軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

175、父の生き様

アレクとのキャッキャウフフはとても楽しい。ビーチで「待て待てー」ができない代わりに水面上でイチャイチャ。遥か遠くの岸壁に騎士達が見えるが気にする必要はないだろう。遠見でも使わない限りこっちは見えないだろうからな。

さて、アレクの魔力に惹かれて多少魔物が寄ってきたことだし、美味しそうな奴だけ仕留めて帰るとしよう。貝類はまだまだたくさんあるから要らないよな。

『轟く雷鳴』

しかし細かく選別するのが面倒になったので、全滅させてみた。騎士さん達にもおすそ分けするかな。

「と、言うわけでこれ、おすそ分けです。皆さんで召し上がってくださいね。かなりの難事業とは思いますが、頑張ってください。」

「あ、ああ、ありがとう……」

「それでは失礼します。」

「先輩、これってシーオークですか? 何か貝みたいなのもありますけど?」

「シーオークとランスマグロ、それからサカエニナだな……」

「サカエニナっすか? どうやって食べるんですか?」

「つぼ焼きと言ってな。そのまま火にかければいい……今夜は贅沢な夕食になりそうだ……」

「へー、さすが先輩。詳しいっすね。」

「ああ。ソルサリエがまだ形もなかった頃、マーティンさんに食べさせてもらったからな……」

「それよりあの子、何で難事業って知ってるんですかね? マーティンさんだって知らないでしょう?」

「さあな……」

これだけあれば両親にもいいお土産になるな。今夜は父上いるだろうか?

居た。そしてオディ兄夫婦も来ている。大集合だな。

マリーとベレンガリアさんが魚を料理してくれるらしい。おっと、アレクも手伝うのか、偉いな。キアラは料理はできるのかな? 母上が仕込んでそうな気はするが。あのクソ王子がキアラの手料理を食べる……くっ、ムカつくな……

そして夕食の席で父上から重大なお知らせが……

「騎士を辞めることにした。」

なんと!?

「騎士を辞めて無尽流のクタナツ道場の面倒を見る。つまり私が道場主となる。」

突然の発表にもかかわらず、誰の表情も変わらない。実は私もだ。父上が騎士を辞めると少しだけ困ることはあるが、それはまあいい。

「よって来月いっぱいでこの家を出る。道場の周辺に住むことになる。」

それはそうだ。ここは騎士のための家。家族持ち下級貴族の邸宅なのだから。ローランド王国において、騎士爵とは世襲の認められない一代貴族。だから父上が騎士を辞めた時点で私もキアラも貴族ではなくなる。オディ兄はすでにマーティン家を出て自分の一家を構えている身、つまり平民の冒険者として生きている。名乗る時はまだ『ド』を入れているようだが。

ウリエン兄上は近衛騎士なのだから立派な貴族だ。下級貴族でも上位と言える。エリザベス姉上も同様だ。

つまり私とキアラは再来月から平民になるってことだな。特に問題はない。確かに平民にはなるが、私もキアラも勲章持ちだ。年金は貰えるしステータスにほぼ変わりはない。

今度からカース・マーティンと名乗らなければならないのが、違和感と言えば違和感だな。

ついでに言うなら母上が平民ってすごく違和感があるんだよな。王妃や王太子妃よりも王侯貴族らしい母上が。

「ハルさんはどうするの?」

「クタナツに残るそうだ。道場の掃除や炊事洗濯などをお願いしようと思っている。」

あの人も新婚ではないが、長年連れ添ったわけでもない……そんな夫を亡くして、ん? 亡くして?

「父上……ハルさんには何て説明したの?」

「ジジイが死んだことを説明したさ。寝込んでいたことから自分の余命を感じたジジイは最後の強敵と戦うべく魔境へと旅立った。そこで遭遇した上級ゴブリン、ゴブリンキングと一騎打ちで戦い見事勝った。が、そこで寿命が尽きたらしく前のめりに倒れていたってな。遺体は腐敗が進んでいたため、その場で燃やしたとも伝えておいた。」

やるなぁ。さすが父上。

「分かった。ありがとね。」

ならば私はハルさんにはもう何も言うまい。それにしても今朝、状況を説明したばかりなのにもう騎士を辞めることを決断するとは……我が父ながら惚れ惚れしてしまう。

それだけ無尽流に、アッカーマン先生に思い入れがあるのだろう。

先生に褒められて嬉しそうにしている父上。

先生と朝帰りしてきた父上。

ジジイ、ジジイと言いながらも常に先生のことを気にかけていた父上。

最愛の師が我が子を殺そうとし、我が子が最愛の師を殺した……それなのに父上は平然と振舞って、貴族の身分を捨ててまで後始末をしようとしている。母上が最高の男と言うのは間違ってないんだろうな。父上は最高の男だ。

「父上! お風呂に入ろうよ! 背中を流すよ!」

「おお! 頼むぜ!」

「私も入るー!」

キアラまで乱入してきた。まあいいか。

「キアラはだめだ。今夜はカースと入るんだからな。」

「えー! 父上ずるいー!」

「キアラちゃん。たまには私と入ろうよ。」

お、ベレンガリアさんのフォローが入った。いいタイミングだ。

「ふぅ、いい湯だな。お前が用意してくれたこの湯船、最高だぞ。」

「それはよかったよ。マギトレントっていいよね。」

「ウリエンにもオディロンにも、この風呂場で色々と教えてやったもんだがな。お前には必要なさそうだ。」

「え? 何なに? 僕にも教えてよ。」

「娼館や女の選び方だ。誰一人として役に立ってないがな。三人とも女遊びをせず真摯に生きている。自慢の息子達だぞ。」

初耳だ。息子に娼館の選び方を教える父親。うーん、どうなんだ。

「ウリエン兄上は分からないけど、オディ兄にはマリーがいるし、僕にはアレクがいるからね。それより父上はどこで母上と出会ったの? 長くなるからって詳しく聞いたことがないよ。」

「はっはっは。そりゃあ長くなるさ。風呂でそんな話をしたらのぼせてしまう。また今度な。」

私がこの世界に生を受けてもうすぐ十五年。十五年間暮らしたこの家を出て行く時が来るのか……なんだか妙に寂しい気分だ。

父上と母上はキアラが卒業したらどこか田舎に引っ越して悠々と、のんびりと暮らすはずだった。それが……まさかこんなことになってしまうなんて。

誰を恨めば……アッカーマン先生か? クソ針か? 私に何が出来るのだろうか……

ちなみにキアラはベレンガリアさんとアレクの三人で風呂に入った。

風呂上がりのキアラは楽しそうだったので私も安心だ。