軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

219 秘密の夢

スープとカボチャを加熱しつつ、チラとファルクの様子も見守る。

恋人が我が家のベッドで寝入っている、というのは、意識しだすとなんだか変な心地になってくる。

半同棲とはこういう感じなのだろうか。ソワソワして仕方ないが、この感覚もそのうち慣れるものなのか――。

ベッドの縁に座って、寝顔をまじまじと観察する。眠っていても容貌は端整に保たれているが、目元が少しくぼんで見える。この数日で痩せてしまったのかもしれない。

療養中にモリモリ餌付けをしなくては――なんて思いを新たにしつつ、熱い額に手を当てて、やんわりと氷魔法を使う。

冷気が心地良いのか、わずかに寝顔がゆるむ。

当人にとっては辛い熱だろうけれど、アルメとしては、手のひらに伝わる熱さにホッとしてしまう。ばっちり生きている体だ、と感じられて安心する。

(本当に……本当に、無事でよかった……)

心の底からそう思う。ようやく気持ちが落ち着いたところだけれど、まだ気を抜くと込み上げてくるものがある。

しみじみと生存確認をしていると、ファルクが身じろいで、薄っすらと目を開けた。

アルメはぼんやりとした金色を見下ろして、話しかける。

「あ……ごめんなさい、起こしてしまいましたね。アイスはもう少しでできあがるので、お待ちくださいね」

「…………はい……いただきます…………」

ファルクはいまいち噛み合わない返事を寄越して、のそっと上体を起こした。

「あら? いや、まだ横になっていてください。後でまた声をかけますから――……わっ、ちょっと……!?」

起き上がったかと思ったら、彼はおもむろに両腕を広げて、むにゃむにゃ寝言を言いながらアルメを抱きしめた。

そしてあろうことか、そのままベッドに押し倒し、引きずり込んできたのだった。

「……アルメさん……お慕いしております…………好きです……大好き…………」

「あの、ファルクさん!? 寝ぼけてます!? こら、おやめくださ――……んむっ」

アルメの訴えは唇で塞がれた。鷹は大きな図体で黒ネズミをペシャンコにして、体に乗り上げたまま食むようなキスを寄越す。

はむはむと絶え間ない口づけに阻まれて、抗議もできずにいると、唇は首筋へと移動してきた。

肌を堪能するように滑り降りてきて、鎖骨に触れる。そしてさらに、愛撫は胸元へ進もうとして――……。

突然もたらされた猛烈な照れと恥ずかしさで、思考停止しかけている頭をまわして、アルメは状況を察した。

(ひええええっ! 寝ぼけ鷹に食われる……!?)

このままでは自分が鷹の夜ご飯になってしまう、と、本能が悟った。

キスから解放された口をハクハクと動かして、慌てて抗議を再開する。

「ひぃっ……! こらこらこら……っ! 食べる対象が違います……! あなたアイスが欲しいんでしょう!? ネズミを食らうのはまた今度にしてくださいませ――……っ」

そう叫んだところで、鷹の猛攻がパタリと止まった。

どうやらまた寝落ちたらしい。アルメの胸元を枕にする形で……。

脱力した鷹の下からどうにか這い出して、アルメはヒィヒィ言いながら自分に氷魔法を使った。照れでのぼせ上がった顔は、最大出力の冷気を当てても熱が引かない。

全力で魔法を展開しながら、わずかに開いていた部屋のカーテンをピシャリと閉め直す。

この世界にカメラはないし、ここは二階で、誰の目もないことはわかっている。が、なんとなくハラハラしてしまって、隙間から外の様子を確認してしまった。

(パパラッチはいない、大丈夫、大丈夫……! 万が一にも不埒な現場を見られでもしたら――……って、一応もう婚約関係なんだし、問題ないのかしら……!? いや、で、でも……っ)

アワアワとあれこれしょうもない心配をして、寝落ちたファルクにブランケットを雑にかけておく。

こちらは大汗をかいているというのに、鷹は腑抜けた笑みを浮かべていた。ゆるみきった幸せそうな顔がなんとも憎たらしい。

部屋から転がり出て、キッチンへと逃げ戻る。気持ちを切り替えて、ひとまずカボチャに向き合おう……。

今さっきの出来事を忘れるように努めつつ、蒸し器のカボチャにフォークを刺した。

フォークの先端が、鮮やかな黄色をした身の部分にスッと入っていく。しっかり熱が通って柔らかくなったみたいだ。

このカボチャをアイスの器に使う。蒸し器から上げて粗熱を取る間に、夕食のスープの味を整えて、他に二品仕上げておいた。

そうして調理を終えて、ざっと片付けをしている時に、寝室からのそのそとファルクが出てきた。

先ほどの寝ぼけた様子とは違って、しっかり覚醒しているみたいだ。

「お忙しいところに、ふてぶてしくてすみませんが……お水をいただきたく」

「あ、はい、どうぞ……!」

サッと用意して、ササッと渡す。目を逸らしたままギクシャクと対応すると、ファルクは怪訝な顔をした。

「あの、どうされました? なんだか距離を取られているような……。 …………俺、もしかして先ほど何かしましたか……?」

少し考え込んだ後、彼はハッとした顔をしてアルメを見る。アルメは咄嗟に裏返った声で嘘をついてしまった。

「いえっ、何も!」

「そうですか……ならよかった。夢を見ていただけのようです」

「ど、どんな夢を……?」

「…………秘密です」

ファルクは短く応えると、思い切り顔を背けて水をあおった。耳が真っ赤なのは熱によるものだろうけれど……なんだか、よからぬ熱まで含まれていそう。

胸の内のスケジュール帳に、アルメは密かな予定を追加しておくことにした。

前にエーナとジェイラからプレゼントされた勝負下着を棚の奥底から出して、もう一度よくよく確認しておく、という予定を――……。