軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

227、荒ぶるエリザベス

カムイがフェアウェル村にやって来て数時間。手当は済んだ。傷口を全て塞ぎ、骨を接ぎ、内臓にまで及ぶ大怪我もすっかり元通りだ。少なくとも表面上は。

「マリー、この子はどこから来たのかしら?」

「おそらくは坊ちゃんの別荘です。私は行ったことがありませんが、ノワールフォレストの森とヘルデザ砂漠の間に建設したそうです。」

「そんな所から……カースのために……」

「あっさりやって来た私達がおかしいのです。ノワールフォレストの森もこの山岳地帯もただ歩くだけでいつ死んでもおかしくありません。それを一体どうやって……」

「別荘に召喚獣ね……聞いたような気もするけど。カースのやつ心配ばかりさせて……起きたらお仕置きよ……」

「そうですね。私も話には聞いておりましたが、初めて見ました。本当に美しい毛並み……」

「ピュイピュイ」

今、コーネリアスはカムイの体の上に乗っている。きっと回復を助けているのだろう。カースとカムイ、どちらの面倒も見なければならないコーネリアスは心なしか忙しそうな表情をしていた。

「マルガレータ。少し厄介なことになっているぞ。」

「アーダルプレヒトか。どうした?」

「先ほどバルトロメイが目を覚ました。そこの人間を殺すと息巻いているぞ。」

「そうか。分かった。知らせに感謝する。使って悪いが伝言を頼めないか?」

「何だ?」

「バルトロメイに『私が相手をする』と。」

「いいだろう。伝えるだけだがな。」

「待ちなさいよ。相手をするのは私よ。何をトチ狂ってるのか知らないけど、かわいい弟を殺すって言った時点で私の敵よ! 案内しなさい。マリーはカースをお願い。」

「お嬢様……エルフの魔法は……お気をつけください。」

「案内するのは構わんが、今度は誰も助けてくれないぞ?」

「望むところよ。どの道私は生き恥を晒すレベルの失敗をしてしまったのよ。このまま強くもならずにただ帰るだけなんて死ぬのと変わらないわ。」

「意味が分からんが死にたいのなら好きにするがいい。」

「お嬢様……」

心配するマリーをよそにアーダルプレヒトの後を歩くエリザベス。死ぬほどの目に遭ったはずなのに少しも懲りていない。これは果たして褒めるべきなのか。

やがて二人は村の一角に到着した。バルトロメーウスイニの自宅だろうか?

「バルトロメイ出てこい。憂さ晴らしの時間だ。」

バルトロメーウスイニはのそのそと建物から姿を現した。

「あぁ? 何だその人間は? わざわざ殺されに来たのか?」

「あの人間の姉だそうだ。自分の弟を殺すお前を殺すそうだ。」

「へっ、せっかく拾った命を捨てるとはよ。やっぱ人間って愚かだよな」

「やるの? やらないの? やらないなら撤回して許しを請いなさい。」

「やるに決まってん『葉斬』だろ?」

バルトロメーウスイニの魔法がエリザベスの髪を数本切り裂いた。

「……今のはワザと外したんだぜ? お前こそ這いつくばったら許してやるぜ?」

「もっと撃ってきなさいよ。次は髪じゃなくてこの首を狙いなさいよ。私のか細くて美しい首をね。」

「……オメー死んだぞ?」『葉斬』『葉斬』『葉斬』

鋭い刃のような魔法が立て続けにエリザベスを襲う。しかしエリザベスは魔法を使うことなく、その場をほとんど動いてもいない。

「どうしたの? またワザと外してくれたの? 意外と優しいのね? それとも私が美しいから緊張してるのかしら? 童貞エルフさん?」

エリザベスは喋るだけで全く攻撃をしない。彼女らしからぬ行動である。一体何をしているのだろうか。

「殺してやる! 殺してやんよ! 殺してからテメーの穴を使ってやんぜ!」

『葉斬』『葉斬』『葉斬』……

『 杉針(すぎばり) 』……

「あらやだ。本当に童貞だったの? 可哀想に……元気出して。場合によっては私が相手をしてあげるわよ?」

怒涛の攻撃もエリザベスに傷一つ付けることができない。ここに来てようやくバルトロメーウスイニも状況の歪さに気付いたようである。

「テメー、使ってんな? コソコソしやがって……」

「何のことかしら? それよりこれが最後よ。私はエルフの皆さんに感謝しているのよ? だからじっと攻撃せずに健気に耐えてるの。争いは良くないわ? 話せば分かると思わない? だから謝ったら許してあげるわよ?」

「ふざけんな! ゼッテー殺すからよぉ!」

『 爆裂球(ばくれつだま) 』

しかしバルトロメーウスイニの攻撃はエリザベスを掠めて村の建物を破壊し、炎上させている。

「バルトロメイ貴様! 村の中でそのような魔法を使うとは。人間ごときを相手に恥を知れ!」

「うるせーんだよ! テメーは村長のご機嫌でもとってろ!」

「ねぇそこのエルフさん? この場合ってあの童貞君はどんな罪になるの? 私の故郷だと子供の事故ってことで親が罪をかぶることが多いわ。」

「アーダルプレヒトシリルールだ。好きに呼べ。罪を認めて大人しく悔い改めれば軽い罪で済む。しかしそうでない場合は……」

「場合は?」

「追放だ。」

「あらあらエルフってヌルいのね。今回はどうなるのかしら? ねぇ童貞君? 謝った方がいいわよ。私も一緒に謝ってあげるから。ね?」

「うるせぇんだよ! どいつもこいつも! 人間のくせに調子に乗ってんじゃねぇ! マジ殺す!」『爆裂球』『爆裂球』

立て続けに撃った魔法がさらに建物を燃やす。これではもう誰も彼を庇うことはできないだろう。エリザベスは相変わらず無傷だ。

「アーダルさん? どうする? 放っておくと大変なんじゃない?」

すでにあちこちで消火が行われている。

「是非もない。俺がトドメを刺すとしよう。」

「あらそう? それはよくないわよ。」『 旋風刃(せんぷうじん) 』

風の刃が竜巻のようにバルトロメーウスイニを取り巻き、斬り刻む。まるでミキサーのようだ。

断末魔すら聞こえずバルトロメーウスイニは消えた。一欠片の肉片すら残っていない。

「やっぱり同胞を殺すなんてよくないことだわ。だから私が代わりにやってあげたの。大恩あるエルフさんを殺すなんて、心が痛むわ……」

「人間……お前は……」

「エリザベスよ。好きに呼んでいいわ。さあ火を消さないとね。もちろん手伝うわ。エルフの皆さんは恩人ですもの。」

ひとまずカースに襲いかかるはずだった危険は去った。そしてエリザベスの身に一体何が起こったのだろうか。