軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

クロードとイヴァンの対戦

「よし、それじゃあ始めよう。両者用意」

ヒカルが言うと、5メートルほどを空けてクロードとイヴァンが立ち会った。

イヴァンは大剣、クロードは刀身1メートルほどの片手剣。ともに模擬剣だが、服の上から当たっても相当痛い。

「始め!」

かけ声とともにクロードが距離を一気に詰めた。

だらりと切っ先を地面につけていたイヴァンが「油断している」と判断したのだろう。

「——甘ェぞ、クロード!」

切っ先で地面を掘り起こすと砂埃をクロードの顔面にふっかける。

突然のことに目を閉じたクロードへ、

「おおおおおお!!」

踏み込んだイヴァンが薙ぎ払い——と言うよりフルスイングを放つ。

「防御しろクロード! 死ぬぞ!」

「!!」

剣を両手で持って大剣を受け止める——が、

「ぐあああ!?」

押し込まれ、大剣は防御の上からクロードの身体を真横に吹っ飛ばす。

ごろごろごろんと数メートル転がっていった。

「クロードっ!!」

リュカが悲鳴にも似た声を上げて走って行く。

「そこまで。イヴァン、剣を下ろして」

「お、おう」

一撃で決まってしまったからだろう、逆にイヴァンが唖然としている。

「今までヒカルにまったく当たらなかったのに……」

「あんなにひらひらかわすヤツと戦ってたから、剣筋が速くなったんじゃねーのか?」

「確かに。いつものイヴァンじゃねえみてぇだった」

イヴァンとジャラザックの学生たちがそんなことを言っていた。

「クロード、クロードっ!」

「だ、大丈夫……」

地面に手を突いて立ち上がるクロード。だがすぐによろけてしまい、そこをリュカが支える。

「クロード、ケガはないか?」

「打ち身はあるが……折れてはいない、と思う」

腕をさすりながらクロードは言った。

模擬剣も折れたりしていない。純粋に力で吹っ飛ばされただけのようだ。

「すごいな、イヴァンは。これほどまでに強いとは……」

悔しげに言うクロードへ、イヴァンは首をひねる。

「いや、俺なんかよりミハイル教官のほうが全然やべえぞ。そんなミハイル教官にヒカルは勝つんだ」

「…………」

絶望的な顔でクロードがヒカルを見る。

「正面から戦ったら負けることはわかっていただろ、最初から。なのに真正面から行くなんて無策もいいところだよ」

「それは——そうなんだが、あの速度で行けば先に攻撃できると……あんな目潰しをされるなんて」

「あれはよお、ヒカルに俺たちがやられたんだ。いきなりやられっとびびるんだよな」

イヴァンが言うとジャラザックの学生たちは「ほんとほんと」「マジで性格悪い攻撃だぜ」と言っている。なかなか聞き捨てならないワードが混じっている。

「つまり、クロードは相手の隙を突くべきであるにもかかわらず、逆にイヴァンから隙を作られたと言うわけだな」

「くっ……」

「この40日を使って、ああいう隙を作る手段をどんどん身につけてもらう。最初から正攻法で勝てるわけがないからな。30日の時点でミハイル教官と模擬戦をしてもらって、その後毎日1回は必ずやるようにしよう」

「ほんとうに……それで勝てるんだろうか」

「今のままではどうしたってダメだよ。とりあえず使える武器を増やす」

「? 武器を……?」

「そう」

ヒカルは言った。盾を持て、と。

思いのほかクロードは素直な学生だった。

片手で持てる、丸い、ラウンドシールドを装備してイヴァンやジャラザックの学生たちと模擬戦を繰り返している。

リュカも最初はハラハラして見ていたようだが、だんだん慣れてきたのか、あるいは諦めの境地なのかはわからないが、「目の前で横に跳んでみたら?」とか「最初から小石をいくつか手の中に入れておいて」とかアイディアを出すようになっている。

隙を突かせないと、クロードとイヴァンはなかなかいい勝負をするようになった。

「順調ではないか」

シルベスターが話しかけてきた。

「……どこが。このままでミハイル教官に勝てる確率は10%ってところだよ」

「それほど差があるのか」

「隙を突くにしてもあの教官は本能でなんとかしてくるからね」

「ではこの訓練は意味がないではないか」

「ほんとうの目的は別のところにある」

「ふむ……それを聞いても答えてはくれぬのだろうな」

「まあね」

ヒカルの目的は、とにかくクロードに「今までの型」を忘れさせることだった。

様々な戦い方があっていい。

クロードのこれまでの剣術は、本人が言うとおり「儀礼的」ですらある。

その知識や経験は邪魔なのだ——ソウルボードで成長させるには。

クロードに聞いたところ、「職業」は「凡片手剣儀礼神:ソードマンオブオナー」だった。剣に関する「職業」はこれしか出ていないのだという。

6文字神でしかも「儀礼」まで入り込んでいる。これでは戦闘特化とは言えない。

イヴァンは「大剣精神狂乱神:ブレイドバーバリアン」という6文字神。細かい剣技は苦手だがパワープレイができる大剣使いによく出る「職業」であるという。

そしてジャラザックの王は——「真大剣求道神:ブレイドシーカー」という、「真剣に大剣術を修めた者」に現れやすい5文字神の「職業」なのだとか。

どう見ても相性が悪い。

(まず、ちゃんとした「職業」を出現させる。そこからだ)

この考え方はソウルボードを使えるからこそ考えつく、最短距離の攻略法だった。だがもちろん、シルベスターにそれを明かすことはできない。

最初はしばらくイヴァンと模擬戦をやらせるので、ヒカルにも時間ができる。

その間にヒカルはヒカルがやるべきことをやるつもりだった。

女王の説得である。

ヒカルが数日家を空けると言うとラヴィアは寂しそうな顔をしたが、こればかりは仕方がない。首都フォレスザードとスカラーザードを突貫で往復するには男ひとりのほうがなにかと都合がいいのだ。

使いすぎた太陽神のお面がボロボロになってきていたので、フォレスザードののみの市で見つけた仮面を購入した。

目元と鼻の頭までを隠し、右頬だけをすっぽり覆うような造りになっている。

縁取りに軽く紋様が彫り込まれてあるが基本的にはシンプルな銀色の仮面だった。

仮面を売っていたのは彫金師の露店で、さる金持ちの商人に作成を依頼されたのだと言っていた。

「どうも額から右頬にかけて火傷ができた娘がいるとかでね。で、ふだんから使うものだから『軽く』しかも『微量の魔力で顔に吸いつくようなもの』とか言い出したんですよ。ええ、ええ、作りましたよ。ただ魔力の部分は魔導具師にお願いしたんですがね……その商人が破産したとかで結局買われずじまい。どうですか、お坊ちゃん。安くしときますよ——」

500ギランだった。

つけてみると確かに吸いつくような感じだ。精霊魔法を使えなくとも人間には必ず、少量なりとも魔力があるのである。

シンプルなデザインなのもヒカルの好みだった。布で磨くとくすんだ酸化層が落ちて、美しい銀の光沢が現れた。

「……仮面を変えたな?」

女王の執務室を訪問すると、イヤそうな顔でマルケドは言った。

この部屋にはやはり、筆頭大臣ゾフィーラ=ヴァン=ホーテンスもいる。

「女王陛下、いい加減この男が入り込んでくるのはあきらめましょう。今のところ 害虫(スパイ) 駆除をやってくれる、一風変わった協力者ととらえておくしかありません」

「僕が虫好きの変わり者みたいじゃないか」

「それで今日もスパイを発見したのか?」

「いや、いなかったよ。ちゃんと見回りしているようでなによりだ」

「おかげで風通しがよくなったようだ。見た目は悪くなったがね」

ゾフィーラが視線を投げたのは建物を支える柱だった。石材であった柱が、そこだけ木材に変えられている。魔力反応があるのでなんらかの魔術がかけられているらしい。

そこは以前、柱をくりぬいてスパイが入り込んでいた場所だ。

「クロード=ザハード=キリハルから封書が届いた。余が紹介したことを非常に喜んでいるようだった」

相変わらずイヤそうな顔でマルケドは言った。

「ほう? それはよかった」

「どんなトリックを使ったんだ? ザハード家が余に感謝するなど考えられんぞ」

「いやいや、そっちだって僕を利用しようとしただろ? クロードはザハード家の中でもはみ出し者になりかけていた。それをどうにかしようとしていた」

「ふーん、そこまで見抜いていたか」

「まあね。僕だってバカじゃない」

見抜いたのはクロードからいろいろ聞いた後ではあったが。

ともあれマルケドもヒカルのいいようにされているだけではないことは、ヒカルもよくわかった。

「それで、今日はなんの用だ」

警戒心たっぷりにマルケドが切り出す。

どう切り出すべきか——ヒカルは十分考えていた。

「建国記念式典の最終日、会議に、ある議案がかけられる。発案国はツブラ。発案者はシルベスター=ギィ=ツブラ。この議案に賛成を投じて欲しい」