作品タイトル不明
85、魔王とノヅチ
うーん、ノヅチがこっちに頭を向けたまま動かない。いや、あれが頭なのかどうかも分からないけどさ……
しかも、さっき見た時は直径十メイル程度しかなかった口が……今では直径三十メイルぐらいまで広がっている……
あ、どうなってんだよ……また暴れ始めやがった。
もう砂ぐらいしか吸い込むものがないだろうに……
「ピュイピュイ」
構ってやれって? ええ……勘弁してよコーちゃん……
うーむ、どうすればいい?
「ピュイピュイ」
ええ……? 魔法を撃ち込めって?
うーん……
『 暗黒大穴(ブラックホール) 』
せっかくだからノヅチと吸い合いしてやるよ。吸引力が強いのはどっちだ?
だめじゃん……丸ごと吸い込まれた。勝負にならない。ブラックホールを吸い込むって意味分からんし! いや、まあそりゃ本物のブラックホールじゃないから不思議ではないんだけどさ……あーもー、なんか悔しいぞ!
もう一発くらえ! 今度は強めにしてやるよ!
『 暗黒大穴(ブラックホール) 』
おおっ、拮抗してる! いけ! ノヅチを吸い込んでしまえ!
無理か……私の方は時間が経つと威力が弱まるからな。くそぅ……
ちっ、ノヅチめ……頭を振ってやがる。威嚇してんのか?
「ピュイピュイ」
ええ……喜んでるの? もっと?
『白弾』
これでもくらえ! 喉に撃ち込んでやった。まあ、喉なのか首なのか胴体なのか区別はつかないけどさ。
「ピュイピュイ」
痛がってるの? だろうね……痛いで済むんだろうね……クソが……傷一つ付いてないじゃないか……
結局それから私とアレクの二人がかりで使えるだけの魔法を撃ち込んだ。ノヅチのやつ全然帰ろうとしないんだよな……
半ば殺す気でやってんのにさ……
こっちは吸い込まれないように必死だってのに!
コーちゃん、どうなの? ノヅチは一体何を考えてんの?
「ピュイピュイ」
ただ寂しいだけ? そりゃ三百五十年近く放っておかれんたんだから寂しくてもおかしくはないけどさ……
くそ、魔王め……ペットにどんな躾しやがったんだよ! ペットなら同命の首輪ぐらい着けてろってんだ。コーちゃんもカムイも私が死んだら共に死ぬ『同命の首輪』を着けてんだからな。ペットじゃないのに。
仕方ない。古来より伝わるペットとのコミュニケーション法をとってみるか。一応魔力ポーションを飲んでと……
「アレク、ボードを頼むね。ちょっと接近してくるから。」
「え、ええ……気をつけてね。」
「ピュイピュイ」
おっ、コーちゃんも来てくれるか。ありがとね。シュパッと私の首に巻き付いてくれた。
『風操』
身一つで飛ぶのは魔力の消費が低いし緩急自在の動きをするのには向いている。ついでに……
『身体強化』
そして……
ノヅチの背中に突撃だ! くらえドロップキック! ドラゴンブーツは痛ぇぞー?
ぐうっ!?
こいつ……ノヅチ……
ヒュドラと同じ……いや、たぶんあれ以上か……魔力を無効化しやがる……一瞬で身体強化が解けてしまった。
つまり、こいつにはほぼ魔法が効かないってことか……
口からは吸い込むわ、体表では無効化するわ。反則だろ……逃げよ。こんなの相手にしてられるかよ! 神剣セスエホルスを持ったフェルナンド先生なら斬り裂ける気もするが、私には難しい。そりゃあさ、いよいよともなれば十万トンメテオでも使ってやるけどさ。
ただ逃げるのもしゃくだからイグドラシル製の棍『不動』を取り出してぶっ叩いてやった。少しは痛いだろ。
ぬおおおう? 口がこっちを向いた! 全速力で逃げる! 背中から飛び降りてから『浮身』『風操』
ぐおお……吸われる……なんて吸引力だ!
だが、私の速度を舐めるなよ? 逃げ切ってやるぜ! 例え残り魔力が少なくても!
『徹甲五十連弾』
自動追尾、そして衝撃貫通をたっぷり込めてある。狙いは……口の周りだ! あれを唇って言うのか? そこを外側から狙う! そのでけぇ口を閉じやがれ!
よっしゃ! 口が閉まった! しかも唇がボロボロに傷ついてやがる! どうだ! 今の魔王を舐めんなよ?
「おかえりなさい。心配したわよ。」
「ただいま。いやーノヅチなんて相手にするもんじゃないね。キツいよ。」
「ピュイピュイ」
ノヅチが喜んでる? こっちは大変だったんだけど……
「ガウガウ」
退屈だって? いくらカムイでも相性が悪過ぎるぞ。下が砂なんだから吸われたら一発アウトだ。踏ん張りなんか効かないんだからさ。だから大人しくボードの上で待ってたんだろ? いい子だ。
あ、ノヅチが……帰っていく。出てきた穴の中へと。
やっとか……
どうやらこの場所で呪いの魔笛を使うとノヅチを呼べるってのはほぼ確定かな。できれば二度と呼びたくはないが、いつかまた呼ぶ機会があるかも知れない。
例えば……クラウディライトネリアドラゴンを退治する時とか?
どっちが強いんだろう……
魔力的にはクラウディライトネリアドラゴンなんだが……謎だな。
あー疲れた。発注した装備が出来るまで二週間あるし、その間はのんびりと過ごそうかな。これで私も六等星か。
おっ、よく見ればスライムの残党が消えてる。ラッキー。