軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

168、嵐の後の暴風雨

クタナツにて。

朝遅くに目覚めたイザベルは一人、無尽流の道場へと赴いた。そして二時間もしないうちに帰ってきた。

「奥様、お帰りなさいませ。首尾はいかがでしたか?」

「ハルバートさんは白ね。何も知らなかったわ。アッカーマン先生が数週間前から寝込んでいたのは本当。ただそれが先生本人である確証が得られなかったわ。」

「もしや、今も偽物が?」

「いえ、一昨日から姿が見えないそうよ。とりあえず後はカース達が起きてからね。」

「では私はアレクサンドル家に連絡しておきましょうか?」

「そうね。お願いするわ。」

キアラとオディロンはまだ寝ている。イザベルは一人、昼食の用意を始めた。

昼食の支度が整う頃、マーティン家に馬車がやって来た。アレクサンドル家の紋章が見える。侍女を伴い降りてきたのはアルベルティーヌ・ド・アレクサンドル。アレクサンドリーネの母親だった。マリーも同乗していたようだ。

「ようこそお越しくださいました。」

「アレックスが世話になりました。ありがとう。一目見たら帰ります。」

「どうぞ、こちらです。」

イザベルはアルベルティーヌを部屋まで案内し、自分は外で待っている。

そして五分。

アルベルティーヌはもう出てきた。

「重ね重ねありがとう。傷一つない見事な治癒、アレックスは幸せ者だわ。」

「そう言っていただけるとカースも報われます。ご足労ありがとうございました。」

そしてアルベルティーヌは帰っていった。気丈な女性である。

オディロンとキアラを起こし、マリーとイザベルの四人で昼食にしようとした時、寝室からすすり泣く声が漏れ聞こえてきた。席を立ち上がったマリーを引き止め、イザベルが向かう。

「先に食べてなさい。」

イザベルが寝室のドアを開ける。泣いているのは、アレクサンドリーネだ……

「アレックスちゃん、目を覚ましたのね。」

「お義母様……私の、私のせいでカースが……」

「詳しい事情はカースが起きてから聞かせてもらうわ。ちょうどお昼よ。あなたも食べなさい。」

「でも、私……」

「カースにそんなひどい顔を見せるつもり? 少しでも元気な顔を見せてあげなさいな。」

「は、はい……」

アレクサンドリーネを伴い、居間に降りるイザベル。

「あー! アー姉元気ー?」

「キアラちゃん……私は元気よ……カースのおかげで……」

「さあ食べるわよ。」

食欲などあるはずもないアレクサンドリーネだったが、イザベルが用意した昼食を残すわけにもいかず、必死に飲み込んだ。

キアラは昼食を終えるとすぐに遊びに行ってしまった。

「じゃあ僕らも帰ろうか。アレックスちゃん、カースを頼むね。」

「オディロンさん……私……」

「お嬢様、生き残ればそれ即ち勝利です。お嬢様も坊ちゃんも勝ったのです。他に何も気にする必要ありません。」

「マリーさん……ありがとうございます。」

「せっかくだから稽古をつけてあげたいんだけど、今日は無理ね。カースに添い寝でもしてあげるといいわ。」

「お義母様……そうですね……」

アレクサンドリーネはいそいそとカースが眠る寝室に行き、服を脱ぎカースの横に潜り込んだ。そうすることがカースにとって最も元気が出ることだと確信しているかのように。

一人になったイザベル。何やら考え込んでいる。

やがてスッと立ち上がりどこかへ出かけて行った。

イザベルが向かったのは冒険同業者協同組合、通称ギルドであった。氷のような表情で入口をくぐり受付へと向かう。すでに何人か行列ができていたが、イザベルが並ぶと前の者は一人、また一人を順番を譲ってしまう。

無人の野を征くがごとくイザベルの番となった。

「い、いらっしゃいませ。お、お仕事のご依頼でしょうか……?」

普段から顔面凶器のような冒険者を相手にしている受付嬢ですら緊張を隠せない。

「アステロイドクラッシャーに仕事を頼みます。彼らはいつごろクタナツに戻るかしら?」

「よ、予定では一週間後となっております……ひぃっ」

「そう……ならいいわ。お邪魔したわね。」

ギルド中の耳目を集めていたイザベル。冒険者達はイザベルが仕事を依頼に来たと知って、そして結局依頼しなかったと分かり……彼女の周りに殺到した。

「俺だ! 俺にやらせてくれ!」

「いや、護衛ならうちだ!」

「テメーら六等星はすっこんでろ!」

「まずは話しだけでも!」

「最初から決めてました!」

「生まれる前から愛してました!」

「誰を殺るんっすか!」

ギルド内は混乱の極みにあった。しかしイザベルがふわりと手を振るとたちまち静まり返ってしまった。

「皆さんの中に……闇ギルドとお付き合いのある方は……いるのかしら?」

返事はない。イザベルの迫力に気圧されて誰も発言できないでいた。

「皆さんは最強のクタナツ冒険者ですものね……闇ギルドなんかと関わっているはずがないわね……」

九月も中旬。暑さも和らいだはずなのにイザベルを取り囲む冒険者達は嫌な汗をかいていた。

「安心したわ……少しでも闇ギルドなんかと関わっていたら……殺すしかなかったもの……では最後よ……ここの皆さんは無関係ですわね?」

「ま、待ってくれ!」

「違う! 違うんだ!」

「昔の知り合いがちょっとだけ……」

「小耳に挟んだだけ……」

「俺はカンケーねぇー!」

「違うんだぁー! もう駄目だぁー!」

「誰を殺るんっすか?」

彼らはクタナツのような危険な街で長年体を張って生きてきたのだ。裏の世界に知り合いがいないはずがなかった。お互い利用し合う関係とはいえ魔女イザベルを敵に回してまで庇う関係ではない。

「賢明ね……正直な男って好きだわ……」

イザベルは手前の男の首に手を回し引き寄せる。顔を近付け吐息を耳に……

「日暮れまでに……知ってる闇ギルドの関係者を全部連れて来い。瀕死でもいい、殺さないように……行け。」

ギルドから冒険者が、消えた。