作品タイトル不明
220 カボチャアイスと団らん
夢に関する問答の後。しばしの間、二人の間に妙な空気が流れたけれど……居間のテーブルについたらギクシャク感も取り払われた。
ドンと出されたカボチャを前にして、ファルクの意識がそちらに持っていかれたのだった。
ホクホクと湯気が上がっている小ぶりなカボチャを前にして、彼は複雑な顔をする。
「カボチャ……。アイスではない……。美味しそうではありますが」
「しょげるのは早いですよ。ここからちゃんとアイスに仕上げますから」
わかりやすくしょんぼりしている姿を横目に、アルメは冷凍庫から自宅用のミルクアイスストックを持ってくる。
アイススプーンで丸く取り、カボチャの器の真ん中にポンポンと二つ並べる。用意しておいたレモンの皮で手早く飾り付けをして、白鷹ちゃんアイス仕様に仕上げた。
そうして最後に蜂蜜を垂らす。その間に白鷹ちゃんアイスはカボチャの熱で溶けていき、ぐんにゃりとしていった。
これで新作アイスの完成だ。スプーンを添えて、名前を披露する。
「はい、お待たせしました。『溶けた白鷹ちゃんカボチャアイス』です。ふふっ、先ほどまでのファルクさんの姿にそっくりでしょう?」
白鷹ちゃんアイスは、下半分が溶けてぐにゃっとしている。ベッドで溶けていたファルクにそっくりだと思ったのだけれど、本人は納得がいかない様子だ。
「俺はここまでぐにゃぐにゃになっていませんよ……失礼な」
「なっているように見えましたけど。さぁほら、溶け切る前に召し上がってください。カボチャと一緒にどうぞ」
「……いただきます」
何か言いたげなムッとした顔のまま、彼はスプーンを手に取った。
器のカボチャの身をほぐして、白鷹ちゃんアイスの足元と一緒にすくい上げる。パクリと頬張って、目を瞬かせた。
「カボチャはホクホクなのに、アイスは冷たくて……なんでしょうこれ、不思議な感覚ですね! 口当たりが優しくて美味しいです。カボチャとミルクアイスがとてもよく合っていて、味も優しい……」
温かいものと冷たいもの、真逆の要素だが、合わせると不思議なまろやかさが生まれるのだ。彼の口にも合ったようで、スプーンは止まることなく手元と口とを往復している。
――と、しばらくの間、忙しなくパクついていたのだけれど……ふいにファルクの手が別の動きをした。
一瞬、指先で目元を拭ったように見えた。よくよく見ると、少し目が潤んでいる。
「ファルクさん? 泣いてます?」
「アイスにしみじみとしてしまって……」
そんな大袈裟な……と、苦笑を返しそうになったが、続く彼の言葉でアルメまでしみじみしてしまった。
「……戦帰りの雨の中で、この瞬間に焦がれて思いを馳せていたんです。心地良い場所に帰って、大好きな人と一緒に、お気に入りのお菓子を食べる――。その瞬間を想い、慰めにして、帰途に就いたのです。……魔物の邪魔は入りましたが、無事に今この時を迎えることができて、ホッとしました」
緊張の糸が切れて、胸に込み上げるものがあったのは、どうやらアルメだけではなかったらしい。
ファルクもまた、喪失の恐ろしさを乗り越えて、ようやくひと心地つけたことに心底安堵したようだ。思わず涙ぐんでしまうほどに。
一方は戦地を飛ぶ勇猛な鷹で、一方は街暮らしの庶民ネズミだけれど。対極にいるようで、なんだかんだ、自分たちは似た者同士みたいだ。
アルメも食事の席について、二人でお喋りをしながらまったりと凱旋のお祝いをする。
華やかさなんてこれっぽっちもない、地味な食卓風景でしかないけれど、自分たちはこれでいいのだろう。この雰囲気が、ホッと落ち着く者同士なのだ――。
食事をしながらの、ゆったりとした会話の中で、今後の話もチラホラと交わした。
結婚に向けて本格的に動き出すのは療養明けからにするとして、今は雑談程度に、思いつくままあれこれと話をしている。
ファルクはウキウキとした声で、また一つ話題を出してきた。
「ファミリーネームはどうします? 俺は特にこだわりはありませんが、アルメさんはいかがでしょう? アイス屋のオーナーとして、お名前はそのままのほうがご都合が良いでしょうか」
「アイス屋の『ティティー』はそのままにしたく思いますが、私自身は変えてしまって問題ありませんよ。せっかくですし、二人で名前を並べましょうか」
この世界では、結婚後のファミリーネーム変更の自由度が高い。二人の名前を並べて新しくする、というのも人気である。エーナとアイデンもこの様式で名前を並べた夫婦だ。
「となると、アルメさんと俺の名を並べて――……『ティーゼ』、とか?」
「それ、いいですね。呼びやすいし、みんなにもすぐに覚えてもらえそう」
「では候補として。ファルケルト・ティーゼ……うん、すごくいい。すごくいいです。素晴らしい名ですね。ファルケルト・ティーゼ」
ファルクはピヨピヨと笑いながら何度も名前を口にする。
アルメも心の中で名前を繋げてみた。『アルメ・ティーゼ』――元の名前の響きや長さと大きく変わらないので、しっくりくる気がする。
ふむふむと頷いていると、ファルクが話をさらに進める。
「新しい名前を記す場所が書類だけではもったいないので、どこかに刻みたいですね。結婚指輪とか――……あぁ、いや、指輪はお互い微妙ですね、仕事柄」
「それじゃあ、ネックレスとか?」
ネックレスという単語を出すと、彼が首元に目を向けてきた。
「ネックレスと言えば……アルメさん、今日は身に着けてくださっていないのですね」
「あ、そうでした、忘れるところでした! ネックレス、留め具が緩くなってしまったので、近々修理に出そうかと」
「おや、そうでしたか。それなら直すついでに手を加えて、揃いのものをこしらえましょうか」
「お揃い、素敵ですね! 今から楽しみにしておきます」
これから先、忙しくも楽しい予定がどんどん入っていきそうだ。存分に謳歌していかなければ。
「ふふっ、予定が盛りだくさんになりそう。ですからファルクさんも、早く元気になってくださいね」
「速やかに回復できるよう、大いなる餌付けをお願い申し上げます」
冗談を交わして二人で笑い合う。まずは何よりも、『療養食の献立を考える』という予定が最優先になりそうだ。
その次の予定は――『大きなカレンダーを買ってくる』、といったところか。
盛りだくさんの予定は、もうアルメ個人の手帳だけでは収まらない。大きな書き込みカレンダーをリビングの壁に据えて、二人で見られるようにしておこう。