軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一四〇話 “事故死”

□■<王都アルテア>・王城・正門前

教会で起きた出来事は、ダムダムの得たヴォイニッチの動向……城へ向かっている現状も含めて即座に通信魔法で王城に伝えられた。

ヴォイニッチを追う形でライザー達が市街から城に向かい、城に残っている騎士や兵士も守りを固める。

「また<マスター>が……」

「それも裏切り者とは……先だっての戦いでも……」

防衛につく兵士の中には、ヴォイニッチの動きによって<マスター>への不満と不安を抱く者もいた。

また、スプレンディダやジュバの襲撃に合わせて< 命(レイ) >を狙った者達の存在もあったことから、不信感も芽生え始めている。

「よせ。<マスター>の多くは王国のために戦ってくれている。今この城にいる彼らもな」

しかし、同じく城の護りを固めていたテオドール・リンドスは彼等をたしなめるようにそう述べた。

病み上がりの身だが、アルティミア、インテグラ、リリアーナといった王国の軍事面での幹部がいずれもいない今は彼がこの城の防衛責任者だ。

「ですが……合計レベル一五〇〇超えですって? そんな規格外のバケモノ相手にどうしろと……」

レベルが……何よりステータスとスキルが違いすぎる。

彼等には、それこそ雑兵のように蹴散らされる未来しか見えなかった。

「いや、今回ばかりは<マスター>よりも我々が対処すべきかもしれない」

「え?」

だが、テオドールはそんな彼等とは違う見解を持っていた。

「スパイだったとはいえ、【 鎌王(ヴォイニッチ) 】も戦争のために契約した<マスター>の一人、戦場以外で理由なく 我々(ティアン) を殺せばペナルティを受ける」

「!」

「ルール上、我々が奴を殺そうとしない限り、 奴も我々を殺せない(・・・・・・・・・) ……最悪でも私の命を賭して奴を止める」

「で、ですが奴がそのペナルティまでも他人に押しつけられたら……?」

「そうであろうとやることは変わらない。我が身を盾に、殿下が逃げる時間を稼ぐ」

「リンドス卿……!」

テオドールには冷静な判断と、何よりそこに自身の身命を賭す覚悟があった。

(あの【猛毒王】との戦いで死んでいてもおかしくなかった命。ここで殿下を護るために使ったとしても惜しくはない)

王女達に向けられた誓いと忠誠は死線を越えても尚、揺らぐことはない。

「城の防衛結界は起動準備に入っているな?」

「はい! あと十秒で展開完了します!」

防衛結界はインテグラの整備により起動可能になった防衛設備の一つ。

普段から城に張られている呪いの類を退ける従来の結界とは違い、バリアで外部からの侵入を阻む強力なものだ。

《恒星》の多重起動や《イマジナリー・メテオ》など攻性能力に秀でていた先代と違い、当代【大賢者】であるインテグラは“帳”のフラグマンと称されるほど防御魔法に秀でている。

その彼女が調整した防衛結界は自然魔力を利用した長時間展開が可能でありながら、《恒星》クラスの魔法にも耐える強度を発揮する。

起動が完了すれば、超級職でも侵入は難しいだろうとテオドールは判断した。

少なくとも、時間稼ぎにはなる。

「展開、完了です!」

展開は完了し、これで正門を通る正規ルート以外から城内への侵入は阻まれた。

そして正門はこうして数多のティアンで、ヴォイニッチが殺せぬ肉の壁で固めている。

「よし。ならば増援の<マスター>達が来るまで我々で、……?」

半透明な半球状結界が城を覆う様をテオドールは見上げていた。

だが、その視界に奇妙なものが映り込む。

(あれは……)

結界よりもずっと高い場所。雲にも等しい高さに、一羽の怪鳥が飛行していた。

目算だが、相当に巨大な種だ。単純な体格だけで間違いなく純竜級以上の強力なモンスターであると窺える。

しかし、それ自体は不思議なことではない。空の上は海の中同様に人にとっては踏み入れ難き魔境。強力なモンスターが我が物顔で飛んでいることは日常ですらある。

ゆえに今の問題は、その巨大な怪鳥から――何かが 飛び降りた(・・・・・) ことだ。

「!?」

雲の高さから、人型の何かが、真っ直ぐに真下へと――城へと落ちてくる。

常識で考えれば自殺行為だ。蘇る<マスター>でも稀にしかやらぬ奇行であろう。

だがしかし、テオドールの思考が告げている。

この緊急事態にただの自殺で飛び降りてくる奴はいない、と。

「上空より侵入者接近! 弓兵は迎撃用意!」

「え!? は、はい!」

テオドールの指示に狼狽えたものの、騎士と兵士も空を見上げて動き出す。

しかし同時に、『上空から落ちてくる侵入者を愚かではないか』とも彼らは考えた。

既に防衛結界は張られている。飛行魔法を使おうと、落下傘を使おうと、入ることは叶わない。

あるいは結界が張られる前ならば侵入できたかもしれないが、もう遅い。

そう考える者達が見上げる中で、落下してきた侵入者は結界に接触し……。

「――《阿吽》」

――防衛結界を障子紙のようにブチ破った。

「ッ!? 迎撃!」

「「「り、了解!」」」

至極あっさりと結界を突破した侵入者に対し、テオドールが弓での迎撃を指示する。

弓兵も狼狽しながらジョブスキルを発動し、空中から落ちる侵入者へ矢を射る。

数十の矢が空から落ちる侵入者へと向かい、その半分以上が直撃。

しかし、まるで鉄塊にでもぶつかったように全て弾かれる。

そして侵入者は結界も迎撃も物ともせず垂直落下し……城の外周を囲う壁の真上に墜ちた。

直後に伝わるは、轟音と衝撃。

落下のインパクトで高い壁は砕け散り、飛び散った破片が周囲の兵士を吹き飛ばす。

まるで隕石でも落ちたかのような光景だ。

(見間違いで、なければ……)

一部始終を見ていたテオドールは、冷汗を流しながら自分が見たものについて考える。

雲の上から落ちてくる様も、結界を抜ける様も、矢を弾く様も、そして外壁に激突する瞬間も、テオドールは見ていた。

だが、それらの光景の中に為した行動だけでは伝わらぬ侵入者の異常と違和感がある。

それは……。

「……目算、ズレた。城の中心、もう少し、先」

崩れた外壁の中から、人影が立ち上がる。

いや、それは本当に人だろうか?

粉塵の中で起き上がるそれは――明らかに 巨大すぎた(・・・・・) 。

それは巨大な女だった。

七メテルを優に超えた巨躯。

全身の皮膚は、その下にある鋼の如き筋繊維の存在を隠さず主張している。

晒されている左手の甲に紋章はない。

その事実は、女の肉体が<マスター>のアバターではなく、ティアンが生きてきて培ったものであると示している。

「目標まで、届かない、かも。【死神】様、困る、かな」

女について、その体躯より特徴的なものは顔。

造形としては美しい女の顔と長い髪。

だが、側頭部より生えた巨大な牛の角と、口から垣間見える鬼の牙が女の容貌を『バケモノ』と表するに足るものへと変えている。

否、何よりも『バケモノ』と評すべき点は……。

――この女が 無傷(・・) であるということだ。

ジョブの恩恵があろうと自殺行為にしか思えぬスカイダイビング。

地面に激突した際の衝撃を思えば、減速もしていないだろう。

だが、眼前の相手には多少の汚れはあっても目立つ傷はない。

人間とは思えぬ耐久力だった。

「何者だ! ここを何処だと思っている……!」

しかし、そんな『バケモノ』を相手にテオドールは誰何する。

相手の威容に退かず、明確な敵である侵入者へと向かい合う。

「何者、ワタシ?」

問われた巨人は、自分を指差しながらテオドールに尋ねる。

その仕草は見た目にそぐわず、まるで幼い童女のようでもある。

「……そうだ」

「ワタシ、ゴゥル。故郷の言葉、『最も大きくて強い者』」

名前やその由来を聞いた訳ではない。

だが、テオドールが重ねて問いかけるより先に女巨人……ゴゥルは自ら答える。

「【死神】様に仕える<親指>、【 金剛力士(ヴァジュラレスラー) 】、“事故死”のゴゥル」

「!」

<死神の親指>。超級職。

その言葉に、テオドールは聞き覚えがあった。

かつて、同じ名乗りをした 侵入者(敵) がいたからだ。

「お前は【猛毒王】……アロ・ウルミルの仲間か……!」

「“毒殺”。<親指>で一番弱かったし、【死神】様も見えないし、死んだけど、仲間」

「……!」

死んだ仲間を弱いと言いながらゴゥルの表情に嘲る笑みはない。

しかし、怒る様子も悲しむ様子もない。

「……奴同様に、仲間の復讐か?」

かつて【猛毒王】アロ・ウルミルは城への破壊工作と同時に、自身の弟子であった<死神の小指>の報復としてエリザベートを狙ったと語っていた。

ゆえに、ゴゥルは同じく<親指>である彼の復讐に来たとテオドールは考えたが……。

「復讐…………なぜ?」

ゴゥルは、不思議そうに小首――というには太く巨大だったが――を傾げた。

「……【猛毒王】を殺したのは私だ。仇である私の命を望まないのか」

この異常な侵入者のヘイトを自分に向けるため、テオドールはそう告白する。

しかしそれでも、ゴゥルの態度は変わらない。

「なぜ、殺したから、殺す?」

「何……?」

「生きているもの、死ぬ。いつかは、そうなる。だから、死んだことを理由に、殺す。意味がない」

まるで『復讐』という行為自体に意味がないかのようにゴゥルは言った。

「復讐でないならば、なぜこの城を襲う! 貴様の落下で傷を負い……死んだ者もいるかもしれんのだぞ!」

「 死んだら(・・・・) 、 死んだだけ(・・・・・) 」

「……!?」

ゴゥルの瞳に、言葉に、誤魔化しや悪意は一切なかった。

「何をしても、いつか死ぬ。いつ死んでも、同じ。これで死んだら、今死んだだけ。全部同じ」

自分が殺したという認識があるのか、ないのか。

あったとしても、雲のように軽い。

(……違う)

蜘蛛と混ざった異形の怪物であったアロ・ウルミルは、明確な悪意と殺意に溢れていた。

しかし、ゴゥルにそれはない。

仲間を殺されても何とも思わず。

自分が誰を殺そうとも何も思わない。

もしかすると、自分が殺されても恨むことすらないのかもしれない。

死生観が常人のそれから乖離している。

「重ねて、問う。何のためにここへ来た……!」

「【死神】様、ここで送る。ワタシ、 掛かった指(・・・・・) 」

「……?」

ゴゥルの言葉の後半は理解できない。

恐らくそれはテオドールには理解できぬルールの言葉。

だが、理解できることもある。

(【死神】本人が、ここに来るだと!?)

それは、伝説の名前。

遥かな過去からティアンの間で噂され続けた最強の暗殺者の名。

【死神】を見て生き延びたものは、<親指>と呼ばれる者達だけだという。

そんな存在が此処に何をしに、誰を殺しに来るのか、テオドールには分からない。

分からないが……城に向かっているというヴォイニッチ以上の危険だと判断する。

「けれど、ここだと、 遠い(・・) 、かも」

だが、テオドールの内心の狼狽と覚悟を気にした様子もなく、ゴゥルはしょんぼりとした声でそう述べた。

「目標、もっと奥。だからワタシも、もっと奥。近づかないと、【死神】様、困る」

ゴゥルはそう呟いて、ズシリという足音を立てながら城へと向かって歩き始める。

「待て……! それ以上進むことは許さん!」

「だめ、これ、ゴゥルの、役目。もっと奥、もっと奥」

「……! 《グランドクロス》ッ!」

言葉は通じても会話は半ば成立せず、言葉で止めることも叶わないとテオドールも悟る。

ゆえに、彼は自らのスキルによってその道行きを阻む。

同様にテオドールとゴゥルのやりとりを固唾をのんで見ていた【聖騎士】達も、テオドールに重ねるように《グランドクロス》を放つ。

純竜相手でも痛撃となる奥義の累ねは……。

「―― 眩しい(・・・) 」

――ゴゥルには何の痛痒も与えていない。

熱耐性装備を複数備えていたアロとは違う。

単純な強度とダメージ減算スキルの結果、ゴゥルは耐えた。

否、『耐える』……などという言葉を使う必要すらない。

それほどに、届いていない。

「もっと奥、もっと奥」

自分を攻撃した騎士達に構うことなく、ゴゥルは城へと進む。

「い、行かせるか!」

それを阻まんと、槍を構えた兵士達がゴゥルの足指へと槍を突き立てんとする。

しかし、ミスリル製の穂先はまるで爪楊枝を鉄板に押し当てたように先端が潰れ、

ゴゥルが足を踏み出した先にいた兵士も潰れた。

「ッ!?」

「もっと奥、もっと奥」

自身が人を踏み殺したことを、ゴゥルは気に掛けない。

攻撃されたから反撃で殺した訳ではない。

単に、歩いた場所にいたから死んだのだ。

人が蟻に気づかず踏みつぶすように。

サイズ比を考えれば、本来はそんなものであるはずがないのに。

だが、【金剛力士】ゴゥルにとっては そう(・・) なのだ。

彼女にとって人は、全ての生物は、『気づけば死んでいるもの』だ。

悪意もなく、殺意もなく、しかし人を殺す『バケモノ』。

彼女にとっては殺害でなく、 事故(・・) のようなもの。

故に――“事故死”のゴゥル。

「……!! 行かせるな! 奴を城の中に、入れるな!」

眼前の相手をみすみす進ませれば、どれほどの犠牲が出るかも分からない。

殺す気がなくとも、何十何百と死ぬだろう。

加えて、意味は分からずともゴゥルの進行自体が【死神】の行動に繋がるのならば阻まなければならない。

「防衛設備を全て起動しろ! 魔力式砲台で迎撃する!」

「敷地内に向けて使用を!?」

「私が許可する! こいつを止めねば、殿下の身も危うい……!」

「……了解!」

防衛用の兵器群を起動させるために部下を走らせながら、テオドール自らは【ジェム】での攻撃を敢行する。

インテグラが用意して騎士に配布した上級職奥義の込められた【ジェム】。

消費型の攻撃アイテムとしては一級品のそれらを投擲してゴゥルに攻撃を加える。

「まだ? もっと奥?」

しかし、やはり効いている様子がない。

《 クリムゾン(火属性) ・ スフィア(魔法) 》も、《 ホワイト(氷属性) ・ フィールド(魔法) 》も、生物に対して有効であるはずの《 ゴールデン(雷属性) ・ グリット(魔法) 》や《 グルーム(闇属性) ・ ストーカー(魔法) 》も、まるで通じない。

自身に炸裂する上級奥義魔法の数々に、一切気をとられることもなくゴゥルは進む。

「クッ! ……行け!」

その歩みを止めるため、テオドール達は自身の【セカンドモデル】をゴゥルへと突撃させる。

機械の重量と馬を遥かに超える馬力での突撃。

かつてアロ・ウルミル……【アラーネア・イデア】を抑え込むのにも使われた最新の兵器。

しかし、それらの突撃とバリアでも、ゴゥルの歩みは止まらない。

無敵としか思えぬ強靭さで、揺らぐことなく一歩一歩進む。

だが、その止まらない歩みに、テオドールは疑念を抱く。

(なぜ、走らない?)

ゴゥルは急いでいるように城の奥を目指している。

だが言動に反して、ずっとゆっくりと歩き続けている。

その矛盾は不気味であり、あるいはそこに何かの秘密があるのかもしれない。

(だとしても……!)

しかしゆっくりだろうと歩みを止められなければ、遠からずゴゥルは城の内部へと辿り着く。

そも、 巨人(ゴゥル) の一歩は人間の一歩よりも長い。

「砲台は……!」

『チャージ中で……あと三十秒』

(遅い……!)

もう十秒と掛からず、ゴゥルは城の内部へと到達するだろう。

だが、テオドール達の手持ちの火力ではゴゥルの進撃を止めることはできない。

(このままでは……!)

自らの全てを尽くしてもゴゥルの歩みを止められぬ。

その事実に、テオドールが焦燥を抱いたとき。

『ライザー……キィッックッ!!』

横合いから何者か――ライザーの一撃が超音速でゴゥルの延髄に激突する。

彼の蹴撃だけでなく、幾つもの攻撃スキルがゴゥルに突き刺さる。

ヴォイニッチを追っていた<マスター>達が城に辿り着き、内部の騒動を見て正門から入って助太刀に入ったのだ。

決闘ランカーの放つ一撃。

純竜だろうと首の骨が圧し折れる……どころか首が千切れ飛ぶだろう。

「――なに?」

――それでも、ゴゥルの反応は幼児にでも蹴られたかのような小さいものだった。

『……!?』

ライザーを含めた<マスター>の攻撃を受けても、ゴゥルは傷を負うどころか仰け反ることもなく、半歩のノックバックすらもない。

だが、ようやく攻撃……否、 自身への干渉(触られた) と理解したのか足は止まる。

着地したライザーを、ゴゥルが見下ろす。

「不思議な、服装」

自身への蹴撃ではなく、ライザーの服装について思ったままに言葉を零す。

それは敵への態度ではなく、珍しい虫を見たかのような反応だった。

しかし、ゴゥルの感覚としてはそれで合っているのだろう。

ここに至っても尚、彼女にとってこの場の全ては 敵(脅威) ではない。

だが、足を止めてライザーを観察したこと。

その時間が――好機となる。

「離れろ! マスクド・ライザー!」

『!』

テオドールの声に反応し、ライザーが飛び退く。

その瞬間、城の一角が光り輝く。

輝きの源はインテグラが城内に設置した防衛設備の一つ、魔力式砲台。

蓄積した自然魔力を消費することで並の魔法職を凌駕する火力を発揮する兵器が、外壁と正門の中間にいたゴゥルへと向けられる。

『【 クエーサー・カノン(準恒星砲) 】……発射!』

直後に砲門から発射されたのは超高熱球体……【炎王】の奥義である《恒星》に酷似したエネルギー弾だ。

エネルギー弾は音速に迫る速度でゴゥルに迫り、足を止めていた彼女に直撃する。

「……!」

溢れる熱気の余波にテオドールや騎士達は顔を庇う。

インテグラから強力な兵器だとは聞いていたが、実際に威力を確かめたのはこれが初めてだ。

かつて正門を蒸発させた【炎王】……【イグニス・イデア】の《恒星》ほどではないが、従来の【炎王】の《恒星》と比べれば同等の威力がある。

(超級職奥義クラスの火力が直撃したならば……!)

如何に強靭であろうと重傷……いや、死んでいてもおかしくない。

テオドール達はそう考えた。

『……!』

だが、仮面で覆われ、顔を庇って視界を塞ぐ必要のなかったライザーはその瞬間を見ていた。

《恒星》に等しい魔力砲の直撃を受けたゴゥルは……。

「――あつい」

――膝をつくことすらなくその場に立ち続けている。

【クエーサー・カノン】の直撃を受けたであろう肩部が僅かに赤くなっている。

そう。ゴゥルは超級職奥義相当の直撃を受けて、 軽い火傷(・・・・) で済んでいる。

尋常ではない……どころか超人達の中ですら規格外の耐久力だ。

『……リンドス卿、彼女は 何(・) だ?』

「<死神の親指>所属の【金剛力士】……ティアンらしい。しかし、前に戦った改人よりも数段人間離れしている」

『…………同感だ』

かつての王都襲撃事件で改人と交戦した男達は、人間をやめた改人達よりもさらに人間離れした 天然物(ティアン) に戦慄した。

しかし、どれほど人間離れした相手だろうと、城とそこにいる人々を護るために彼等は戦わねばならない。

何より、彼等の敵は眼前のゴゥルだけではない。

城に向かっているはずのヴォイニッチ。

そして、このゴゥルを従える……【死神】が来るのだから。

◆◆◆

否。

既に来ている(・・・・・・) 。

◆◆◆

■<王都アルテア>・王城内部

城内は混乱に包まれていた。

先の講和会議の際に起きた王都襲撃事件を思わせる正門への襲撃。

城に勤める者達は対応に動き、潜入していたゼタは混乱に乗じ、ヴォイニッチの飛ばした《視天使》が城内を飛び回って情報を探る。

数多の存在が己のすべきことのために活動している、王城の中。

正門から入ってすぐの場所に、ソレはいた。

インテグラの張り巡らせた警備網ですら、ソレの移動を検知しない。

廊下を踏みしめているのに、感圧センサーを含めたあらゆるモノから無視される。

まるで、重さのない幽霊のように。

『――――』

ソレは進む。

駆け回る兵士に見咎められることなく。

空気を操って状況を探るゼタに聞き咎められることなく。

この城に飛び交う《視天使》に知られることなく。

誰にも、何にも、知覚されることなく。

【 死神(ソレ) 】は、ここにいる。

To be continued