軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

式典直前のイレギュラー

時は3日前にさかのぼる。

ウゥン・エル・ポルタン大森林の外縁に置かれた、冒険者ギルド3カ国合同討伐チームの本部は大混乱を来していた。

本部長を任されていたのはクインブランド皇国全域の冒険者ギルドを預かるギルドマスター。若かりしころは自らもランクB冒険者として活躍していた人物だ。

だが50を前にして右足を石化異常により失い、一線を退いていた。

「前線が破られただと?」

第一報が飛び込んで来たときにはなにかの勘違いだろうと思った。

ウゥン・エル・ポルタン大森林のモンスター異常繁殖は毎年起きていたことだ。

繁殖するスポットもほとんど決まっている。例年通りランクC冒険者たちを筆頭に、討伐チームを組んでいた。

「詳しく教えてくれ」

「はい——」

各討伐チームに随行していたギルド職員は本部長に語った。

本来、大量出現すると目されていたゴブリンやグリーンウルフ、植物系モンスター各種と戦闘中に、異変が起きた。

フォレストバーバリアンが10体以上現れたのだ。

「10体……」

本部長は唖然とする。

ランクC冒険者のパーティーでも、4体か5体を相手にするのが限度だろう。

「なるほど、今回の事態はフォレストバーバリアンの異常繁殖ということか」

「いえ、それだけではないのです」

「なんだと」

「奥に——ちらりと見えたのですが」

ギルド職員はぶるりと身体を震わせた。

「——竜が、いました」

本部長はその報告を、「恐怖による錯覚だろう」と考えた。竜とは人跡未踏の山奥に生息するものである。ウゥン・エル・ポルタン大森林も巨大な森林ではあったが3カ国の平地に囲まれている。

竜などいれば、もっとずっと前に発見されていたはずだ。

しかしその認識は崩されることになる。

次々にやってくる報告。

フォレストバーバリアンだけではない。闇夜狼、タイラントスネーク、 暗き森の妖精(ダークピクシー) ……ランクC冒険者でなんとか相手にできるモンスターが、それぞれ2ケタの数で出現したというのだ。

これはおかしい。タイラントスネークなどは単独で行動するモンスターなのだ。それが群れている——いつもとは違う、異常事態だ。

そしてある冒険者がこんな情報をもたらした。

——森の最奥に、竜がいた。その竜がモンスターどもを食っていた。ゆえにモンスターどもは森を追われているのだ。

なんらかの原因で暴れ始めた竜がモンスターを捕食する。恐怖に駆られたモンスターは森から出ようとする。

本来、もっと森の奥に点在していたモンスターたちは、種の本能なのか、群れを成した。そしてまとまって逃げ出そうとしている——。

本部長は即座に、各国ギルド本部へと緊急依頼を通達する。

このままモンスターがあふれれば近縁の街がモンスターの襲撃に遭う。

3カ国の冒険者ギルドはランクD以上の冒険者すべてに、ウゥン・エル・ポルタン大森林でのモンスター討伐を依頼することとなる。

「——なるほど」

ミハイルから事の次第を聞いたヒカルはアゴに手を当てて考える。

「教官。その緊急依頼で、高位の冒険者は集まるのか?」

「ふつう冒険者ってのは街にじっとしてるもんじゃねぇからな。依頼で外に出ている連中がほとんどだと思う。3カ国全体に声をかけたら、そこそこ集まるだろうが……」

「討伐にどれくらいかかる?」

「これだけの規模になったら冬までかかるんじゃないか?」

「それじゃあ困る」

「いや、俺に困ると言われても」

このままではミハイルの言うとおり、建国記念式典が中止になる可能性が高い。

「やあ、諸君。おそろい——というほどでもないな」

そこへやってきたのは寝不足に見えるケイティだった。

いつもはパリッとした服装なのに、今日は白衣も疲れて見える。

「ヒカル。いいものを持ってきたぞ」

ヒカルの手に載せられたのは——弾丸だった。

その数、5つ。

「これは……もしかして」

ヒカルが、ケイティの研究用に渡したものとは違う。もとのものが銀色をしていたのに、こちらは鈍い金色だ。外側にも紋様が彫られている。

ケイティがヒカルの耳元に囁く。

(試作品だけどね。魔法を込められることは確認した。 再充填(リチャージ) もできるはずだが、2回か3回程度だ)

ヒカルはケイティの顔をまじまじと見つめる。

あの弾丸を渡してから40日ほどしか経っていない。なんの予備知識もなかったはずだ。にもかかわらず、弾丸の試作品を用意したのだ。

——学院の研究者にして随一の魔導具師、ケイティ=コトビよ。

学院長が言った言葉を思い出す。

魔導具に関しては天才と言っていいだろう。

「ヒカル、照れるじゃないか。そんなに見つめないでくれたまえ」

「ケイティ先生よ、そりゃぁなんだ?」

「申し訳ないが教えられないのだ。これは私とヒカルとの秘密でね」

「……いつの間にそんな関係になってんだ?」

あと錬金王もいるだろうが、とはヒカルも思ったが、それを言ってもやぶ蛇なので止めておいた。

「ミハイル教官、ひとつ聞きたいんだけど……その竜とやらが異常事態の原因なんだよな?」

「む? うーむ……そうらしいが、確定とは言えないぞ」

「だけど 僕ら(・・) はそれにすがるしかないってわけだ。幸いこうして、新兵器も届けられたことだし」

ヒカルは弾丸をポケットにしまいつつ、クロードに視線を向ける。

厳しい顔をしていたクロードもまたヒカルを見ていた。

「クロード。これから秘策を授ける。僕がいなくてもジャラザックのボスを倒してこられるよな?」

「秘策……? え、いや、ヒカルは来ないのか?」

「僕がいなくても、倒せるよな?」

重ねて聞くと、ヒカルの強い言い方に気圧されたようにクロードはうなずいた。

ヒカルはクロードのソウルボードを開き、操作した。

【ソウルボード】クロード=ザハード=キリハル

年齢18 位階7

3

【生命力】

【スタミナ】1

【魔力】

【精霊適性】

【風】1

【筋力】

【筋力量】2→3

【武装習熟】

【剣】3→4

【盾】1→2

【敏捷性】

【瞬発力】1→2

【精神力】

【心の強さ】1

【カリスマ性】1

「剣」「盾」「筋力量」「瞬発力」に1ずつ割り振った。

クロードを呼び寄せ、囁く。

(おそらくソウルカードに次の「職業」が出ている)

(えぇっ!?)

(この数日のトレーニングの成果だ。それを使うんだ。そして、ジャラザックへの移動中もとにかく身体を動かして慣れろ。必ず勝て)

あまり気の進まない方法ではあったが「剣」を4にしたことで、クロードはこの国でもトップクラスの剣士になれる地金ができた。

「ミハイル教官。お願いがあるんだ」

「お、おう……ヒカルがお願いってのはなんか気持ち悪いな。なんだよ」

「クロードについてジャラザックへいっしょに行って欲しい」

「なんだと? 俺はモンスター討伐に行かねばならんと言っているだろう」

「クロードだけでなく、リュカ=ロードグラード=ルダンシャもジャラザックに行き、アレクセイ=ジャラザックに謁見する予定だ」

「んなっ!? こないだのあの子って、ルダンシャの第三王女だろ!? お前ら——なにを考えてるんだ?」

「道々教えてもらったらいい。つまりミハイル教官にはクロードとリュカの護衛をお願いしたい。大森林のモンスターがあふれるかもしれないならなおさら必要だろう」

「それは……まあ、そうだが……。ううむ、わかった。送り届けた後に大森林に向かってもいいわけだしな。頼まれた」

思いのほか素直にミハイルは承諾した。

「その代わり教えろ、ヒカル。お前……なにをする気だ?」

クロードの目も同じことを言っていた。なにをする気なんだ、と。

ヒカルは正直に答えた。

「竜を退治しに行く。ほんとうに竜が1体だけしかいなくて、そいつが元凶だというなら……これは僕向きの仕事だ」