軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『聖女』

ざわざわ、と生徒たちは緊張しているのか、あちらこちらで私語が飛び交っていた。

最高学年の生徒たちとペアを組んで行われる、魔獣討伐の演習の授業。

緊張していることも理由の一つだろうが、誰が誰と組んだのか、も皆が気になっていることだった。

特に、カディルは姉であり王太女であるリルムとペアが組めたのか否か、は生徒たちの注目の的であった。

「殿下、リルム様からご連絡は…」

「…ない!」

イレネが寄り添い、心配そうに問いかけても不機嫌全開で答えるカディル。

そんなに不機嫌にならなくても、とイレネは思うが、もしかしたらギリギリまでリルムが連絡しておらず、今日ペアを指名するかもしれない。その可能性も充分有り得ることだ。

色々と考えてみても、イレネはリルムではないから確たることも言えないし、と悶々としていたが最高学年の生徒が集合場所にやってくると、ペアに指名された生徒たちはわっとそちらに駆け寄っていく。

イレネはカディルの見送りも兼ねて、別の先輩にペアとして指名されているから先輩の元に駆け寄ろうとした時だった。

「ねぇ、見て…!」

どよ、と更にどよめきが大きくなった視線の先、イレネとカディルもつられるようにそちらに視線をやると、みるみるうちにカディルの目が驚愕に見開かれた。

「何で…」

集合場所でペア同士が合流するのが通常なのだが、別に学園で待ち合わせをしようとも問題は無い。

「どうして、あの女が」

リルムと歩いてきたのは、フェリシアだったのだ。

フェリシアはいつものように、黒のレースの手袋を着用し、普段は下ろしている髪をシンプルにひとつに纏めて高い位置で結び、ポニーテールにしている。

ぎり、とカディルはきつく拳を握り、二人を憎悪の籠った眼差しで睨みつけているのだが、睨まれている方は一切気にしていないどころかカディルとイレネを視界にすら入れていない。

「おい、リルム!」

全く気にもされないことに苛立ったカディルが大股でリルムの方に歩いていき、進行を止めるかのように立ちはだかってびし、と指をさした。

「どうして俺に声をかけない!」

「…どうして、って…」

ねぇ、とフェリシアと目配せをしてから、リルムは当たり前のように微笑んで答えた。

「あなたより、フェリシアが強いからよ。わたくしたち最上級生は、これである程度の成績を出さなければならないけれど、トップを取るための最善の人選がフェリシア。それだけよ?」

「はぁっ?!」

そして次に、カディルはフェリシアをギリギリと睨みつける。

「貴様も、リルムに言われたからとて簡単に引き受けるな!そのパートナーの立場を今すぐ俺に譲れ!」

「…何故でしょう?わたくし、お父様に『王太女殿下のお力になるように』と申し付けられておりますし…何も悪いことはしておりませんが」

「俺に華を持たせることをしないから、結果として悪いことなんだよ!馬鹿なのか?!」

「えぇと…」

心底困惑しています、という顔で、フェリシアは更に言葉を続けた。

「王太子殿下でもないあなたに、どうしてそこまでしなければならないのです?」

その言葉に、イレネはカッとなってカディルの前にずい、と歩み出てきた。

「フェリシア!貴族としてその発言はいかがなものなの?!」

「……あら、何か間違っておりまして?」

「間違っているわ!カディル様にあなたのお役目、早々に譲りなさいよ!」

「カディル殿下がわたくしよりも強いと、そう仰るの?」

「当たり前でしょう?!女であるあなたよりも、殿下の方がお強いんだから!」

フン、と息荒く言うイレネだが、フェリシアもリルムも迷惑そうな顔は崩さない。

というか、このパートナー制度は、あくまで上級生が下級生を選ぶ、というものであり『選ばれた側が誰かに華を持たせるために譲る』というのはルール上有り得ない。

むしろそれをしたら、そもそもの制度の意味すらなくなってしまう。

選んだ側にも失礼だし、選ばれた側に譲れというのも意味が分からない。リルムにはフェリシアから早いうちにおねだりをして、更にリルムはフェリシアからのパートナーに選んでほしいというおねだりを聞き入れたから今、こうして一緒にいるというのに。

フェリシアがお願いしなくとも、リルムはきっとフェリシアを選んでいた。リルムの母からだって、フェリシアに対して手紙が来て、『演習の時はよろしくね』と言われていたくらいなのだから、どうやってもリルムが自らの意思でカディルを選ぶなんて有り得ない。

「わたくしよりも、殿下が…強い、ねぇ?」

それ以上にフェリシアが腹立たしいのは、自分よりもカディルの方が強いと断言したイレネのことだ。

「…まぁ……それならそれで、証拠をお見せくださいな」

「証拠ですって?!はっ、バカバカしい。女が男よりも強いことがあっては」

聞き終わるよりも早く、フェリシアはとん、と一度だけ足で地面を叩いた。

「うわぁぁぁぁっ?!」

地面が変化し、鋭い土の棘へと変化し、カディルの喉、目、耳、鼻を狙うように、襲いかからんとしているところ、寸前でぴたりと止まっている。下手に動けば刺さるであろうという距離、長さで止めた。

精密すぎるコントロールに、イレネもぱくぱくと口を開け閉めしながら驚いている。

「な、ん…」

「これに反応できないのに、殿下がわたくしよりも、強いと?」

予備動作なしで魔法を発動させることは、フェリシアにとって容易いこと。

イラッとしたからではあるが、そこまでカディルを盲信するなら一度それを砕いてやろうと思っただけだが、予想以上にカディルもイレネも呆然としている。

やり過ぎてしまったか、と思ったけれど二人は今、何が起こったのか理解出来ていないようだった。

だから、イレネは大きな声で悲鳴をあげた。

「きゃぁぁぁぁぁ!!何をするんですの、フェリシア嬢!!」

「……うるさいこと」

「こ、これは王家に対する暴力行為ですわよ!」

「どうして?」

「どうして、ですって?!」

「この程度反応出来ずして、王太女殿下と共に演習に参加するおつもりでいらしたの?」

イレネにもカディルにも、フェリシアの言葉とリルムの心底呆れた眼差しが突き刺さった。

他の生徒たちもこれにはしん、と静まり返ってしまい、フェリシアの操る魔法の正確さと精密さには感嘆の吐息すら聞こえてくるかのようだった。

「すご…」

「あれだけやれるなら、フェリシア嬢が選ばれて当たり前だよな…」

「負けていられないわよ!」

「そうだ、王太女殿下とフェリシア嬢は確かに強力なコンビだが、最初から負けるつもりでいてはならん!」

そして、数秒置いて驚きや褒め言葉の後に互いを奮い立たせるような言葉を掛け合い、『おー!』と鼓舞し合ってパートナー同士気合いを入れ直している。

結果的にイレネが煽ったせいで、カディルは能無しのように見られてしまうこととなってしまったのだ。

「イレネ…、貴様、どうしてくれるんだ!」

「で、でも!殿下、まだ策はございます!」

「何があるというんだ、言ってみろ!」

「わたくしは、『聖女』としての力に目覚めたのです!この力があれば、魔獣は討伐せずとも祈りによって存在を無きものとすることだって可能となるのですよ!」

「何…?」

イレネの悲鳴のような訴えに、それまでのざわめきがまた静かになった。

「(聖女…。あぁ、この辺りであの人、聖女の力が覚醒したのね)」

そういえば、冤罪祭りになったのはこの後だったし、イレネとカディルが急速に親密になっていったのもこのあたりだったか、とフェリシアは思い出す。

しかし、前回は王妃が健在でとんでもない勢力を有していたことも彼らには追い風となったのだが、果たして今回はどこまでやれるのか。

クス、とフェリシアは笑ってからリルムへとそっと耳打ちした。

「リルム様、イレネ嬢があれほど申しておりますし…同行くらいは許可して差し上げたらいかがでしょう?」

「……えぇ?」

「力が本当なら、王立騎士団の負担も減らせるでしょう。聖女としての地位を確立していただき、カディル殿下は『聖女』ともっともっと仲睦まじくしていただいていれば、リルム様も色々と楽になるのではないでしょうか」

「…まぁ、そうね。でもね、フェリシア」

「はい」

「聖女の能力がどれほど有用性があるのか…。さほど価値が無ければ…」

「その時は、適当に使って捨ておけばよろしいのではないでしょうか」

「あら」

意外だ、と言わんばかりにリルムはきょとんとした。

「自分からあれほど主張したんですもの。さぞや素晴らしき能力をお持ちなのだと思いますわ」

追撃に、と言わんばかりににっこり笑顔でフェリシアは言う。

それに対してリルムも微笑んで頷き、リルムはようやく視線をイレネへとやった。

「イレネ嬢、その『聖女』とやらの力。皆に証明できるかしら」

「は、はい!勿論ですわ!」

「そう。なら、付いてくることは許可しましょう。カディル…は、まぁ、好きにしたら?」

リルムが言い終わるあたりで、フェリシアは指をぱちん、と鳴らして土の棘をさらさらとした状態へと変化させ、消した。

ふん、と意気込んでいるイレネを見て、フェリシアは愉しそうにほくそ笑む。

「(前回見れなかった聖女とやらの力、お手並み拝見ね)」