軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ねじ曲げられていくストーリー

おかしい。

何をどう考えても、おかしい。

今の学院に、フェリシアがいるわけがないのに。

そもそもフェリシアは王太子妃筆頭候補として、王妃に気に入られて、学院には来れないようにある意味軟禁されているはずだというのに。

王妃だってそうだ。どうして側妃が堂々と表舞台に出てきているのか、しかも王太子ではなく王太女とは意味が分からない。

「あぁもう…っ!」

ギリギリとイレネは爪を噛む。

今、ここにいるイレネは巻き戻る前、フェリシアに無いこと押し付け罪を作り上げた、『聖女』様。

「何で……何で、悪役令嬢が入学してるの!」

だん!と自分の部屋の机を叩いて、心を落ち着けるために大きく深呼吸をする。

だが、苛立つ気持ちと焦りは消えてくれない。

「フェリシアは、学院に入学なんかしないのに…どうして?しかもSクラスだなんて…本当にどういうこと?!」

有り得ない、と思っているから今を受け入れることができない。

有り得ないことなんて、この世にはないということも理解せず、イレネは『有り得ない有り得ない』とぼやき続ける。

だが、カディルとの婚約が早かったのは幸いだな、とすぐに思考を切り替えた。恐らく、何かが起こったせいで王妃が失脚してしまったらしいけれど、大切なのは今なのだから、と切り替えたい。しかし思考を切り替えようとするとチラつくフェリシアの存在が、イレネの思考を纏めることをひたすら邪魔しにかかってくる。

「あぁもう…っ!」

イレネが考えなければならないのは、フェリシアだけではない。

カディルがどうにかして王太子に任命されなければ…と思っていたけれど、国王自らが王太子としない、と明言している以上は覆らない。

しかも、それが言われたのは学院に入学する前というから、どう足掻いても取り返しはつかない状態だ。

「本当にどういうことなのよ!」

悪役令嬢が予定にない行動をしている。

ゲームならば、悪役令嬢のフェリシアは、今頃学院におらず、ひたすら王太子妃教育に勤しんでいるはずなのに。

「何が……どうなって…っ!」

少なくとも、今の状態はゲームの進行においてバグが発生していると言わざるを得ない。

そもそも、悪役令嬢であるフェリシアの存在そのものがバグなのかもしれない。

だが、悪役令嬢がいないと、後の聖女たるイレネの存在は霞んでしまう。

今、どうにかしてうっかり不意打ち事故に見せかけてフェリシアを消そうとしても、いいや、消したところで後の進行に影響が出てしまうことは明らかなのだ。

「良いわ……カディルが私以外を見ないように、って…あの人この前フェリシアを何かおかしな目で見ていなかった…?」

まずい、とイレネは本能的に思ったのだが、よくよく考えるとこれである意味いいのかもしれない。

悪役令嬢フェリシアに心奪われたカディルを、聖女であるイレネが目を覚まさせて本来の婚約者として返り咲き、フェリシアを処刑すればなんら問題ないのでは…と思い返した。

「……やだ、問題ないじゃない」

ほ、と息を吐いてイレネは微笑んだ。

「そうよ、最終的に辻褄が合えばいいんだわ!カディルの心がフェリシアに向かっていたとしても、私が取り戻せばいいだけの話なのよ!」

そう言いながら自分を納得させ、イレネはメイドにお茶を入れてもらう。

何やら機嫌の良さそうなイレネを見て、学院で良いことがあったのだろうか、と予測しながらメイドはイレネに問いかけた。

「お嬢様、ご機嫌でいらっしゃいますね」

「そう?」

「はい、何だか楽しそうにしていらっしゃいますもの」

「そうねぇ…」

何かバグが発生してしまったのかと、不安になった気持ちと苛立ちが解消されたのだから、確かに良いことがあった、といっても過言ではないのだろう。

メイドに話したところで理解なんかされるわけがないし、できるとも思っていない。

イレネはにっこりと笑い、緩く首を横に振った。

「ううん、なんでもないの。もしかしたら、夢が叶うかも、って想像していたことが現実になりそうなのが嬉しいの!」

「まぁ……それは大変ようございました」

イレネの可愛らしい微笑みに、メイドはつられたようにして微笑んだ。

裏に抱えているものに決して気付かれないように、イレネは注意深く行動する。そして、フェリシアのことは奈落へと突き落とした上で、ヒロインとして全てを手に入れてやると、内心ではほくそ笑んだ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「本当にお前、エーリカの子か?」

国王の執務室に入って視線があって開口一番、カディルに投げ付けられた台詞。

「な、っ」

「お前は、本当に 頭(・) が(・) 悪(・) い(・) 」

はあぁ、と深い深い溜め息とともに遠慮なくぶつけられた言葉に、カディルはぐっと黙り込んでしまう。

ヘンリックの傍らに立っていたベナットは、笑いを堪えることに必死だった。

あれほどまでにフェリシアを散々馬鹿にして、下に見ていたのが、今やこうも堕ちてしまうとは。

婚約者として宛てがわれたイレネについて、推薦したのはフェリシア。家柄の調査など諸々をしたのは、一新されたカディルの教育係や大臣など、複数人が関わっている。

きっとこれならば大丈夫だろうと判断して婚約式を執り行い、学院に入学してさぁこれから、というときだったのに。

「お前もそうだが、イレネ嬢も、フェリシア嬢に絡まんと死ぬ病気か何かか?」

「は?!」

「王太女殿下より、報告が上がっているのですよ。殿下…少しあれこれやりすぎではありませんか?あまり評判が良くありませんねぇ…」

「な、なんで!」

何で知っている!と慌てるカディルに対して、ヘンリックは冷めた目を向ける。

「素行に問題のある者を放置できるわけなかろう。お前は既に王妃の誕生日パーティーで醜態をこれでもかと晒しておる。しかし、これに関しては父である我が責任だ」

「っ、だ、だから…父上はリルムに!」

「口を慎め」

カディルにぴしゃりと言いつけて、ヘンリックは嫌そうに顔を歪めた。

「リルムはとんでもない速度で王太女教育を終えかけている。あのような才女であることを見抜けなかったことが、この俺の、最大の罪だ。正妃の子だからと、カディルばかり贔屓した。正妃だからと、エーリカばかり、贔屓した。それが俺の、何よりの罪だ」

えぇそうですね、とベナットは心の中で呟く。

お前が王妃を前回あれほど優遇し、フェリシアを引きずるようにして王宮に連れ去り同然に呼び寄せ、婚約させてからはカディルの至らぬ点の尻拭いをさせ続けた。

そうだと知っていたら、もっと早くに婚約破棄でも何でもさせたのに、と悔やんだりしたが、巻き戻った今は容赦などしないと、決めている。

カディルに対しても、国王…否、王家に対しても。

何かあれば国外に亡命でもなんでもしてやる、と心に決めているが、きっとフェリシアはそうさせないだろう。フェリシアはとっても強いし、仕返し(嫌がらせともいう)をしないと、愛娘はスッキリしないだろうから。

前回できなかった学院生活も楽しんでほしいし、今回は友人もできたのだから、目一杯、二回目を楽しんでもらいたいのだ。

そして、しっかりと前回の反撃もせねばならない。

今、せっせと種まきをしているところだが、カディルが思っていない方向に爆走し、イレネと婚約しているにも関わらず、フェリシアに対して無駄にちょっかいかけてきているのだから手に負えない。

だから、国王に対して先手を打って ち(・) ょ(・) っ(・) と(・) し(・) た(・) アドバイスをさせてもらった。

「カディル、これをやろう」

ひら、と一枚の紙がヘンリックからカディルへと手渡された。

「え……?」

内容を見たカディルは、真っ青になる。

「何ですか、これ」

「お前がもうフェリシア嬢にちょっかいかけないようにするための念書だ」

満面の笑顔で言うヘンリックを、信じられないというような顔で見たカディルは、またその紙、もとい書類へと目を通した。

「……フェリシアとは、婚約も結婚もできない……って」

「する必要はございませんでしょう?」

ヘンリックに代わり、ベナットが笑顔で言う。

カディルは、きっとどこかで慢心していたのだろう。イレネと婚約したけれど、別にイレネは側妃にすればいい、正妃はフェリシアにできると思い込んでいた。教育係は全員解雇され、一新されたにも関わらず調子の良いことをいつも考えてしまっていたせいか、この内容にはショックを受けたようだ。

しかもベナットからも釘を刺されてしまったから、これで本当にフェリシアと結婚することは出来ないと理解できたらしい。

「それから、フェリシアより陛下に伝言がございます」

「ほう」

「殿下の行動は目に余るばかりか、我がクラスの友人たちにも迷惑がかかっておりますので、どうにかしてください……だそうです」

「次に何かあればカディルを幽閉してやるから、安心しろ。そう伝えてくれるか、公爵」

「かしこまりました」

「報告は…そうだな、見張りを付けようか。リルムに負担をかけるわけにもいくまいよ」

呆然としているカディルを差し置いて、話はあっという間に完結してしまった。

母であるエーリカが幽閉されてから、何もかもがうまくいかない。全てがカディルの手の平から零れ、残ったのは王子という肩書くらい。

しかも、王位継承権もあってないようなものだから、もうどうしようもないと悟るには、今のこの会話で十二分に理解できた。

これから内容を修正すればいいから、もう大丈夫だ。

これから、どうすればいいのか。

イレネとカディルの思いは真逆となってしまい、更にストーリーからかけ離れていってしまうことに、双方気付かず、年月は過ぎていくこととなる。