軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リーグの計画

ケイティに様々なことを根掘り葉掘り聞かれて、それからみっちり1時間ほどかかった。

ヘロヘロになったヒカルとは対照的にケイティは目を爛々と輝かせて「聖魔」に関する情報をまとめにかかった——渡した弾丸はしっかり隠した上で。

ヒカルが研究室から出ると、いまだに貼り付いていた研究助手たちが扉から崩れ落ちた。

小剣講義のトレーニングに懲りたらしいラヴィアは、もう参加するとは言わなかった。ただ魔導具講義には——ケイティに「絶対次回からも参加しなさい」と釘を刺されたのだ——ヒカルといっしょに参加すると言った。

ケイティとリーグの双方から講義に来いと言われ、しかもさほど忙しくないと来ているヒカルは魔導具講義に参加しない理由はないに等しい。

「よかった。来てくれましたか」

そして次の魔導具講義。

3人の女子を引き連れたリーグはうれしそうだ。この3人がいる以上、秘密の会話などできないのではと思ったが——講義が始まってから、理解した。

(寝た……)

3人ともに見事に寝た。これほどまでに講義に興味がないのに、リーグにくっついているためだけに参加しているのだからその執念がすごい。

(ヒカルさん)

リーグが小声で言う。

ちなみに彼の左右には女子が寝ているために、リーグの後ろの座席をヒカルとラヴィアが確保している形だ。

さらさらとメモを書きつけてリーグが寄越してくる。

『紙片のやりとりで話し合いをしましょう。メモについてはヒカルが回収して燃やしてもらえますか?』

(女子高生のやりとりかよ)

と思いながらも、自由のなさそうなリーグのことだ。他に方法もないのだろう。

『わかった。それで、話したいことって?』

『来年の冬が始まるまでに、他6国の有力学生とつながっておきたいのです。そのためにヒカルさんの力を借りたいと考えています』

『なんで僕が。自分で勝手にやればいいだろう』

『大剣講義のジャラザック出身の学生たちはジャラザックでもエリート学生。あなたに仲間意識があるようです。ローイエが彼らと仲間になるまで、何ヶ月もかかったというのに、あなたはたった1日です』

『あいつらが筋肉バカなだけだし、僕は仲間になりたいなんて思ってない』

『結果がすべてです。私はそれを利用したい。そのためにならできる限りの報酬をお支払いします』

『報酬は必要としていないし、そこまでの義理もない。大体、ジャラザックが特殊なだけで、他の学生は知らない』

『すでにシルベスター様と接触済みでしょう? 彼はヒカルさんが学院にいると知って、数日前から学院生になっていますよ』

「…………」

ヒカルが「マジかよ」と思いながらメモを見つめていると、追加のメモが来た。

『コトビのケイティ先生もヒカルさんに興味があるようです。先ほどから私たちのメモのやりとりが気になっているみたいですし。ケイティ先生を間に挟めば、コトビの学生の取り込みもたやすい。これで7国中、4国です。私があなたの存在を無視できると思いますか?』

『偶然だ』

とは書いたものの、

(偶然と言うにはやり過ぎじゃないのかしら)

横から小声でラヴィアに言われた。

(やり過ぎってどういうこと。偶然と言うしかないだろ)

(ヒカルはいろんな人間を巻き込み過ぎるのよ)

(僕の特技は「隠密」なんだけど)

(隠しきれてないわ。もっと目立つ人間の陰に隠れるしかないんじゃない?)

なるほど……一理ある。

『私を目くらましに使わないでくださいね』

小声を聞かれていたのか、リーグに機先を制された。

『リーグ、これはお前が言い出したことだ。お前が大将だ』

『シルベスター様にしましょう。学院長もツブラ出身ですし、彼なら自然です』

さらりと仲間(これからなる予定)を売ったリーグ。

『僕は懐疑的なのだが、学生のネットワークを政治に持ち込むなんてこと、上手くいくのか?』

『やってみなければわかりません。ですが、やる価値はあります。やらなければなにも変わりませんから』

前向きな意見だった。

しかしリーグは「やるべき」だと信じているし、やるのだろう。

ふだんは監視の目に阻まれてたいして行動もできないくせに。

(どうするの?)

ラヴィアが聞いてくる。

ヒカルが断ればどうなるだろう? ローイエが代わりに動く? あるいはもうひとりいた赤髪の学生が?

ルマニア出身の彼らは、他国の学生の心に入り込むには時間がかかるのだろう。これまでの歴史が邪魔をして。

だからこそヒカルがいいのかもしれない。ポーンソニア出身であることはマイナスではあるだろうけれど、ほとんどの学生にとってポーンソニアより他6カ国のほうが目障りな存在なのだ。

どうする、と言われても。

ヒカルとしては——「どうでもいい」という思いが強かった。

最初は。

だけれどここまでリーグの意見を聞かされると考えてしまう。

彼は正面を向いてケイティの講義を聞いている。聞いている、振りをしている。ほんとうに聞きたいのはラヴィアとヒカルの会話だろう。ヒカルがなにを考えているか、だろう。

ヒカルは内心で思う。

(ルマニアの筆頭氏族か……おかしいよな、他国出身の僕を頼るなんて)

それくらい彼は追い込まれている。

追い込まれてなお、理想を追おうとしている。

連合7カ国が1つにまとまるという理想だ。

(……乗りかかった船、か)

リーグの熱心さにほだされたのは否定できない。焦りを感じるのは心配だが。

学院にはまだ通うつもりだから、その間の活動の一環として「やってもいい」くらいに思った部分もある。

それにこの世界で平和に暮らしていくならフォレスティア連合国にまとまっていて欲しいという大いなる打算もあった。

が、なにより——こんな青臭い絵空事に関わろうという気持ちになってしまったのは、ヒカルがすべてを話せる相手ができたからだろう。

(君のせいだからな)

心に思って、隣に座る少女を見る。

ラヴィアはきょとんとした顔で小首をかしげた。

『できる範囲で協力する』

ヒカルはそう書いてリーグに渡した。

だが、ことを進めるに当たって、リーグがいつも女子の監視付きでは困る。

これについてはリーグが「研究室」の貸与を学院に申請しているようで、貸与が実現されればそこで研究中はルマニアの女子たちもついてこないはず……ということだった。

若干疑わしい部分もあったが、魔導具講義で爆睡していた彼女たちを思えば確かに研究室には近寄らないかもしれない。リーグは「悪臭のする素材を大量に仕入れるつもりだ」と、きまじめな文体でメモに書いていた。

ヒカルは魔導具講義後に、ケイティの研究室に向かった。研究助手たちは相変わらずイヤそうな顔をしたがヒカルがラヴィアを連れているのを見て恋のライバルではないと理解したのか、表情が柔らかくなった。

「ああ、皆さんに退室していただく必要はありませんよ」

と精一杯の笑顔で——後でラヴィアに「うさんくさい笑顔だったわ」と言われた——言ったのも効いたかもしれない。

ケイティは、助手たちを退室させないことから「え?『聖魔』のことじゃないの?」とあからさまに失望した顔をするが、それに構う気はない。

「厚かましいとは存じますが、先生にお願いが2つあってきました。といってもたいした内容ではないのですが」

「なんだい?」

「1つは、研究室の申請について許可いただきたいのです」

「おお! ついにヒカルくんも魔導具研究の虜になったか!」

「違います。ルマニア氏族のリーグという男子学生が申請しています。先生の後押しがあればすぐに許可が下りると思いまして」

「ルマニア……リーグ……?」

ケイティが「さっぱりわからない」という顔をすると、横から研究助手がケイティに耳打ちした。

「ああ、ルマニアの氏族にしては珍しく私の講義を受けに来ている学生か」

「やっぱり珍しいですか?」

「一般学生ならばさほど珍しくはないがね、氏族となると珍しいよ。いいよ、それくらい。今日のうちに事務に連絡しておこう」

「せ、先生、ルマニアの学生ですよ?」

研究助手が抗議の声を上げるが、

「なんだい? 君も研究室が欲しかったのかい? だったらすぐに手配を——」

「い、いいえ! 私はこのケイティ先生の研究室が大変気に入っておりますから!」

この部屋を追い出されそうになってあわてる研究助手。

やはりお目当てはケイティのようだ。

「? まあ、ここがいいならそれでもいいが。——それでヒカル。もう1つのお願いとやらは?」

「コトビの学生を紹介して欲しいのです」

「学生を紹介?」

「実は、様々な講義に関して情報交換する場を設けようと考えておりまして、コトビの学生にも参加してほしいと思っています」

ケイティの顔にはありありと「それ、私が参加したいんだけど?」と書いてあるが無視。「聖魔」の情報なんて交換するわけもないのに。

「僕は学院内に知り合いがほとんどいませんからね。交流の場があればいいなと思いまして。ケイティ先生の紹介する学生ならばすばらしいでしょう。ねえ、皆さん?」

研究助手たちに水を向けると「当然」「ケイティ先生ならば」といった追従が返ってきた。

「そうか。ならばひとり適任がいる」

ケイティは言った。

「私の妹だ」