軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

仮面の親衛隊

「裏切り者」、と聞いてヒカルが思い出すのはドゥインクラーの言っていた「裏切り者」という言葉であり、ヤママネキを街に誘い込んだ者のことである。

その話だろうか? と思っていると、

「ドリームメイカーは大きな街になった。じゃがここに至るまでに平坦な道を歩んできたわけではない」

そう、ワカマルは切り出した。

「我らが王様は非常にがんばってくださっているが、王様の支配……支配されているとはワシなんぞは思わんが、王政そのものをよく思わぬ者もいる。そんな思想を持つことも王様は許しているのだから、素晴らしいお方じゃろう?」

「お、おう……」

ちょいちょい王様ヨイショが入ってくる。

「過去には王政を覆そうと武力行為に走った者たちがあった」

「クーデター?」

「そうじゃ。じゃが企みは失敗した。王様は寛大にも彼らを許され、ともにまたドリームメイカーのために尽くして欲しいと言われた……先代王の時代じゃ」

それは寛大と言うか、どうなんだ? とヒカルは思ってしまう。

日本でも内乱罪には最高刑罰の死刑が課せられることもある。この世界では日本の法律よりはるかに厳しいのだから一族郎党集めて死刑でもおかしくはない。

「……もしかして、かなり権力のある人物だったんですか? 首謀者が」

「うむ。権力というより影響力じゃな。――じゃが彼らはの、クーデターが失敗に終わり、情けまでかけられて生きてはいけないと街を出たんじゃ」

「街を出た……って街を出たら生きていけないでしょう」

「じゃからそれは自殺と等しいと思っておったよ、みな。じゃが、生きているのではないか……そんなウワサが立ったんじゃ。まあ、ウワサじゃから、真に受ける者も少なかったし、信憑性もない与太話だとワシも考えておった。じゃがのう、ひょっとしたら……と思ってしまうんじゃ」

「……街に戻っている。あるいは街に内通者がいる」

「そのとおりじゃ。よくわかったのう」

ドゥインクラーが言っていた「裏切り者」は明らかに街の内部を指していたからその結論に至るのはたやすい。

だがワカマルはヒカルとは違うことからその「裏切り者」に気づいたようだ。

「さっきの光学迷彩の話、あったじゃろう。あれはな、エイーチ様のアイディアで、ドリアーチ様が苦労の末に開発に成功したものなのじゃ。じゃから、『塔』に同じ技術が使われているというのはおかしいんじゃよ」

「もしやワカマルさんは、『塔』は裏切り者たちが建て、街の内通者が技術供与していると考えているのですか?」

「……うむ」

苦々しい顔でワカマルはうなずいた。

「……ワシらは少人数じゃ。中で争っている場合ではないというのにな……なぜそれもわからず力によって王様を排除しようとするのか。さらにはおめおめと生き延び、今もってなお恨みを抱いているというのか。まったく恥ずかしい者どもよ」

「…………」

ワカマルの言うことは可能性のひとつとしてあるのだろう。だがヒカルは同じようには思わなかった。

(……それならなぜ「塔」なのかという話になるよな。「塔」は目立ちすぎる。それに海から見えなくとも陸地から見えていたら意味がない。……いずれにせよ明日「塔」に行ってみればわかる、か)

太陽が傾き、茜色の光を放っている。ワカマルはつらいことを吐き出したという顔で立ち上がるとお茶を淹れに行った。

ふとその姿にヒカルは違和感を覚えた。

「ワカマルさん」

「……なんじゃ」

「今のお話を聞いていると、確かに醜聞に近い内容ではあるかと思いますが……ワカマルさんがそこまで恥に思うことではないように感じますが」

ワカマルはこちらを見ずに、答えた。

「ワシが恥に思わんで誰が恥に思うのか……裏切り者の首謀者の名は、コウキマル。ワシの弟なんじゃよ」

ヒカルはそのとき、「塔」の調査にワカマルが手を挙げた裏の理由を知った。

* *

『おお、おおっ……膝が動く、動くぞ……!』

『良かったなぁ、良かったなぁっ!』

いい年をした男二人が泣いて喜んでいる。たった今、ポーラの回復魔法で治療を行った相手だ。

数年前にモンスター遠征の際に膝に傷を負い、歩行ができなくなった。古傷の治療はしたことがなかったので不安はあったが問題なく治すことができた。

『アンタは俺の恩人だよ! なにかあったらなんでも手を貸す!』

『相棒を助けてくれたんだから俺の恩人でもある! 俺にも言ってくれよ!』

「あ、あのー、その、ち、近いですぅ!」

大柄なふたりに手を握られ、ポーラが困惑してのけぞったところへ、

『うれしいのはわかりますが、魔法使い殿を困らせてはなりません』

書記官のディーナが割って入った。

ようやく落ち着いたふたりが去っていくと、

「ふー……喜んでもらえるのはうれしいんですけど、皆さん喜び方が激しくて」

「ふふふ。彼らにとっては人生を捧げてきた戦いの道を、一度は絶たれ、それを戻してもらったのですから仕方ありませんよ。――フラワーフェイス様の回復魔法は外傷のほうに強い効果がおありですね。そうなるとやはり軍部での需要はとても高いです」

「……私の魔法ではなく、シルバーフェイス様の魔法なんですけどね」

「? そうなのですか?」

ポーラとしては、この回復魔法はヒカルがソウルボードに干渉することで得られた力だという認識がある。だがそれを伝えるわけにはいかない。

「さて、あと何人でしたっけ」

「あとは……10名ですね。大丈夫ですか? 休憩は必要ですか?」

「問題ありません」

軍部の医務室には今、ポーラとディーナしかいない。治療中はラヴィアがいてもしかたないのでラヴィアは施設内をふらふらしている。

この数日は軍部での治療に当たっていた。これはグルゥセルの希望であり、ヒカルがグルゥセルに屋敷の警備を依頼したことからもドゥインクラーが譲歩した結果である。

最初こそ 胡乱(うろん) な目で見られた仮面姿のふたりだったが、回復魔法の効果がてきめんだとわかると今では毎日 歓呼(かんこ) の声で迎えられている。

『次の方――っ!?』

ディーナが固まったのも無理はないだろう。

入ってきたのは年のいった男だった。

顔の半分に包帯を巻き、右腕は根本からない。左足も膝下がなくなっているので松葉杖で入ってきた。

『……ァ、よろしく、頼む……で、できるとこ、だけ……でも……』

治療が始まったときには軽傷者が多かった。遠征部隊の規模を維持するためにケガで一時的に離脱している者を治療し、すぐに復帰させたいという思惑だったのだろう。

今日からは傷が古い者がやってきたのだが――これほどの重傷者は初めてだった。

「こんな傷はさすがに……どうしましょうか、お帰りいただいたほうが……」

ディーナが困惑顔で聞いてくる。それもそうだろう、命をギリギリつないでいる状況の彼に「治るかもしれない」という希望の夢を見せることはあまりにも残酷だからだ。

だがポーラは、

「では少々時間がかかりそうなので横になってもらいましょうか? あと傷痕をすべて確認したいので服を脱いでもらい、包帯も取ったほうがいいかな」

「――――」

「ディーナさん? あの、すみません、言葉難しかったですか?」

「――あ、い、いえ、申し訳ありません。すぐに通訳します」

まったく動揺もせずにポーラが「対応する」という態度なのでディーナはあっけにとられたのだった。

診療用の寝台に横になった男が、パンツまで脱ごうとしたのはさすがに止めた(傷はなかったようである)。

「ひどい傷ですね」

包帯を取られた顔の半分はただれており、眼球は黄色く濁っていた。服で隠れていたが喉から胸、腹にかけても深い傷痕があった。

「……遠征部隊で凶暴なモンスターに遭遇したそうです。その際、部隊長であったこちらの方がメンバーをかばったおかげで他に犠牲もなく倒せたのだとか」

「立派な方ですね」

立派だ、とポーラが感じたのは、男の目が死んでいないからだった。ただ生きているだけの毎日に絶望していない。ここで少しでも治るのならばまた戦える、と――そう考えている目だ。

「もう大丈夫ですよ」

にこりと笑ったポーラに、男は一瞬ハッとしたようだ。その直後に瞳を閉じたポーラが詠唱を開始する。彼女の身体が黄金色に発光し、両手で男の顔を包むと光が男へと移っていく。

『まさか、そんな……』

男の皮膚がうごめき、死んだ皮膚が血の色を取り戻していく。削れた肉が蘇り、濁った眼球が本来の色を取り戻していく。

「このまま続けます。動かないで」

ポーラの額に小さく汗が浮かんだ。これまでよりもずっと患部が広いから集中力を持続させなければいけない。

彼女の手が顔から首へと移っていくと呆けた男の顔が現れた。

『見える……』

すでにポーラの手は胸へと移っている。

『声が、出る……!』

「動かないで」

『あ、う、動かないでください!』

これまで傷の治療は見てきたディーナだったが、これほどの治療は初めてだった。呆然としていたが自分の仕事を思い出して起き上がりかけた男の身体を押さえる。

その拍子に彼女の持っていたファイルが落ちるが誰もそんなもの気にしていない。

そしてディーナは奇跡を目の当たりにすることになる。

『あ、あ、て、腕が……そんな……』

ピンク色になっていた右腕の根本がもごもごと動くと――肉が盛り上がり、先に伸びていく。

「ふぅ――――」

腕が 生える(・・・) までに1分もかからなかった。ポーラの額からは汗が滴り落ちるが、そのまま彼女は手を膝へと移す。

2度目の奇跡も、問題なく、自然になされた。頭皮だけは戻ったものの毛がまだ1センチ程度の状態ではあったが――彼の外傷はすべて元通りになった。

「――よし、これでおしまいです」

どさっ、とイスに腰を下ろしたポーラはさすがに疲れたのだろう、コップの水を一気飲みすると、水差しからもう一杯注いでさらに一気飲みした。

『あ……あ、あ、あ……』

『…………』

言葉にならない声を発する男と声すら出てこないディーナに、ポーラはハンカチで額を拭いながら言った。

「動くかどうか試すよう伝えてください――え?」

がばりと男は寝台から降りるや両膝を地面についた。

『あなたこそが女神だ!! お、おお、おおお、うおおおおおおおお!!』

「ひぃっ!?」

両目から滂沱の涙を流しひれ伏す男に、ポーラは逆にドン引きだった。

泣きじゃくって動けない彼をなんとかディーナが外へと連れ出したのだが、廊下では見違えるようになった彼の姿に大きなどよめきと、歓声、泣きじゃくる声が上がった。

その後、この男は「花仮面の女神親衛隊」を組織することになるのだが、今のポーラは当然知る由もない。