軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

255、大空に二人きり

肉を食べながらちびちびと酒を飲む私達。さすがのコーちゃんも一気には飲まず、ゆっくりと味わっている。

「私は今日まで酒の強さに拘ってきました。喉を焼くような強い酒、それこそが真の酒の姿だと。でも、こんな複雑な味、表情を見せる酒もあるのですね……」

「私にはよく分かりませんが、このお酒は美味しいですね。でも、男爵のディノ・スペチアーレとどっちか選べと言われたら……男爵の勝ちですかね。」

「ほう? 嬉しいことを言ってくれますね。どの辺りが勝因なんでしょう?」

難しい質問をされても困るぞ。ただそう思っただけなんだから。

「酒精の強さではもちろん圧勝なのですが、味では互角。私の舌では甲乙つけがたいです。そうなるとそれぞれの酒の未来が決め手じゃないでしょうか。『サルファレイク』はたぶん今がギリギリ飲み頃。方や『ディノ・スペチアーレ』はまだまだ熟成とともに美味しくなるのではないでしょうか。」

男爵はディノ・スペチアーレの二十年物ですら荒削りと言った。ならばこれからこの酒がどう成長していくか、楽しみではないか。私からすると現時点でも全然荒削りには思えないほど洗練された味わいだと言うのに。

「なるほど……酒の未来……ですか。さすがは魔王と呼ばれる程のお方。大地の精霊様が懐くだけありますな。」

味について上手いこと言えないものだから適当ぶっこいたら感心された。いい気分だ。

「さあ、これが最後の一杯です。味わって飲みましょう。」

残ったサルファレイクを均等に三人のグラスへ注ぐ。

「そうだ! せっかく最後なんですから景色のいい所で飲みませんか?」

「景色のいい所ですか? この辺はどこまで行っても深山ですよ?」

「まあまあ。いいからいいから。外に出ましょうよ。」

「ガウガウ」

カムイはここで肉を食べてるのね。コーちゃんは?

「ピュイピュイ」

ここで飲んでいたいのね……

いいもん……男爵と二人で行くから。

外に出て、ミスリルボードを出す。

「さあ、お乗りください。」

「こ、これは?」

「まあまあ。乗れば分かりますよ。」

恐る恐る乗る男爵。

「では、上へ参りまーす。」

『金操』

音もなく上昇するミスリルボード。木々の合間を縫って大空へと。ちょうど夕暮れ時だな。

「なっ、こ、これは……」

「どうです? いい景色でしょう? ムリーマ山脈の山際に日が沈みますね。」

「あ、ああ……」

さらに上昇。夕日が沈む速度に合わせれば多少は長く日没を楽しめるな。

「さあ、ここらで乾杯といきましょうか。」

「ああ、素晴らしい眺めだ。あんな遠くに……海、広い……乾杯。」

『待て……』

ん? この声は?

「カース殿? 何かおっしゃいましたか?」

「いえ、私ではありませんよ。」

『よく来たな……』

「どうも、お久しぶりです。お元気そうで。」

「だ、誰に話しているんだ……? で、でも、聞こえる……」

『そなたの魔力も……芳醇に成長を続けている……』

「どーも。」

いつぶりかな。天空の精霊、相変わらず姿は見えない。

「天空の精霊ですよ。私は祝福をいただいていますので。」

「て、天空の精霊……」

『そなた達の手元にある酒……それをくれ……さすれば祝福を与えよう……』

マジか。コーちゃんだけでなく、天空の精霊まで酒が好きなのか。いや、この酒が凄いのかも。精霊殺し、みたいなさ。

「僕はいいですよ。差し上げます。ついでに魔力も少しだけなら。」

「で、では私のも。一体どのような祝福が……」

『頭髪が白い人間よ……そなたには風の祝福を与えよう……己の身のみであれば……風に乗ってここまで来れるであろう……』

それって時々酒を持って来いって意味か?

「あ、ありがとうございます!」

『それからそなた……どのような祝福を望むか……』

うーん、実は特に欲しいものが思いつかないんだよな。あ、そうだ。

「隠形の上位版みたいな魔法はないですか? 誰にも気付かれないようになる何かがあると嬉しいです。」

『ふむ……ならば……そなたの服を変えてやろう……それでよいか……』

服を変える? 服が魔道具になるってことか?

「それならこれをお願いします!」

サウザンドミヅチの白いコートだ。これを来てる時は誰にも気付かれないようになるのだろうか。

『よかろう……』

「え? カ、カース殿? ど、どこに」

「動いてませんよ。」

コートを脱いでみる。

「あ、ああ……目の前に……」

なるほどね。こいつはいい物を貰ったな。『霞の外套』と名付けよう。サウザンドミヅチの白いコート改め『霞の外套』だ。

『魔力が増えたらまた来るがいい……そなたも……酒をな……』

「は、はい!」

そして私達はゆっくりと下に降りる。もうすっかり日が暮れてしまった。

「天空の精霊が現れるほど高く昇っていたとは……」

「沈む夕日を追いかけてたら、ついつい夢中になってしまいましたね。」

「カース殿はよほど精霊に愛されているらしい。羨ましい限りだ。」

「男爵こそ祝福を貰ってたじゃないですか。明るい時に試してみた方がいいですよ。空を飛ぶのって意外と障害が多いですから。」

「そういったものか。ご忠告ありがとう……」

さて、夜はこれからだ。飲み直しだな。