軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二話 マリー先生の新人講座 戦闘編

□【聖騎士】レイ・スターリング

「強くなるために、ですか。なるほどー」

マリーは俺の話を聞き、そう言ってフムと頷いていた。

ちなみに場所はマリーのいたオープンテラスで、ネメシスは朝食として山積みのサンドイッチに挑戦していた。

あ、これは朝の狩りで稼いだ金消えるわ。

「うむ! いつかあの<超級殺し>にリベンジするためにもアドバイスして欲しい!」

「…………なるほどー」

マリーはなぜか手で顔を覆った。

「マリーは俺より<Infinite Dendrogram>暦は長いだろうし、詳しいと思ったんだが」

「色々知っていますよー。これでもリアルで一年仕事もしないでデンドロやってますからねー。廃人ですよー」

……それ、大丈夫なのか?

「さてさて<超級殺し>に勝てるくらい強くなるためにどうすればいいか、ですよね。ふむ……」

マリーは口元に手を当てて何かを考えて、

「レイさんは自分の弱点は何だと思いますか?」

「弱点?」

弱点、か。

まだまだ弱いからそれは穴だらけだと思うけれど……強いて挙げるなら。

「射程距離が短いこと、あとネメシスのスキルをしくじるとまずいこと、かな」

「そうですね。合っています。なぜだか説明できますか?」

「ああ」

まず、俺の射程は短い。

切り札である《復讐》は大剣の振れる範囲にしか届かないし、《煉獄火炎》にしても射程は大したことがない。

それこそ数百メートル向こうから銃や魔法で狙い撃たれれば、抵抗は難しい。防御に使える《カウンターアブソープション》のストック数も少ないしな。

これまで倒した強敵、【デミドラグワーム】、【ガルドランダ】、【ゴゥズメイズ】とは戦闘射程がマッチしていた。

逆に、遠距離から弾丸のバケモノを撃ってくる<超級殺し>には、傷一つつけることができていない。

これは明確に俺の弱点と言えた。

次に、俺のスキルを失敗させられること。

例えば《カウンターアブソープション》にとても弱い攻撃を当てられて空撃ちさせられること。

あるいは先の【ゴゥズメイズ】戦で懸念したように、《復讐するは我にあり》のダメージ伝導を自切などによって止められること。

そうして対処されれば、ネメシスの固有スキルは簡単に無効化される。

初見ならば、まだ問題はないだろうけど。

「ええ、その通りです。けれど、一つ足りませんね」

「何が足りないんだ?」

「“速さ又は堅さの欠如”ですね」

“速さ又は堅さの欠如”?

「さて、レイさん。強くなりたいというお話ですが、まずゲームシステム的に強くなる方法を教えましょう」

「ん、ああ」

「はい。じゃあシステム的に強くなる方法を言いますね。 AGI(敏捷) か END(耐久) 上げましょう。以上です」

……………………以上?

「いや、待て。いくらなんでもそれだけってことはないだろ」

「あははー。ええ、もちろん。ジョブとスキルの構成や<エンブリオ>の複合戦術等々盛り沢山ですよー。でもシステム的に強くなるにはこの二点のどちらかをクリアしないといけないのでー」

「クリアしないといけない?」

その言い方に、引っ掛かりを覚える。

「レイさん。戦闘中って周りがいつもよりスローに見えたことありませんか?」

「……あるな」

特に《逆転》で強化状態に入ったときはそうなる。

世界がゆっくり動いて見えて、そんな状態だから相手の攻撃を回避するのも格段に楽になる。

「それって日常と戦闘でAGIの値の差が大きいからなんですよー」

「値の差が大きい?」

「はい。何もジョブについていないとき……HP、MP、SP以外のステータスって大体10から20くらいだったでしょう?」

「ああ、たしかそのくらいだった」

「それが地球での常人のステータスですね。で、これがジョブレベル上げると100とか200とか……上級職なら特化したステータスで1000とかになるわけですよ。HP、MP、SP特化なら一万ですね」

「そうだな」

俺の場合、【聖騎士】のレベルを上げ終える頃のHPは一万を余裕で超えているだろう。

【聖騎士】はHPだけに特化しているわけではないし、リリアーナのステータスを見る限り本来の【聖騎士】はそこまで上がらないのだろうけど……俺の場合ネメシスの補正あるからな。

他の<マスター>も<エンブリオ>の補正込みならそのくらい簡単に超えるのだろう。

「で、その数値ですが、AGIが10と100の人を比べると戦闘中の体感時間が違うんですよ」

「……?」

「こうして戦闘も何もしていないときは常人のAGIですけど、戦闘に入るか意識的にやろうとすればすぐステータスの数値に切り替わります。やってみたらどうですか?」

「…………」

俺のAGIは【紫怨走甲】の上昇値も含めて100程度。

マリーに言われたように意識してステータスを切り替えてみる。

その状態で道路を見てみれば、確かに道行く人が歩く姿が気持ちゆっくりになって見える。

戦闘以外で試したことはなかったが、そうなっていたのか。

「体感時間はそのままAGIと等倍というわけではないんですけどね。システム、というかティアンやモンスター含めてこっちの生き物はそういう作りになっているんです。普段から早めていると日常生活に支障が出るからって理由もあるのでしょうけど」

「……AGIによる戦闘時の体感時間の差、か」

俺はマリーが先だって言った「クリアしなければいけない」という言葉の意味が分かりかけてきた。

AGIが俺の十倍の1000あるとすれば……アドバンテージがまるで違う。

「後衛なら別にいいんですけどねー。前衛をやるなら相手と同等以上に動けるAGIか、相手に数多く当てられても耐えるENDが必要になります。まぁ、後者の場合は反撃を当てる手段も要りますけど」

俺は【聖騎士】で、ステータスもどちらかと言えばEND寄りだ。

だが、恐らくまだ上級相手に対抗出来る程には届いていない。

なにせ、俺は最初のジョブがこの【聖騎士】。下級職分のステータス上昇が丸々抜けている。

なるほど、これは厳しい。

「ちなみに速い乗り物などに乗っても体感時間は変わりませんね」

「知ってる」

シルバーに乗ってるときに移動速度は速くなるけど、体感時間がそこまで早くなった覚えはない。

「しかしそれだけ差があってよくこれまで……」

……あー、今気づいた。

これまで俺が勝ってきた相手ってどいつもAGIがあまり高くなかったんだな。

【デミドラグワーム】、【ガルドランダ】、【大死霊】、【ゴゥズメイズ】……どちらかといえば耐久力に秀でた奴ばかりだ。

「下級職上級職と言っても下級職は六つ、上級職は二つとれますからねー。それをどの程度埋めているかでも戦闘力は大幅に変わりますよー」

「一つ目のジョブで、レベルも半端な俺じゃまだまだってことだな」

「そうなります。あ、そうそう、AGI型の超級職のAGIは五桁に届くそうですよ」

「五桁!?」

インフレすごいな、超級職。

「超音速で動いて、飛んでくる弾丸も弾いたり掴めたりするそうです。そして、 あくまで(・・・・) 、 人伝に(・・・) 、 風の噂で(・・・・) 、 聞いた話(・・・・) ですけど、あの<超級殺し>もAGI型の超級職らしいので、対抗するにもAGIかENDを上げるべきですね」

あの<超級殺し>もAGI型か……。

アイツに対抗するためにも、AGIかENDを上げなけりゃならん。

ん? 強くなると言えば。

「ところで、STRに特化したら駄目なのか?」

攻撃力上がるのが一番シンプルに強いと思うんだが。

「死にますね」

死にます!?

「STRに特化すればその分だけAGIとENDが欠けますからね。いくらパワーがあっても避けられないし硬くないんじゃすぐやられちゃいますよ」

「そういうものなのか」

「ある程度バランスとった上でSTRが高かったり、あるいは全てのステータスがバカみたいに高い“物理最強”の【獣王】みたいな人もいますけど。単にSTRだけ高い構成じゃ的でしかありません」

なるほど……。

あと、皇国の<超級>の一人だったっけな、【獣王】。

“物理最強”なんて通り名ついてるのか。

「さて、この辺までが強くなって戦う“土台”の話で、ここからはプレイヤースキルの話ですねー」

そこまで言ってマリーは喉を潤すために紅茶を飲み、一息ついた。

「フゥ、プレイヤースキルと言っても色々ありますけどねー。例えばリアルで格闘技できるとこっちでも使うとか、リアルで絵が上手いとこっちでもスキル取らずに絵が上手いとかです」

「リアルで格闘技……」

思い出すのは兄だ。

かつてアンクラでの優勝も果たした兄。

しかしこっちではガトリング砲を担ぎ、さらに戦車に乗っているらしい。

……ていうかあの着ぐるみで格闘技できるのか?

動きづらそうだし……むしろ拳法家に倒される方ではないのかクマ。

「リアルスキルの話は個人ごとの差が激しいので置いておきましょう。戦闘、特に対人戦で重要な考えが三つあります」

「考え?」

「相手が最も力を発揮する状況を知ること。自分が最も力を“出せない”状況を知ること。そして相手の必殺を読むこと。この三点です」

「…………」

一つ目は分かる。相手の土俵に立つなということ。

思い出すのは最初に戦った【デミドラグワーム】。

あの時は勝てたが、あいつが兄にそうしたように俺を地下に引きずり込んでいたら。

ネメシスがいたとしても何も見えない暗闇の中で、あいつの生存領域の中で、俺は勝てただろうか?

二つ目も分かる。

<超級殺し>に殺された状況。

完全なアウトレンジから捌きようも防ぎようもない無数の弾丸を浴びせかけられた。

あれは単発の防御と近距離攻撃しか持たない俺にとっては死地だった。

今はあのときより動けるようになったし射程も延びたが、それでもまだ遠距離戦に対応しているとは言えない。

三つ目が分からない。

「必殺?」

「戦闘系は一定以上の強さになると持つんですよ。<マスター>でもティアンでも、<UBM>を始めとしたボスモンスターでも……“これが決まれば相手を殺せる”、そう信じられるような切り札をね」

切り札。

思い浮かぶのは俺とネメシスの《復讐するは我にあり》。

【ガルドランダ】のオリジナルの《煉獄火炎》。

【大死霊】や【ゴゥズメイズ】の《デッドリー・ミキサー》。

「強力なスキルってことか?」

「スキルかもしれませんし、武器や策かもしれません。強いものほど複数の必殺を持ちます。<エンブリオ>にはそのものずばり“必殺スキル”と呼ばれるものもありますしね」

「必殺スキル?」

「ほぅ」

ずっとサンドイッチを食っていたネメシスも目を輝かせながら話に加わる。

どうやら必殺スキルに興味を惹かれたらしい。

「必殺スキルは<エンブリオ>自身の名を冠した、<エンブリオ>最大最強のスキルです。例外なくその<エンブリオ>の特性を発露した強力な効果となっていますね」

<エンブリオ>自身の名を冠した、最大最強のスキル……か。

「以前お見せした映像……フィガロとPKクラン<凶城>のオーナーの戦いで、オーナー側が最後に使っていたスキルがそうです」

ああ、覚えている。

フィガロさんの動きを一瞬止めた後にやっていたラッシュのことだろう。

フィガロさんには回避されていたが、地面には巨大なクレーターが出来ていた。

「ふむ、必殺スキルか。つまり私ならば《ネメシス》となるわけだな」

「はい、読みはそうなりますね」

ネメシスはスキル名になっても違和感ないな。

「でも、<エンブリオ>の名前がスキル名に適さない場合もありそうだな」

たとえば《モモタロウ》とか。

「まぁ、それはありますね。グランバロアの<超級>、<グランバロア七大エンブリオ>の一角にはアブラスマシという名前の<超級エンブリオ>がいますし」

「アブラスマシ……」

水木しげる大先生のイラストしか思い浮かばない。

まったく強そうなイメージが湧かないな。

「あ、名前で弱そうに思えるかもしれませんが、アブラスマシはボクの知る中でも十指に入るくらいにはヤバイ<エンブリオ>ですよ?」

「そうなのか?」

「はい。なにせ触れた液体を何でも爆薬に変える<エンブリオ>です。海水でも体液でも、ニトロも真っ青の高性能爆薬に変えられます。半径500メートルの海水を全て爆薬に変え、モンスターの群れを木っ端微塵にしたこともあります」

なにそれこわい。

「それとこちらは海賊クランと抗争した際の逸話ですが、海賊クランの一人と戦ってからあえて逃がし……全身の体液を爆薬に変えていたその<マスター>を 使って(・・・) クランのアジトを吹き飛ばしたそうです」

えげつない。

「そうして付いた通り名が“人間爆弾”……」

トラウマになりそうだ。

……今後油すましのイラストを真っ直ぐ見られないかもしれない。

「まぁ、名前と強さは比例しないって話ですねー」

うん、それは本当によくわかった。

「何にしても、必殺スキルは習得が楽しみだのぅ」

「はい。けれどスキルが習得できるのは早くても上級に進化した後なので、まだ大分先だと思いますよ」

「上級になってから……か。あれ、そういえばマリーって一年近く、こっちでは三年プレイしているわけだよな?」

「はい」

「それだけやっているならマリーの<エンブリオ>って上級に進化して必殺スキル覚えているのか?」

「む、そもそもマリーの<エンブリオ>を見たことがないのぅ」

「……………………」

マリーはいつも通りのニコニコとした顔で無言だった。

しかしなぜか大量の汗が頬を伝っている。

春くらいの気温だけど、スーツだと暑いのだろうか?

「えーっと、私、じゃない、ボクの<エンブリオ>はですねぇ……名前はアルカンシェルで……」

「 虹(アルカンシェル) か。格好いい名前だな」

神話とか童話とか空想の生き物だけじゃなかったんだな。

それとも世界各地の神話に出てくる虹が元ネタか?

「どんな<エンブリオ>かと言いますと……その……」

「すみませーん、お待たせしましたー」

「おなかすいたー! ごはんたべよーよルークー!」

そのとき、残る待ち人だったルークとバビがカフェに到着した。

「二人ともおは」

「ああ! ルークきゅんにバビちゃんおはようございます! え! お腹が空いているんですか! じゃあボクが朝ごはん奢りますよ! ここはサンドイッチが美味しいんですよ! カウンターで注文してきますねー!」

そう一気に捲くし立ててマリーは席を立ち、店内のカウンターへと駆けていった。

……走ると危ないぞ。

「あはは、マリーさん、テンション高いですね」

「いや、さっきまでどちらかと言えば低かったと思うんだが……」

まぁ、元気があるのはいいことだ。

その後、テンションがおかしいマリーがネメシスの食っていた分量よりもさらに大量のサンドイッチを運んできて、全員で手分けして食いまくる羽目になった。

しばらくパンは見たくない。

To be continued