軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五話 (再会+積もる話)×2

第五話 積もる話と思わぬ再会

□【聖騎士】レイ・スターリング

『なるほど、【大瘴鬼 ガルドランダ】に【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】か。レイもかなりの奇縁クマー』

「奇縁、ね」

俺とネメシス、兄はネメシスが希望した昨日のスイーツパーラーでお茶をしながらこれまでのことを話していた。

ちなみに俺はさっきのサンドイッチがまだ胃に残っているのでお茶だけだ。

ネメシスは普通に食っている。

お前の胃袋どうなっているんだ。

『<UBM>はそもそも遭遇しないし、逸話級でも強敵クマ。<Infinite Dendrogram>に入って間もないのに戦って倒すケースは、中々ないクマ』

兄はそう言いながら、ハチミツの掛かったパンケーキを口に運ぶ。

もちろんフォークに刺して、だ。

あの着ぐるみの手でよく持てるものだと思うが、ガトリング砲に比べれば楽なものか。

……しかしクマが椅子に座ってハチミツパンケーキ食べている絵面がファンシー過ぎる。

可愛くもあるだろう。

中身が二十代後半の男性であることを知らなければ。

『ま、かく言う俺とフィガ公が<UBM>を倒したのもまだ一つ目の下級職の頃なんだが』

「え?」

『ちょうどフィガ公と会ったのもそのときでなー。俺とあいつはたまたま迷い込んだフィールドで二体の<UBM>と戦って……』

「二体!?」

頭の中で、【ガルドランダ】や【ゴゥズメイズ】と同時に戦うのを想像する。

うん、駄目だ。死ぬわ。

二体を倒した今でも余裕で死ぬ。

「じゃあフィガロさんと組んで二対二で」

『違う』

「あ、そうか。フィガロさんの他にもメンバーが」

『いや。それぞれが<UBM>とタイマンすることになった』

「……………………」

えーっ、と?

『まず二体を分断するところから大変で、倒すのも相当頭を使って……』

「待った。そのときって、兄貴はまだ一つ目の下級職だったんだよな」

『ああ』

「フィガロさんは?」

『あいつも一職目の【闘士】だったな。50にも達してない』

「……<エンブリオ>は?」

『俺もフィガロも第三、とは言ってもお前のネメシスみたいにジャイアントキリング特化能力はなかった』

「…………」

俺が言えることじゃないかも知れないけど……どうやって勝ったのさ、それ。

しかも、俺のときみたいに援護があったわけでもないのに。

もっと言えば……第一陣の兄が下級職だった頃だろ?

それって、プレイヤーの中ではほとんど初めて<UBM>を倒したってことになるんじゃ……。

『ま、この話は長くなるから機会があれば話すクマ』

「焦らすのぅ」

全くだよ。しばらくどうやって勝ったのか気になりそうだ。

『この件について話すとフィガロの<エンブリオ>の能力特性バラすことにもなるクマ。俺の口から吹聴したくはないから、話すとしてもお前が自分で気づいた後クマ』

「そういう事情なら仕方ない、のかな」

この決闘都市はフィガロさんのホームであり、闘技場の王者でもあるフィガロさんの情報は溢れている。

けれど、その情報には一つ決定的に欠けているものがある。

それはフィガロさんの<エンブリオ>だ。

フィガロさんの<エンブリオ>は正体不明とされている。

能力も形状も、カテゴリーさえも一切不明。

他の<アルター王国三巨頭>は【破壊王】の“戦艦”や【女教皇】の“夜”など、ある程度は正体が判明あるいは推測されている。

けれど、【超闘士】――フィガロさんの<エンブリオ>については一切がない。

俺もマリーに見せてもらったPKとの戦闘映像でフィガロさんの戦いは見たが、<エンブリオ>については見当もつかない。

兄のちらつかせた話がこの秘密についての真実に根差しているのならば、今は聞くことが出来ないというのも納得できる。

「というか、兄貴は知ってるんだな」

『ま、付き合い長いからな。こっちの時間で言えば四年以上の付き合いクマ』

「なるほど。……あ、それじゃあフィガロさんがどうしてソロに拘っているのかも知ってるのか?」

『知ってる。けどそっちはいよいよプライベートな話だから言えない』

「そっか。なら、いいんだ」

「雑な戦いはしたくない」と言ってフィガロさんが戦争に参加しなかった理由が恐らくそこにある。

けれど、その強固なソロ方針がフィガロさん自身の事情に関わることなら、仕方がない。

「しかし、クマニーサンは随分と顔が広いようだのぅ。あのフィガロとも友人のようだし」

『ま、長くプレイしてると色々なー』

「……聞こうと思ってたんだが、兄貴って一日のどれくらいをこっちで過ごしてるんだ?」

不労所得込みのネオニートな兄は、それこそいくらでも時間がある。

『いやいや、これでも健康的にやっているクマー』

「健康的とは」

『三度の食事と風呂とトイレとプロポーション(筋肉)を保つ一時間のトレーニングはあっちでも欠かさないクマ』

「逆説的にそれ以外は全部こっちってことじゃねえか!」

廃人だよ! 尋常ならざる廃人だよ!

『ま、今はこっちにしかやりたいことがないから仕方ない』

「時間とお金はあるんだから恋でもすればいいのに」

母がそろそろ孫の顔を見たがっているし。

俺? まだ学生だし早い。

姉は……あの人はまぁ、うん。

結局兄が一番結婚には近いと思うのだけど……この分ではまだまだ先のことだろう。

そんな話を兄としているうちに一時間ほど時間が経っていた。

『じゃあ俺はちょっと寄るところがあるからこれで失礼するクマー』

「ああ、わかった。じゃあまた会場で」

『応。レイの仲間に会うのを楽しみにしてるクマー』

そう言って兄は店を出た。

テーブルの上にはちょっと多めに代金が置かれている。

賞金を入手したので今回は俺が出そうとしたのだが、『ここは俺の顔を立てるクマー』と言って結局兄が出してくれた。ここはありがたく受け取っておこう。

なお、当然のように代金の九割はネメシスの食費である。

食う量が増えて本当に困ったものだ。

天罰神と同じ名前なのに、やっていることは大罪の一つの暴食とか……。

「否、それは違うぞレイ」

「何が違うんだ」

「暴食とは無闇矢鱈に食って食料を浪費すること。だが私はちゃんと味わい、楽しみ、全て血肉に変えておる。ゆえにこれは暴食ではない、美食だ!」

「なるほど、ならそれはいい。けど一つ言わせて貰おう」

「何かのぅ」

「全て血肉に変えていたらお前の体重はどれくらい増えるんだ」

体重の話とか女子にするものでもないけどさ。

さすがに見ていて心配になるレベルだぞ。

「フッ、安心するがいい。私は<エンブリオ>だぞ? 然う然う体型も体重も変わらぬ」

「ソーデスカ、スゴイネ」

「棒読み!?」

フォームチェンジでは形も重さもめちゃくちゃ変わってるけどな。

「しかしそうなると、<エンブリオ>ってみんな大食いなのか?」

「はんろん。<えんぶりお>だからおおぐいなわけじゃない。わたしはちがうし。ネメシスがおおぐいなのはあくまでもネメシスこじんのもんだい。そんなばけものいぶくろ、きほんスペックにされてもこまる」

「そうなのか」

思い返せば他の<エンブリオ>……バビも異常に辛党ではあったが食う量は普通だったな。

この食事量と比べたらまだあの冒涜的な味覚の方がまともに思える。

「……って!?」

「ぬ!?」

「やっほー」

いつの間にか、俺達の隣の席には白い少女――ユーゴーの<エンブリオ>であるキューコ(コキュートス)が座っていた。

「ネメシスがつみあげたおさらのまいすうがひどい。わたしはその5ぱーせんとも、むーりー。もぐもぐ」

彼女は以前会ったときと同様にローテンションの棒読みで喋りながら、真っ白いレアチーズケーキを味わっていた。

その様子だと大分前から店内にいたらしい。

真っ白で目立つ容姿なのに全く気づけなかった。それだけ兄やネメシスの食事に気を取られていたのだろうか。

「ふしぎがってる。ねたばらしすると、わたしは《けはいそうさ》スキルをしゅーとくしている。たしょうなら、めだたないこともできる」

「なんで気配消してたんだ?」

「おどろいたでしょ?」

「驚いたけれども」

そう答えると彼女は「むふー」と満足そうな表情で再びレアチーズケーキを味わい始めた。

……え? まさか驚かせたかっただけ?

「相変わらず読めぬ奴だのぅ」

まったくだ。

一緒にゴゥズメイズ山賊団と戦った仲間ではあるが、彼女のキャラは未だに掴みきれていない。

と、そうだ。

「キューコ。ユーゴーは一緒じゃないのか?」

「そろそろくるー。てわけしてさがしてたからー。ねんわでばしょおしえたからくるよー」

“捜してた”という部分に俺が疑問を覚え、「何を捜してたんだ?」と尋ねようとしたとき。

店のドアが開き、来店のベルを鳴らした。

ドアから入ってきたのは見覚えのある軍服ライダースーツを着た一人の男。

「やあ、レイ。今日の日に無事再会できたことを、私は神と君に感謝しなければならないかな?」

相変わらずに大仰で芝居がかった気障な男――ユーゴー・レセップスの姿がそこにはあった。

……何だか、今日は再会すること多いな。

店が込む時間帯になってきたこともあり、俺達とユーゴー、キューコとで一つのテーブルを使うことにした。

店内を見れば、店が満員状態になるほど<マスター>や異国情緒溢れる人の姿が散見できる。

「おいしー! wikiに書いてあった通り本当においしいスイーツのお店だよー!」

「……イオ、ちゃん、声、大きい」

「ピーチタルト、80点。ショートケーキ、76点。レアチーズケーキ……95点」

俺の後ろのテーブルからは若い女性のものらしき姦しい声が聞こえてくるし、

「あ、これお持ち帰りもあるんだ。夢路くんやカルルへのお土産はこれでいいかな。生物でも保存性の高いアイテムボックスなら保つし。アルベルトは……食べ物以外にしよう」

左隣のテーブルではターバンを巻いた如何にもアラビアな人が何かメモしていた。

他にも獣の革鎧に身を包んだ無骨な一団や海賊帽子を被った女の子とそれを取り巻く海賊バンダナのマッチョメンなど、なんだか昨日よりも客層の幅が広い。

やはり今夜のイベントを観に他のところから来た人達なのだろう。

そしてこの店にいる以上、見た目が店の雰囲気に合わなそうな面々も含めてここのスイーツを味わいに来たのだろう。

「……ここ、人気店だったんだな」

「ああ、ここのスイーツは美味しいとティアンと<マスター>問わず評判らしいからね」

「れあちーずけーき、よーぐるとむーす、そふとくりーむ、でりしゃす」

ユーゴーやキューコも満足そうだ。キューコは何だか白いものしか食べていない気がするけど。

っと、そうだ。

折角ユーゴーと再会できたのだからあの件を話さないとな。

俺はユーゴーにゴゥズメイズ山賊団の懸賞金が8000万リルもの大金であったことを話した。

「……まさかゴゥズメイズ山賊団の賞金がそのようなことになっていようとは。流石に驚いたよ」

「それで配分についてなんだが」

「昨日の手紙にも書いたとおり私は辞退する、……と言いたいがレイはそれでは納得できないようだ」

「当たり前だ」

こんな大金、独り占めしたら胃に穴が開く。

「半分ずつにしよう」

「……いや、私はその半分で構わない。一度辞退しているのだから、それでも多すぎるほどだ」

「そうか?」

むしろゴゥズメイズ山賊団という名義なら俺が倒したのはメイズだけなのだから、ユーゴーにはもっと持っていってもらいたいくらいなんだが。

「……レイは欲がないな。私に馬鹿正直に申告しなくてもいくらでも誤魔化せただろうに」

「仲間に嘘ついてどうすんだよ」

「…………」

俺がそう言うと、ユーゴーは何故か目を伏せた。

どうかしたのだろうか?

「あ、それと騎士団詰所でのことなんだけど」

俺がゴゥズメイズ山賊団の遺した財宝をユーゴーに断らずに寄付してしまったことも告げる。

「それも構わない。私でも同じ選択をしただろう」

「そっか」

少し安心した。

やっぱり俺とユーゴーは考え方が似ているらしい。

『ああ、御主ら二人はよく似ておるよ』

どっちもメイデンの<マスター>だしな。

一先ず金についての話は終わり、俺はユーゴーの受け取り分を手渡す。

今更だけど【盗賊】とかにスられなくて良かった……。

……店の中にも【盗賊】はいないよな?

「2000万リル、確かに受け取った。それにしても大金だ。昨日全損した【マーシャルⅡ】の補填になる」

「へぇ…………ところで、あれいくらなんだ?」

「一台1000万リル」

「いっ!?」

そんな高級品だったのかあれ!?

「チューンとオプション装備込みにすれば、2000万リルと少しだ」

ユーゴーはそう言ってさっき2000万リルをしまったアイテムボックスを指す。

同時に目が「<マジンギア>の破損は必要経費じゃないからさらに取り分渡そうとか考えないように」と訴えている気がした。

「何分コストの高い装備だからね。しかもこの値段はうちのクラン……<叡智の三角>のメンバー向けの原価販売価格。ドライフの通常販売で二倍。カルディナに横流しされた場合の末端価格で言えば、さらに二、三倍はするとも」

……原価で1000万に驚けばいいのか。

末端価格の膨れ上がりに驚けばいいのか。

「このコストの高さが【マーシャルⅡ】……<人型マジンギア>の最大の欠点さ。亜竜クラスの戦闘力を持つが、その亜竜もテイムモンスターとして買うなら300万程度、コスト面では随分と差がある」

亜竜はそのくらいのお値段なんだ。

俺も竜車とセットで一匹買おうか……でもシルバーもいるし要らないか。

「もっとも、<マジンギア>にも利点はある。テイムモンスターと違ってキャパシティは食わないし、材料と金銭さえあればいくらでも増産が利くのだからね」

亜竜クラスは上級職一人分で下級職パーティ一つ分。

それをいくらでも作れるってやっぱり凄いよな。コストも掛かるわけだ。

「生き物であるモンスターじゃ材料と金があっても増やせないものな」

「……そうだな」

「さっき少し言っていたけど、カルディナでも売っているのか?」

「ああ、あの国は色々な国の特産物を輸入して販売しているし、“国が輸出していないもの”もなぜか入手して売っているからね。ドライフの<マジンギア>、グランバロアの船舶、アルターの<墓標迷宮>ドロップ、天地の武器、黄河やレジェンダリアのマジックアイテム。“金さえあればどの国の特産物でも購入できる”。それがあの国の特長だよ。加えて言えば、身分も金で買える」

「それはまた」

この世は金って国なんだな。

「お陰で多額のリルを入手したハイエンドプレイヤーが移住し……<超級>の数も最多になっているのが問題だ」

何か悩みを含んだ様子でユーゴーは呟いた。

「最多って何人?」

「九人の< 超級(スペリオル) >。それがあの国の最大戦力さ」

「……多いぞ」

アルター王国に四人だぞ。倍以上じゃないか。

「そういえば前の戦争でドライフは」

「開戦でアルターに圧勝したものの、直後にカルディナがドライフの領土に侵攻。防衛のために<超級>を前線から引き上げさせる必要が生じた。だからアルター王国を最後まで詰めていない」

お陰で<超級>全員を欠いた前回の戦争でも王国はまだ滅んでいない。

ドライフの侵攻によって変更された国境線を戻すほどの余力も残っていなかったが。

「最後まで勝つつもりで大盤振る舞いしたのにその結果。ドライフの内政を司るヴィゴマ宰相は頭を抱えたそうだよ。ちなみにドライフがあそこまでの褒賞を<マスター>に振舞えるのはあと一回が限度だ。それ以上は経済が破綻する」

「言っていいのかよ」

「私程度……所属する<マスター>の一人に過ぎない者でも知っていて、掲示板でもよく書かれる内部事情だ。問題はない」

「そんなものか」

「何にせよ、ドライフが戦争に勝つには、カルディナに介入されるよりも早くアルター王国を占領するか……講和による併合など戦争に頼らない手段で手に入れる必要がある」

なるほど。

まぁ、長期間の戦争をやるのは国力が著しく減退している王国としてもきついからな。

幸か不幸かカルディナの存在がストッパーになっているわけだ。

……ゴゥズメイズ山賊団の一件では厄介な国かと思ったけど。

「ああ、ちなみにアルター王国の同盟国であるレジェンダリアが、先の戦争に参加しなかった理由もカルディナだ。アルター王国の南方に位置するレジェンダリアからアルター王国北のドライフ国境は遠い。しかし、大陸中央の砂漠地帯を網羅するカルディナとは極めて近い。もしも<超級>や超級職のティアンを応援に送れば、その隙にカルディナがレジェンダリアを落とすだろう。あの国がドライフに介入したのはドライフがアルター王国を併合して大陸統一に勢いづくのを防ぐためだが、それとは別にあの国も大陸統一を狙っている」

ドライフだけでなくカルディナにも野望があるか。

結構乱世だな、<Infinite Dendrogram>。

「現状のカルディナが隙を見せた国以外に侵攻しないのは、あの国が大陸中央に位置しているからだ」

それは地理的な話だ。

海上国家のグランバロアを除く六つの国が収まったこの大陸を地図で見ると、まるでフランスかイタリアの国旗のように分けることが出来る。

左は西方三国。ハンバーガーのように重なり、北からドライフ皇国、アルター王国、レジェンダリア。

中央は都市国家連合カルディナ。

右は黄河帝国と天地の二国だ。

この内、中央のカルディナは最も東方にある天地を除いた全ての国と国境が接している。

「西方のドライフ、アルター王国、レジェンダリア、東方の黄河帝国。そして海上のグランバロア。囲まれているんだ。どこかを攻めるのに注力すれば、他の国がカルディナの領土を削る。攻める理由はいくらでもあるしな」

「あちらを立てればこちらが立たず、ってわけだ」

膠着状態に陥っている。

そして状況が動く切っ掛けになりそうなのが、一時的に休戦状態になっているアルターとドライフの戦争か。

「……今更だけどさ、お前その格好でウロウロしていて平気なのか?」

「格好とは?」

「だってそれ、ドライフの軍服か何かじゃないのか?」

ユーゴーの格好は昨日と同じ、軍服とライダースーツを掛け合わせたようなものだ。

ユーゴーの所属を考えれば、それがどこの国の軍服であるかは考えるまでもない。

だったらこの国で着るにはまずいんじゃないかな。

「いや、これはドライフの制式装備ではない」

「あ、違うのか」

「ああ、これは<魔神機甲グランマーシャル>のパイロットスーツだ」

「まじんきこう、ぐら……なんと?」

「<魔神機甲グランマーシャル>だ」

ロボットアニメみたいなタイトルだが……。

「そんなアニメ放送していたか?」

ユーゴーがフランス人であることを考えれば海外アニメかも……。

「アニメではない」

「特撮?」

「いや、我々のクラン<叡智の三角>に所属する【 絵師(ペインター) 】が描いた漫画だ」

「……こっちで?」

「こちらで、だ」

ユーゴーによると以下のような流れであったらしい。

ユーゴーの所属するクラン<叡智の三角>は苦心の末、初の戦闘ロボット型<マジンギア>である【マーシャルⅡ】を開発した。

元々がロボットアニメの如き「人型戦闘ロボットを作る」目的で集った面々だったため、その完成にとても熱狂したそうだ。

この熱を受けて彼らは以後もロボット開発を続けているのだが、同時に別の火も点いてしまった。

あるとき、クランに所属するメンバーが保持していた【絵師】のスキルを使って【マーシャルⅡ】の格好いいイラストを描き上げた。

すると他のメンバーは漫画を描いた。

絵が描けないメンバーにも小説を書く者や立体模型を作る者が出て、変わったところでは主題歌やBGMを製作した者もいた。

それはクランメンバーの増加と共に連鎖を続け、次第に大々的な創作となっていた。

元々がロボットアニメ好きの集まり。

【マーシャルⅡ】という題材に対して内輪でオタク熱がヒートアップして様々な創作を展開、今では本拠地の中に創作物陳列専用のスペースが設けられるようになってしまったらしい。

そうした作成物の中には漫画作品でパイロットが着ていたパイロットスーツを模した衣装、つまりはユーゴーが今着ている服もあったそうだ。

「つまり常時コスプレか」

「一流の生産職が作っただけあって性能は申し分ないこともあり、<叡智の三角>に所属する【操縦士】のユニフォーム扱いになっている。あくまで内輪の話なので外部には知られていないから、この国で着ていても問題はないがね」

「性能いいんだ」

「さすがにMVP特典には及ばないが、ハンドメイド品としては着用可能レベル帯で最上級の部類だろうな」

そんなに。

どれだけの熱意がそのコスチュームに込められているのか。

人間って好きなものに対して凝ると止まらなくなるものだからなぁ……。

「ユーゴーもロボット好きでそのクラン、<叡智の三角>に入ったのか?」

「……いや。私はクランのオーナーと知り合いだったからクランに入った口だ。と言うよりも、あの人に誘われて<Infinite Dendrogram>に入ったんだ」

「へぇ」

どこかで聞いた話だ。

俺も兄に誘われてアルター王国で始めたからな。

「さて、私からも幾つか聞きたいことがあるんだ。特に昨日の【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】との戦いなどはじっくり聞きたい」

「ああ、いいぜ。ユーゴー達が子供達を連れて脱出してから俺とネメシスは……」

それから俺とユーゴーは情報交換や世間話をして。

「と、そろそろ時間だな」

気づけばイベントの開始時刻まであと一時間少々となっていた。

あー、これは今日はアレハンドロさんのところで買い物する時間はないな。明日にしよう。

「何かあるのかい?」

「ああ、イベントのチケットが手に入ったからな。中央闘技場でフィガロさんと黄河の迅羽って<超級>の試合らしいんだけど、知ってるか?」

「知っているよ。と言うより、今この街にいる他国の<マスター>の大半はそれが目当てだろう」

「ユーゴーもそれを観に?」

「……そんなところさ」

「そっか、じゃあ会場でも会うかもな」

「…………」

俺がそう言うとユーゴーは何か思案している様子だった。

何か変なこと言ったか?

「レイ、これは頭の隅にでも覚えていてもらいたいことだが」

ユーゴーはそこで一呼吸分言葉を区切って、

「本命は西だ」

そう言った。

「……本命?」

本命は西って……何のことだ?

「…………大した話じゃないさ。ほら、中央闘技場の試合では西と東から選手が入場するだろう? だから、今日の本命は西から入場する【超闘士】フィガロってことさ」

「そういう風に入場するのか。俺まだ観戦したことないから知らなかったぜ」

けど、何故だろう。

ユーゴーのその説明は何かを誤魔化したように聞こえた。

「俺はもう会場に向かうよ」

「ああ、わかった。私とキューコはもう少ししてから移動するとしよう」

「そっか。じゃあここで一旦お別れだな。あ、フレンドの登録しとくか?」

また何か用事があって探すときに、せめてログイン中か否かくらいは分かっていた方がいいだろうし。

「……今は止しておこう。次に……次の次に会ったときにしよう」

「はぁ。まぁ別にいいけど」

何か縁がありそうだからまた会うだろうし。

「フフ、ではまた会おうレイ」

「しーゆーあげいん、ネメシス」

「ああ、またなユーゴー」

「うむ、キューコよ、いずれまた!」

◇◆

「ねえ、ユーゴー。いってもよかったの?」

「…………」

「これって“じょうほうろうえい”じゃないー?」

「そうかもしれないな」

「ユーゴーは“けいかく”がいやなの?」

「……どうだろうな。正直に言えば……自分でもわからない」

「わからないの?」

「“あの人”の望みを叶えたいのはもちろんだ。そうでなければ私がユーゴーである意味がない。けれど、それと同じくらいに女性の不幸を見逃せない」

「にりつはいはんだね」

「二律背反……そうかもしれない。だから私はレイに情報を伝えた。それだけだ。後は彼がその情報で動こうと動くまいと、ただの世間話の一部と受け止めようと関知しない。“計画”の中での私は……“計画”に沿って動くだけだ」

「じゃあ、わたしはユーゴーにそってうごくよ」

「……ありがとう」

To be continued