軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十四話 幕引き

□■<ジャンド草原>

<ジャンド草原>での戦いは、終結を迎えようとしていた。

五万五千を数えたフランクリンのモンスター軍団は【破壊王】の手によって半数を倒され、残る半数も態勢を整えた<マスター>と未だ健在の【破壊王】によって徐々に掃討されている。

また、フランクリンが量産ではなく一点物として作成したモンスターも、【RSK】はレイ・スターリングに、【DGF】と【KOS】は【破壊王】に倒されている。

そしてこの<ジャンド草原>だけでなく、ギデオン市街地においても戦いは終わりを迎え始めている。

モンスターとPKはほぼ駆逐され、フランクリンを除けば皇国側の<マスター>で最大戦力であった【奏楽王】はデスペナルティになっている。

もはや大勢は決し、フランクリン率いる皇国側は敗北が確定していた。

普通ならば皇国側の生き残りが撤退して戦闘が終了するところだが、まだ戦いは終わっていない。

なぜなら皇国側の戦力は“スーサイド”シリーズ。

死ぬまで前進し殺し続けることを細胞に刻み込まれた生物兵器。

それゆえに、その全てを掃討するため王国の<マスター>は戦い、【破壊王】の<エンブリオ>バルドルは砲火を放ち続けている。

王国の<マスター>から少し離れた場所にいる“スーサイド”シリーズは、今このときもバルドルの砲火によって地形ごと爆砕されている。

そんな様子を、一人の<マスター>が眺めていた。

「凄いですね、レイさんのお兄さんの<エンブリオ>」

一人の<マスター>――ルークはバルドルの砲撃を眺め、花火大会を見物する客と大差ない様子で戦場を眺めていた。

もっともそれはルークに限らず、この戦場にいる下級の<マスター>のほぼ全員に共通する。

多数の上級の<マスター>が結界から脱してこの戦場に到着した時点で、彼らルーキーは下がることになったのだ。

足手まといを下がらせる……と言うよりはこれまで頑張ったルーキーがデスペナルティにならないように、という上級側の思いやりの気持ちが強かった。

ルークにしても、《ユニオン・ジャック》やリズの援護抜きでは上級の戦闘速度にはついていけないため、戦線離脱も致し方なしと考えていた。

「大火力砲撃か……でも、お兄さんの<エンブリオ>にしては少し 合っていない(・・・・・・) 気もするけれど……」

そんなことを呟きながらも、ルークはバルドルの桁違いの力と性能は実感していた。

あれだけの砲撃を撃ちながら、レイには一発も当てなかった精密性もさるものだ。

そう、この戦場のルーキーの中で、唯一レイだけがまだ戦っている。

この戦場を駆け抜けて、首魁であるフランクリンの元へと向かった。

ルークはレイと【破壊王】――シュウが何事かの会話を交わす様子を見ていた。

それは声に出すものではなく、闘技場から出る前にシュウがレイに手渡した【テレパシーカフス】によるものだったが、ルークには理解できた。

レイがフランクリンの座すパンデモニウムに向かうことを望み、シュウがそれを助けることを決めたのだと。

二人は共に迷いなく、己の意思で己のすべきことを決めていた。

それがルークには少し眩しかった。

その余韻を見るように、ルークは今もバルドルの砲撃を眺めている。

「……?」

ルークはふと、あるものに気を留めた。

それは今もバルドルの砲火が降り注ぐ爆心地の只中。

「あれは…………」

爆炎と土煙の中に、見覚えのあるシルエットがあった。

そのシルエットはすぐに土煙の彼方に消えたが……それがパンデモニウムを目指して駆けていたことがルークには理解できた。

何のために向かっているのかも、理解できた。

ルークは溜息をつく。

それが自分の手落ちだと分かっていたから。

放心している 彼女(・・) を放置してきたがゆえだと分かっていたから。

けれど、同時に思う。

「悩むよりは……その方がいくらか上等ですよ」

少しだけ、良かった、と。

◇◆◇

□■<ジャンド草原>魔獣工場パンデモニウム上部

今宵のテロ計画の首魁であるフランクリンは笑みを浮かべていた。

もはや形勢は逆転し、数で勝っていた改造モンスターも、圧倒的な破壊とギデオンを護らんとする意思によって駆逐されかけている。

それでも、フランクリンは笑っていた。

自らの<エンブリオ>であるパンデモニウムの上で一人の<マスター>――レイ・スターリングと相対しながら笑っていた。

「【破壊王】が大活躍の真っ最中。満身創痍の君は後ろで寝ていても良かったんじゃないかねぇ、レイくぅん?」

フランクリンはレイが現れたことで「やはり【破壊王】の動きの半分は囮目的か」と推測した。

【破壊王】の派手な動きはフランクリンの耳目を引きつけ、レイがここに降り立つのを助けるためだ。

あの砲撃の中でシルバーに乗ったレイが巻き込まれずに辿りつけたのがその証拠。

付け加えれば、あの砲撃で<ジャンド草原>の各所にセンサーとして配していたモンスターも潰されている。

ついでにパンデモニウム周辺の映像中継用のモンスターも潰されているので、フランクリンとレイが相対している姿は誰にも見えていない。

「しかし、【破壊王】か……」

そして、【破壊王】がレイを助ける理由足りえる情報もフランクリンの手元にはあった。

それは名前。

《叡智の解析眼》を有し、【破壊王】のステータスを読み取ったフランクリンには【破壊王】の名前も見えていた。

シュウ・スターリングという名前が。

「一つ質問するけどねぇ、レイ・スターリング。シュウ・スターリングという<マスター>はお知り合い?」

「兄だ」

その返答にフランクリンは納得して頷くと共に……苦笑した。

「<超級>の兄姉とメイデン使いの弟妹か。似たような話はあるものだねぇ」

「……?」

「それで? お兄さんの手を借りてわざわざここまで何をしに来たのだい?」

「用件は三つある」

「あらそんなに。一つは分かってるけどねぇ」

フランクリンはパンデモニウムの床上の一点を指差す。

そこには幼い一人の少女――アルター王国の第二王女であるエリザベートが気を失ったまま倒れている。

「あの子を助けに来たんだろう? あの子を抱えたままじゃ君のお兄さんもパンデモニウムを壊せないからねぇ」

パンデモニウムにとってエリザベートはアキレス腱。

彼女がいなくなれば、【破壊王】は容赦なくパンデモニウムに直接砲弾を撃ち込む。

それが分かっているから、フランクリンもレイにエリザベートを救出されないように注意を払っている。

「で、二つ目は?」

「お前に聞きたいことがある」

「聞きたいこと、ねぇ」

それはフランクリンにとって想定内のことだった。

単に救出に来ただけならば、シルバーに乗ったまま不意をついて掻っ攫えばいい。

また、フランクリンを倒すのが目的ならば奇襲すればいい。

しかし、わざわざシルバーを降りて、悠長に会話を交わしている以上、会話に目的があると考えるのが当然だった。

「何が聞きたい? お勧め狩場? 私が把握している<UBM>の生息地? それともうちの国の内情とか?」

言いながらそのどれでもないだろうとフランクリンは考えたが。

「お前……何でこんなことをしたんだ?」

その問いも、フランクリンの想定の中にはなかった。

「何でって……覚えてないのかい? 私の目的」

「お前の目的は王国側の<マスター>が無様に負けギデオンが蹂躙される様を見せて、王国の人々の戦意を挫くことだろ」

「何だ、覚えているじゃないか」

「俺が聞きたいのはそんなことじゃない」

「じゃあ、何かねぇ?」

ヘラヘラとしたフランクリンの問いかけに、レイはその目を真っ直ぐ見ながら問い返した。

「……お前、ティアンの人達を何だと思ってる?」

その問いに、フランクリンは虚を突かれ、それから得心がいったようにポンと手を打った。

「ああ。それはあれかな? この<Infinite Dendrogram>が世界か遊戯かって話かな?」

質問を返したフランクリンに、レイは頷く。

「そうかぁ、そうかぁ……アハハハハハハハハ!」

呵呵大笑。

顎が外れたようにフランクリンは大笑いして、息が切れるほど笑って、

「――ここを ただのゲーム(・・・・・・) だと思っている奴は阿呆か説明を真に受ける子供ね」

笑みの一つも浮かべない顔でそう言った。

「ゲーム? ゲームの訳がない。リアリティ、モデリング、そして生命。システム周り以外のあらゆる面がゲームの域を超越している。はっきり言って、如何にも これはゲームです(・・・・・・・・) と言わんばかりのシステムさえなければゲームには見えない」

「…………」

「これが“何”かなんて私も知らない。私の予想は国家……いや、世界規模の仮想世界構築計画の人体実験フェーズじゃないかと考えているけれど、最先端を飛び越えすぎてるからその可能性も低いか。ひょっとすると誰かが言っていたように“本物”の異世界か、はたまた宇宙人の介入かもしれないねぇ」

「……じゃあ、この世界に生きる人達は何だと思う」

「人間と区別できないほど高度な精神を持ったAI。あるいは本物の異世界人。もしくはそれらに準ずる“生命”。少なくとも単純なビットの点滅ではない」

フランクリンはそこで一度言葉を区切り、

「だから言っておくわ。私はたとえ此処が地球であろうと、同じ状況で、同じ条件で、同じ能力があれば……今回の計画を実行していた。たとえ何千人死のうとね」

そう断言した。

「君が聞きたかったのはそういうことじゃないかねぇ、レイ君。メイデンの<マスター>である君は、私が何でこんな酷い計画を立てられたのか不思議だったんだろう?」

「どうして、そんなことができる……!」

フランクリンの答えを受け、レイが心から絞り出すような声で問う。

それはこの世界の生命を本物の生命であると認識した者が、起ころうとした悲劇に対して心から問う言葉。

だから、フランクリンもそれに本音で答えた。

「もう負けたくないから。

振り回される側に回りたくないから。

自由に生きて、自由に作って、自由に世界を楽しみたいから。

誰にも私を縛らせない。

私の生き方を遮る者は、何であろうと蹂躙すると決めているから」

そこでフランクリンの言葉は終わった。

レイの問いに対して、それで全てを答えた、と。

それは曖昧でフランクリン以外の誰にも理解できないかもしれないが、フランクリン自身にとってはその言葉に全てがあった。

レイもそれを理解し、そしてもう一つ理解する。

負けないためにあらゆる悲劇を辞さないフランクリンだからこそ、絶対に負かさなければならないのだ、と。

フランクリンはその生き方を貫くためなら、あらゆる悲劇を起こしかねないのだから。

「さて、二つ目の用件は終わりだねぇ。で、三つ目は?」

口調を元に戻したフランクリンが、レイに問う。

「……それは、ッ!」

その問いに対してレイが答えるよりも早く――パンデモニウムが揺れた。

それはパンデモニウムが動いたわけではない。

“砲撃”を受けた衝撃で、パンデモニウムが揺れたのだ。

「【破壊王】の攻撃? こっちにはまだお姫様がいるのに? 痺れを切らしたのかね、ぇ?」

フランクリンの口から疑問の音が漏れる。

なぜならばフランクリンの視線の先……先ほどまで王女が倒れていた場所に、王女の姿がなかったからだ。

レイは何もしていない。

フランクリン自身が注意を払っていたのでレイではないと確信している。

レイ以外の何者かが、気配を消しながらエリザベートを救出し、彼女を連れて脱出したのだ。

そういうことができる者に……フランクリンは心当たりがあった。

「<超級殺し>……なるほどねぇ、“君も”囮だったわけだ」

フランクリンがレイの動作や会話に集中している間に、<超級殺し>が王女を救出する。

それが最初から打ち合わせてあったのか、それともレイの動きに<超級殺し>が乗ったのかはフランクリンには判断できなかった。

どちらであっても意味はない。

パンデモニウムは砲撃から身を守る盾を失った。

無数の砲火がパンデモニウムに突き刺さり、その巨大な工場の如き巨体を打ち崩していく。

「……強烈だねぇ」

激しく揺れるパンデモニウムの上で、設置された手すりに身を預けながらフランクリンは何とか立っていた。

レイがいるために砲撃はパンデモニウムの上部には飛んでこないが、それでも間もなくパンデモニウムは沈むだろうとフランクリンは理解していた。HPだって残り一割もない。

「…………」

自分が倒されることも、パンデモニウムが破壊されることも、計画の想定内には収まっている。

フランクリンが倒されたとしても、プランDは発動する。

フランクリンは既に中央闘技場の地下にスペード……戦術級爆弾を搭載した自爆特化型モンスター【 NDW(ニュークリアドラグワーム) 】を潜ませている。

プランDが発動すれば、【NDW】は地上まで浮上し、会場にいる人間を皆殺しにする。

中央闘技場というギデオンの有用な資源を潰すことから、最も成功率が高くも最も優先度の低い計画であるプランD。

フランクリンが散れば、それが発動するはずだった。

だが……。

「もう対処されている……」

フランクリンは溜息をつく。

虎の子の最終プランの要であるスペードは、既に消滅していた。

「そんな予感はしていたけどねぇ」

フランクリンを倒すために現れたのが、想定していた二人の<超級>ではなく第三の戦力【破壊王】だったこと。

それにより、中央闘技場の二人の<超級>が浮いた駒になったことから、この結果は予想していた。

地下深くに潜航しているスペードは通常ならば対処不可能だが、<超級激突>で見せた迅羽の必殺スキルならば問題なく対処できる。

今日の<超級激突>以前に迅羽の手の内を知っていればまた別の手も打てただろうが、後の祭り。

一品物のMVP特典で作成したがゆえに二体目が作れないモンスターを、【DGF】に続いて更にもう一体無駄に失った形だ。

そして、プランDが潰えたことで、フランクリンの勝ちの目はなくなった。

ここでフランクリンが倒れれば、フランクリンの完全敗北となる。

せめてフランクリンだけでも逃亡すべきだったが……。

「……もう遅いか」

巨体ではあっても戦闘力をほとんど持たないパンデモニウムはバルドルの砲火によって全壊寸前。

<ジャンド草原>に配した《キャスリング》持ちのモンスターも全滅している。

そして、フランクリンもじきにデスペナルティになるだろう。

なぜならば――パンデモニウムの上部をフランクリンに向けて駆けるレイの姿があったからだ。

騎乗する時間も惜しんでか、シルバーには乗らず、己の脚で駆け抜けている。

「やっぱり三つ目の用件は私を倒すことだったわけだ」

レイとフランクリンの距離が縮まっていくが、フランクリンにそれを阻む手はない。

手持ちにしていたオーダーメイドのモンスターは使い切った。

最早フランクリンの身を守る者はいない。

(仕方がない。ここは負けよう。けれどいずれ……)

フランクリンは諦めと共に己のデスペナルティとその後を決意した。

――その時、一体のシルエットがパンデモニウムの上に飛び出してきた。

「ッ!」

「え?」

その姿を、レイは驚きと共に、フランクリンは疑問と共に捉えた。

――それは半壊した<マジンギア>。

全身の装甲が剥がれた機体に、無理やりに氷の装甲を纏わせている。

それは、ユーゴーが騎乗し、コキュートスで武装した機体だった。

『……………………』

<マジンギア>は人であれば既に命がないほどのダメージを負っていた。

それはルーク達との戦闘によるものだけではない。

戦闘の後、そして自らの意思で《地獄門》を解除し、ルークと<マスター>達を送り出した後に受けた傷。

【破壊王】のバルドルが撒き散らす破壊の爆炎の中を駆け抜けてきたことで負った傷だ。

前日のゴゥズ戦よりも激しいダメージを負ったソレは、しかしてまだ動いていた。

『アァァァァァァァァァ!!』

<マジンギア>を駆るユーゴーの雄叫び。

騎士を演じるユーゴーならば決して発さない声と共に、<マジンギア>はレイの前に立ちはだかった。

そう、まるでフランクリンを守るように、フランクリンとレイの間に立ちはだかったのだ。

◇◆

ユーゴーは今宵、この時に至るまで、迷い続けてきた。

計画に参加すべきか否か。

己の行いが正しいのか否か。

昨日轡を並べたレイと敵対していいのか否か。

だが、それらの迷いは、ルークに敗北し、彼の言葉を聞き、フランクリンがプランCを発動させたことで……さらなる迷いに埋もれていく。

その迷いの中で、ユーゴーは《地獄門》を解いた。

このままではいけないと思ったとき、咄嗟に解いてしまった。

だが、その行いすらも正しかったかどうか分からない。

その行いは眼前の悲劇を止めることはできるが、間違いなくフランクリンにとってはマイナスだったからだ。

だが、そもそもフランクリンが嘘をつき、ギデオンを滅ぼそうとしていることを思い出してまた迷い……。

他の<マスター>と共に<ジャンド草原>に向かったルークから放置され、やがて【魅了】の効果時間も過ぎて、それでもまだ迷い続けて……。

ユーゴーは考えることを……迷うことをやめた。

考え、迷い続ける限り自分は一歩も動けないと悟ったから。

そうしてあらゆる迷いと自問自答を捨て去ったとき……一つだけ答えが残った。

己がどうしたいかという最後の答え。

最後に残った答えは、最初からユーゴーの……ユーゴーをアバターとするユーリの中にあった……たった一つの答え。

それは……。

◇◆

『――“姉さんは……わたしが守る”ッ!!』

ユーゴーの言葉と共に、<マジンギア>が動き出す。

『ここで、君を、倒して!!』

砕け散りそうな躯体をコキュートスの力で無理やりに繋ぎとめながら、氷の機兵が突撃する。

昨日の友であり今日の敵であるレイに向けて、一心不乱に。

「――来い、ユーゴー」

レイは自らと相対するユーゴーの意思を受け止めた。

そうして【聖騎士】と【高位操縦士】、共にメイデンの<マスター>である両者が激突する。

西門に続く二度目の、そして最後の交錯。

それは、時間にすればほんの僅かな時間だった。

『《モーター……スラッシュ》ッ!!』

<マジンギア>が右腕を振りかぶり、氷の十字剣をスキルの発動と共に振り回す。

『……ッ! クッ!』

だが、その瞬間に右腕を覆っていた装甲が剥がれ落ち、右腕のパーツが脱落する。

振るわれた右腕が弾け飛び、明後日の方角へと飛んでいく。

その右腕は、西門での交錯で《復讐するは我にあり》のカウンターを受けた腕。

“竜魔人”の《トライホーン・グランダッシャー》を受けた腕。

数多の強撃を受けたその腕は耐久限界を逸し、今ここにスキルの発動に耐え切れず自壊したのだ。

『まだッ!! 《モータースラッシュ》!!』

不発に終わった右腕に間髪を入れず、左腕での《モータースラッシュ》。

逆水平に振るわれた氷の刃が、レイの体を断裁すべく迫る。

「このままだと <マジンギア>(あれ) の装甲は抜けない。ならッ……!!」

対して、レイは右腕に絡んだ武器を――黒大剣のネメシスを自らの右腕から切り離し――空へと投げた。

そして、身を屈めることで氷の十字剣の鋭利な刃を回避しながら――あえて自らの右腕を刃の軌道に 差し出した(・・・・・) 。

「ッ……!!」

氷の刃によって切断される右腕。

多大なダメージが、出血が、レイを襲う。

だが、その切れ味の鋭利さゆえに切断の衝撃に体が流されることはなかった。

「……疾ッ!」

そのまま屈めた身を跳ねさせて、<マジンギア>の懐に入り込む。

同時に、空に投げた黒大剣のネメシスが再びレイの元へ舞い戻る。

だが、右腕は切断され、左腕は炭化しているレイにネメシスを掴むことはできない。

――否。

「……!!」

『なッ!?』

レイは黒大剣の柄を――“噛み締めて”受け止めていた。

「……!!」

『応!!』

レイは無言。

だが、ネメシスはその意思に応える。

レイは黒大剣の柄を噛み締めたまま首を振り回し、黒大剣の刃を<マジンギア>のコクピットを覆う氷の装甲へと突き立てる。

貫くには至らない。

だが、それでも構わなかった。

『――《復讐するは……我にあり》ッ!!』

ネメシスのスキル発動の文言が放たれる。

その直後、カウンタースキル《復讐するは我にあり》は発動し、氷の装甲に右腕の切断の倍化ダメージを打ち込まれる。

瞬間、氷の装甲は消滅する。

そして阻むものがなくなった黒い刃が――ユーゴーの心臓へと突き立つ。

『あ――』

ただその一言のみを残して、ユーゴーは光の塵になって消失した。

同時に、ユーゴーの<エンブリオ>であるコキュートスが消え、残骸と化した<マジンギア>がこれまでのダメージによって砕け散った。

「ッァア!!」

ユーゴーとの決着。

だが、レイの足は止まらない。

ネメシスを口から落とし、一心不乱に目標目掛けて駆け抜ける。

その先にいるのは、フランクリン。

逃げることもせず……、否、ユーゴーが消えた瞬間から逃げることを忘れたように立つフランクリンだ。

「フラン、クリン……!」

右腕を失い、ネメシスを落としながらも、フランクリン目掛けてレイは駆け抜ける。

今このときのレイは、そのためにここに来たのだから。

それこそがレイがここに来た目的なのだから。

王女の救出だけではない。

フランクリンとの問答だけでもない。

そして、フランクリンを倒すことそのものが目的でもない。

それは、ずっと前から決めていたことのために。

――“子供をこんな目に遭わせた奴は一発ブン殴ってやる”って

――俺は、アンタを、ブン殴る。首を洗えよ、<超級>

“ただ一度、フランクリンを殴り飛ばす”ために。

「フランクリィィィィンッ!!」

それまでの全てを清算せんと強い意思を込め、レイは炭化した左腕でフランクリンの右頬を殴り抜いた。

「がッ!?」

激突の衝撃で脆く炭化した左腕が崩れていく。

だが、拳がフランクリンの顔面を捉えた瞬間に拳から――【瘴焔手甲】から焔が噴き出し、フランクリンの全身を包みこんだ。

フランクリンは一瞬で人間松明へと成り果てる。

フランクリンの身に【救命のブローチ】は既になく、《ライフリンク》の相手もいない。

煉獄の炎は瞬く間に下級以下と自ら言わしめたフランクリンの生命(HP)を削りきり――霧散させた。

「……、ッ」

ルールに則って消滅する寸前、フランクリンはたった一言だけ、

「……次は、私達が勝つわ」

そう言葉を遺し……光の塵となった。

王国にとって悪夢にも似た今宵の計画を画策し、実行し、数多の悲劇と皇国の勝利を生み出さんとした一人の<超級>は……今ここに一人のルーキーの手で光の塵となった。

それがこの事件の結末だ。

あるいは、この結末は決まっていたのかもしれない。

一人の<超級>(フランクリン) が、 一人の子供(ミリアーヌ) を利用しようとしたときに。

一人のルーキー(レイ) が、 一人の子供(ミリアーヌ) を助けようと決意したときに。

決まっていたのかもしれない。

◇◇◇

フランクリンの消滅から二十分後。“スーサイド”シリーズ最後の一体が撃破され、ギデオンでの戦闘は終わりを迎えた。

フランクリン旗下のPK―― 死亡(デスペナルティ) あるいは敗走。

“スーサイド”シリーズ――完全殲滅。

“クラブ”【奏楽王】ベルドルベル――死亡。

“スペード”【NDW】――死亡。

“ハート”【高位操縦士】ユーゴー・レセップス――死亡。

“ダイヤ”【大教授】Mr.フランクリン――死亡。

決闘都市大規模テロ計画“フランクリンのゲーム”――終結。

To be continued