軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

灰貴龍との接触(物理)

リヴォルヴァーで 業火の恩恵(フレイムゴスペル) を展開後、即座に「集団遮断」を発動して灰貴龍の魔法範囲外に離脱した。崩れゆく講義C棟を見てヒカルは舌打ちする。

「どれだけ苦労してあの部屋を片づけたと思ってる……!!」

ミレイ教官が私物化した部屋としてとっちらかっていた講義C棟と言う名の小屋を片づけたのはヒカルだ。それをこうもあっさりとたたき壊されると怒りがふつふつと湧いてくる。

『お、怒るのそこ!? ていうかどうやってかわしたの今の!?』

「魔法陣の向きを見れば直線的な魔法などかわすことはたやすい」

『ええ!?』

「ちょっと静かにしてろ、コウ。僕から離れたら速攻あのデカブツに見つかると思え」

『わ、わかったっ』

コウを首に巻くとヒカルは走り出す。ソウルボードを開くと「+」のボタンをタップして新たに手に入れた追加効果を表示する。

【ソウルブレイズ】……ソウルボードの効力を10%強化する。

【アンロックプラス】……アンロックポイントにも基礎能力としての効果が付与される。

【ディバインコネクト】……「加護」を得られる必要ポイントを理解できる。

【アクセスプラス】……他者のソウルボードにアクセスできる距離を50メートルまで伸長する。

今こそポイントを振るべき時だ。なぜかと言えば、ヒカルの「集団遮断」は4でありMAXではない。

【ソウルボード】ヒカル

年齢16 位階42

2

【生命力】

【魔力】

【筋力】

【筋力量】1

【武装習熟】

【投擲】10(MAX)

【天射】0

【敏捷性】

【瞬発力】5

【隠密】

【生命遮断】4

【魔力遮断】4

【知覚遮断】5(MAX)

【暗殺】3(MAX)

【狙撃】3(MAX)

【集団遮断】4

【直感】

【直感】2

【探知】

【生命探知】1

【魔力探知】3

【探知拡張】3(MAX)

残りのポイントが2しかないので、「集団遮断」の前提である「生命遮断」「魔力遮断」に1を振ると、「集団遮断」に振れなくなる。1ポイント足りない。

もちろん「集団遮断」4で灰貴龍から見つからない可能性もあるのだが、ヒカルは大事を取った。取らざるを得なかった。

(「直感」が効かない相手なんて初めてだぞ……!)

これまで「直感」1でもあればなんとなく「隠れられそうだな」とかわかったし、あるいは「隠れられるかどうか、わからないことがわかる」という状態だった。

だが灰貴龍を前にした瞬間、そういった感覚がすべて消え去った。「直感」を 抵抗(レジスト) されたと言うより、「そもそもそういう相手ではない」という感じか。

たとえて言うなら「岩」を前にして「岩から隠れよう」などとは思わない。「直感」が相手を 無視している(・・・・・・) という感じだ。

(念には念を入れるしかない)

ヒカルはソウルボード+の画面で「ソウルブレイズ」を選んだ。相手は人間相手に一切の感情的な容赦がない。ヒカルとコウの位置を把握し次第、攻撃をぶち込んでくるだろう。そう、コウにすら容赦がないのだ。

今のヒカルにコウを外して自分ひとりの「隠密」MAXで姿を隠すという選択肢はなかった。コウを渡したくないとかコウはすでに家族のようなもの、みたいな感傷はまったくなく、単に「ここまでコケにされた相手の言うとおりになるのが気にくわない」からだ。

「ソウルブレイズ」、適用——。

ヒカルは自分の身体が驚くほどに軽くなるのを感じた。

(「筋力量」1.1、「瞬発力」5.5か)

たかだか10%ということはない。ヒカルが「筋力量」に1を振っただけで、体長60センチほどあるレッドホーンラビットを、3羽まとめてかつぐことができるようになったのだ。「集団遮断」も4.4となる。

目の前の灰貴龍は、案の定ヒカルの姿を見失っていた。

(僕を殺そうとしたんだ。殺される覚悟くらいできてるんだろうな?)

向こうが人間に容赦がないのと同じように、相手が龍だろうと竜だろうとヒカルも容赦するつもりはなかった。

灰貴龍の斜め後ろでヒカルは腰に手を伸ばす。指先に触れたのは脇差し——常闇の神木による漆黒の鞘に収まった、魔剣だ。

もはやためらいはない。ヒカルは灰貴龍に突っ込んで行く。両足が悲鳴を上げるほどの強い蹴り出しで駈けだしていく。気づかれていない。「暗殺」が発動する条件——ヒカルは脇差しを引き抜き、灰貴龍に斬りつけた。

灰貴龍は聖魔を自由自在に操る。空を飛び、複数の魔法を——精霊の有無にかかわらず——展開できるのも聖魔をもつからだ。

生命を超越し、邪に連なるものを滅ぼす。

それが龍に与えられた使命であり生きる価値。そう、灰貴龍は信じている。

《————!?————》

身体の一部に走った 違和感(・・・) がなんなのか、灰貴龍はすぐにはわからなかった。それが「傷」であり「痛み」であると思い出すのにもわずかに時間が必要だった。

邪龍など強大な存在以外をのぞいては、戦いにおいて——いや、それを戦いと呼ぶかも疑わしい一方的な 蹂躙(じゅうりん) ——傷を負うことなどなかった。

それほどに灰貴龍の能力は人間やモンスターとは隔絶しているのだ。

だが、これはどうしたことか。

身体から真紅の血がほとばしり滴っている。その箇所からジンジンとした感触が伝わってきて、やがて燃えるように熱さ——「痛み」を感じる。

《————オオオオオオオ!!————》

灰貴龍が吠え、飛び上がる。

久しぶりに感じる「痛み」の不快感。傷は深く、真っ直ぐに飛んだつもりがぐるんと右に曲がっていることも、はなはだ不愉快だ。

先ほど、火魔法によって怯んだこともあいまって、自分がたまらなく無様だと感じられた。

《————許さん、許さんぞ————》

どくどくと血はあふれていくが、上空はさらに寒く氷点下を大きく下回る気温だ。血が凍り鱗にこびりついていく。

怒りのあまり灰貴龍は我を忘れた。そして学院全体を効果範囲と定める超巨大魔法陣を展開する——。

《————————》

だが、その魔法が完成することはなかった。

学院の建物のひとつ、屋根の上から発せられた 漆黒(・・) の 光線(・・) が灰貴龍の顔に命中したのだ。

左目を含む、顔面の多くがえぐられ、中空に消失した。

灰貴龍はバランスを崩すと重力に導かれて落ちていく。落ちていく。落ちていく。

その巨体は、講義棟の1つにぶつかりながら横倒しに地上へと落ちた。

「ふぅ——『狙撃』も発動したみたいだな」

事務棟の屋根に立っていたのはヒカルだった。手に持っているのはもちろんリヴォルヴァーである。

使用したのは「古代神民の地下街」で手に入れた弾丸のうち、最後のもの——「邪」系統の魔法が閉じ込められている弾丸だ。

ヒカルが持っている他の弾丸はすべてラヴィアが込めてくれた火魔法なので、遠距離の狙撃には向いていない。「邪」ならばあるいは、と思ったが、ヒカルの予測は当たったらしい。明らかに灰貴龍に利いていた——弱点を攻撃したとでも言えばいいのか、あっさりと灰貴龍の顔を削った。

「投擲」10(ソウルブレイズの効果を入れると11)があれば、たとえリヴォルヴァーで距離があっても当てることはたやすい。

『た、倒しちゃった? 灰貴龍、死んだの?』

「あれで生きてたらもう逃げるしかないな。あの龍、僕だけじゃなくてコウも、それに学院全体をぶっ壊そうとしてたぞ」

『いやいや! ていうか人間が龍を倒すなんて……! あの魔法だってめっちゃ禍々しかったけど!?』

「もしかしなくてもコウの知り合いだったっけ」

『そこはまあ別にいいっていうか、しょうがないっていうか……そうじゃなくて!』

なんだかわーわー言っているが、ヒカルは屋根から地上へと降りていく。上るときは「瞬発力」でジャンプすればいいから楽なのだが、帰りは場所を選んで下りていかなければいけないのが面倒ではある。「落下耐性」のようなソウルボード項目はあいにく、ない。

灰貴龍が墜落した場所へと向かう。建物がえぐれるように破壊されていて、もうもうと土煙が舞っていた。

「こりゃひどい……って」

ヒカルは目を疑った。灰貴龍がどこにもいないのだ。破壊されたガレキに埋まっているのかと思ったが見当たらない。あの巨体ならば建物の外にはみ出ているはずなのに、どこにもない。

いや、鱗はえぐれた壁に数枚へばりついているし、おびただしい血が雪の上に滴ってはいる。肉体だけがごっそりなくなっていた。

『里に召喚されたのかもしれない』

「召喚?」

『灰貴龍が死んだことはきっと、里の誰かがすぐに気づいたと思う。死んだ龍の身体を置いたまんまだと、邪に連なるものに利用されることもあるから……』

「目的や理由はともかく——召喚なんてできるのか?」

『龍の里へ、だけはね。龍の里はこの世界にあるわけじゃなくて、ちょっと違う。なんていうか……ずれた世界にあるっていうの? 里のじいちゃんが言ってた』

コウの説明能力ではさっぱりわからないことだけはよくわかった。

「——おい、あれはなんだ!?」

「——襲撃ってあれか!?」

そのとき学院の入口側から多くの人間がやってくる気配があった。「魔力探知」を走らせると、その中にヒカルもよく知っているラヴィアの魔力反応もある。彼女が呼んでくれた警備兵だろう。

だが——この惨状をどう説明すべきか。そもそも龍のことを話して信じてもらえるものかどうか。

「……面倒だな」

すべての説明責任を放棄することにしたヒカルは、フードを目深にかぶり、懐から銀の仮面を取り出した。

すべて「 白銀の貌(シルバーフェイス) 」の仕業にしよう。そうしよう。