軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

196、村長とアーダルプレヒトシリルール

それから五分後。クロミは何人ものダークエルフを連れて戻って来てくれた。クロコと違って役に立つ奴だ。

私は引き継ぎもそこそこに村へと帰った。もう限界だったのだ。それなら誰かに連れて帰ってもらえばよさそうなものだが、自力で帰った。その方がきっと早い。

そして婆ちゃんちの目の前に着陸し、その場で倒れ込んでしまった……

「クロコ! あんたニンちゃんの役に立ったんでしょうね!?」

「あんたまでクロコなんて呼ばないでよ! アタシがいなかったらニンちゃん死んでたんだから!」

「ふーん。ならマウントイーターは始末できたのね?」

「当たり前じゃない! 跡形もないわよ!」

「あるじゃない……」

「いや……そんなのただの肉片だし!」

「しかもその口元の血は何よ? 匂いからしてニンちゃんの血じゃん……」

「知らないし! ニンちゃんに聞けばいいじゃん!」

「そうね、先に帰るわ。後よろしく。」

「ちょっ、ずるい! アタシだって帰るし!」

「クローディア! お前は現場を見ていたのだろうが! 我らに説明をしろ! 明らかにあの人間しか戦ってないではないか!」

クロミと呼ばれたダークエルフは村へ帰り、クロコことクローディアトネルコロートミルは他のダークエルフ達に状況を説明する。自分がカースの足を引っ張ったなどとは少しも思っていない。

結局全員で魔物の死体やマウントイーターの肉片を回収した。それから断続的に現れる魔物を退治し続け、村へ帰ったのはクロミに遅れること三時間ほどだった。

ソンブレア村、村長宅にて。

「アーダルプレヒトシリルールや。お前達から見てカースはどのような存在だい?」

「控えめに言っても勇者以上の魔力を持つ恐るべき人間だ。一人でイグドラシルに実を結ばせたこともある。」

「ほほう。それほどかえ。ほんにええ子じゃ。まさかマウントイーターを退治してくれるとはねぇ。あんなものが近くに居たことも驚きじゃが人間がたった一人でやってのけた事も驚きじゃのぉ……」

「人間の国では魔王と呼ばれているそうだ。どうやら国王の懐刀らしい。」

「ふぇっふぇっふぇっ、そいつは怪しいものだねえ。人間の国王と言えば勇者の末裔かい。勇者本人にだってカースは御せまいに。せいぜい勝手に利用してるってとこだろうね。うちのカースはお人好しだからねえ。」

「うちの? 何かあったのか?」

「何もありゃしないさ。こんな死に損ないのババアにやけに懐いてくれちゃってまあ。可愛くて仕方ないねえ。ワシのことを婆ちゃん婆ちゃんと呼んでくれるのさ。」

「ふっ、それはそれは。意外な一面もあるものだ。」

「何が意外なもんかい。ありゃ恩には恩、仇には仇を返すタイプさね。敵対したくないもんだねえ。」

「意外な一面と言ったのは村長のことだ。その名も高きダークエルフ族の村長が、人間の男に骨抜きにされるとはな。」

「ふふ、ワシも死期が近い。子宝には恵まれなかったが最期にいい出会いをしたものさ。」

「それはよかった。だがうちの村ではあの人間に何人か殺されている。せいぜい気を付けてくれ。」

「一体何をやらかしたのやら。まあそれはどうでもいいさ。アンタも大変だろうが頼んだよ。赤子は村の宝だからねぇ。」

アーダルプレヒトシリルールは村長との会談を終えるとまた別の場所へと行ってしまった。疲れた顔は見えない。たいした男である。

「さてと、カースを治しておいてやるかねぇ。ん? この噛み跡は……どこの女だろうねぇ? 悪い子じゃ……」

この後、村長インゲボルグナジャヨランダはカースの傷が塞がらないことに四苦八苦していた。原因がカース自身の魔力不足と気付くまでに十五分もの時間を要する始末だったのだ。

医者は身内を診る時、カンが鈍るそうだが村長もカースに対して似たような気持ちを抱いているのだろう。そのような単純なことを見落としてしまうぐらいなのだから。

そして三十分後、そこには傷がすっかり塞がりスヤスヤと眠るカースの姿があった。傷を治すだけでなく、失った血液を何とかする方法もあったのだろう。ローランド王国にはない技術である。

山そのものと言ってもいい強敵を相手に一人で戦い抜いたカース。ギリギリの勝利だったことを知るものはきっと誰もいない。もしあの触手、カースはミミズと呼んでいたが、あれが素肌に触れでもしていたら……一瞬で魔力を吸い尽くされ、やがて死んでいただろう。徹底して近寄らせない慎重さがカースを勝利に導いたのだ。相手は神木からですら魔力を吸い取る悪夢のような魔物なのだから。

あれと戦ってまともな手段で勝ったエルフはいない。遥か昔、一人のエルフが自身を犠牲に道連れにした例があるのみだ。

サウザンドミヅチより遭遇しにくい魔物であるため、出会えたのは幸運なのか悪運なのか……どちらなのだろうか。