要な道具を買いそろえたついでに、手頃な木の板と絵具も手に入れておいた。

木の板にはこの世界の文字で『アイス屋』と書いて、値段も大きな字で添え書いておく。

かき氷の値段は五百 G(ゴールド) にした。器とスプーンを返却したら百G戻る仕組みなので、実質四百Gという値段設定である。

前世の出店かき氷と同じくらいの感覚だ。

子供でも小遣いで買える額なので、是非立ち寄ってもらいたいところである。

家の中から手頃なサイズの台車を引っ張り出してきて、手作り看板や木箱に収めた食器類など、必要なものをまとめて積んでおく。

祭りの出店スペースには三日前から荷物の搬入が可能なので、それまでこの荷物たちには店の端っこで待機していてもらおう。

――そう思って端に寄せていたのだけれど。

あれこれと準備をしているうちに、その搬入日はあっという間に訪れてしまった。

そういうわけで、本日は祭りの三日前。準備期間の初日である。

まとめた荷物を乗せた台車をガラガラと押して、アルメは自分の出店スペースにたどり着いた。

通りの石床にチョークで描かれた数字を確認して、台車を横づける。

ここは広場入り口に面した通りの角地スペース。緑と花があふれる花壇が近くて、客が座れそうなブロックやベンチの多い場所だ。

「思っていた以上に良さそうな場所だわ。素敵な場所をもらった分、頑張らなくちゃね」

食べ物屋を出すには絶好の景色を見渡して、気持ちが盛り上がってくる。

早速台車から荷物を下ろして、スペースへのセットを始めた。机、椅子、備品木箱と、事前に計画していた通りに置いていく。

一通り設置し終えたところで、周りで準備している人たちに目を向けた。残念ながら、アルメの知り合いは一人もいない。

エーナが店番をする花屋も、こことは真反対の西側の地区らしい。距離があるので祭りの間は会えなそうだ。

近くに知人がいないというのは少々心細いので、準備期間中に隣のスペースの人と仲良くなっておけたら、と思ったのだけれど、あいにく隣のスペースはまだ空っぽのままである。

……ドキドキしながら当日を迎えることになりそうだが、これもまた経験だ、と自分を叱咤しておこう。

荷物の搬入を終えたら、最後に参加証の木札を机の上に置いておく。

実はこの木札はちょっとした魔道具なのだ。受付で登録した自分の名前と番号、そして精霊への祈りを捧げると魔法が発動する。

「アルメ・ティティー。一、五、七。精霊さん、どうか私の荷物をお守りくださいませ」

木札に向かってそう言うと、小さな花火のような光の粒子がパチパチと弾けた。

この木札には荷物を守る精霊を宿してあるそう。――守る、といっても、荷物泥棒を撃退できるほどではないのだけれど。

もし荷物を持ち去った不届き者がいたら、木札の精霊がその人物を覚えて、場所を突き止めてくれる、という仕組みらしい。

とはいえ、犯人が多人数だと精霊が迷ってしまったり、街の外に逃げられてしまったら追跡が難しいそうなので、精霊に任せて貴重品を置いておくのは厳禁だ。

けれど、屋台の備品程度であれば十分、窃盗の抑止力になるので使われている方法である。

スペースの荷物を精霊に任せたら、台車だけ引っ張って、早々と場を後にした。

もう少し周囲の様子を見てまわりたいところだけれど、アルメにもまだやることがあるので。

(家に帰ったらまずガラス大瓶を熱湯消毒して、シロップを作って――……)

頭の中でこの後の予定を確認しながら、家への道を急いだ。

家に着いたら休む間もなく、シロップ瓶の用意を始めた。

消毒用に熱湯を沸かして、綺麗に洗った瓶に注ぐ。ひっくり返して乾かす間に、シロップ作りも開始だ。

祭りまでのこの三日間はアイス屋を休みにして、まるまる準備期間にあてた。店に気を取られることなく、大事なシロップをじっくりと作れるように、と。

シロップに使うフルーツ類を調理テーブルに並べて、どれから始めようかと見まわす。

なんとなく、一番手前に置いてあったハーブティーを手に取ってみた。

「青色シロップから始めましょうかね。ちょうど、さっき外で見た青空が綺麗だったし」

このハーブティーはエーナからお裾分けしてもらったものだ。スカイハーブというらしい。

名前の通り、湯に浸すと空のような鮮やかな青色が出る、花のお茶だ。

色は綺麗だが味はものすごく薄いので、エーナの家では飲まれずに余っているそう。そういうわけで、たっぷりともらってしまった。

紙袋に入ったスカイハーブ――乾燥した青い花をザルに出して、ガラスのボウルにセットする。

熱湯を注ぐと、ボウルの中に真っ青なお茶が溜まっていく。この濃さだと空というより、海を切り取ったような色合いだ。

しばらく浸して青色を出す間に、合わせるシロップを用意しておく。

大鍋に砂糖と水を入れて、火にかける。

しばらく煮込んでとろみがついてきたら、濃く出したハーブティーを鍋へと注いだ。

木べらでよく混ぜたら、スカイハーブシロップの完成だ。

スープレードルを使って、青色シロップを消毒したガラス瓶に移していく。砂糖水によって適度に薄まった青色が、光を通してゆらゆら輝いていて、なんとも美しい。

スープレードルでひとすくいして、ガラスのコップに移した。一口飲んで味見をする。

「うん、ばっちり! ハーブティーの味が薄いってところが、逆に良かったわ。色のついたみぞれって感じね」

このシロップは前世でいうところの『みぞれ蜜』だ。

けれど、ただのみぞれではない。なんと、酸味を足すと色が変わるみぞれである。

テーブルの上に並べたフルーツ群の中からレモンを取り上げて、半分に切る。

味見用グラスの青色シロップにレモンを絞り入れる――と、まるで魔法のように青色がオレンジ色に変わった。

普通に飲むと味が薄くて物足りないハーブティーだが、この色変わりの美しさに魅かれて購入するファンはそこそこ多いらしい。

「青色シロップを選んだお客さんには、レモンもサービスしましょう。ふふっ、きっと喜んでもらえるわ」

客の笑顔を想像したら頬が緩んだ。

祖母は人の笑顔のためにジュース屋を続けていたそうだけれど、アルメも間違いなく、その血を継いでいるようだ。

そう考えると、胸がじわりとあたたかくなる。

「おばあちゃん、私お祭りのお店、頑張るからね! 絶対にこのティティーのお店を守ってみせるから。借金のカタだなんて、ベアトス家の良いようにはさせないわ。お客さんみんなを笑顔にして、しっかり売上を上げて、アルメ・ティティーのアイス屋を続けてみせるからね!」

天にいる祖母に向けて祈りを捧げ、意気込みを新たにする。

空みたいに輝く青色シロップが、アルメの気持ちに応えるように揺れて光った。