作品タイトル不明
179、王国の南東タンドリア領
鉄塊が途中で止まったのなら仕方ない。私の手でトドメを刺そう。
「待ってくれ!」
振り返って見るとそこにいたのは。
「エルネスト君?」
「覚えててくれたんだね。そうだよ。久しぶりだねカース君。」
懐かしき同級生、エルネスト・ド・デュボア君だった。
「久しぶりだね。領都にいたの?」
「いや、母上の実家方面で冒険者をしてる。領都には最近来たんだよ。カース君の噂も色々と聞いてるよ。」
「そっか。それはそれとして、どうして邪魔をしたの? 僕にも事情があってね。容赦をするわけにはいかないんだよね。」
「カース君の評判は聞いてる。よくないよ? 今からでも遅くない。悔い改めて真っ当な生き方をするんだ。」
え……? 彼は何を言っているんだ……?
「エルネスト君、意味が分からないよ。何が言いたいんだい?」
「カース君は僕の恩人だ。そんなカース君が魔王と呼ばれるなんて間違っている。だろう? だから少しずつ改善していこうじゃないか! ね?」
だめだ……さっぱり分からない……私に恩を感じていることは分かるが。
「エルネスト君。これは僕の生き方であり問題でもある。だから口出しは無用だ。君だって冒険者なんだろう? だったら分かるはずだ。」
「カース君! 本当にそれでいいのか!? 君のような心優しい人物が! 容易く人を殺す悪鬼のような生き方で!」
痛い所を突いてくるなぁ。私だって好きで殺すわけないだろ。人にはそれぞれ事情ってものがあるのに。
「エルネスト君、イボンヌちゃんは元気かしら?」
アレクが乱入してきた。ありがたい。口では負けそうだったんだよな。
「アレクサンドリーネ様。お久しぶりです。お噂はかねがね。イボンヌも元気ですよ。今はタンドリア領にいます。」
ローランド王国の南東部か。なぜそんな所からわざわざフランティア領都まで?
「それでご高説を垂れてくれたようだけど、何かカースに文句があるの?」
「あります! カース君ほどの男がこのような小さい生き方をしていてはダメです! もっと大きな、王国中に名を轟かす生き方をしなくては!」
「それはエルネスト君が心配することじゃないわ? カースの名はすでに王国中に轟いているし、国王陛下だってよくご存知よ。」
「違う! カース君のような偉大な男はもっと民のために生きるべきなんだ! 弱者を救い導くような、そう! 勇者のように生きるべきなんだ!」
やばい……エルネスト君はおかしい……卒業以来の再会だが、一体どうなってしまったんだ?
「エルネスト君の言う事は一理あるわ。でもね、カースは自由なの。何ものもカースを縛れはしないわ。そこを邪魔するって言うのならあなたは私の敵よ?」
「アレクサンドリーネ様……そうか……あなたのせいでカース君は……よく分かりました。この場は引いておきます。そこの彼の身柄はいただいてもいいですね?」
「金貨十枚よ。安いものでしょう?」
命は助けてあげるのね。アレクは優しいなぁ。エルネスト君は金貨十枚を地面に投げつけ彼を浮かせて運んでいった。あんな奴に金貨十枚も払うなんて奇特だねぇ。一体何があったのやら……
母上に知られたらまた甘いって言われるかな? エルネスト君ごと殺せって。
まあいい、予定は狂ったが小銭は儲かった。改めて受付に並ぶとしよう。
「アレク、その金貨は貰っておいてよ。アレクが稼いだんだし。」
「そう? ありがたくいただいておくわね。それにしてもエルネスト君、変だったわね。」
「だよね。まるで何か変な宗教に……ん?」
宗教だと!? まさか、タンドリアにはあの教団の支部か何かがあったりするのか?
「私もそれを連想してしまったわ。まさかとは思うけど……」
「いくら貴族領同士は干渉しないと言ってもあれだけ王都で暴れた教団だもんね……まさかのうのうと生きてるってことはない……よね?」
貴族領と貴族領の関係は国同士の関係に近い。お互い内政干渉となるようなことはしないのが普通だ。それは王家から見ても同じなのだが。だから建前上は教団がタンドリア領で生き残っていたとしても問題はない……
だが、国王辺りがそれを理由に夜中にドラゴンで街を焼き払うのもアリってことになる。まさかな……考えすぎだよな?
しかも考えてみれば、あの領ってアブハイン川の河口だもんな。ローランド王国で一番東の国ヒイズルに近い……まさかの密貿易? あり得る話だが……
「思い起こしてみれば、今回の一連の事件って謎が多すぎるわよね。あんな強力な鎧に大勢の人員。幹部だって一人は捕まってないって言うし。」
「だよね。タンドリアって元はヤコビニ派の傘下だし、怪しいよね。」
またヤコビニ派かよ! あれから何年経ったと思ってんだよ! ローランド王国は外敵がいないのはいいけど、王都から離れるほど貴族は好き勝手にやるよな。ここフランティアの何とまともなことか。
まあその辺りに王国が三百年以上続いてる理由があるのだろうか。王家は逆らうには強すぎる。地方の貴族は取り締まるには遠すぎる。案外理想的なバランスなのかも知れない。
付け加えるならフランティアの存在も無視できない。ムリーマ山脈以南の貴族からすればフランティアは宝の山だろう。だからってフランティア領の一部だけを攻め落としても意味がない。わずかな収益のために辺境伯の怒りを買う上に魔物だって無視できない。やるなら全域を一気に制圧しなければならないだろう。いや、それに成功したとしても今度は魔境に直面してしまう。やっぱり今のバランスがベストなのだろう。
魔物のおかげで平和とは……天の配剤ってやつかな?
「カース、ようやく順番よ。」
おお、やっとか。長かったな。