軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

東方四星との接触

「ああっ……! おかえりなさい!」

ボーダーザードに戻ったヒカルは、冒険者ギルドでポーラを発見した。

その後ろには東方四星の4人がいる。さらに背後にはギルド職員が数名に街の衛兵が数名。

駈け寄ってきたポーラはヒカルの手を取る。彼女はヒカルの背後にいたラヴィアに気がつく。

「よくぞご無事で……」

目に涙を浮かべた。

「——感動の再会をしているところ悪いが、いろいろと話を聞かせてもらいたいんだ」

と声をかけてきたのはソリューズだった。

「すでにポーラが話したんじゃ? 僕のパートナーが誘拐された。だから僕は実行犯であるあの男をたたき伏せた。それからこのとおり、パートナーを連れ戻しただけだ。ちなみに実行犯の片割れが街道沿いで伸びてるから後で捕まえに行くといい」

「つまり被害者であり、すべて問題ない行動であると?」

「もちろん、そう——」

「それでは話が通らん!」

声を荒げたのは衛兵——その中でも隊長らしき男。

「貴様が負傷させた男はポーンソニア王国の正規兵であると主張している。また、我らも男の身分を確認した。誘拐といった事実はないそうだ」

「ポーンソニアの正規兵が国境を越えて入り込んだことのほうが問題なんじゃないのか?」

「行軍訓練中にはぐれたと証言している」

バカバカしい、とヒカルは思う。この隊長らしき男も、ポーンソニアの男が嘘をついているとわかっていてヒカルに言っているのだ。

ポーンソニアを刺激したくないのだろう。ひいては怒りの矛先をフォレスティア連合国に向けさせたくない。

特務部隊の男の主張に合わせて、「冒険者が勝手にやったことであり、連合国軍は無関係」という落としどころを考えているようだ。

ヒカルが反論しようとすると、ソリューズが先に口を開いた。

「隊長殿。あの男の証言には疑わしい点が多く、信用できません。それよりも私は、冒険者ギルドこそが先に、こちらの少年に話を聞く権利があると考えています」

「冒険者ギルドが……?」

「少年と、後ろの少女は、今回のモンスター襲来を退けた最大の貢献者である可能性が高いのです」

ソリューズの言葉に、冒険者ギルドのロビーは一度、しん、と静まり返り、急にざわついた。

「は? あり得ねー」

「あんなガキが最大の貢献者だったら俺なんて英雄だぞ」

「いやでも、あっちの女の子って、モンスターにでけぇ火魔法ぶっ放してた子じゃねえのか?」

「じゃあ男のほうは?」

「知るか」

なんて声が上がる。

(厄介なことになったな)

ヒカルはソリューズに対する警戒心を強めた。

彼女は話を誘導してヒカルへの注目度を上げたのだ。逃げ道を塞ぐために。一見、ヒカルを持ち上げようとしているところがまたいやらしい。

(そっちがその気なら、こっちにもやりようはあるんだけどな)

隊長はソリューズの言うことを信じていないようだ。

「するとソリューズ殿は、ここにいる冒険者や我々衛兵よりも活躍したのがそちらの少年少女だと言いたいのですか?」

「はい」

「それはあまりにもあまりでしょう。大体、先ほどの報告では巨大な地竜が出たというではありませんか。東方四星の皆様はこんなところでのんびりしていていいのですか?」

「地竜については問題ないと考えています」

「はっはっ。さすがはランクB冒険者、といったところでしょうか。1体で城を破壊すると言われる巨竜が迫っても余裕綽々ですか」

「そういう意味ではありませんよ。地竜はすでに『退治済み』なのです」

「……は? 先ほどですよ。地竜出現の報告があったのは」

「おそらく偵察は地竜の姿を見てすぐに逃げたのでしょう。その後、討伐されています」

「だ、誰に……」

「先ほどから言っています。ここにいる少年——」

言いかけて、ソリューズは止まった。

そこにいたはずの、少年少女3人の姿がなくなっていたのだ。

「ま、ここまで来れば大丈夫だろ」

ヒカルが「集団遮断」を解いたのは裏通りだ。簡単に言えば彼らの目の前でバックれたのである。付き合いきれない——そうヒカルは思った。

この街に長居はできなさそうである。

「い、いいんですか、ヒカル様!? こっそり逃げちゃって! ていうかみんなよく気づきませんでしたね!?」

「知ったことか。ポーンソニアとのやりとりは勝手に連中がやればいい」

「ええ。ヒカルが正しいわ。それより——ポーラさん」

ラヴィアがポーラの手を取った。

「ごめんなさい……無関係なあなたを巻き込んでしまって。ケガはない? 怖い思いをしなかった?」

「大丈夫です……ヒカル様がすぐに来てくれましたから。それよりラヴィアさんのほうが……」

「こっちも平気よ。すぐにヒカルが追いかけてくれたから」

「さすがヒカル様」

「すごいでしょう?」

「はい!」

ふたりの話がなんで僕の話に変わってるんだ? ……とヒカルの頭に疑問符が湧いた。

ラヴィアのほうが歳は3つほど下のはずなのに、ほぼ対等に見える——どころかポーラのほうが後輩みたいな振る舞いになっている。

「ヒカル。これからどうするの?」

「……そうだな。ふたりにはスカラーザードに行っててもらおうかな」

「ヒカルは別行動?」

「ああ」

ヒカルは腕を伸ばしてラヴィアの服についていたほこりを払う。

特務部隊の男に背中から蹴られたときについた汚れだ。

「……こんなナメた真似してくれたんだ。アイツらの 雇い主(・・・) にちょっとばかり仕返ししてもバチは当たらないだろ?」

「ヒカル……それってたぶんポーンソニア国王なんだけど」

「ふぇっ!? こ、国王陛下!? な、なんの話なんですか!?」

「ああ、国王を一発殴りたい」

「ヒカル様!?」

ラヴィアは「やれやれ」という感じで息を吐いたが、ポーラはあわてふためいている。

「もしかして、と思ったのだけれど……ヒカル、あなた、さっき馬車にいた2人組のうち片方を—— わざと逃がした(・・・・・・・) の?」

「どうしてそう思う?」

「ヒカルなら気づかれずに倒せるはずでしょ? なのにわざわざ声をかけた」

ヒカルは思わず笑いそうになった。

ラヴィアはほんとうに頭がいい。そして、勘が鋭い。

彼女の言うとおり、ヒカルは茂みに隠れていた背の低い男に「わざわざ声をかけた」。背後から直接叩けばそれで済むのに。

理由があった。男に声をかけることで、「生命遮断」していた女をあぶり出す——もちろん「魔力探知」で探ればわかった可能性は高いが、ヒカルとしては脳の疲労がかなり蓄積していたからやりたくなかったのだ。

その間に女がさっさと逃げてしまっても構わなかった。

最終的には逆の結果になったが。女の気を失わせ、男が逃げた。

「これであの男は雇い主に報告しにいったはずだ。ちゃんと『返り討ち』にしたことを伝えられるってわけ。その上で直接乗り込む。そうしたほうが——向こうが受ける精神的なダメージは大きいだろ? なにも知らないところに乗り込んでもきょとんとされるだけだし」

「ヒカル……あなた、ほんとうにいい性格してるわ」

「それだけ怒ってるってことだよ。僕のラヴィアに手を出されたんだ。当然だよ」

「…………むう」

頬を少しだけ染めたラヴィアが、ヒカルの手を指先だけでつかんで、ふいふいと横に振る。照れているらしい。

「——なんの話か全然わかりませんが、おふたりの関係が死ぬほどうらやましいです!」

ポーラが叫んだ。

ボーダーザードにある馬車の停留所へやってきた。

少女ふたりは乗合馬車に乗り込んでラヴィアは「隠密」を発動し、ポーラは「隠密」機能のついているマントを着ている。ふたりにはヒカルが地竜から剥ぎ取った竜石を持たせた。ヒカルが持ち運ぶには少々邪魔だった。

ポーンソニアで活動する東方四星がスカラーザードまで追ってくることはほぼないと見ていた。衛兵の動きは気になるから、別途、女王マルケドに話をつけに行く必要があるかもしれないが。

懸念していた追っ手が来る前に馬車は出発した。タイミングが良かった。

ヒカルはスカラーザード方面へと行く馬車が街から出ていくところまでをしっかりと見送った。

「さて……と。それじゃ2度とラヴィアに手を出そうなんて思わないよう、お仕置きしてやらなきゃな」

ヒカルが悪い笑顔を浮かべた——ときだった。

「ふーん。あの子、ラヴィアっていうの?」

「!?」

近寄られていたことに気づかなかった。

サーラだ。

さらに離れたところに、ソリューズ、シュフィ、セリカの3人もいる。

「ちょ〜っとお姉さんたちに付き合ってくれるかなあ?」

ヒカルは腰に提げた脇差しへと手を伸ばした。

「あ、大丈夫大丈夫。衛兵たちに君を渡す気はないし、ギルドにも情報は流さない——それならいいでしょ?」

「信用できない」

「してほしいなあ。その条件なら君は乗ってくれるかもしれないとソリューズは言ってたんだけどねぇ」

またソリューズか。

呆れて視線を送ると、にっこりと笑ったソリューズが手を振っている。

「もし乗ってくれないなら……君の情報を衛兵やギルドに渡すし、ラヴィアって子のことも——」

「ラヴィアに手を出したら、後悔するぞ」

へらっ、としていたサーラの表情が豹変し、瞬時にヒカルから数歩分距離を取る。

「……へぇー……」

直後、またも取り繕うようにへらっとする。

「おっかないなあ。君、殺気がダダ漏れだよ。隠して隠して」

「…………」

「わかったから。わかったから落ち着いて。——でも、あたしたちだって追っかけてたんだよ? ラヴィア=ディ=モルグスタットのことはさ。君が彼女をポーンソニアから逃がしたのね?」

少ない手がかりから自分のことを言い当てられるとは……ヒカルは東方四星を多少甘く見ていた自分に気づいた。

「あたしたちもびっくりだったんだよ。緊急召集を受けて来てみたら、とんでもない火魔法の使い手がいるし。そんな彼女の名前が『ラヴィア』だというし。ポーンド郊外で見かけた君が、ここにいるし。……君が彼女を逃がし、フォレスティア連合国に逃げ込んだ、と考えるといろいろつじつまが合うのよ。あっ、でもね? 今はもう、彼女に執着していないよ? あたしたちだってヒマじゃないし。だから正直に教えて欲しいなぁ。あたしたちもラヴィアちゃんとポーラちゃんが出て行くところに手を出さなかったでしょ? ちょっとは信用して」

「……なにを聞きたい?」

ヒカルがそう聞くと、緊張を解くようにサーラが小さく息を吐いた。

「場所を変えよ。パーティーのみんな、君の話を聞きたがってる。特にセリカが、だけど……ニホンのこと、とかなんとか」