軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

197 スポーツアイスの仕込み作業

中央神殿公園、北西の駐屯地近くの公園、そして宮殿広場――。三ヶ所ともに、無事アイス自販機を稼働させることができた。見たところ問題もなく、人々の興味を引いているようだ。

アルメはひとまず胸をなでおろした。売れ行きのデータを取りながら、しばらくはこのまま様子を見ていく。

――と、自販機に気を配りつつ、他にもやるべきことがある。

閉店後、アルメは路地奥店の調理室のテーブルに、グレープフルーツが山のように盛られたカゴを、よいしょと置いた。

これから、とある新作アイスを大量に仕込む大仕事をこなす。

準備を整えたところで、ちょうど玄関の呼び出し鐘が鳴らされた。仕込みの手伝いをしてくれるコーデルが来たようだ。

扉を開けると、彼はアイス作りに使う道具――小ぶりなハンマーを振り上げて声をかけてきた。

「来たよー。お邪魔します。『氷を砕くハンマーが必要』って話だったから持ってきたけど、こんなんでよかったのかしら?」

「ばっちりです。ありがとうございます」

コーデルを中に招き入れて、調理室へと移動する。テーブルを前にして、アルメはパンと手を叩いた。

「さ、準備もできていますから、早速作っていきましょうか。『競走大会用スポーツアイス』を」

これから仕込むのは、週末に開催されるイベント――競走大会の協賛アイスだ。出走者に振る舞う、ちょっとしたご褒美的なアイスである。

二人で協力して、大量のグレープフルーツを半分に切っていく。作業をしながらコーデルが問いかけてきた。

「アイスキャンディーみたいなアイスを作るんでしょ? 『スポーツアイス』って、イベント用に名前だけ変える感じ?」

「いえ、名前だけでなくモノ自体も調整して、適したアイスに変えるつもりですよ。甘いお菓子ではなくて、スポーツドリンクに近い雰囲気の氷菓子を作ろうかな、と」

「はぁ、スポーツドリンクって? あたし運動嫌いだから知らないけど、なんかそういうものがあるの?」

「ええと、水分と塩分の補給を目的とした飲み物を、私はスポーツドリンクと呼んでいまして。世間で言うところの、『塩ジュース』ですね」

ペラッと口にしてしまったが、前世で一般的だったスポーツドリンクという名称は、この世界では馴染みがない言葉だ。

けれど似たようなものはあって、通称『塩ジュース』と呼ばれている。

『外仕事で暑さにやられた時には、塩を入れたフルーツジュースを飲め』と言われていて、熱の病にかかった時、人々はそのようにしている。

昔、ジュース屋を営んでいた祖母も、競走大会の日には必ず、『今日は塩ジュースの日だね』なんてことを言っていた。

当時ジュース屋は協賛していなかったけれど、イベントから流れてきた客が塩ジュースを頼むことが多かったので、いつもより売上が伸びるそうで。

「レースの後の体の冷却と、水分と塩分の補給を同時に行えるので、出走者への振る舞いとして最適かと」

「なるほど、塩ジュースのアイスね。そりゃ競走大会にぴったりだわ」

アルメはお喋りをしながら、半分に切ったグレープフルーツを搾り器に押し付けた。ギザギザした半球型の絞り器にグッと体重をかけて、どんどん果汁を搾っていく。

搾り汁に塩と砂糖を加えて、味を見ながら水を加えた。

そうしてできあがった液を、大きな平たい容器――バットに注いで、氷魔法でカチカチに凍らせる。

四角い板状のスポーツアイスができあがった。店で出しているやわらかなクリーム状のアイスとは違って、こちらは氷感が強いアイスだ。これを一口サイズに砕いたら完成である。

バットから氷の板を取り出して、キメの細かい布袋に入れる。

コーデルが持ってきたハンマーを握りしめ、アルメは布袋へと振り下ろした。

ゴンゴンと叩いて氷を砕いていく。しばらく叩いた後、袋の中を確認して、氷を一欠片取り出した。

口の中に放り込んで味見をする。

「うん、いい感じです」

「あたしも一つもらうね。……味付き氷、って感じね。ちょっと味薄すぎない? こんなもん?」

「今食べると薄味に感じますけど、運動の後ならこれくらいがちょうどいいかと」

「そういうものかしら? にしても、これ、シンプルな氷菓子だけど、作るのは結構大変ね。搾ったり、叩いたり――……」

喋りながらも手を休めることなく、せっせとグレープフルーツを搾り、せっせと叩き崩していく。そこそこ力がいる作業なので、大量に仕込むとなると重労働だ。

二人でひたすら搾り、魔法を使い、ハンマーを振るい――……ということを続けて、しばらく経った頃。

休憩がてら、もう一度味見をしてみたコーデルが、今度は納得の表情で頷いた。

「あ、本当だ。運動の後は美味しいわ」

「ふふっ、アイス作りは運動ですか?」

「ハンマー振り回してるんだから、もう戦いの域でしょ」

冗談を交わして笑い合いながら、アルメも欠片を頬張った。先ほどよりも味をしっかりと感じるのは、気のせいではないだろう。

細かく砕いた氷を大袋に移していって、ようやく一袋分のスポーツアイスができあがった。この袋をあと五から六袋作っていく。

(笑ってしまったけど、本当に戦いになりそうだわ)

ハンマーを握りしめて、アルメは額に浮かんできた汗を拭った。気合いを入れて、また作業に取り組む。

この前、コースを走ったというアイデンとチャリコットは汗だくになって涼を求めていたから、きっと当日も、参加者たちは冷たいものを求めることだろう。

彼らのためにも、たっぷりと仕込んでおこうと思う。

そして何より、誰よりも暑さに弱そうな人物が出走登録を済ませたそうなので……多くの人々に行き渡るように、大量に作っておきたい。