軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

305、スティードの奮闘

私達は現在、カファクライゼラでわいわいとコーヒーやら紅茶やらを飲みながら世間話に興じている。心なしか女性陣のテンションが高いのは気のせいではないだろう。

ちなみに我が家に残したのはアレク。残ったのはコーちゃんとリリス。今度はカムイも付いて来た。マーリンは旦那のオリバーさんが待ってるってことで帰った。

つまり、ここにいるのは……

私、キアラ、シビルちゃん。ベレンガリアさん、カムイだ。そのうちセルジュ君やスティード君も来るだろう。

「カー兄のおごりっすか!? あざーっす!」

「悪いわねぇカース君。」

「カー兄ありがとー!」

ベレンガリアさんだけ払わせてやろうか……

「うめーっす! あめーっす! これがカファクライゼラのシュガーハニーカフェトーストっすか!」

「蜂蜜だけではない甘さね。舌から脳天まで覆い尽くすかのような強烈な甘味。それなのにしつこくなく、ふっと消えてしまう存在感。後から後から食べたくなってしまうわ。」

「おいしーい!」

ベレンガリアさんがえらくまともな事を言っている。明日は雨か?

「コーヒーハニーミルクもうめーっす! あめーっす!」

「天国のように甘くて柔らかいトーストとほろ苦いコーヒーの相性ときたら、まるでアレックスちゃんとカース君みたいね?」

「おいしーい!」

「ベレンガリアさん! もっと食べていいからね! おかわりは!?」

「あらそう? 悪いわね。じゃあ今度はシュガーハニーキニーネグレープクレープをいただくわ。」

「店員さーん! 注文をお願いしまーす!」

ベレンガリアさんめ。いい事を言うじゃないか。私とアレクのように相性がいいだって? よくわかってるな。さすがベレンガリアさん。いい人だ。とてもいい人だ。

よーし、私は何を食べようかなー。

その時、荒々しく店のドアが開かれた。

「カース君!」

「おおセルジュ君。待ってたよ! あれ、一人?」

「大変なんだ! スティード君が!」

「スティード君が?」

「死にそうなんだよ!」

時はさかのぼる。

カース達が自宅に帰ってから、カファクライゼラに到着したぐらいだった。

スティードは襲い来る参加者達を一人ずつ丁寧に相手をして、ほぼ無傷で勝ち続けていた。ただ、無傷とは言っても新たに怪我は二つしかしてないと言うだけで、カースから受けた傷はそのまま残っているし、魔力体力だってほとんど回復していない。

それなのになぜ彼はこの話を受けたのか? 相棒であるバラデュールはとっくに場外へ落ち、気絶している。

理由は簡単。カースだ。

前回の子供武闘会でカースが同じことをしてのけたからだ。スティードにとってみれば、カースの背中はあまりにも遠い。いくらルールに守られた試合で勝ったとは言え、実力の差が埋まったとは言えない。同級生に比べて魔力も低く、座学の成績も良くないスティードである。何か一つでいい、誇れるものが欲しいのだ。二年前、王国一武闘会の決勝でカースを正面から破った時は本当に嬉しかった。限りなく同じ条件、同じ装備。カースは弱く、しかし強かった。自分より小さく非力な体、拙い剣術の腕。しかし、木刀だけでなく道着まで武器にする意外性。自分の左腕を折った妙な技。ギリギリの勝利だった。だが、あんなに嬉しかったことはない。

翌日カースが、無傷で一歩も動かず、魔法あり部門で優勝するまでは……

そんなことを考えながらもスティードの剣は鈍らない。そろそろ参加者もまばらになってきた。終わりが見えてきた。これで少しはカースに近付けるか……なんて思っていたら……

『おおーっとー!? オッさんだー!? 子供武闘会にいい歳したオッさんが現れたぞぉー!?』

『おっ、あいつか……』

『ダミアン様、ご存知ですか!?』

『俺のダチ、クタナツの五等星、バーンズ・ハイランダルだ。』

『なっ! なんとぉーー!? 五等星ですってぇー!? しかも爆炎バーンズじゃないですか!? 正気ですかオッさん! 大人気なーい!』

『まあまあ。あいつにはあいつの考えがあるんだろうぜ? おーいスティード選手よー! さすがに相手が悪いぜ! 五分待つからせめてポーションぐらい飲んだらどうだー?』

それを聞いてバーンズは武舞台に座り込んだ。相手の回復を待つつもりなのだろう。

それを見たスティードは魔力庫からポーションの瓶を取り出し……バーンズ目がけて、投げ付けた。

『ああーっとスティード選手! 座り込んだオッさんを見て隙ありとばかりに! せっかくのポーションを陽動に使ってしまったぁー!』

『多少体力を回復した程度じゃ勝てないと判断したんだろうぜ。それよりせっかくバーンズが座ってくれたんだから、機会を逃したくなかったようだ。さすがの勝負勘だぜ。』

最初で最後のチャンスとばかりに、くたびれたロングソードを振るうスティード。乾坤一擲とはきっとこのことだろう。そんな一撃が座ったままのバーンズに襲いかかる。立ち上がる気配もなければ避けようとする気配もない。スティードは八相気味の構えから袈裟斬り……

振り抜いた。

しかし、手応えなし……

辺りには焦げ臭い匂いが漂っている。

スティードがふと自分の剣を見ると、鍔元から二十センチ辺りが切断、いや、焼き切られていた。切断面が黒く焦げている。

しかし彼は怯まなかった。自分には魔力も体力もほとんど残されてないのだから。

切れた剣をバーンズに投げ付けるも軽く弾かれる。すかさず切り札であるテンペスタドラゴンの短剣を握り、小さく突く。この短剣の威力なら振り抜く必要はない。未だ座ったままであるバーンズの無防備な首元を軽く斬るだけでいいのだ。

しかし、次の瞬間……

「ぐわぁぁーーあぁーーーー!」

スティードの右腕が宙を舞った。

武舞台を転げ回るスティード。立ち上がるバーンズ。

「いくら後がねぇからっていきなり急所狙いはねぇだろ。バレバレだったぞ。」

痛みにのたうち回るスティード。しかし、その左手には抜け目なく切り札の短剣が握られている。

「なるほど……まだやる気か。」

ゆらりと立ち上がるスティードの右腕からは血が出ていない。傷口が炭と化している。

「それが……爆炎バーンズの名の由来ですか……」

「どうだかな?」

『スティード選手立ち上がったー! しかもその手には腕ごと飛ばされたはずの短剣が握られているぅー!』

『あれだけの痛みの中でも冷静に武器を拾ったんだ。しかもあの短剣は国宝級だからな。下手すりゃカースの防御ですら突き通すぜ?』

バーンズの手に握られているのはスティードの短剣よりも短いナイフ。分厚く光沢がない。

「やるんなら来いや。」

しかし、フラつき、まともに立てないスティード。利き腕を失うと、バランスすら取れないのが当たり前なのだ。しかし、持ち前の強靭な足腰でどうにか持ち堪え……一歩、また一歩と前進する。

スティードの間合いまで、残り……二歩。

「ぐおおおおおーーー!」

雄叫びをあげ左手を突き出すスティード。

バーンズの頬に一筋の傷。スティードの左前腕、その半ばまで食い込んだバーンズのナイフ。左に向かって倒れるスティード……の右足がバーンズの側頭部を襲った。

「痛ってぇ! マジかよ! どんだけ根性あんだよ……おい! 治癒魔法使い! 早くしろや! こいつやべぇぞ!」

スティードは倒れたのだ。石畳に……

右前腕がなく、左腕も動かないために庇うことすらできず、頭から。それでも最後の最後まで攻撃に力を注いだのだ。

『勝負あり! 大人気ないオッさんの勝ちです!』

『バーンズ! 聞かせてくれ! なぜ参加した?』

実況のマリアンヌがそそくさとバーンズの元へ駆け寄り、口元に拡声の魔道具をかざす。

『ダミアン! お前死にかけたらしいな! だから守りに来たんだよ! いいか! この会場に居る野郎ども! ダミアンにぁこの『爆炎バーンズ』が付いてるからよぉ! 命狙いたきゃあ死ぬ気で来いやぁ!』

『バーンズ……』

『なんとぉー! 友情です! 熱き血潮の友愛です! あの! 五等星爆炎バーンズがダミアン様なんかを守るためにボランティア! くっ! かなり羨ましい! つまり! この大会に参加したのは単なるデモンストレーションってわけですね!?』

『ああ。ただの示威行為だ。ダミアンを狙ってみろ、手足のねぇ芋虫にしてやるからよぉ……知ってるか? 人間はなぁ、両手両足を失ったぐらいじゃあ死ねねぇんだぜ?』

『は、はは……ダミアン様! 後はお願いしまーす!』

『おう! 重大発表があるんだが……それは明日のお楽しみだぁー! お前ら! 明日もまた来いよ! 分かったなぁ!?』

場内に響き渡る歓声。観客の興奮は最高潮だ。明日の大会は一体どうなることか。

カース達は呑気に甘味に舌鼓を打っていた。

セルジュは慌ててカースを呼びに走っていた。