軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

384、無尽流本部道場

私が目覚めたのは昼すぎだった。かなり腹が減っている。どこで食べようかな。ゼマティス家に顔を出すのは明日にしよう。昨日の今日で行きにくいってこともあるし。今日はそこらで飲んで一人で演劇に行くのもいいかも。あ、センクウ親方の所にも行かないとな。

それに……無尽流の道場にも行かなければ……

思い出さないようにしていたが、さすがに王都に来たら思い出すよな。アッカーマン先生のことを知らせないと……くそ、気が重いな。

はあ、まずは何か食べてからだ。

昨日の夕食のようにそこそこいい店で食べていたら早速噂が聴こえてきた。

「おい聞いたかよ? ディオン侯爵家の話!」

「おお、聞いたぜ! どうも皆殺しの魔女が出たって噂だぜ!」

「ただ皆殺しの魔女にしちゃあ殺し方が不思議だったんだとよ?」

「どんな風によ?」

「皆殺しの魔女って言やあ部屋中血塗れって聞くじゃん? 今回のは血が流れてねぇって噂だぜ!」

「血が流れてねぇ? それでどうやって殺すってんだ?」

「知らねぇよ! だがろくに抵抗の跡もなく全滅してんだからそりゃ皆殺しの魔女の仕業だろうぜ?」

皆殺しの魔女……ラグナから聞いたことがある、母上の異名……

騎士や平民からは『聖なる魔女』

貴族からは『王都の華』

そして、闇ギルド関係からは……『皆殺しの魔女』と呼ばれているらしい……

二つ名、異名なんてのは一人一つあるだけで大したことだ。私が魔王と呼ばれるように、フェルナンド先生が剣鬼と呼ばれるように。それだけで世間に名前が売れている証拠となる。

母上はそれが三つも……

この三つが同一人物であることを知らない奴も相当数いるとか。

このタイミングで王都にいると知られたら、もう私の犯行ってバレバレか? 王城に行くのはやめようかな……それにしても噂の回りが早い。しかも結構正確だし。

私が魔力を失った時はかなり遅かったくせに。あ、もしかして王都内ならすぐ回るのか? それで違う領にはあまり回らないとか? 中世あるあるなのかな。

まあいい。無尽流の本部道場に行こう。再建はもう終わっているだろうしな。

ゆっくりと歩き、とうとう本部道場に到着した。新しい建物が出来ているではないか。

平日なのに外では十人程度の子供達が稽古をしている。学校はどうした。それを横目に中へと移動する。レイモンド先生はいるだろうか。

いた。やはり稽古をつけている最中か。ならばキリがいいところまで待つしかないな。混ざる気分ではないし。そうかと思えば……

「そこ! サボってんじゃない! 参加しろ!」

見知らぬ先輩に言われてしまった。

「押忍!」

言われたからには参加しよう。いつもの道着に『換装』

準備運動もなしに掛かり稽古かよ。これまた相手は見知らぬ先輩。今の時間帯の道場内はたぶん中級者。つまり私より強い人ばかりのはずだ。だから遠慮せず打ち込む。

「よし! いい気合だ!」

「押忍!」

むしろ気合しかない、かも知れない。こうやって道場で汗を流すのっていつぶりだろう? 領都で破極流の道場に行ったのはカウントしないにしても。

そしていつの間にか夕暮れ時。

「それでは本日の稽古は以上!」

レイモンド先生の号令がかかる。

「礼!」

『押忍!』

終わった……かなり疲れた……

スティード君に型がかなり崩れていると言われたが、崩れた状態のまま稽古をするとこんなに疲れるのか……

「ようこそカース君。いつぶりかな。かなり稽古を怠っているようだね。」

「押忍! お恥ずかしい限りです。実はレイモンド先生とダイナスト先生にお話ししたいことがありまして……」

「アッカーマン先生のことかな?」

「お分かりですか……」

「そりゃあそんな辛そうな顔されたらね。他に思い当たらないさ……」

そんなに私って顔に出るか? ポーカーフェイスのつもりなんだが……

「ダイナスト先生は……?」

「きっと道場の方にいるだろう。一緒に行こうか。二人で聞くべきだろうね。」

「押忍……」

私達のただならぬ雰囲気を察した弟子達は何も言わず、遠巻きに見るのみだった。そして私とレイモンド先生は本部道場を出てダイナスト道場へと向かった。

道中ではたわいない話に終始した。フェルナンド先生が今何をしているか、ダイナスト先生のところに子供が生まれた、レイモンド先生も結婚を考えている、などだ。

そしてダイナスト道場へ到着。王都動乱の時にアレクと様子見に来た場所でもある。

「こっちにしよう。」

レイモンド先生は道場ではなく、母屋へと入っていった。

「こんにちはー奥様ー! いらっしゃいますかー?」

「はぁい! あら! レイモンド先生! と、そちらは……まさか魔王君!?」

魔王君……初めて言われた。新鮮だな。さっき本部道場を出た時に着替えておいてよかった。

「はじめまして。カース・マーティンと申します。クタナツの無尽流でアッカーマン先生の教えを受けました。」

「あらあらご丁寧に! 私はクラリッサ・アッカーマン。旧姓はアジャーニよ。オウタニッサの姉だから魔王君の義理の姉になるわね!」

アジャーニ家だと!? そう言えばそうだったよな。聞いた覚えがある。それにしてもダイナスト先生はどうやってアジャーニ家の令嬢なんかゲットしたんだよ!

つまり、ウリエン兄上の第三夫人であるオウタニッサさんの姉ってことは、正確には義理の姉の姉だな。わざと言ってるんだろうな……クタナツ代官の従姉妹でもあるわけか。親戚関係が複雑すぎてもうすぐ理解できなくなるぞ。あれ? オウタニッサさんってアジャーニ家から勘当されてたんだっけな? とても覚えてられないぞ。

「奥様、ダイナスト君を呼んでもらえますか? ちょっと大事な話がありまして。」

「分かったわ! 待っててくださいね!」

とても王都一の権勢を誇る貴族家出身とは思えない気風を感じるな。

「待たせたなカース君、よく来てくれた。レイモンド先生もようこそ。」

歳の差は五歳ぐらいだろうにダイナスト先生はレイモンド先生を先生と呼ぶんだな。

「押忍。お二人にお話ししたくやって来ました。アッカーマン先生のことです。」

二人の顔に、いや奥さんも含めて三人の顔に緊張が走る。

言うのが辛い……

「アッカーマン先生は僕の命を狙ったために……僕が……殺しました……」

「なっ……」

みんなが絶句する中、声が漏れたのはレイモンド先生。

経緯を説明する。必然的にアッカーマン先生の正体も話すことになる。

「父上が……暗殺者……」

「あなた……」

ダイナスト先生はショックだよな……

「実際のところは寿命か薬の副作用だったんだね……そんなことが起こっていたとは……」

「勝手ながらフランティアのルイネス村という所に墓を建てました。神官は呼んでおりませんが僕が火柱で送りました……」

遺髪を届けようかとも思ったが、ローランド王国にそんな文化はないからな。死ねば神の元へ行くという考えはあるが。そのため火球などではなく『火柱』で燃やすのが一般的だったりする。

「カース君……このことはフランティアではどれだけ広まってるんだい?」

レイモンド先生が絞り出すように問いかけた。