軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

271、ダミアンの約束

結局リゼットも交えて宴会が始まってしまった。秘書はいないが護衛がいたので宴会に混ぜてやった。口では「護衛の身で……」「いや任務が……」とか言っていたが、酒を目の前にするとあっさり陥落した。リリスはやはり参加していない。マーリンはとっくに帰っている。

「それにしてもダミアン様。巷では放蕩三男って言われてますが、噂がいかにあてにならないかよく分かりましたわ。」

「それこそ俺の知ったことじゃねぇな。俺ぁ好きに動いてるだけだからよ。本当ならこのままのんびり暮らしていくつもりだったんだけどよぉ……」

「カース様と仲がいいとは聞いておりましたが、先日のパーティーで確信しましたわ。お二人の友情は本物。そんなダミアン様なればこそマイコレイジ商会の命運をも賭けますわ。」

「まあ俺にしてもよぉ、マイコレイジ商会は金の成る木みてぇなもんだから助かるけどな。お前も変わってんなぁ……」

ダミアンとリゼットは意外と相性がいいのではないか?

「ボスぅ、色々あったけどさぁ、人生って分かんないもんだねぇ……ニコニコ商会に拾われたアタシがさぁ、先代が死んで、ボスなんかになってさぁ、王都一の闇ギルドなんて言われて調子に乗ってたらぁ……あっさり壊滅するし……」

「酔ってんのか?」

「あぁ、酔ってるさぁ。こんな旨い酒を飲んでるんだからさぁ。それよりさぁ、長男と五男、どう出ると思うぅ? ボスの見立てはどうよ?」

「無茶言うな。知らない人間の動きなんか分かるわけねーだろ。そこら辺はダミアンが上手くやるだろうよ。ラグナは身辺警護に注意しとけばいいんじゃないか?」

「あー、だよねぇ。ダミアンは弱っちいからねぇ。アタシが長男ならスパッと殺すだろうねぇ。守ってやんないとねぇ……」

だよな。私が長男でもそうするよな。例え殺したことがバレたって自分が辺境伯になりさえすれば罪に問われることもないんだから。

まあ幸いなことに闇ギルドも暗殺ギルドもほとんど壊滅している。実行するなら自らの手駒でやるしかないだろう。そうなるとラグナがいることだし、そこら辺の相手なら問題ないだろう。どんな手を打ってくることやら。

「カース殿! 昨日はあらぬ疑いをかけて申し訳ありませんでした!」

静かに飲んでいた護衛、ジャンヌがいきなり大声を出した。びっくりするじゃないか。

「リゼット会長を狙う男は多いのです! マイコレイジ商会は 大店(おおだな) ですからね! 金に目が眩んだ野獣どもがそれはもう口にもできないおぞましい手口で会長を狙っているのです!」

「あ、ああ、大変そうだな。まあこれからはダミアンがいることだし、楽になるかもな。」

「ああ、可憐だったお嬢様が立派になられて……しかも辺境伯夫人だなんて……先代ご夫妻も神の御許で喜んでおられるに違いありませぬ。うう……」

話が飛ぶな。こいつも酔ってんのか。

「リゼットに兄弟はいないのか?」

「愚兄が一人おります。現在は行方不明ですが。会長には悪いですがこのまま帰ってこないことを祈っております。」

「ふーん、ダメ兄貴なのか?」

「そうなんです! 金遣いは荒い! 仕事はしない! フラフラと出歩いて、金がなくなったら戻ってくるの繰り返し! 最後に見たのは二年ほど前ですが、店の大事なお金を盗んで行方をくらませたんです!」

「もしかして届けは出してないのか?」

いくら盗まれたのかは知らないが。

「そうなのです! 会長はお優しい方ゆえに!」

商会のためなら率先して政略結婚する女でも、身内には甘いってことか。苦労人だねぇ。少しは助けてやるか……

「リゼット。この前発注した風呂とトイレはどうなってる?」

「もうすぐできますわ。近いうちに受け渡しと浄化槽設置の打ち合わせをいたしましょう。」

「よし、そこで追加で発注だ。以前頼んだ移動できる豪邸なんだが、一辺を十メイルぐらいのサイズで作ってもらえるか? その代わり丈夫さを最優先で頼む。」

「ご注文ありがとうございます。では次回のお打ち合わせ時に併せて詳しくお聞かせくださいませ。」

たっぷりマイコレイジ商会に金を落としてやろう。

「それからダミアン、低金利で金貸してやろうか? こんな状況なんだ。リゼット以外に金蔓があってもいいだろうよ。」

「そりゃあ助かるがよぉ。トイチは勘弁しろよな。」

「白金貨二百枚貸してやる。お前が辺境伯になれたら倍にして返せ。」

「オメーどんだけ金持ってんだよ。まあいい、頼むわ。借りとくぜ。で、なれなかったらどうすんだ?」

「そんときゃ死ね。そんで金は諦めてやるさ。負け犬のまま生きててもしょうがないだろ?」

「へっ、キツいこと言いやがって。借りてやるぜ! 俺ぁ辺境伯になるからよぉ!」

さすがだ。リゼットとの結婚にしても決断が早い。これが出世する男と凡人の違いなんだろうな。

「よく言った。では約束だ。俺はお前に白金貨二百枚を貸す。お前が辺境伯になれたら倍にして返す。なれなかったら死んで償う。いいな?」

「おお! どんと来いや! ……あれ? 魔力が流れてこねーぞ?」

「ほれ、白金貨二百枚だ。大事に使えよ。」

「おいカース……オメー契約魔法使ったんじゃねぇのか?」

「使ってねーよ。口約束で白金貨二百枚貸したんだ。無駄遣いすんじゃねーぞ。」

「この……バカ野郎が……」

「へっ、お前に言われたくないぜ。ラグナにしっかり守ってもらえよ?」

「任せてくれよボスぅ! ダミアンはアタシが守るからさぁ!」

本当ならギチギチに契約魔法をかけてやるところだったのだが、なぜか寸前で使いたくなくなった。口約束にこだわってみたくなったのだ。

ダミアンが辺境伯の座を手に入れるのは早くて五年、遅ければ二十年後ぐらいか。焦ることはない。

それにしても、どこの家でも跡目争いはある。ならば王家はどうなのだろうか。

時期国王は王太子クレナウッドで確定だが、その次は?

王太子と王太子妃との間に息子は二人、ブランチウッドとフランツウッド。二男の方は兄さえいれば王国は安泰だと言っていたが……

時代が動きだしているのだろうか。私には関係ないことだと思いたいが……

白金貨一枚は金貨にして千枚。

クタナツの平民一人の年間食費が金貨一枚であることを考えると恐るべき金額である。全ての食糧を現金で買うわけではないから金貨一枚で十分足りるという事実を考えたとしても。

なお、白金貨二百枚とはカースからすれば全財産の半分に満たない額である。