軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

36、天国の地獄

幾度も聖衣ブランコ休憩をしたせいで、とうとう聖衣の上側がボロボロになってしまった。

まず袖口は 解(ほつ) れまくっているし肩周りも千切れそうだ。まだ聖衣の下履きはあるのだが、さすがにこれまで脱ぐのは恥ずかしい。フルチンで木登りなんか嫌だし、アレクにそんな格好をさせたくもない。

だが、いよいよとなればやるしかないのか……

だってさっきの休憩中、ついに右の肩が取れてしまったんだから。危うく私まで落ちるところだった。残ったパーツではブランコ状にすることはできなくてもどうにかハンモック状にすることはできる。だがいずれは……

とうとう私の聖衣、上が使い物にならなくなった。アレクの方は幾分かマシだ。こんなことなら死んだエルフの聖衣を剥いでおけばよかった。私は見通しが甘いな……

だが行くしかない。もう意地だ、根性だ。

穴と解れだらけの聖衣を破れかぶれに着たまま私達は登り続ける。アレクがやけに艶かしい。ダメージ聖衣ファッションだな。最高に似合ってる。

しかし、本当にもう限界だ……こんなところで力尽きたら……いや、力尽きて落ちるぐらいなら魔法を使ってやるよ。何が起こるかなんて分からないが、落ちて死ぬぐらいなら使うに決まってる。それならばもういい。力尽きる瞬間まで足掻いてやる。

「アレク、先に登ってくれる?」

「ええ……いいわよ……」

アレクだって限界だ。いつ落ちてもおかしくない。だから私が下をいき、いつでも魔法で……

くそ、どうにか休憩できないのかよ……

「ねえカース、ここから幹の感じが違うわ……」

「え……」

少し登ってみると幹の割れ目が大きくなっている。少しだけ登りやすくなった気がする。腕が入るほどの隙間もある。踏み外さないように注意しないとな。

ん? この隙間……

もしかして……

手に聖衣の切れ端を巻き付け幹の隙間に押し込む。いける! 体が固定される! 握力も使わなくていい!

「アレク! これやってみて! 少しは休憩できるよ!」

「なるほど……さすがカースだわ。こんな方法があったなんて……」

これならもう少し頑張れそうだ。私達の手の平にはあれだけ登っても豆すらできてないんだ。こんな腕の使い方をしたってそこまで怪我をすることもないだろう。行ける所まで行ってやる……

とっくに眼下から密集エリアは消えた。上にも下にも幹以外何も見えない。あれだけお互いに刺激を与えつつ登っていた私達なのに、再び無言になってしまった。もう何時間口を開いてないのか分からない。なぜだ?

何度同じ症状になったのかすら分からないが、頭に霧がかかったかのようにぼーっとする。きっとアレクもそうなんだろう。頭が回らない。登っては休み、登っては休み……

ついに手に巻く布すらなくなった。全て擦り切れてしまった……私もアレクもだ。

だが、まだだ。まだ登れる……

「ピュイピュイ」

ん? コーちゃんどうした?

「ピュイピュイ」

え? 何だって?

「ピュイピュイ」

ここから先は危ない? コーちゃんは私より十メイルほど先を登っているが、見た感じ何も変わりはないようだが……

それに、いくら危なくても今さら引き返せるはずもない。覚悟して登るだけだ……

「アレ、ク……」

口が回らなくなってる。

「カー……どうし……の?」

アレクもか。

「最後の、休憩、を、とろう……」

「ええ……」

コーちゃんの言う危険エリアに備えておかないとな。何ができるわけでもないが、少しでも腕の疲れを抜いておかないと……

ちなみにカムイはそのエリアを上下に何回か往復している。私達のために確かめてくれているのだろうか。

「ガウガウ」

少し寒くてちょっと息がしにくい?

それってまさか……

「アレク、カムイが寒くて息がしにくいと言ってるんだよね。それって高い山に登った時の状況なんだよ。五キロルとか十キロルとか。」

「でも私達って明らかにそれ以上登ってるわよね?」

「だよね。つまり、今まで登っていたのは神域で今からは神域外ってことかもね。」

しかしヤバいな……仮に標高十キロルだとすると、ヒマラヤより上だ。どれだけ空気が薄く寒いのか想像もつかない。地獄かよ……たちまち高山病になるのではないか?

「神域外ね……つまりお腹も空くし眠くもなるのかしらね。それでも行くしかないわ。そうよねカース?」

「もちろんだよ。行こうか。呼吸を浅くして、ゆっくりとね。」

いよいよ最後の最後か。趣味の悪い神め。待ってやがれよ……