作品タイトル不明
249、領都の夜 1
宿に入った私達は宿泊の手続きをする。と言ってもギルドカードを出し料金を払うだけだ。
従業員に案内され移動する。なんと五階建てだ。最上階まではエレベーターまである。まあ従業員が足元の板に浮身を使うだけなのだが。
案内されたのは所謂スイートルームだろうか。前世で泊まったことなどないから広くて快適そうだということしか分からない。
「ご用の際はそちらのベルをお鳴らしください。ではごゆっくりどうぞ」
従業員も受付も私達が子供だからと言ってぞんざいに扱ったりしない。これは少し嬉しいな。
「さーて、お風呂でも入ろうか。アレクの所より大きいんじゃない?」
アレクは何も言わない……
むしろ姉上が帰ってから口を開いてない……
「どうかしたの? 」
「べ、別に、カースとお風呂に入りたいわけじゃないんだから!」
久々に聞いたツンデレアレク。でもこの場合はツンデレなのか?
「そうだね。もちろん別々だよ? 先に入ってね。お互い子供ってことで。」
「そ、そうよね! ま、まだ子供だもんね! そんなことは大人になってからよね!」
そんなことってどんなことだよ。風呂ぐらい一緒でもいいけど、アレクがその思考ならだめだな。全く上級貴族ってやつは……可愛いぜ。
アレクが風呂に入っている間に洗濯をしてあげてもいいが、やめておこう。私は紳士だからな。
さて、待つ間は暇だから錬魔循環しながら鉄キューブを浮かせてよう。と、思ったが浮かない。くっ、それなら鉄スノボにしよう。これならギリギリ浮かせることができた。循環阻止の首輪を卒業できるのは一体いつになることやら……
そんな時、ドアが激しく叩かれた。このレベルの宿でそんな叩き方するか? 火事とか?
少し警戒しつつドア越しに声をかける。
「誰だ?」
「開けろ! 開けんか!」
従業員じゃないな。なら無視しよう。護摩の灰だったら大変だ。よくここまで入ってこれたな。
まだ叩いて何か喚いてる。従業員は何やってんだ?
ベルを鳴らしてみた。
誰も来ない……
相変わらずドアは叩かれている。
もしかして、緊急?
実はこいつって押し込み強盗とか?
これはいかん!
ひとまずドア前に鉄キューブを置いておく。
「アレク! すぐ出て服を着て!」
私は躊躇わず浴室へ入る。鍵などついていない。
「アレク! 」
寝てる? いや、のぼせてるのか?
くそ、こんな時に……
仕方ない、湯船から出して……どうすればいいんだ!? あ、意外と胸がある! くっそーこんな時に私は、私はぁ!
落ち着け、まずは乾かそう。慎重に乾燥魔法をかけて水を飲ませるんだ。この前バランタウンで練習したので大丈夫だと思う。 水操(みなくり) でゆっくり飲ませる……
服を着せるのは難しいのでローブをかけて、額に 氷霰(こおりあられ) で冷やした布を乗せておく。
こんなとこだろう。さて、ドア前はどうなった? 今一度ベルを鳴らしてみる。
ドアを叩く音はすでにないが油断できない。
そして窓も油断できない。ここは五階だが屋上からなら近いものだ。ガラスではなく木製なので簡単に蹴破られたりはしないだろうが……
よし、今のうちにアレクをベッドに運んでおこう。まずは銀ボードに乗せてベッド脇まで、そこからベッドまで手動でゆっくり動かす。
もう一度水を飲ませておこう。
それから鉄湯船を逆さにしてベッドを覆う。いつか野宿をした時の利用方法だ。
これでアレクは安全だろう。
さて、どうする?