軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11 熊は聖女に招かれる

聖女ラナは絢爛豪華な成婚祝賀会の会場を見渡して満足げな笑みを漏らした。

シャンデリア輝く王宮のホールには着飾った貴族が集まり、宮廷楽団が奏でる音楽の中、給仕達がシャンパングラスを優雅な仕草で配っている。目に付く物何もかもが美しく最高級品だ。

それは、かつて彼女が夢に見、渇望してきた世界そのものだった。

※※※※※※※

ラナは子どもの頃からお姫様になりたかった。

宮殿に住んで皆にかしずかれ、素敵な王子様と結婚していつまでも幸せに暮らすお姫様に。

しかし現実には、愛くるしい見た目にこそ恵まれたものの、ラナは貧しい漁師の娘に過ぎなかった。周りの男の子にちやほやされるといっても、うらぶれた寒村ではたかがしれている。

ラナは毎日働くばかりの両親も、華やかさの欠片もない自分の村も大嫌いだった。

ある時、彼女の頭の中で不思議な声が聞こえた。

その声は、お前には魔獣を退ける力が眠っている、その力を使って大勢の人々を助ければ、いずれお前は自らの望む者になれるだろうと告げた。

声が聞こえたのはその1回きりだったが、その言葉に嘘はなかった。

やがて聖女の力が発現し、その力を少し使って見せるだけで、周囲は簡単に彼女を讃え熱狂することをラナは知った。

お姫様というより勇者のような扱われ方をされるのには不満だったが、かの声の「望む者になれる」という言葉を信じて、ラナは我慢して請われるままにあちこちで魔獣を退治してやった。

そして魔獣がほとんどいなくなった頃、ようやく念願の王宮に迎え入れられることになったのだった。

煌びやかな宮殿、美しいドレスに宝石、大勢の使用人。

高貴な人々も皆聖女ラナに感謝し、頭を下げる。

夢にまで見た生活に、ラナは有頂天だった。

素敵な王子様も、その周りの優秀な側近候補達も、すぐ可愛いラナに夢中になった。

残念なのは全員に幼い頃からの婚約者がいることだったが、お姫様の物語に意地悪な悪役はつきものである。

周りの人々は皆聖女の味方だったし、ラナが少し誘導してやるだけで王太子達は簡単に自分の婚約者を厭うようになり、やがて大勢の貴族達の集まる場で彼女達の罪を暴き、婚約を破棄してくれた。

単に身分の高い家に生まれたというだけで、苦労もせずラナが欲しかったもの全てを持っていた高貴なお嬢様方が、一介の漁師の娘に成すすべもなく居場所を奪われた姿を見て、彼女は陶然となった。

婚約破棄された令嬢達はそのまま何も言わずに田舎に逃げ出してしまったので、悪役が見苦しく悔しがるところを見られなかったのは残念だったが……

かくして邪魔者を追い払った聖女ラナは、王太子ロバートと婚約を結び、1年の時を待って結婚することとなった。

王太子妃教育こそあまり進んでいないものの、聖女であるというだけで価値があるラナは多くの政務や教育過程が免除されていたし、王太子の側近となったナイジェル、リチャード、クリストファーも、新たな婚約者を迎えることなく、ロバートとの結婚後もラナを愛し最優先で支えることをそれぞれ誓ってくれている。

ラナの前に広がる世界はほとんど完璧だった。

※※※※※※※

誰も彼もがラナを愛し、大切にしてくれる。

稀に小言を言ってくる教師や、扱いに不満げな顔をする使用人もいたが、ラナが「何だかあの人に嫌われているみたいなの」と悲しげにロバート達に零せば、いつの間にかそういう者達は王宮から姿を消していた。

しかし、あまりにも波風が立たない日々というのも、それはそれで退屈なものだ。

だからかもしれない。例の4人の令嬢がどうしているだろうかとふと気になったのは。

どこかの田舎に引っ込んだきり、彼女らの噂は王都に全く入って来なかった。

新しい婚約者ができた様子もないし、外国に行ったという話も聞かない。

彼女達の家門も、彼女達にかけられた罪状こそ一切認めなかったものの、婚約破棄については特に突っかかってくることもなく、その後も静観を貫いている。

ラナはロバートに、4人の令嬢を成婚の祝賀会に招待しようと持ちかけた。

この結婚を期に、過去のわだかまりは捨てて彼女達を寛大な心で赦したいと思う、2人の幸せを一点の曇りもなく皆に祝ってほしいのだと言えば、ロバートはラナの優しさに心を打たれてすぐに招待状を手配した。

招待状には「同伴者必須」と明記したから、相手のいない彼女らは、身内にでもエスコートしてもらうしかないだろう。

最近は魔獣被害の余波でどこの領地も台所事情が苦しいと聞いているから、彼女らの装いは祝賀会の主役である自分の足元にも及ばないはずだ。

4人が出席すれば、幸せな自分の姿を見せつけてやれるし、欠席したらしたで、夜会のお喋りの格好のネタになってくれるだろう。

高貴なお嬢様方が自分と元婚約者達の栄華を見て悔しがる姿を思い浮かべてラナは含み笑いを漏らした。

そして、祝賀会の夜。

真珠をあしらった桃色のドレスに身を包んで、ひときわ可憐な装いのラナが、いつも通り王太子と側近に囲まれて皆より一段高い席から会場を見渡していると、入り口の方でざわめきが起こった。

目をやれば、かの4人の令嬢が、あの断罪の夜から1年振りに王宮に姿を現しホールへと入場するところだった。

………男装した2人がドレス姿の2人をエスコートして。