軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

352、カースとスパラッシュ 最後の冒険2

私は大人しく扉を開けた。つっかえ棒を外すだけで開く横開きのボロ扉だ。

「宿改めである。身分証を出してもらおう」

普通の騎士のようだ。

「お役目ご苦労様です。どうぞお改めください。」

私はギルドカードと銀貨一枚を騎士に渡す。

「ふむ。問題ないな。もう一人はどうした?」

「どこかに飲みに行ってしまいました。必要とあらば明日にでも出頭させましょうか?」

「それには及ばん。以上だ」

「お勤めご苦労様でございました。」

ふう、焦った。タイミング良すぎないか? それとも他所者が来る度にやっているのか? 気になるな。

気になるから後をつけてみよう。窓から抜け出し上空から隠形を使いつつ尾行してみる。果たして他の宿も改めているのだろうか。

結論から言うと、何軒か宿を回っていた。小遣い稼ぎにちょうど良いのだろう。どうやら私の取り越し苦労だったようだ。定期的な任務でもあるのだろう。

私が宿に戻ってから三十分ぐらいでスパラッシュさんも戻ってきた。先ほどの件を報告しておく。

「賞金の話が出たのは今日だぞ。それがここまで伝わるのは早くても二週間はかかる。通常以上の警戒はされてないだろう。」

なるほど。さすがスパラッシュさん。拙速は巧遅に勝るってやつだな。だからこそ大慌てでここまで来たのか。

「分かりました。では寝ましょうか。せっかくですから『快眠』の魔法を使いますね。ゆっくり休んでください。」

私も自分に『睡眠』をかけてゆっくり寝よう。

翌朝、自動防御が反応した形跡はなかった。いよいよ今夜だ。ドキドキしてきたな。

「ボウズ起きてんのか。今夜の標的だがジジイと二男だ。最低どっちかは生け捕りにするから合図をしたらすぐ来い。」

「分かりました。先輩なら間違いないでしょう。で、日没まではどうします?」

「ギルドに顔を出す。軽く状況チェックだ。お前は黙っておけばいい。」

思えばクタナツ以外のギルドなんて初めてだ。こんな状況だけど少し楽しみだな。

ギルドは宿から歩いて二十分程度の距離だった。ここにはどのような依頼があるのだろうか。

スパラッシュさんは勝手知ったるとばかりにギルドに入って行く。私はちょこちょこと後ろをついて歩く。

依頼掲示板の前で腕組みをするスパラッシュさん。

「どうですか? 先輩のお眼鏡に叶う依頼はありますか?」

「ないな。帰るぞ。こんな田舎じゃ稼げねぇな。やっぱフランティアに行くしかねぇぜ。」

スパラッシュさんはわざとらしいぐらいに大きな声で田舎だと強調している。すると案の定……

「おう! しょぼくれジジイがでけー口叩いてくれんな! ラフォート舐めてんだろ!」

やはりこのような若者はどこにでもいるよな。

「おうおうおう! 王都で名を馳せた先輩に向かって何言ってんだ!? こちらにおわす先輩はなぁ! あの剣鬼ですら戦うのを避けたほどのお人だぜ!」

「よせボウズ、今のは俺が悪かった。おう兄ちゃんよ、すまなかったな。お詫びに一杯奢らせてくれや。」

「お、おう、分かってくれりゃーいいんだ。それより剣鬼って……」

なんだこいつ? まさか信じたのか? 純真なんだな。

「ちっ、命拾いしたな。先輩に感謝しとけよ。」

私は演技派、小物の演技もお手の物さ。

「で兄ちゃんよ、最近どうよ? 何か変わったこたぁねぇかい? まあ飲んでくれや。」

「おおとっつぁん、すまねぇな。変わったことねぇー? どっかからえらい貴族がバカンスに来てるって話があったぐらいか。ノノヤフク湖の沿岸に別荘たぁ羨ましいもんだよな。」

「さすが兄さん、詳しいじゃねぇか。ほれ、もっと飲みねぇ。別荘いいよなぁ、どれほどの貴族ならそんな別荘を持てるんだろうなぁ。」

「何でも公爵だかって話だぜ。結構人数も多いらしいぜ。大人しく別荘で遊んでてくれてりゃーいいんだがな。」

あー、貴族が街で遊ぶとロクなことにならなそうだもんな。目についた妊婦の腹を裂いて胎児の男女当てゲームをする奴もいたらしいし。

「護衛の依頼とかねーのか? それだけの貴族ならたんまり持ってそうじゃねぇか。」

「俺らもそれを少しは期待したんだがよ、この街で護衛は雇わねーみたいなんだよな。お高くとまりやがってよ!」

「兄さんのような凄腕もいるのによぉ。分かってねぇさな。てことは何かい? ゾロゾロと護衛を引き連れてやって来たってことかい?」

「照れるじゃねーか。へへっ、これでも同期の中じゃ出世頭よ。ちらっと見た奴の話だと騎士らしいのはあんまいなかったとよ。趣味の悪りー紫の鎧の奴がいたとか。」

出やがった。偽勇者野郎か。上手くいけばここ最近のゴタゴタが全て解決するな。スパラッシュさんの大手柄になる。

それからは昼過ぎまで他愛もない話をしてギルドを出た。次は武器屋だ。

「らっしゃい」

「土産代わりに武器でも買おうと思ってよ。ギルドで聞いたぜ、評判いいじゃねぇか。 ここ最近の売れ筋はどれだい?」

「そうさな、投槍だな。この前もお貴族様の護衛だかが買っていったな。湖で魚でも突くのかねえ」

それは何の変哲も無い普通の投槍だった。長さは一メイルもなく、太さは直径一センチ程度。雑魚魔物以外には使えそうにない代物だ。こんなのを護衛が買った? 百本あっても強い魔物は倒せないだろうに。

もちろん刃先に返しがないので魚も突けない。今夜の突入に関係するのだろうか。