軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コウナツの護衛

ヒカルは、アリスが取ってくれた宿には行かなかった。その宿は確かにハイグレードで居心地はよさそうだったけれど、それと引き替えに常に仮面をつけていなければいけないという条件がある。

いくらかグレードは落ちるけれど、それでも一般の冒険者が過ごすにはあまりに値段の張るホテルで目覚めたヒカルたち3人は、ホテル内のレストランで朝食を取りながら今日の予定について決めた。

「それじゃ、気をつけてな」

「うん。ヒカルとポーラも」

せっかく皇国の首都に来たのだから観光のひとつもしておきたい。もちろん、皇国の監視の目がないところで。

久しぶりに仮面を外して外出したヒカルは、清々しい気分でポーラと往来を進んだ。

ラヴィアは国立図書館に行くという——その行動は予想通りだったが。

ヒカルはポーラとともに、冒険者ギルドへと向かった。長旅で少々身体がなまっているので、運動になりそうな依頼を見繕うためだ。

「ヒカル様。あの方は、確か昨日の……」

冒険者ギルド内は昨日と同じように多くの冒険者が出入りしていたが、依頼カウンターにいたのは見覚えのある男だった。

「そこをなんとかお願いしますよ。こっちから向かうぶんには危険がないんですから、行きのぶんの護衛料金はなくていいでしょ? ね? お嬢さん?」

「でしたら先ほども申し上げましたとおり、護衛が必要な町で冒険者に依頼をなさったらよろしいかと思います。あと、私はお嬢さんではありません」

昨日、「満腹亭」で店長ともめていた鷲鼻の若い男だった。相手をしているギルドの受付嬢は——やたら童顔で少女のように見えるが——困ったような顔をしている。

「だからね、それは説明したじゃないですか。私が行くのはトリーランドですよ。田舎町の。ご存じでしょ? あんなところに腕利きの冒険者なんていませんって。わかるでしょ、お嬢さん?」

「でしたらこちらで冒険者を募集なさったらよろしいかと存じます。しかしその場合、行きと帰りの往復の護衛料金が掛かります。あと、私はお嬢さんではありません」

「そこをなんとかしてくださいよ。行きは危険じゃないです。保証します。なんなら馬車で寝ててもいいんですよ。往復の護衛料金なんて払ったら、コウナツの価格が上がっちゃうじゃないですか。困るでしょ? ね? お嬢さんじゃないならお名前うかがっても?」

「ですから……」

どうやら商人の男、ニーノは護衛料金を値切ろうとしているらしい。往復のうち行きはなにもしないでいいから帰りのぶんだけ払いたいと。

それはギルドとしても受け入れられない。行きは無駄な時間になるというのだから、受けたがる冒険者もいないだろうし、こういった質の悪い依頼は受け付けの時点で弾いておかないと冒険者ギルドの役目はなんなんだということになる。

受付嬢が堂々巡りにうんざりしながら返そうとしたときだった。屈強なスキンヘッドの冒険者と、片眼が潰れた冒険者が立ち上がってそちらに向かった。どうやらギルドの受付嬢に絡んでいる男を力尽くで排除しようとしているらしい。

(——マズいな。あの男、気づいてない)

ヒカルはポーラをその場に留めると、

「あー、ニーノさん、こんなところにいたんですか!」

わざと大きな声を上げてそちらへ近づいた。

「え。え? 誰、君——」

「イヤだなぁ、護衛はギルドを通さずに直接発注するって言ってたじゃないですか。ね、とりあえず出ましょう」

「いや、そんな話、あれ? って君、細い割りに力強いね!?」

ぐいぐいとヒカルはニーノの腕を引っ張る。これでもソウルボードの【筋力量】に3を振っているから、中堅冒険者並のパワーはあるのだ。

「すみませんね、お嬢さん。この人おっちょこちょいなもんで。旦那もすみません。失礼します」

ヒカルはぺこりと受付嬢に頭を下げ、ついでにスキンヘッドと隻眼の冒険者にも頭を下げた。冒険者は「フン」と鼻を鳴らしてイスに戻っていった。

「……お嬢さんじゃありません」

受付嬢が不満そうに言ったのが聞こえた。

ギルドから出て離れた往来で、ヒカルはニーノの手を離した。

「ちょっと君! いったいなにをするんだい!? 私はこれからコウナツの護衛を冒険者ギルドに依頼しなくちゃ——」

「それはギルドとしては受け入れられないと言っていただろ。聞いていなかったのか? それとも商人というのは相手の言い分を無視して、自分の主張を押しつけることを『交渉』とでもいうのか?」

「うっ」

ヒカルの言葉に、ニーノは怯む。

「はあ……。アンタが急いでる様子なのはわかったけど、ちょっと事情を説明してくれよ。多少は力になれるかもしれない」

「いや、でも、君みたいな少年が」

機先を制してヒカルはギルドカードを見せた。

【冒険者ギルドカード】

【名】ヒカル

【記録】ポーンソニア王国ポーンド冒険者ギルド

【ランク】D

【職業】□▲ヲヘェイ%2○※

「職業」の部分は【上級天ノ遣神:グレーターエンジェル】の特殊設定で5つの「職業」を選択しているために文字化けしている。だからここについては指で隠した。

「職業」を隠すのは珍しいことではないために、ニーノは不審には思わなかったようだ。

「ランクD……!? すごいな、君くらいの年齢でそのランクとは」

いっぱしの冒険者として認められるランクがDである。ニーノはヒカルに対する態度を改めた。

「……君は、ランクを見せてくれたということは冒険者ギルドを通さずに依頼を受けてくれる可能性があるということかい?」

「ま、話は聞くよ。それでどんな依頼内容なんだ」

ニーノが希望しているのはトリーランドという、ここから片道で5日ほどの距離にある町への往復だった。荷馬車にいっぱいのコウナツを積んで戻ってきたいという。

「だけど、コウナツは最近山賊に狙われているんだ。皇都からトリーランドへ行くのは空の馬車だから護衛は必要ないんだけど、帰り道で襲われる可能性が高くて……」

「山賊はどこに出る?」

「南のロックランド山脈を越える山道に出る。ここは3つの山を越えなければいけなくて、そのどこに出るかがわからない」

「……そこまでわかっているなら討伐隊の派遣なんかができるんじゃないのか?」

ヒカルの問いに、ニーノはフッと笑った——それはあきらめのにじんだ笑いだった。

「何度も陳情は上げているよ。だけどね、コウナツは南の名産。皇都は動かないんだ」

「どういうことだ?」

「知らないのかい? 皇国南部は新興貴族の領土が多くてね……猫の額ほどの耕作地をなんとか広げてようやくコウナツという名産品を作りだしたんだよ。それが、皇都周辺や西方の肥沃な領土を持っている古くからの貴族たちは気にくわなかったようで、コウナツを守るために兵力なんて割いてくれない……とまぁそういうわけだ」

「…………」

ヒカルの眉間にシワが寄った。

「ヒカル様……」

小声でポーラもささやいてくるのに、ヒカルはうなずいて応じた。

ニーノがここでウソを言う理由はないだろう。それに皇国のトップがまともな人間であったとしても内部の貴族が腐っているなんてことはよくあることだ。

「……わかった。それなら僕らが護衛を引き受けよう」

「え? い、いいのかい? 帰り道のぶんしか護衛の代金を支払えないんだけど……往復にしてしまうとコウナツの原価にも大きく影響してしまうから」

「構わない」

善人ぶるつもりはなかった。少々、この国の内情に興味が湧いただけだった。「直感」に従うまでもなく、コウナツなんていう襲っても利益のない積み荷を狙う山賊は、なんらかの別の意図があるに違いないと考えられた。

「 身体を動かす(・・・・・・) にはちょうどいい案件っぽいからな」

「それに『満腹亭』で美味しいコウナツ料理も食べたいですしね」

にこにことしてポーラが言うと、

「あれ? ウチが『満腹亭』にコウナツを卸していることを言ったっけ?」

とニーノが首をかしげたので、あわてて誤魔化さなければいけないはめになった。