軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

135、アレクサンドリーネのバイオリン

会食の会場にはすでに料理が並べられていた。結構広い部屋だな。かなりいい匂いを放っている。

「カース、さっきはカッコよかったわよ!」

「アレク、ありがと。見ててくれたんだね。」

まさか騎士長夫人の挨拶で泣きそうになったのはバレてないよな? 目の周辺に乾燥の魔法を使うことで事なきを得たんだからな。

「ピュイピュイ」

「ガウガウ」

この二人まで呼んでくれるとはありがたいことだ。

私の右にアレクが座り、その右ではコーちゃんが椅子の上にとぐろを巻いてリラックスしている。さらにその右ではカムイが床にお座りしている。テーブルまでの高さはピッタリだ。ならば私の左には誰が来るのか?

「カース君、アレックス。久しぶりね。」

「あら、ソルダーヌちゃん。久しぶり!」

「ソル! 元気そうじゃない!」

「ええ、あれから魔女様に何回か診ていただいたの。すっかり元気になったわよ。」

おお、母上はバカンスだけでなくそのようなこともしていたのか。きっとソルダーヌちゃんだけじゃないんだろうな。聖女って呼ばれてるぐらいだから分け隔てなく治療したに違いない。いや、むしろそのために王都に残った節があるな。貴族の鑑じゃないか……

会食は和やかにスタートした。

上座には国王一家。国王、王妃、王太子、王太子妃の四人。王子連中は参加していないようだ。王太子の長女って見たことないんだよな。どうでもいいけど、あー美味しい。

会食もそろそろ終わりかという頃。

「アレクサンドリーネよ。こちらに来い。」

国王の声がかかった。何事だ?

「はい。」

スクッと立ち上がり国王の元へ向かうアレク。なぜか私の方がドキドキしてしまうぞ。

「これを弾いてみよ。」

おっ、国王の奴バイオリンを取り出したぞ? でもアレクの演奏が聴けるのは嬉しいな。

「リクエストはございますか?」

「ふむ、では今日という日にちなんで『勇者が勝利する』を弾いてみよ。」

「かしこまりました。」

うおぉぉ……元々は勇壮なメロディなのだが、アレクが弾くと悲しげに聴こえてくる……

まるで悲しみの山を越えた先に勝利があると言わんばかりだ。

そして二分の演奏が終わる。会場は拍手喝采、とまではいかないが盛況だ……私の耳でも以前のアレクより音に深みが出た気がしたもんな。

「ふむ。まあまあ良くなったな。褒美だ、それをやろう。」

「ありがたき幸せにございます。」

恭しく、かつ平然と受け取るアレク。

「うむ。先日伝えたお前に足りないもの、練習時間もそうだが、そもそもバイオリンがお前の腕に釣り合ってないのだ。これは余の愛用していたバイオリン、クレモナール村は 古(いにしえ) の名工ガルネリアスの作だ。」

「一目見て分かりました。身に余る栄誉でございます。」

「宮廷音楽家になりたくなったら言え。」

「かしこまりました。ところで陛下、これをぜひ。」

アレクは自分のバイオリンを国王に差し出している。

「はっはっは! 子供用のバイオリンを余にくれると言うのか。ありがたく貰っておこう。魔境の夜は暗いからな。」

おおう、アレクも味な真似をするじゃないか。友情のバイオリン交換か。

そして会食は終了。少しずつ退席していく。私達も帰ろう。もうすぐ夏休みも終わってしまうな……

「カース君、アレックス。うちに寄っていかない?」

「それはいいけど大丈夫なの? 復旧の邪魔にならない?」

アレクが心配するのももっともだ。辺境伯家上屋敷は王都の中でも被害が大きい方なのだから。

「ええ、あそこは一旦更地にするわ。今は別の所に建物を建ててるの。そっちに行くわ。」

「それならお邪魔しようかしら。カース、いい?」

「いいよ。ところでお兄さんは?」

「デフロック兄上は総登城の前日にどこかに行ってしまったわ。また放浪に出たみたい。自由すぎるわ……」

確かに。私よりよっぽど自由だ。

「そんな兄上からカース君にお土産よ。」

ソルダーヌちゃんから袋を手渡された。

「これは……大金貨が五、六枚かな。えらく大金だね。ありがたく貰っておくよ。」

さすがに私一人で貰うわけにはいかないな。 母上にも分けておこう。

そして辺境伯家の馬車にて別の辺境伯邸へと向かう。着いてみてびっくり。

まさか、ここかよ……