軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグE 計画

□■???

それは戦争が終結した日のこと。

異空間とでも言うべき場所の、まるで 宇宙船(・・・) の一区画のような場所に十一の人影が集まっている。

人影……とは言うが、人とかけ離れた姿の者もいる。

外見で彼らに共通項を見出すのは難しいが、彼らは姿形などよりも深い部分で共通した特徴を持つ存在だ。

彼らの名は管理AI。

またの名を、<無限エンブリオ>。

この<Infinite Dendrogram>の世界を管理する存在。

十三種十四体。

管理AI一号から十三号までの内、十種十一体が今この空間には集まっている。

不在なのは【邪神】についているドーマウス、戦争が終結した途端に鬱憤を晴らすように出かけたラビット、そしてアバターを持たずこの空間に入らないバンダースナッチ。

それ以外は、勢揃いだ。

かつての【グローリア】投入時よりも大勢が集まっている。

集合の理由は王国と皇国の戦争が終結したから……ではない。

戦争を含めた数多の手段で彼らが進めてきた計画が……一つの 節目(マイルストーン) に到達したからだ。

それを確認するように、透明な膜に包まれた女性……ハンプティが告げる。

「本日明朝、カタ・ルーカン・エウアンジェリオンのニーズヘッグが第七形態に進化したわ」

戦争中に様々な出来事が起き、成長があり、激情があり、その果てにカタとニーズヘッグが自らの枷を外して<超級>へと至った。

それはこれまでも数多あった<超級>への進化の一つだが……特別な点が一つある。

「これで、 七五体目(・・・・) 」

一〇〇の<超級エンブリオ>を生み出す計画の、四分の三が完了したということだ。

「あと一クォーター。 あの地球の人々(彼ら) を迎え入れて、内部時間五年半でこれならば順調ですね」

『準備に二〇〇〇年掛かっているがな……』

ハンプティの報告に眼鏡の青年――レドキングが安堵したように述べ、それに対して球体芋虫――キャタピラーが疲れたように零す。

環境担当であるがゆえに、ラビットほどではないが二〇〇〇年働き詰めだったのが彼だ。

それゆえ、ここまで辿り着いたことにも思うことはあるのだろう。

「増加ペースも考えれば、内部時間で あと一年(・・・・) といったところか?」

「我々の予測とも大きくは外れていない、三号」

「クイーンにしては良い読みだね~」

肉食系獣人――クイーンの推測を、双子――トゥイードルダム・トゥイードルディーが肯定する。

あと一年以内には、一〇〇の<超級>が揃うと彼らは確信している。

二〇〇〇年……否、この世界に至るまでの時間も考えれば、瞬きのような短い時間。

それで、彼らの……彼らの<マスター>だった者達の宿願は叶う。

そのことに、感慨を抱く者達も多い。

『ようやくここまで来た』。そう思わぬ者はいない。

「それで……0号はなんて?」

喪服の女性――ダッチェスが問いかける。

0号……この場にはおらず、彼らとも 違う(・・) <無限エンブリオ>。

そんな存在からの伝言を預かっていたのは、様々な怪物の要素を持つ人型――ジャバウォックだ。

「――< インフィニット(・・・・・・・) ・ デンドログラム(・・・・・・・) >の起動準備は済んでいる、とのことだ」

それは彼らが整えた舞台、ゲームとして送り出した 機器(ハード) と同じ名。

だが、それならば起動準備などという文言は出てこない。<Infinite Dendrogram>は既に世に広まっている。

ならばそれは、同じ名だが違うものなのだろう。

あるいは、彼らにとってはそちらこそが本物と言うべきか。

「あとは当初の予定通り、稼働に必要な存在……十四体目が揃えば計画は果たされる」

「……本当に、『1足りない』で随分と遠回りをさせられたものね」

『この世界に不時着する原因となったあの事件さえなければ、とも思うがな』

「ここに来たときに受けた砲撃の当たりどころが悪かったのもありますね」

「思い出させるな、レドキング。腸が煮えくり返る」

自分達の長きに亘る計画の達成まであともう一息という状態。

彼らの間でも、そんな過去の苦労の思い出話が交わされる。

「それでさ、他の連中の思惑についてはどうなのかなー?」

そこに、二足歩行の猫――チェシャが言葉を挟んだ。

順調だが、しかしそれは他の厄介事がなければの話だと言うように。

「具体的に言うと、舐めた真似をしてくれた【天竜王】についてだけど」

チェシャの言葉に、他の管理AIも表情を歪める。

その中で、ジャバウォックが溜め息を吐きながら答える。

「奴を根本的に解決する手段がない。生憎と、我々は死後に干渉できる能力が欠けている。私やハンプティの手札でも、同じ土俵では分が悪い」

「まぁ、分かってるけどさ。消せるならとっくに消してるからね……。あのペルセポネあたりが至れば話も変わるだろうけど」

しかしそうなったときには彼らの目的が成就しているため、もはや【天竜王】に構う必要もない。

根本的に解決できないし、解決できる頃には解決する意味がない。

だからこそ、契約を結んでノータッチだった。

「奴と、【海竜王】、そしてアレは消そうとすれば土台を壊すことになりかねない。ゆえに、ある程度は放置するしかないが……」

「それで今回のような真似をされたのでは、不利益の方が大きいのではないか?」

『とはいえ、奴も態々『<SUBM>二回分の仕事をする』と言っているのだ。今回だけはそれで手を打てばいいだろう。再びグレーゾーンを踏むようならば、干渉できぬように奴の手駒を駆逐するだけだ』

キャタピラーの言葉に何体かの管理AIが頷く。

ひとまず、今回の【天竜王】についてはそれで一旦は棚上げすることになった。

「次、【水晶】の残党についてだけど……」

「脅威としては然程でもないだろう。決戦兵器と呼称される存在も我らに及ばず、ましてや度々破壊されて数を減らしている。むしろ、程よいカンフル剤だ」

クイーンの意見は乱暴だが、しかし正しくもある。

今回の戦争期間中にかつての決戦兵器と<神話級UBM>が悪魔合体した存在が暴れていたが、それも<マスター>達によって打倒されていた。

決戦兵器の中には<マスター>に利用されているものもある。

各地に残る先々期文明要素と同様、<マスター>が利用し成長する糧になるならばいいという考えを持つ管理AIはクイーン以外にもいた。

「……そうねぇ」

アリスは何か言いたげだったが、反対はしなかった。

ヴィトーを攫い、一時期行方が知れなくなった――管理AIの感知範囲外にいた――ことで彼女は警戒していた。

しかし、その後はなぜか仲良くしている様子だったので一先ず様子見することにしたらしい。

「次だ。【邪神】については、王城から出たことでセーフティが一つ外れた。しかし、アレ自体は我々が用意したものではなく、偶発的に生じていたものに近いからな。メインは今後もドーマウスが担う。それならば、あと一年や二年は問題なく保つだろう」

「今回、可能なら根治しておきたかったけどねー」

双子のその発言に、管理AI達も頷く。

ただ、チェシャは苦い顔をしていた。

「……そのために王都を犠牲にするケースは僕達も了承していなかったけれど?」

「皇国が勝ち、尚且つ余計な横槍が入らなければ荒野かどこかで安全に処刑コースだったでしょうけれどね」

負けた上に横槍が入りまくったので、もはや意味のない仮定だ。

双子やアリスは残念そうにしている。

ただ、同じく皇王の提示したこのプランに賛同していたハンプティはそうでもなさそうだ。むしろ、どこか満足そうでもある。

その様子に何体かは『こいつ 推し(シュウ) の戦争での活躍を見たいから皇王の背中を押しやがったな?』と察していた。

「というか、問題なのはその 横槍(・・) の方だよね? カルディナはいい加減にどうにかすべきじゃないかな?」

チェシャの言葉に、同意の声と溜息が続く。

「どうにか、ね。依代が国家元首という立場にあるならば直接排する訳にはいかないわ。本体に関しては言うまでもなく。この世界で生まれた<エンブリオ>達の仕様を考えれば、少なくともこちらが達成するまではあちらのシステムも壊せないのよ」

「とはいえ、アレは暗躍しすぎているがな」

「こっちの予測より進化数が少なかったのって彼女のせいだと思うなー」

ハンプティと双子、そして他の管理AI達もカルディナ……それを隠れ蓑にする存在への苦言を呈する。

「依代については彼の結果を見てからでもいいんじゃないかしら? 私達が直接始末をつける訳にはいかないけれど、ティアン同士で殺し合う分にはよくある話だもの」

「小間使いか。しかし、依代を潰したところで、本体が無事ならばファトゥム達は<終焉>を起こす計画を続行するように思えるがな……」

「それも含めて、まだ見ていましょう」

アリスの言葉に、他の者も不承不承ながら頷く。

ある意味では、【邪神】以上に彼らにとっては手を出しづらい相手ではあるのだ。

「だが、依代の件を置くとしてもカルディナにはまだ問題がある。<SUBM>だ。次は【ゲート・オブ・シックス】だろう? 投下場所がカルディナに決まっていたはずだ」

残る二体の<SUBM>、その中でも最強最古の【エレメンタル・オーダー】は契約によりレジェンダリアに投下される。

性質上、可能な限り<マスター>の力が強まった時期に送り出すべき存在であるため、あれの順番は七番目を予定されている。

必然的に、次は【ゲート・オブ・シックス】を未だ<SUBM>が投下されていないカルディナに落とすことになる……が。

「正直に言えば、賛同しかねます。各国に一体ずつ投下するという前提でしたが、アレとカルディナの相性は決して良くない。【ゲート・オブ・シックス】は本領を発揮できませんし、カルディナ側はあっさりと片付けかねない。連中は新たな<超級>を生み出すことなく、自前の<超級>達でさっさと終わらせてしまうでしょう」

レドキングは眼鏡のブリッジを押し上げつつ、難しい顔でそう述べた。

「超級武具は強力です。いずれ、選別の時にも大きな助力となりうる。それを、こうまで引っ掻き回してくれたカルディナにあっさり渡してしまうのも業腹というものです」

投下役を担うレドキングとしては、散々好き勝手したカルディナに『ボーナス』を渡すのは不服であった。

彼と同じ考えの者も多く、どうすべきかと問う視線が担当のジャバウォックに向けられる。

「<SUBM>投下については、一つ考えがある」

対して、ジャバウォックは動じず、既に考慮済みとでも言うようにあっさりとそう答えた。

「どうする気?」

「原則を守りつつ、少しばかりズラす。 ペナルティ(・・・・・) と ボーナス(・・・・) だ」

◇◆

そうしてジャバウォックは自らの考えを説明し……そして反応は二つに分かれた。

それはペナルティなのか、それはボーナスなのか。

あるいは、 逆(・) なのではないか。

チェシャを始め、そう考える管理AIもいたが……結局は『そちらの方がより多くの進化を見込める』という双子の演算が決め手となり、多数決でジャバウォックの案は賛同を得た。

この決定に対し、チェシャは『 あの国(・・・) 、ものすごく災難だなー……』と遠い眼をした。

To be continued