軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一五七話 乱戦

□【聖騎士】レイ・スターリング

日が落ちて周囲が夜の色に変わると同時に、大地が揺れた。

地震、地属性魔法、巨大な何かの足踏み。いずれとも違う大地の震動。

これは――巨大な何かが地中深くから上がってくる余波だ。

「来るぞ!!」

直後、地中から急速浮上した無数のワーム。

その姿は俺が最初に相対した強敵、【亜竜甲蟲】に酷似している。

モンスターによる突然の奇襲、それ自体は奴のやりそうな手口だ。

しかし……。

「お得意のワーム軍団か、いや……!」

出現したワームの群れが俺達を襲うことはなかった。

そも、《殺気感知》スキルが作動しなかった。

出現してきたワームには害意がなく、攻撃モーションもない。

奇襲ですらないならば、こいつらは何のために?

その答えは、すぐに齎された。

『GYULALALA……VOAAAA!?』

巨大なワーム達は……一匹残らず 内側から弾け飛ぶ(・・・・・・・・) 。

「な!?」

突然の出現、突然の自爆。

だが、その爆発も然程火力のあるものではなく、この場にいる<マスター>の一人として殺すことはできない弱いものだ。

何のために出てきて、何のために死んだのか。

「……?」

その答えは……爆発と共にワーム達の体内から散乱したモノが示している。

それは――奇妙な装置の取り付けられた無数の【ジュエル】。

「あれは…… モンスターの(・・・・・・) 解放装置(・・・・) !?」

散乱する機械は、かつてギデオン各地に仕込まれ、マリーが回収したものと酷似している。

スイッチ一つで大量のモンスターを展開する、テロのために作られた代物。

事ここに至り、奴が何をしたのかを理解する。

あの装置を予めこの<ジャンド草原>に設置していれば、以前の事件でのマリー同様にギデオン忍軍の【隠密】に発見されるかもしれない。

あるいは奴の<超級エンブリオ>であるパンデモニウムから吐き出そうとしても、こちらの集中砲火で戦力を出し切る前に潰されるかもしれない。

だからこそ、奴は準備した。

【隠密】の目の届かない地中深くに身を潜めたワーム達の体内にまとめて隠す。

そして、ワームを地上に飛び出させると同時に爆散させ、こちらが対処する前に解放装置を<ジャンド草原>中にばら撒いた。

決戦の場で大量のモンスターを、同時且つ広範囲に展開するために。

それを証明するように、無数の装置が作動して【ジュエル】のモンスターを吐き出す。

真っ先に視界に入ったのは青い液体――統一された種類の スライム(・・・・) 。

「こいつは……!」

そのスライムには見覚えがある。

あの夜の闘技場で見せしめに使われていたモンスター、【オキシジェンスライム】。

かつて見せたあのモンスターを、フランクリンは尖兵として大量投入してきた。

『――――』

「ぐあぁ……!?」

空中から降りかかる【オキシジェンスライム】を浴びて、こちらの<マスター>の装備と肉を溶かされていく。

奴は触れたものを超低温と強酸で侵す。

しかしスライムの弱点であるはずの火を受ければ大爆発し、周囲の大気を吸って即時再生する厄介極まる性質も兼ね備えたモンスターだ。

「火は使うな! 爆発するぞ!」

「街壁の援護部隊にも伝えろ! 火力支援はまだするな!」

俺同様にこのスライムを記憶していたランカーが注意を呼び掛ける。

恐らく、【オキシジェンスライム】は純粋な戦闘力だけではなく、街壁からの援護射撃を封じるためにも展開したのだろう。

奴らの誘爆を警戒しているために、【オキシジェンスライム】以外のモンスターに対しても迂闊に攻撃魔法で狙うことができないでいる。

【オキシジェンスライム】が排除されない間は、市中からの援護射撃は望めない。

だが、スライムへの有効手段である火が通じない【オキシジェンスライム】にどう対応するか。

かつては兄が《破壊権限》で粉砕したが、あれは一種の例外だ。

初手としては凶悪な難敵と言えるだろう。

ただし――通常の攻撃手段でも特定の属性ならば奴らを駆逐できる。

「―― ジュリエット(・・・・・・) !」

「――《 黒死楽団(ブラックウィング) 鎮魂歌(・レクイエム) 》」

――直後、数多の黒い球体が【オキシジェンスライム】の群れを襲う。

黒い球体は触れた端から【オキシジェンスライム】を削り取り、誘爆を引き起こすこともなくその総体を消滅させていく。

それは、ジュリエットの放った 闇属性魔法(・・・・・) 。

次々に【オキシジェンスライム】が駆逐されていく。

「おー、やっぱり有効だねー」

「スライムは体積イコールHPだからな!」

チェルシーとマックスは迫る恐竜型モンスターを撃破しながら、ジュリエットを見上げそう述べる。

彼女達が言うように生物のHPそのものを削り取る闇属性のスキルならば誘爆させず、再生の隙を生むことなく【オキシジェンスライム】を撃破できる。

「我は生命の雫を枯らす者なり(スライム退治は得意だよ! 任せて!)」

ジュリエットは風属性魔法で【オキシジェンスライム】の<マスター>達への接近を阻みながら、マルチタスクの闇属性魔法でその数を減らしていく。

言葉通り、かなり手馴れているようだ。

しかし、【オキシジェンスライム】の数は多い。ジュリエット一人で駆逐するには時間が掛かるだろう。

此処にもう一人闇属性魔法のエキスパート……死音がいれば話は違っただろうが、彼女は<遺跡>の戦いで既に退場している。

そして、相手はスライムだけではない。

あのスーサイドシリーズほどじゃないが、恐竜型のモンスターも数多くいる。

その中には……。

『――VAAALUGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

――赤い《竜王気》を纏い、燃える拳で<マスター>を殴り殺す巨大な恐竜もいた。

「あれは……【 DGF(ダイノアース・ギガ・ファランクス) 】か!?」

【DGF】はかつて俺を殺しかけたフランクリンの改造モンスターの一体。

あの恐竜は因縁の相手に酷似していたが……。

『いや、名前が違う。【DG…… K(・) 】? 何の略だ?』

確かに……よく見れば違う。二足歩行の恐竜なのは同じだが頭部の形状が違い、更にはあれよりも腕部の形状が大きくなっている。

恐らく、他の【竜王】を素材にしたのだろう。

だが、放つ威圧感はあの【DGF】と同等だ。

そして巨体に見合わぬステップで次の<マスター>に肉薄。

「ッ!? 《ハイ・ヒート・キネティック・レジスト・ウォール》!!」

狙われた<マスター>は海属性の魔法職だったらしく、熱と物理両方への高い減衰効果を持つ複合防御魔法を展開して備える。

『VALAAAAAA!!』

しかし防御壁に接触する寸前、拳に纏われていた紅炎が――紫電へと切り替わった。

「ぁ!?」

直後に防御壁と【DGK】の拳が接触、罅が入りながらも防御壁は拳を阻む。

だが、防御壁を素通りした雷光が<マスター>を襲い、感電させ、消し炭へと変える。

瞬時に攻撃属性を切り替える拳……Kは Knuckle(ナックル) か!

「それの素材元の<UBM>の特典欲しかったYOー!?」

【 DGK(ダイノアース・ギガ・ナックル) 】の攻撃を見ていたのか、どこかからハインダックさんの声が聞こえた。

彼のマイペースな声で僅かに空気が弛緩しかけるが、状況はそれを許さない程にマズい。

同型の改造モンスターである【DGF】は兄だからこそ一撃で星にしていたが、熟練の<マスター>を幾人も倒し、マリーのアルカンシェルの貫通弾すら容易く弾いていた攻防一体の怪物。

そして、【DGK】も発する《竜王気》と見えているステータスからアレと同格……いや、アレ以上に攻撃性能が高いと見受けられる。

間違いなく、今展開されている改造モンスターの中でも最強の一角だ。

「退いてろ! オレの【積雲】ならあの防御もぶち抜ける!」

「マックスちゃん! いける!?」

「任せろ!」

イペタムに乗って戦場を駆けるマックスが、愛用武器の名刀百選【積雲】を引き抜いて【DGK】へと接近している。

マックスが持つ『自身の刀の攻撃力を集束する』名刀ならば、《竜王気》の防御を突破して斬ることができるだろう。

だが……。

『――OOoooOOOoooo!!』

――その行く手を阻むように、巨大な蒼い液体の壁が噴き出す。

「!?」

地面に散乱した状態の解放装置から後続として解放されたモノ。

それは今ジュリエットが倒して回っている【オキシジェンスライム】と同じ色……否、同じモノだが、サイズだけは大幅に異なる。

その銘は、【 KOS(キングサイズ・オキシジェン・スライム) 】。

やはりあの夜の戦いで見られたフランクリンの改造モンスターだ。

それが、見えるだけでも 五体(・・) はこの戦場に展開している。

「くっ!」

イペタムが急転回し、青い液体の壁を回避する。

接触すれば大惨事になる相手、物理攻撃に特化したマックスでは分が悪い相手だ。

【KOS】は【DGK】をカバーするように蠢いており、【DGK】に有効な攻撃力の持ち主を近づけないように立ち回る 壁役(タンク) の動きをしていた。

今回はモンスター同士の連携も仕込んできたということだ。

付け加えるなら……どのモンスターも 俺を狙ってこない(・・・・・・・・) のもプログラム通りなのだろう。

「ジュリ! 必殺スキルで纏めて吹っ飛ばせない!?」

「困難……!(ちょっと無理かも……!)」

ジュリエットの《 死喰鳥(フレーズヴェルグ) 》は闇と風の混合魔法攻撃。

しかし複合であるがゆえに、闇属性単体のときと違って風でスライムを散らしてしまう。

散らされても【オキシジェンスライム】は再生するだろうし、逆にこちらの被害は拡大するだろう。

そして【DGK】に至っては五体の【KOS】を遮蔽物にしながら高速で駆け回り、巨体でありながら的を絞らせないようにしている。

全体的に、前回の戦いよりもモンスターの知能が上がっている。

あの戦いから数ヶ月が経ち、強くなったのは俺達だけではないということだ。

『まずいな……!』

ネメシスの言葉に、内心で頷く。

恐らく、これはフランクリンにとっては前哨戦。

展開しているモンスター達も、兄が見たという奴の切札を温存した上でこちらの戦力を調べ、削るための戦力に過ぎない。

だが、それでも生産系の<超級>が在庫一掃とばかりに出してきたモンスター達だ。

前回からの 強化(アップデート) も含め、準<超級>数人を含む此方の戦力でも押されかけている。

戦場に分散している【オキシジェンスライム】のせいで街壁からの援護射撃が望めないのも厳しい。

「せめてあっちの大戦力、【DGK】を落とさないと……!」

ジュリエットが闇属性魔法で【KOS】を含む【オキシジェンスライム】を減らしていってはいるが、それでも壁役がいなくなるまでにどれだけこちらが削られるか。

いっそ俺がシルバーで肉薄し、ストックを消費してでも倒すべきかと考えていると……。

「オッケー! ならこっちの切札使っちゃうYO!」

そんな言葉が、どこかから聞こえてきた。

声の主は……小型の恐竜を相手に戦っていたハインダックさんだ。

「え? 切札?」

「まぁ、俺のじゃないんだけどNE! 出番だZE! 相BO!」

ハインダックさんはそう言って《リーダーブレード》で光属性にした剣を頭上で回す。

あたかもライブでサイリウムを振るファンのような仕草の彼が視線を向けた先にあるのは……ギデオンの街壁。

夜闇の中で目を凝らして見れば、そこには非ランカーの<マスター>ではなく……ギデオン忍軍の忍者達が何人も待機していた。

「 偽装解除(・・・・) !」

「「「偽装解除!!」」」

そして彼らの掛け声と共に、ギデオンの街壁の一部が剥がれ落ちる。

否、それは壁ではなく…… 布(・) だ。

創作の忍者がよく使う、壁と同じ色をした姿隠しの布。

隠密系統の《隠形の術》や《変化の術》を組み合わせ、光学と気配に更なる隠蔽性を持たせたもの。

その術を十数人分重ねて壁に見せかけて 偽装していたもの(・・・・・・・・) が、 立ち上がる(・・・・・) 。

それは……。

『――ゴゴゴガガガガ――』

――街壁と同等以上……数十メテルの威容を誇る 重鎧の巨人(ロードウェル) だった。

To be continued