軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最後の1ピース

ヒカルは「隠密」を発動しながら城壁の上を駈け回り、登ってくるモンスターを蹴落としていた。「暗殺」が決まれば、ヒカルの全力の蹴りであればモンスターの命を奪うこともたやすい。

「そろそろか」

すでに城壁の上からは兵士がいなくなっており、ヒカルだけが残っていた。「 業火の恩恵(フレイムゴスペル) 」の連射によって押し戻されたモンスターたちだったが、そろそろヤママネキも復活しようとしており、勢いが戻りつつあった。

ヒカルは残り2発の火魔法を左右にぶっ放すと、きびすを返して城壁を走り、跳んだ。地面にぶつかる直前にグラヴィティ・バランサーを使えばふわりと着地できる。

ぶるりと身体の奥底から震えるような感覚が湧き起こる。「魂の位階」が上昇しているのだ。まだ確認していないが、数レベルは上がっているようだ。

草原の半分より向こうにまで兵士は撤退している。引き際としてはいい頃合いだ。

『ヴォオオオオオオオ!!』

立ち上がったヤママネキが咆吼を放ち、ヒカルは前のめりにすっ転んだ。

「おいおい……」

ヤママネキのシャウトは人間に有効だが、同様にモンスターにも効いているようで、巻き添えを食ったモンスターの叫び声が城壁の向こうから聞こえてくる。

身体を起こしたヒカルがそちらを見ると、ブラストキャノンが火を吹いてヤママネキを直撃。身体の中心にあったコアを破壊できたらしく、巨大な土くれが瓦解するように落ちていく。

ヒカルが最後に火魔法を撃ったらあとはブラストキャノンでもなんでも撃っていいとラヴィアに伝えておいたので、タイミングとしてはバッチリだ。

『ゼェーゼェー……ヒュー、ヒュー……』

ふと、城壁の際に墜落していた竜が目に入った。飛び上がれないほどの翼の損傷。それに口にぶら下がっているのは、何者かの足だった。

「……ゴルジアを食ったか」

ひょっとしたらモンスターと心を通じ合うとか、言葉を使って意思疎通ができているのではないかと考えていたのだが、やはりそんなことはなかったようだ。

「竜を使えたのはなんらかの魔術かな……ま、あまり興味はないけど」

ヒカルは竜に背を向けて走り出す。

防衛ラインにはブラストキャノン部隊だけが残っていて、他の兵士が撤退していく背中が遠くに見える。

『シルバーフェイス! ここです!』

「げっ、国王がまだ残ってるのか。なに考えてるんだ……」

ドリアーチが片手を挙げるとヒカルはげんなりしたが、

「あなたが帰ってくるまでは絶対に自分は行かないって」

同じく呆れたようにラヴィアが言い、ポーラも親衛隊をぞろぞろ引き連れてやってくる。

「そうか。走れるか?」

「ん、大丈夫」

「私も大丈夫ですっ」

「——なんか3人そろったのがすごく久しぶりな感じだな」

実に数日に過ぎない別れだったが、それは一月にも及んだ気さえした。

「シルバーフェイス! とにかく早く逃げます。そうしないと王様が逃げてくれない!」

「ああ、そうみたいだな」

青ざめた顔のドゥインクラーも、このぎりぎりまで残ってくれているのだからたいした忠誠心だとヒカルは思う。

思えばこの人だけは一貫して、すべての行動を国王のためを思って起こしていた。

「なんだかんだヴィレオセアン組は全員ここにいるぞ。我らもいこう」

リュック=ランドンを始めとする司祭護衛団も勢揃いだ。

「……アンタたちもいたのか? さっさと逃げてもよかったのに」

「騎士たる者、そういうわけにはいかない」

ヒカルにはまったく理解できない理屈だったが、ともあれ無事なら無事でよかった。数人欠けていたら 今後の交渉(・・・・・) が厄介だ。

「あとは——ブラストキャノンをどうするか、か」

「あっちは、ルーデンドが管轄します。もう放っておいていい。早く逃げる!」

ドゥインクラーのルーデンドに対する扱いが雑だ。ドドドドンとブラストキャノンが火を噴いて、別のヤママネキを撃沈する。なかなかの命中精度だし、叛乱したという事実にさえ目をつぶればかなり有用な部隊なのだが。

「彼らも最後撃ち込んだら逃げたほうがいい。砲台は何度でも作り直せるが、人員は失ったら取り戻せないからな。あー、ルーデンドさん?」

「シルバーフェイス! 早く!」

ドゥインクラーはもどかしそうな顔で足踏みしたが、このまま彼らを放り捨てていくことはヒカルにはできなかった。

『な、なんだ。なにか用か』

ルーデンドはシルバーフェイスへの態度がだいぶ硬かった。今回の叛乱の失敗もろもろ、ヒカルの手のひらで踊らされていたようなものだったが、それを知ったからだろう。

「えー……っと。そうだな、スターフェイス、通訳を」

「あ、通訳なら私がっ」

ととととっ、と走ってきたのは小さな姿。

両手に分厚いバインダーを抱えており、その重量で前のめりに倒れてしまいそうだった。

『ディーナ書記官!? 今までどこにいた、この国家の重大事に!』

『ドゥインクラー様、も、申し訳ありません。警鐘が聞こえてから目を覚まし、この書記官秘録を取りに行っておりました……』

『この国の歴史をまとめた秘録か……ならば仕方ないが、もう撤退だ。準備はいいのだな? いや、準備などしている余裕はもはやない』

『は、はいっ!』

緊張した表情でディーナはうなずくと、ヒカルへと向き直った。

「お待たせしました。通訳ならお任せください」

「ああ、そうか——」

ヒカルは、口の端で笑った。

「—— ここで出てくる(・・・・・・・) とは、アンタなりによく考えたもんだな?」

「はい? いったいなんのことでしょうか」

「とぼけるならとぼけるで構わないさ」

「え……きゃぁっ!?」

ヒカルは、彼女の抱えていたバインダーを叩き落とすとディーナの胸ぐらをつかんだ。

「シ、シルバーフェイス!? なにをする!? いくらディーナと確執があったとはいえ、ここで争いは止めてください!」

「違うよドゥインクラー。アンタたちには これ(・・) が感じ取れないんだ」

「は?」

『彼女からは吐き気を催すほどの邪悪な魔力が漂っています』

こちらの国の言葉でラヴィアが補足してくれた。

そう、ディーナからは邪に連なる魔力が漏れ出ていたのだ——ベルトに回した小物入れから。

ヒカルのように「魔力探知」がなくとも、魔法を使えるラヴィアやポーラには簡単にわかるほど、ディーナからはイヤな感じの魔力がダダ漏れだった。

「ああっ!」

ヒカルがナイフでベルトを切り、小物入れを離すとディーナは小さい悲鳴を上げた。そのままヒカルはディーナを突き飛ばすと小物入れを城壁方面へとぶん投げた。

「スターフェイス」

「はい——『我が呼び声に応えよ精霊。原初の明かりたる焔もて、焼き尽くせ』」

ラヴィアの手から放たれたのは一抱えもあるほどの巨大な火球だ。初級魔法である「ファイアブレス」なのだが、ラヴィアは火魔法の制御がだいぶできるようになって、これでもサイズはだいぶ小さくなった。

火球は小物入れが落ちたあたりに着弾すると、轟と音を立てて火柱を起こす。

「ッ!?」

直後小さな爆発が起き、暗闇が噴き出した。

大地をえぐった爆発で砂や石がパラパラと落ちてくる——周囲一帯の草が枯れていた。

『あ、アレはなんだ!?』

驚いたルーデンドにヒカルは言う。

「邪系統の魔力が込められたなんらかの魔道具だ。—— おれ(・・) はどうやってこの街を、モンスターに狙わせるのか、その方法がわからなかった。だが、こんなに簡単な方法があったんだな……街の真ん中でモンスターをおびきよせる魔道具を使ったんだ」

尻餅をついたディーナは、苦々しい顔でヒカルをにらみ上げている。

「ディーナ。お前がコウキマルとの連絡要員であり、向こうのスパイだったんだな」

ディーナが敵方に関与していることがわかったヒカルだったが、確たる証拠がなく——どうやって街の外と連絡を取っているかもわからなかった。

ヒカルの知らない魔道具を使っているとしか思えなかったし、その調査をしている時間はあまりに足りなかった。

ならば泳がせて、モンスターの襲撃を起こさせようというのがヒカルの判断だ。

その前にモンスターたちの、おそらく力の源となっているルーツをなるべく破壊しまくっておくことが襲撃を最小化するための最短ルートだった。

「なぜ……それがわかったの」

押し殺した声でたずねるディーナは、ヒカルたちの実力を見誤っていた。

ルーツを破壊できるとは思わなかったこと。ルーデンドたちの情報をつかんでいたこと。

だから彼女は、ヒカルがルーツを立て続けにいくつも破壊したので焦った。

結果、ルーデンドの叛乱に合わせてモンスターをけしかけ、この街を滅ぼすことにしたのだ。

「おれには特別な力があるんだよ」

彼女のソウルボードにはハッキリと、敵方であることが刻まれていた。

【ソウルボード】ディーナ

年齢21 位階17

19

【器用さ】

【器用さ】2

【精神力】

【心の強さ】4

【信仰】

【 邪(・) 】 5(・)

【直感】

【知性】

【言語理解】2

【言語出力】1