軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

100、カースと組合長

七月二十六日、サラスヴァの日。

アレク達は今週末から夏休みに突入する。つまり八月一日が夏休み三日目にあたる。それまでに王都行きの準備を整えておこう。

とりあえずクタナツに帰ってフェルナンド先生に予定を伝えるのがいいかな。

「ただいまー。」

「ピュイピュイ」

「あー、カース君にコーちゃんおかえり! 何それ卵? すっかり家に居着かなくなったわね。」

もうベレンガリアさんがいることに驚かない。

「色々あったんだよね。後で話すよ。母上いる?」

「昨夜からお出かけよ。昼にはお戻りになるそうよ。」

ってことは昨夜ベレンガリアさんは父上と二人の夜? マジで? いやいやキアラもいるし。

まあいいや。ギルドに行ってこよう。コーちゃんは久々の実家の塒でゆっくりしたいそうだ。

「お疲れ様でーす。」

いつの間にか最年少でも新人でもなくなったけど、習慣とは恐ろしいものだ。挨拶は欠かさない。

さて、ギルドに来た理由だが情報提供だ。

受付に顔を出す。

「こんにちは。情報提供に来ました。ここでお話ししてもよろしいですか?」

「ひょっとして別荘の件ですか!? そ、それならこちらでお願いできますか!?」

珍しく職員が慌てている。案内されたのは組合長の部屋。もちろん初めてだ。

「入れ!」

太い声だ。組合長の姿はスパラッシュさんの葬儀の際にチラッと見ただけなので、あまり記憶にない。

「組合長、こちらのカースさんが魔女様の別荘についてご報告してくださるそうです。」

「やっと顔を出しやがったか。ジャックから聞いてるぜ。腹の据わったガキだそうだのぉ。」

「初めてご挨拶させていただきます。十等星カースと申します。ジャックとはどなたで?」

組合長は何歳なんだ? 肌艶は若いが髪の毛はない。目元の皺からすると五十歳は過ぎているかな? 見た目は全身筋肉って感じだ。

「校長じゃあ、知ってるだろ。それより魔女の別荘について聞かせてもらうぞ。」

あぁ! エロー校長か! しかしなぜ母上でなく私に聞くんだ? 確かに母上に聞いても何も知らないけど。どうせ母上には怖くて直接聞けないってパターンだよな。

「いいですよ。何でも聞いてください。その代わり北の山岳地帯の話も聞かせてくださいね。」

たぶん校長と一緒にベヒーモスを倒したメンバーと見た。

「後でな……まず魔女は何を考えている? なぜ別荘などを作る?」

「実際には母上は無関係です。全て僕が一人で行っていることです。バーンズさんから、魔女の仕業か? と聞かれたものでついついそうだと答えました。その方が納得しやすいでしょ?」

「魔女は関与していないのか?」

「そうです。今日僕が来たのは報告です。あらかた完成したもので。あ、ブリークメイヤーからの報告は聞かれましたか?」

「先日聞いた。あいつらも不運だったようだな。で、お前はなぜ別荘など作った?」

「正確にお話しするなら……」

恥ずかしいがキアラに負けそうになって武者修行に出たこと。しかしすぐに考えを変えてなぜか別荘を作ろうと思い立ったことを説明した。

「他意はないんかぁ? もっともあんな場所を領地にしたからと言って何の意味もないだろうがよぉ……」

「僕もそう思いますし、母からもそう聞いております。で、あそこの正式名称は『 楽園(エデン) 』です。城壁内は立ち入り自由です。中央が小高くなっておりますので、その上にある建物は立ち入り禁止です。」

「いいだろう。分かった。世の中には下らんことを気にする奴もいるからのぉ。」

それから組合長には山岳地帯の話をしてもらった。やはりエロー校長とは同じパーティーメンバーだったようだ。校長、組合長、魔法使い二人の四人組。トドメを刺したのは校長で、最もダメージを与えたのは一人の女性魔法使いだとか。最終的に彼女の全魔力と命までも削るかのような極大の『轟く雷鳴』がベヒーモスの動きを止めた。その隙に校長の乾坤一擲、槍の一突きが勝負を決めたそうだ。

やはり先人の話は身に染みる。いつか私も山岳地帯に行ってみよう。

ギルドでの用を終え、家に帰ったら母上も戻っていた。

「母上ただいま。組合長に別荘の件を正確に説明しておいたよ。変に気にする奴がいるらしいね。」

「おかえり。そうね。あそこを拠点に辺境を併呑するって……くすっ、呆れるわよね。」

「ついに建物が出来たんだよ。排水魔法もバッチリ! 九月ぐらいには招待できるから父上にも長めに休めないか聞いておいてよ。」

「ついにやったのね。フェルナンド様からも聞いているわ。カムイちゃんのこともね。」

「そうそう、フェンリル狼ってどうなの? 強いの?」

天地を丸呑みだとか神の手を食い千切るとか聞くけど?

「うーん、確かに強いらしいわよ。ノワールフォレストの森での最大勢力はノワール狼なのね。それに対してフェンリル狼は個体数がかなり少ないの。だからどこに生息しているかも分かってないのよ。ただロボちゃんが言うにはフェンリル狼とは接触してはいけないらしいわ。」

「狼達の世界にも色々あるんだね。それより近いうちに王都に行くから兄上達に手紙とかあったら届けるよ?」

「あら、それはいいわね。じゃあ手紙を書いておくわね。せっかくだから私の実家にも顔を出してみなさいな。」

母上の実家は王都で比較的古い上級貴族ゼマティス家。魔法指南役の家系で代々堅実に王族へ尽くしてきたらしい。少し興味が出てきた。

「フェルナンド先生も一緒に行くんだけど、先生は今日はどこに居そう?」

「うーん、道場かしら? 昼から行ってみたらどうかしら。お昼は食べるんでしょ?」

「うん! ケルニャの日の昼までクタナツに居るからね。」

この日の昼食はベレンガリアさんの料理だった。意外と美味しかった。

食事後のティータイム。母上にアレクが狙われた件を話してみた。

「アレクサンドル家ね。あそこも名門だけに複雑よね。それよりアレックスちゃんは『判別』が使えるようになっているのね。凄いわ! 頑張っているのね。」

「それって難しいの? 僕には出来そうな感じがしなかったけど。」

「ええ、難しいわよ。魔力があればいいってものでもないから。地道な勉強が大事なのよ。」

なるほど、知識も必要なのかな? やはりアレクは頑張っているんだな。嬉しいぞ。

さて、道場に行ってみよう。

卵は母上が見てくれるそうだし。

「押忍!」

道場内では十数人もの門下生が稽古をしていた。みんな私より年上だ。フェルナンド先生もアッカーマン先生も指導しているようだ。ならば私も加わろう。

そのまま夕方まで稽古をしていた。いい汗をかいたものだ。

「カース君、きちんと心眼の稽古をしているようだね。いい感じになっている。その調子で頑張りたまえ。」

やはりフェルナンド先生からは丸分かりなのか。嬉しいな。

「押忍! ありがとうございます! あの、明後日の昼ぐらいにクタナツを出発しますがご都合は大丈夫ですか?」

「もちろんいいとも。一旦領都に行くのかい?」

「はい、翌週ヴァルの日に領都を出発する予定です。総勢五人で行きます。」

そこにアッカーマン先生も混ざってくる。

「そうか、王都に行くのだったな。ならばフェルナンドよ、本部道場に手紙を届けておいてくれ。」

「もちろんいいですよ。お任せください。せっかくだ、カース君も本部に顔を出してみるといい。きっといい勉強になる。」

「押忍! ありがとうございます!」

歩きだと一体何日かかるんだろうな。それが私だと多分二時間ぐらいだろう。我ながら凄いな。

この日の夕食は父上も帰ってきていた。心眼の話を振ったところ、「兄貴の心眼は無敵だぜ」との言葉をいただいた。

せっかくなので夜は父上に庭で稽古をつけてもらった。当然ながら剣では勝負にならない。父上の腕はレベルが違う。

「よし、じゃあカース。服を抜げ。心眼の稽古をするぞ。」

「押忍!」

フェルナンド先生にしてもらったように父上から小石が飛んでくる。やはり上から降ってくる小石とは違うな。やはり私はまだまだだな。

「ピュイピュイ」

ありがとうコーちゃん。頑張るよ。

そしてキアラに風呂で本を読む。今日の本は何だ?

『ヨーイチは鏑矢を取って構え、引き絞ってスパッと放った。

小兵だが弓は強い。そこら一帯に鳴り響くほど長く鳴った。狙い違わず兜の中心を弾き飛ばした!

兜は大地に飲まれるやうに落ちたが、鏑矢は勢い止まらず空へ吸い込まれるやうに飛び去って行ってしまった。それはまるで夕日を撃ち落とすかのやうな勢いだった。向かいの敵軍は足を踏み鳴らし感嘆し、味方の軍は諸手を挙げてどよめいていた』

古の統一王朝ができるまでの逸話集だった。ウィリアム・テルオとある意味似たような話である。敵軍の大将が、腕に覚えがあるなら自分の兜の一点を撃ってみやがれと挑発し、上官の命令により決死の覚悟で挑戦した男の話だ。キアラは一体……

「キアラは難しい本を読んでるな。偉いぞ、よしよし。」

「うん! だって私お姫様じゃなくて王様になるんだもん!」

「そうかそうか王様か。キアラは偉いなぁ。」

これって外で言っても大丈夫な言葉なのか? 謀叛的な意味にならないか? 厨二病という言葉があるが、それとは一線を画す危険さだ。

「ちなみに母上には言ってあるのかい?」

「うん! 言ったよ! そしたら頑張りなさいってー。」

「そうかそうか。それは良かった。頑張るんだぞ。」

母上が知ってるなら大丈夫だ。きっとどうにでもなる。私は時々魔王なんて呼ばれるし、キアラは王様って呼ばれるのかな。

カースとキアラが風呂から出て自室に戻り、ベレンガリアが入浴している頃、居間では。

「九月ごろカースが別荘に招待してくれるそうよ。」

「おお、それは楽しみだな。兄貴からも聞いたがすごい所らしいじゃないか。」

「あれから建物も出来て、排水処理まで終わったらしいわ。もう一人前の領主様よね。」

「はははっ、そこまでやったのか。カースにしては計画的じゃないか! 褒めてやらないとな。」

「世間的には私の別荘ってことになってるけど、ギルドには正確に説明したそうよ。」

「俺も散々聞かれたな。どんな別荘かなんて知らないっての。あんな所に別荘なんてあっても役に立つかよって話だよな。」

「全くカースったら。あなたに怒られるわよって言ったら慌ててたわ。本当に何も考えてないんだから。」

「俺に似たのかな。そりゃあ文句も言えないな。」

そこに現れるベレンガリア。

「お先にいただきました。マギトレントの湯船って最高ですね。」

「ふふふ、そうだろう。カースに感謝しろよ。よしイザベル、俺達も入ろう。」

「ええあなた。ではベレンガリア、今夜は私の番だから先に寝なさい。」

「はい奥様。お先に失礼いたします。」

この一家は一体どうなっているのか?