軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幸運の遭遇

それから3時間をかけて森を探索する。

大型の討伐対象モンスターにはラヴィアの新たな魔法が炸裂し、討伐証明部位をヒカルがそぎ取る。

ヒカルの「魔力探知」も非常に有用だった。なかなか気づかなかった上方——木の上のモンスターなどにも気づくようになったからだ。

素材の採集はヒカルとラヴィアのふたりで進める。ラヴィアも「植物図鑑」を読み込んだ成果か、ヒカルの気づかないところに生えている草花を発見する。

昨日と同じくらいの素材が集まったところで、ふたりは森を出た。

「これでランクEになれそうだな」

ほくほく顔だった。装備品の調達やケルベックへの情報料で結構な金額が出ていったが、昨日と今日の稼ぎが期待できる。

魂の位階も上がった。ヒカルは1上がり21に、ラヴィアは2上がり15になった。

(ソウルボードのポイント1をどう振るかな。探知拡張が便利だったからもう1増やすか? でも100メートル以上の距離がわかっても有効活用できなさそうな気がする)

とりあえず保留にしようか、と思っていたときだ。

ちょうどヒカルとラヴィアは湖のそばで早馬が通りがかるのを待っていた。

そこに馬車を3台連れた商隊が通りがかる。商隊に乗せてもらうのもいいかもしれない——とヒカルは考えながら、なんとはなしに「魔力探知」を展開させる。

「……!!」

3台目の荷台——姿はないのに魔力の塊が鎮座していた。

「隠密」系のスキルだ。

ヒカルがラヴィアを助け出し、ポーンドに戻るときにしたように、誰かが馬車に 無賃乗車(・・・・) している。

「ラヴィア、顔を伏せてここで待ってて」

「? え、ええ……」

ヒカルは立ち上がると商隊へと向かった。

追いすがるように小走りで、商隊を率いる男に話しかける。

護衛も2人いるがヒカルが子どもだと思って放置しているようだ。

「商人のおじさん。ポーンドまで乗せてくれないかな?」

「乗せるのは構わんが、金は取るぞ? そうだなあ、150ギランってところか」

「ええ!? 早馬だって100ギランなんだよ? せめて80ギランくらいにならない?」

「120ギラン。これ以上はまからん」

「うう……わかった。じゃあ、あきらめるよ」

「すまんが、慈善事業ではないからな。ポーンドまでなら走ってでも帰れるぞ?」

にやり、として商人は馬を進める。ヒカルは道ばたでそれを見送る——その「魔力の塊」に視線を向けないようにするのはなかなか骨が折れた。

3台目の馬車が通りがかる瞬間、ヒカルはその人物のソウルボードを呼び出した。

【ソウルボード】サーラ

年齢18 位階39

9

【生命力】

【自然回復力】2

【スタミナ】3

【免疫】

【毒素免疫】2

【筋力】

【筋力量】1

【武装習熟】

【小剣】2

【弓】4

【投擲】1

【敏捷性】

【瞬発力】3

【柔軟性】3

【バランス】4

【隠密】

【生命遮断】2

【魔力遮断】1

【知覚遮断】1

【器用さ】

【器用さ】5

【直感】

【直感】5

【探知】

【生命探知】1

(ビンゴ!)

ヒカルは叫びそうになった。

「魔力の塊」——サーラはヒカルに視線を向けているようだったが、ヒカルは彼女の能力値を確認するとさっさと背を向けた。

(「東方四星」のサーラだ。もしやと思ったけど調べてよかったな。思ったほど「隠密」能力は高くない。これならウンケンのほうが全然上だ。ただやっぱり「探知」があったな。「生命探知」1ならドドロノ工房で作ってもらう外套でカバーできる)

ふとヒカルは考える——なぜサーラがこんなところにいたのか?

馬車がやってきた方角を考える。

それは、王都方面だ。

(もしかして……馬車の足止めに使った 役者(・・) を調べるためか?)

背筋がひやりとした。

ラヴィアとともに馬車から脱出するときに、ケルベックに頼んで人を出してもらった。その現場はちょうど馬車がやってきた方角だ。

(「東方四星」はあの足止めを疑っている。足止めしている間に、ラヴィアを逃がした可能性を疑っているんだ。……ケルベックは絶対大丈夫って言ってたけど、これはわからないな)

最悪、あの役者——行商人の身元を突き止められるかもしれない。そうしたら行商人の口からケルベックの名前が出てくる。ケルベック自身は顧客の情報を売らないと言っているが、彼に接点がある人物としてヒカルの名前が挙がってもおかしくない——なにせ受付嬢グロリアがヒカルをケルベックの元に配達させたのだから。

(今回は偶然、サーラの動向を知ることができた。運に助けられたか……。やっぱり国外に早めに出たほうがよさそうだ)

続けてヒカルは考える。

ランクEになってからダンジョンに挑戦する。その後、ルートハバードで依頼を受けて、国境の町付近まで移動する。そのまま出国——。

ふと、ジルの顔が頭に浮かんだ。

表面上は性格が悪いくせに、一度信用できると思ったら相手にぐいぐい近づいていく、ちょっとめんどくさい受付嬢のことを。

(さすがに、顔を出しておかないと……恨まれそうだな)

「? ヒカル? あの馬車に乗るのかと思ったわ」

ラヴィアの横に腰を下ろす。

「早馬を待とう。あれには 先客(・・) がいたからね」

ランクBの冒険者、サーラ。

(ランクBですら「隠密」性能はあの程度か……)

知らなかったこととは言え、ヒカルは「隠密」に振りまくった。

(僕の「隠密」、ちょっとやり過ぎたかな)

その後、無事早馬をつかまえ、昨日とほぼ同じ時間帯に冒険者ギルドへやってくることができた。

「あら、ヒカル様」

カウンターにいたのはやはりグロリアだった。

「査定をお願いしたい——」

「その前に、よろしいですか? 昨日お持ち込みになった納品物の件ですが——おめでとうございます。無事にすべて正当納品物として認められました」

「そう」

「……あら? あまり喜ばないんですねえ」

「不正をしていないんだから喜ぶ必要なんてないだろ?」

「それはまあ、そうですけどね。それで——今日も納品ですか? まとめて金額を出しましょうか?」

「お願いする」

ヒカルが出した物量にグロリアは目を見開きながらも、一度経験しているからだろうかすぐに立ち直りせっせと査定作業を始める。

周囲にいた冒険者たちがざわついているが、どのみち彼らと会うことももうないだろう。ヒカルは涼しい顔だった。

「……すごい量ですね。それに採集物の状態も非常にいいです」

「それはどうも」

「この 吸血華(きゅうけつか) なんてまるで誰も知らなかった群生地を見つけでもしなければこんなにきれいに残っていませんよ。たいていは人間が近づくと蜂が急いで荒らしますからね」

そりゃまあ、「隠密」状態で近づいているからな……。

と思いながらももちろんそんなことは言わない。

「それで、全部でいくらになる?」

「はい。昨日の討伐依頼22件、採集納品31個、本日の討伐依頼17件、採集納品44個、合わせて……16万7200ギランとなります」

「……そ、そうか」

「ヒカル様でも動揺するんですねえ」

「動揺などしていない」

こほん、とヒカルは咳払いをひとつ。

「5万7200ギランを現金で受け取りたい。11万ギランを預ける」

「かしこまりました。預金額は20万ギランちょうどになりますね」

「それと——ランクは上がるか?」

「…………」

黙り込むグロリアに、ヒカルは焦る。

なにかが足りないのか? なんだ?

「はい、本日をもってヒカル様はランクEです。おめでとうございます」

ふう、と息を吐く。焦らせるなよ、と言いたいところだ。

「——ヒカル様、レッドホーンラビットが1羽、まるごとありますが」

「ああ。解体場を貸してくれないか? たまたま捕まえられたから内臓をもらいたい」

「かしこまりました。では裏手へどうぞ」

なんだかグロリアの様子が気になる。もっといろいろ絡んできそうなものなのに、やたら淡々としている。

それにさっきの沈黙——あれにはどんな意味が?

(……まあ、考えても意味はないか。明日にはポーンドを出る)

ヒカルはラヴィアを呼ぶと、ふたりで解体場へと向かった。

「パスタマジック」のクマのような店長はヒカルが来店すると厨房から走ってきた。

「内臓! 血の滴るような新鮮な内臓はあるんだろうな!?」

「その図体でそのセリフはヤバイぞ」

ヒカルがレッドホーンラビットの内臓を差し出すと「うおおお」と叫びながら厨房へと戻っていった。希少食材が彼のやる気に火を点けているのだろう。

「あ、ヒカル! ボックス席は埋まってるからすまんがカウンターで!」

「わ、わかった」

まだ食べていくともなんとも言っていないのに気の早いことだ。

ヒカルはラヴィアとともにカウンターに並んだ。ジュースでも頼むかと思っていると、ノンアルコールカクテルを店員が出してきた。乾杯用らしい。

「じゃ、せっかくだからこれを飲むか」

「ええ。——ヒカルの、ランクEに」

ラヴィアが言って、ふたりのグラスが合わさった。

グラスとは言ってもカクテルグラスのような精巧なガラス製品ではない。マグカップ状で、かろうじて透明度があるという程度の代物だ。

それでも中に入っていたピンク色の液体は、さわやかな香りを残して喉の奥に消えていく。

「……ヒカル」

「ん?」

「ほんとうに明日、街を出るの? ヒカルはこの街に多くの知り合いがいるわ」

ラヴィアは、自分のせいでヒカルがポーンドを捨てるのだと思い、責任を感じているのだろうか。

「……そうだね。でもどのみち世界を回るのが僕の最初の目的だった。なら、またここに来ることもあるよ」

「そう……そっか。そうだね」

「ああ」

ヒカルが飲み物を飲み干すと、次はふつうにお茶を頼んだ。

そのときだった。

「ヒカルくん!」

店の入口のドアが開かれる——そこにジルが、立っていた。

「私もいますよ〜」

と手を振っているグロリアがその後ろにいる。

ああ——このことか、とヒカルは思った。

ヒカルが今夜食事を取る場所を推測して、グロリアはジルに連絡したのだろう。

(なにか企んでると思ったんだよな……あの沈黙はそういうことか)

内心ため息をついているヒカルの前にジルがやってくる。

「ヒカルくん……もしかして、ポーンドを出るの?」

いきなり核心を突く質問だった。