軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一五三話 首狩りVS首狩り 後編

■数年前・地球

それは何度目かの『計画』が失敗に終わったときのこと。

アトゥーム(ファトゥム) 、 ザカリー(ザカライア) 、そして ウィルフリッド(ヴォイニッチ) 。

世界が大きく変わりかねない『計画』を繰り返す悪友達は、ウィルフリッドの持つ別荘の一つで今回の反省会をしていた。

「今回は惜しかったですね。中々見応えはありましたが……」

アトゥームとウィルフリッドが向かい合って椅子に座り、ザカリーがアトゥームの後ろに立っている。

三人の定位置であり……アトゥームに気安いウィルフリッドをザカリーが睨んでいるのもいつも通りだ。

「そうだね。あの巨体、物理攻撃を無効化し、戦車砲すら弾く軟体の体、そして目から放つ殺人光線。流石の彼女も手こずっていたよ。実に楽しかったね」

ザカリーの淹れた紅茶を飲みながら、アトゥームは本当に楽しそうにそう述べる。

アトゥームの手元にはタブレット端末があり、先刻記録された映像が映し出されている。

女子中学生ほどの体格の日本人の女が、全長数十メートルの巨大ナメクジと戦っていた。

「最終的に海まで 殴り飛ばされて(ノックバックされて) いましたけどね」

「むしろ彼女に殴られて死ななかったスラッグゴーンを褒めるべきだよ」

彼らはまるで面白い映画でも観た後のように話す。

映画と違うのはこの映像が現実ということだろう。

始まりは、アトゥームが自国の飛び地の視察中に正体不明の卵のような物体を発見したこと。

面白そうだからとウィルフリッドに連絡を取り、彼の持つ研究所の一つで調べていた。

しかし研究所に侵入者があり、その際に発生した火災の熱が原因で卵が孵化。

瞬く間に急成長して暴れ始め、侵入者と闘い始めたというのが事の顛末だ。

繰り返すが、 現実(リアル) の話である。

「しかしそんなスラッグゴーンがまさか……海に落ちて死ぬとは」

ザカリーが苦渋の顔でそう呟く。

映像の中、海に落ちた巨大ナメクジはそのまま溶けるように消滅していた。

ちなみに、スラッグゴーンは後から巨大ナメクジにつけた名称である。『 ナメクジ(スラッグ) は逝った(ゴーン) 』が三人の内の誰のセンスかは置いておこう。

「まぁ、あんな生物だからね。常識とは違うんだろう」

「むしろ見た目通りの生態だと思いますよ? 見た目がナメクジですし。 海(塩水) に落ちたらそれは死にますよ」

なお、見た目云々の話をするとスラッグゴーンを殴って海までノックバックさせた侵入者は女子中学生だったが……それは棚上げしよう。

「悪かったね、ウィルフリッド。今回も多額の資金を使わせてしまった」

「秘匿研究施設がまた一つ潰れただけです。回収したスラッグゴーンの生体組織を研究すれば幾らか生化学分野での新技術が作れそうなので、回収はできますよ」

ウィルフリッドは世界屈指の巨大グループ……<シェムハザ>を若くして継いだ男だ。

グループの業種は多岐に渡り、今回のような出来事で得たデータが回り回っていずれかの傘下企業にとって益となる。

それもまた、このアトゥームと組んでいる理由の一つだ。

「むしろ、今回もこの世のものとは思えないものが見れただけプラスです」

尤も、彼がアトゥームとつるむ最たる理由は 面白い(・・・) からだ。

およそこの世の全てを得られる地位に立つ彼だからこそ、この世のものと思えぬ存在を次々に引き寄せるアトゥームに夢中になり、彼の計画を援助し続けている。

ウィルフリッドにとってアトゥームは、尽きない御馳走の盛られた器のようなもの。

無論、友人としても面白いことが付き合う前提ではあったが。

なお、そんな関係だからこそ、ザカリーは主人にとって必要だが不敬なウィルフリッドを睨んでいる。

「それにしても、彼女達は相変わらずですね……」

「まぁ、あのトンデモが『ジャンル違い』らしさだよ」

『ジャンル違い』。それは彼等の間では特別な言葉だ。

ウィルフリッド自身は人間離れした脳の機能を持っている。情報処理能力においては人類最高峰だろう。

ザカリーは過酷な訓練と肉体改造によって人間離れした身体能力と戦闘技術を持つ。

そしてアトゥームは、今回のような異常事態に遭遇しやすく……そんな異常事態でもこうして何事もなく生き延びる天運を持っている。

だが、そんな三人も『人間の範囲で』といった枕詞がつく。

彼らが相対した侵入者や巨大生物ほど、世界の常識から外れていない。

彼らから見ても世界から外れた者達を、彼らは『ジャンル違い』と呼んでいた。

「とはいえ、この世界は 世界の常識(ジャンル) から異なるものも数多く内包している」

繰り返し流れる映像記録を見ながら、アトゥームは呟く。

その目に規格外への恐れはない。

ならば、意欲か、憧憬か、挑戦心か……そのいずれかはウィルフリッドにも分からない。

「だからこそ、この世界の変革を欲するなら……そうした『ジャンル違い』を御するか、あるいは超えなければならないのかもしれないね」

しかし感情の籠もった親友の言葉は、ウィルフリッドの記憶にも深く刻まれた。

◇◆◇

□■<王都アルテア>・王城内部・通路

「…………嘘でしょう?」

その魔剣の意味を、放ったカシミヤ以上に、傍目で見ているダムダム以上に、ヴォイニッチは理解する。

(在るのなら斬れる……? 斬れている……!?)

存在の定かならぬものを、在ると定義して、斬った。

本当にそんなものが在ったのかは、ヴォイニッチですら知らない。理解していない。

『糸』などと呼称したが、本来形などなかったのかもしれない。

だが、カシミヤはそれを視たと言い、在ると定義して……斬った。

斬れぬはずのものを斬る《防虚殺し》を用いて、斬った。

ならば、それを為したのは【星刀】か。

――否。それを振るうだけで斬れるようなものではないはずだ。

(あの刀も、<エンブリオ>も、 補助輪(・・・) ……)

この一斬すらも……仮定であり、 過程(・・) に過ぎぬ。

いつか【星刀】がなくとも、イナバがなくとも、【抜刀神】の力だけでカシミヤはこれに至るだろう。

あの【衝神】が《パラドックス・スティンガー》を編み出したように。

否、否、否。 そんな程度(・・・・・) ではない。

眼前の現象を目の当たりにしたヴォイニッチだからこそ、確信する。

カシミヤは、眼前の 天才(天災) は……。

ジョブのある世界(・・・・・・・・) でなくとも(・・・・・) ―― いずれこの魔剣に(・・・・・・・・) 辿り着く(・・・・) 。

「……ハハッ」

乾いた笑いがヴォイニッチの喉から零れる。

理解した。理解してしまった。

ヴォイニッチだからこそ、リアルの地球においても表の世界に存在しないはずのものを数多見てきた彼だからこそ……理解できる。

(彼は……『 ジャンル違い(・・・・・) 』だ)

かつて自分達が計画の中心に据えた存在。

あるいはその計画を叩き潰した女傑。

そして、この世界から連れ出さんとする軛に囚われた神。

『日常』という 世界の常識(ジャンル) からはみ出した怪物共。

それらの一種になりかけている…… いずれそうなる(・・・・・・・) 存在が、今目の前に立っている。

<超級>や超級職など、最早そんな括りの話ではない。

ヴォイニッチの眼前にあるのは――いつかリアルでも越えねばならぬモノの一つだ。

「……よく分かりました」

ゆえに、ヴォイニッチは覚悟を決める。

「これも運命と言うべきでしょうね……皮肉ですが」

事ここに至れば、仕様がない。

残機はなく、眼前には超えるべき壁。

ならば、もはや後も先も知らぬこと。

議長が自分一人に任せたのが悪いと開き直る。

テレジアの誘拐が叶わずとも良い。

あるいは、これから最悪の事態で彼女が死んでも仕方がない。

今回の計画が破綻してもしょうがない。

きっと、友人達ならば理解してくれるだろう。

この 挑戦(・・) には……それだけの意味がある。

即ち……。

「――全力で君を倒す必要があるようですね、『カシミヤ』君」

――あらゆる リスク(・・・) を踏まえても、眼前の相手を超えると“愚者”は決断した。

「死合は既に始まっていますよ?」

相対する“断頭台”は『ようやく死地に立ったつもりか』と純粋に問う。

ああ、しかし、言葉のままだ。

「……そうですね」

ヴォイニッチという男は今日、初めて死地に立っている。

だからこそ、その指摘にヴォイニッチは苦笑する。返す言葉もなかったからだ。

残機があったからか、今の今まで本気ではあっても懸命ではなかった。

「……ああ」

ふと、何かを思い出したように左手を前に出してカシミヤに『待った』の所作をする。

「少しだけ待って欲しい」

「?」

それでカシミヤが止まった――剣を抜かなかったことを確認して、ヴォイニッチは手を下ろす。

そして……。

「そこの君」

ヴォイニッチはカシミヤから視線を逸らし……ダムダムの方を見る。

「へ?」

「これ、戦いが終わって私が死んでいたらオーナー……パトリオットに渡して貰えませんか? 手間賃はこちらで」

そう言って金銭の入った袋と……ボックスから取り出した一本の刀を投げ渡した。

その刀に、カシミヤの方が驚く。

「その刀は……」

「分かりますか? 名刀百選【雨垂】。使用者の得る経験値を吸って性能が向上する刀です」

生産武具としては最上位の品の一つ。

それを、ヴォイニッチはダムダムを介してパトリオットに遺そうというのだ。

「【聖騎士】なので本当は西洋剣の方がいいのでしょうけど、見つからなかったので」

それは、彼が<AETL連合>として活動していた頃から経験値を無駄にし続けるオーナーを勿体ないと思い、手を回して手に入れていた代物だ。

「これまでのレベルアップツアーの代金と……まぁ、 友人(・・) への詫びですね」

戦争前は役目のことを考えて渡せなかったが……去る頃には贈ろうと思っていた物。

「……あんた、<AETL連合>とパトリオットを利用してたんじゃ……」

「一から十まで利用していましたよ。けれど、利用していても友情は覚えますし、友人とも思っています。共に過ごした時間も長いですしね。まぁ、向こうがどう思うかは別ですが」

それはある意味では勝手な言葉だ。

しかし、ヴォイニッチにとっては本心でもある。

「彼はリアルの友人達とも違うタイプでしたからね。楽しかったですよ」

それもまた、本心。

「ああ、着服しないでくださいよ。そしたら君を殺しに行きます。それと、ここで無事カシミヤ君に勝ったら君を殺して回収します」

「……自分勝手な奴だなー」

「ええ。私は私の理屈で動いているだけですから。他人の善悪好悪より自身の欲と好悪を優先します」

「それは僕も同じですね」

ヴォイニッチの言葉に、カシミヤが頷く。

「今は――あなたを斬りたい」

「――怖いな」

カシミヤの言葉に、ヴォイニッチは恐怖と面白さが混ざった笑みを浮かべ……。

「それで――どうしてまだ私の首を斬らないのですか?」

それは、当然の疑問。

一端の制止を申し出たのはヴォイニッチだが……残機がないヴォイニッチは本来ならばそれを申し出る前に首を落とされているはずだ。

しかし、それがない。

出来ない理由がある。

「その腕…… もう動かない(・・・・・・) のでしょう?」

ヴォイニッチが言葉と共に見たのは、皇国の準<超級>が封じた左手ではない。

今しがた、定かならぬものを両断した右腕だ。

カシミヤの右の指と手首は……歪に曲がり、赤く腫れあがっている。

「《剣速徹し》はAGIの数値だけ攻撃対象生物のENDに作用し、抵抗なく対象を両断するスキル。当然、君が斬った『糸』とやらは生物ではありません。どころかENDが存在するかも分からないものです。しかし、ああも音がしたということは無抵抗で斬れるものでもないでしょう。ならば当然、 反動(・・) はある」

極まったAGIによる激突は、本人にもダメージが通る。

かつて、クロノの戦いでの鞘打ちでカシミヤ自身もダメージを受けたように。

今、《糸切り》の反動でカシミヤは右手の骨が砕けていた。

(……皇国の準<超級>に助けられましたね)

もしも左手が健在であれば、既にヴォイニッチは死んでいる。

『この戦いに関してはあまり関係がない』と考えたその瑕疵が生死を分けた。

そして、その時間が……ヴォイニッチに勝機を生む。

「腕が動かなくても、死合はできますよ?」

カシミヤの言葉にヴォイニッチの背筋に悪寒が走る。

「でしょうね」

この天才ならば、このジャンル違いになりかけの少年ならば、まともに両手が使えずともヴォイニッチの首を落とすかもしれない。

「だから……」

だからこそ、ヴォイニッチは全てのリスクを呑む。

「君はもう、腕以外も――動かせない」

彼はそう告げた瞬間――自らの特典武具を作動させた。

「――――」

直後、カシミヤの全身が微動だにしなくなる。

まるで、 時間を止められて(・・・・・・・・) しまったかのように(・・・・・・・・・) 。

逸話級特典武具【二乗時縛 ステイシステイシス】。

その装備スキル、《 時は得難く(ロスト) して失い易し(タイム) 》は、『対象の名前』を宣言した後に最低十秒のチャージ時間を必要とする。

その後、発動することで対象をチャージ時間の 平方根の秒数(・・・・・・) ……チャージ時間が一〇秒ならば三・一六秒だけ停止させる。

そして効果時間の終了後、自身がチャージ時間の 二乗の秒数(・・・・・) だけ停止する。

つまり、最低のチャージ時間でも使用後に自分が 一〇〇秒間(・・・・・) 動けなくなる(・・・・・・) 。一分間チャージすれば三六〇〇秒……一時間の停止だ。

チャージ時間を必要とすることも含め、相手を数秒止めるにはあまりにリスクが大きく、さらには同じ相手には日に一度しか使えない。

しかし、それも仕方ない。

これは本来、ソロで使う代物ではない。

味方に 世界最強の砲台(・・・・・・・) がいることを前提に、自らを捨て石にして味方の大技を当てる。そのためにアジャストした支援型の特典武具だ。

単独での使用はおまけのようなもの。

この状況で使えば、数多の敵勢力が入り乱れる城の中で長時間無防備を晒すことになる。

回避手段(・・・・) が一つだけあるが、それとて大きいデメリットを持つ。

しかしそれでもリスクを呑んで使えば……強力無比。

制止の申し出やダムダムやカシミヤとの会話は、使うための時間稼ぎのためでもあった。

ヴォイニッチという男は、無駄な布石は打たない。

自らのデメリットを抱え、隠し、あるいは晒しながら、相手を手玉に取って圧倒する。

それが<超級>、“突然死”のヴォイニッチ。

そして今、ヴォイニッチがアザゼルを振り上げて停止したカシミヤに肉薄する。

常識の外の『ジャンル違い』に対し……この<Infinite Dendrogram>の中で培った彼の力、彼のスタイルを叩きつける。

起動するは麦の穂を刈るが如く、容易く人の頸を刈り取る奥義。

相手の防御力と防御スキルを無効化して首を刎ねるその技の銘は――。

「――――《ハーヴェスター》」

――――その一斬は容易くカシミヤの首を切断した。

【ブローチ】を装備していたとしても意味はない。

急所攻撃に限り、あらゆる守りは意味をなさない。

だからこそ、相手の回避の一切を封じる【二乗時縛】とのコンボは対人確殺。

リスクを呑めば、ヴォイニッチはこれができる。

「な……!?」

眼前でカシミヤの首が飛んだ光景に、ダムダムが息を呑む。

次は自分の番かと、戦慄する。

その思考は当然の帰結だ。

この死合はヴォイニッチの勝利で終わったのだから、彼も終わりだ。

「……ふ、ふふ」

否、勝利で…… 終わったのならば(・・・・・・・・) 、終わりだった。

「フフフフフ……」

勝利したヴォイニッチは、なぜか笑っていた。

それは勝利した喜びの笑いではなく、何かに驚嘆して笑うしかないという顔だ。

笑うヴォイニッチは、カシミヤの身体を見ていた。

「本人の成長……そして、<エンブリオ>は 本人(パーソナル) の写し鏡……か」

それは進化ではなく、成長と呼ぶべきもの。

進化と呼ぶほど劇的ではない。

だが、決定的ではある。

「…… 左腕の瑕疵(・・・・・) は、私だけを利するものではなかったようで」

ヴォイニッチは首が断たれたカシミヤの身体を……その腰から伸びたイナバを視る。

左の補助腕は鞘を掴み――右の補助腕は 柄(・) を掴んでいた。

そして――刃は抜き放たれている。

「鞘を持つだけの補助腕……だったはずですけどね」

ヴォイニッチの首筋から、ツゥっと血の糸が垂れる。

あの瞬間に起きたことは単純だ。

イナバだけで(・・・・・・) 大太刀を抜刀したのだ。

《神域抜刀》だけでなくカウンターの《居合い》も連動した超神速の抜刀を。

(【二乗時縛】の名称指定は『カシミヤ』……『 イナバ(・・・) 』 は含まれない(・・・・・・) )

ゆえにあの瞬間、 補助腕(イナバ) だけは独立して動けた。

この土壇場で成長したのか。

否、『左手が動かなくなった』時点でカシミヤはその可能性を模索していたのだろう。

いずれにしろ今、カシミヤはイナバだけで【抜刀神】のスキルが作動するほどの抜刀を成し遂げた。

更なる成長を、この窮地で遂げたのだ。

(……情報を二つも超えてきましたか)

《糸切り》とイナバのみの抜刀。

ヴォイニッチが王国で集めた彼のデータを二つも塗り替えてこの決着に至った。

カシミヤという天才の凄まじさを、ヴォイニッチは今誰よりも理解していた。

(まったく……大したものですね)

そのことが面白く、可笑しく……笑う度に首から血が溢れる。

破格の域にまで上げたレベルが齎した生命力があり、加えて剣閃が鋭すぎたためまだ首も落ちていないので生きているが、じきに首が転げ落ちて死ぬだろう。

加えて、【二乗時縛】のチャージは二分ほどだったので効果時間は十秒前後、もうすぐだ。

そうなれば反動で自分が一時間止まってしまう。

だからその前に、ヴォイニッチは自分の左手首を切り飛ばした。

「ハァ!?」

突然の奇行に、ダムダムが驚愕する。

だが、これは仕方のないことだ。スキル発動後は装備解除できないため、踏み倒すには装備箇所の手首ごと切り離す必要がある。

残機がある状態では、これもできなかった。

(……自分の装備品由来の不利益も飛ばせるなら、もっと使い易いんですけどね)

それも、語らなかった《飼の宣告》の欠点。

【ジェム】や爆弾など消費アイテムの類は転嫁できるが、自らの装備スロットに収めた武具からのデメリットは転嫁できない。

それが可能であればヴォイニッチは妖刀の類を愛用していただろうし、無銘の斧の使い手にもなれただろう。

(さて……)

首は既に切られて落ちる寸前。手首からの出血も致命的。

ヴォイニッチの命はいつ消えてもおかしくない。

しかしその前に、最期に、することがあった。

既に『 糸(パス) 』が繋がっていない夢路達相手にできることはない。天使達を介した声も届かない。

しかし幸か不幸か、頼める相手はここにいた。

「そこの君」

「……ダムダムだよ」

最初は『名乗るほどの者じゃない』と言っていたダムダムだが、観念したからか、仕事を任されたからか、名乗ってしまう。

それを聞いて、ヴォイニッチはまた少し笑みを深めた。

「なら、ダムダム君。先ほど頼んだこと、くれぐれもお願いしますよ」

「……ああ」

「それともう一つ」

「まだあんのかよ……」

ダムダムが嫌そうな顔をするが、ヴォイニッチは構わずその遺言を口にする。

「――テレジア殿下に一刻も早く王都から逃げるように伝えてください」

「へ?」

「ああ。もちろん、パトリオットに【雨垂】を渡す役目のある君もですね。死んでドロップ……いえ、 王都ごとロスト(・・・・・・・) したら最悪なので」

「お、おい……一体何が……」

「それではよろしく。王都が滅びる前にお願いしますね」

そして自分の言いたいことだけ告げて……。

「――では、さようなら」

――ヴォイニッチの首が落ちた。

二人の身体が光の塵になって消えていく。

それが、終局。

“突然死”ヴォイニッチVS“断頭台”カシミヤ。

首狩り達の対決は両者絶命……双方の首が落ちることで決着した。

――【死神】は退いたようですが、彼女の避難は叶いませんでしたね。

――例のクレーターも今日が議長の予知からズレた影響で消えていればいいのですが。

――そうでなければ……。

To be continued