軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十三話 特攻態

□【未確認飛行要塞 ラピュータ】・外部

「城に寄せろ。衝撃波避けにラピュータの真下からだ。崩落に巻き込まれるなよ」

空飛ぶ絨毯に似たモンスター――【 フライング・クロス(カーペット) 】の上。崩落する外縁部と加速するラピュータを見ながら、<童話分隊>のグリムズは仲間達にそう告げた。

「いきなり無茶振りしてどうしたのよ!」

「俺は城の中に回る。列車に乗り込めればそれがベストだが……あっちは速すぎてカーペットじゃ追いつけねえしな。で、二人は地上で迅羽を援護だ。可能なら城に連れて来い」

「え? 別行動するの?」

「 俺達のフィールド(外縁部) はブッ壊れた。ソニアの地雷もアスマのモンスターも、城の中じゃ使えねえ。こっちの戦力をフルに活かすなら別行動だ」

コンビネーションが使えない点を差し引いても、そうすべきだとグリムズは考える。

<エンブリオ>とモンスターなしでは二人はほぼジョブの力のみで戦うことになる。

城内を進行する猛者を相手に、それでは戦力をタダ取りされるだけだと読んだ。

「……で、近づけるかアスマ?」

「…………」

「『任せてくれ』なのです!」

アスマは頷き、カーペットは主である彼の意を受けて下方からラピュータに向かう。

「本当にソロでやる気?」

「ああ。俺ならソロでも問題ない。伊達に“トーナメント”で優勝してねえからな」

「それ、私のおこぼれじゃん……」

「うるせえ。……いいから任せとけ」

三人を乗せたカーペットは崩落する土砂を潜り抜けながら、ラピュータに近づく。

十分に距離が縮まった段階で、グリムズは 鎖鎌(クトーニアン) を伸ばして城の突起部に巻き付け、自らをそちらに引き寄せる。

それを見届けて、ソニアとアスマは地上へと進路を取った。

「グレイ! 状況はどうなってる!」

城に降り立ったグリムズが廊下を駆け抜けながら呼び掛けると、すぐに城内のアナウンス設備から応答がある。

『最奥まで敵の侵入を許した。至急、シェルターに向かってくれ』

「……分かった」

グレイには、語尾も忘れるほどの焦りが見えた。

状況の悪化は言葉以上のものだと、グリムズも察する。

(シェルターには護衛対象がいる。そんなところまで踏み込まれた時点でチェック掛けられてるじゃねえか)

舌打ちしながら、グリムズは頭の中に収めた地図を頼りにシェルターへと向かう。

その過程で侵入者の情報も受け取り、相手が【闘神】と【式姫】であることも把握した。

(タイマン限定の【闘神】は【龍帝】と戦闘中。そっちには手が出せないが、【式姫】はクトーニアンで奇襲をかければ……いや、ダメージを流す身代わりの式神がいるか。……相手の注意を引きつければ、護衛対象が逃げる時間を稼げるか?)

把握していた各国の猛者……その推測される戦闘力のデータを思い浮かべながら、自身がすべき行動を選んでいく。

そうして、彼がシェルターまであと一分という距離にまで近づいたとき。

「ッ!」

《危険察知》が反応し、グリムズは咄嗟に飛び退く。

――直後、光の塊が彼の眼前を通り過ぎた。

「……!」

『――――』

一瞬にも満たない交錯の中でグリムズと…… 光の中心にいる何か(・・・・・・・・・) の目が合った。

そして 装い(・・) は違えど、グリムズの《看破》はハッキリと相手の名を視た。

「……カルル・ルールルー!」

ソレは、自分達が外縁部と引き換えに地上へと放逐したはずの<超級>だった。

◆◆◆

■カルル・ルールルーについて

特攻態。

それは、“万状無敵”があらゆる状況で全ての敵を滅殺するための力。

かの<超級>の切り札であり、しかし一つのカタチを示す言葉ではない。

数多の<UBM>を屠った【神獣狩】カルル・ルールルーが、自らの持ちうる特典武具の中でもデメリット型攻勢装備を集約した姿の 総称(・・) だ。

『 特攻態(バースト・モード) ――< 天空捕食者(アセンブリ:ラプター) >』

今回(・・) 用いられたのは、天空という戦場に最適化した アセンブリ(装備構成) 。

全身を着ぐるみの毛皮から金属質な装備へと切り替え、カルルは背中のジェットパックを噴かす。

そうして彼は爆炎を纏い、光に覆われ、――超音速でラピュータへと一直線に飛ぶ。

『……!』

その接近をグレイも把握し、同時に接近する 危険物(カルル) に反応した【霊亀甲】が動く。

真っすぐ飛翔するカルルの行く手を、度重なる隕石でも傷つかない超級武具が阻む。

だが、カルルは無言のままラピュータへと直進。

【霊亀甲】と接触し――そんなものは ない(・・) かのようにすり抜けた。

阻まれることなく飛翔を続けたカルルは速度を落とさぬままラピュータへと飛び込み、有り余る推進力で城壁を破壊し、何者かを轢きながら城を貫通した。

突き抜けた後は大きく弧を描く軌道をとり、ラピュータに再突入せんとする。

それを阻める者は、いない。

今のカルルを……彼のアセンブリを阻めるものなどありはしない。

外套:伝説級特典武具【骸燃機関 ジャーペーティ】

装備スキル:《火葬昇天》

発動条件:装備スキル発動時のMPを全消費。

効果:全魔力を『燃料』に変換し、上級奥義相当の爆炎を放出しながらカルル自身にすら扱えないほどの超音速・超推進力で空中を駆けるジェットパック。

副作用:毎秒一〇〇MP分の燃料を消費し、燃料が枯渇した後は毎秒五〇%の確率で装着者の各装備部位にランダムに【炭化】状態異常を付与し、全身が【炭化】するまで飛行可能。

――【健常のカメオ】で状態異常判定を無効化。

――発動時間:無制限

籠手:伝説級特典武具【骨肉争乱 フル・コンタクト】

装備スキル:《ノーガード・デスマッチ》

発動条件:装備スキル発動中の装着者のSPを0に固定。

効果:鎧や盾を問わず、防具に類するものを透過する。

副作用:【骨肉争乱】以外の装着者防具の耐久力を喪失。【骨肉争乱】破損で機能停止。

――ネメアレオンで不壊化。

――発動時間:無制限。

上半身・下半身装備:古代伝説級特典武具【桜花相殺 セレッサ】

装備スキル:《 死出の花道(セレッサ) 》

発動条件:発動後 解除不能(・・・・) 。

効果:胸部の発光体により装着者の周囲に光を展開。装着者が死亡するまでの間、光の内部に侵入した生物に対して『侵入した部位を消し飛ばすまで固定ダメージ』を与える。

副作用:対象に固定ダメージを与えると同時に、装着者へその倍のダメージを与える。

――【救命のブローチ】で致命ダメージを無効化。

――発動時間:無制限

それは自己蘇生と耐性獲得を得手とするアルベルトがデメリット型特典武具にアジャストしたのと同じく、カルルの“無敵”にアジャストした恐るべきデメリット型特典武具群。

戦場・状況ごとに 最適化された(・・・・・・) 自爆装備(・・・・) 。

今のカルルは『爆炎を纏って超音速で飛翔』、『あらゆる防具を透過し』、『近づいた生物を問答無用で消し飛ばす』――特攻機である。

今回の特攻態は、かつてのイベントで使おうとした特攻態よりも殺意は高い。

イベントでは場外負けを懸念して使えなかった【骸燃機関】も、相対した強敵がモンスターであるゆえに使えなかった【骨肉争乱】も、言うまでもない【桜花相殺】も……デメリットに見合う恐ろしさを誇っている。

……しかし、カルルも最初はこのアセンブリを使う気はなかった。

MPとSPを全消費する時点で、他の装備スキルはほぼ使用不能。

まして、解除不能の【桜花相殺】のせいで、一度デスペナルティしなければもう街を歩くことすらできない。

加えて、構成上の欠点もある。

装備部位の問題で、かつての敗因を潰すための装備である【ぽーらーすたー】が使えない。

何より、今の彼はギリギリだ。

【ブローチ】、【カメオ】、ネメアレオン。いずれかが何らかの要因で機能停止、あるいは貫通されればその瞬間に即戦闘不能に陥るほどに、安全マージンが存在しない。

以前のイベントのようにスキル封印を駆使するモノを相手にすれば致命的と言える。

コストもリスクも、使用前とは比較にならないのだ。

それでも、カルルはこの力を使っている。

『“ 万状無敵(私) ”を舐めるな』という意地のままに。

『…………』

突入の最中、カルルは確かにあるものを見た。

見覚えのある鎖鎌……崩落の際に彼の両足に絡みついた武器。

それを手にした人物、先刻カルルを罠に嵌めた男を見つけたのだ。

――まずは貴様からだ。

カルルはラピュータに再度飛び込み、破壊と貫通を繰り返す。

ラピュータを穴だらけにしながら……彼の敵が滅び去るまで。

◇◆◇

□■<北端都市 ウィンターオーブ>・郊外

迅羽が北の空を見上げれば、巨大なラピュータはまだそこに在る。

しかし外縁部が崩壊したことでその大きさは半分程度に縮小し、未だ空から隕石が降り注ぎ、……さらには 弧を描く光(カルル) が幾度もラピュータを襲撃している。

窮地は去らず、むしろより深刻な状況に陥っていることが外にいる迅羽にも理解できた。

(列車と、飛んでる奴と……こいつらと)

迅羽が相対するのは五人の『獅子面』……<超級>ザカライアによって彼と同じ戦闘力を持たされたコピー達。その内の一人は複数の特典武具までも装備している。

迅羽は既に右腕以外のテナガ・アシナガを喪失している。

右手に構えた超級武具――【応龍牙】を含めても、戦況は圧倒的に不利だった。

(…… 時間が足りねえ(・・・・・・・) )

迅羽の口から零れた言葉は、『一刻の猶予もない』とは異なるニュアンスが含まれていた。

そんな彼女を警戒しながらも、五体の『獅子面』は仕掛ける時を探る。

相手の<エンブリオ>の四分の三を削り、底が見えるほど符を使わせて、それでもなお油断や安易な畳みかけはしない。慎重さが相手にはある。

極論、『獅子面』はこのまま対峙しているだけでいい。迅羽という存在を足止めしているだけで、戦術面での勝利を獲得できる。

(こっちが状況を打開しようとしたら獲りにくるだろーな。さて……)

どうすれば相手に有利なこの盤面で、自分の狙いを通せるか。

迅羽が焦燥の中で思案していると……砂の上に影が下りた。

雲一つない砂漠に落ちた影は少しずつ大きくなり、再度迅羽が頭上を見上げれば。

空から、巨大な樹木が降ってきた。

その数―― 五つ(・・) 。

「……!」

巨大な地響きと共に砂漠へと墜落した樹木は、枝と根が砕けても堪えた様子がない。

それどころか、全ての樹木……否、エレメンタルは根を足として砂漠に立ち、巻き上がる砂の幕でさえも隠せぬ威容で周囲を……五体の『獅子面』を威嚇する。

(【ネザーフォレストギガス】……誰かのテイムモンスターか? だが、今の落下の衝撃、五体分じゃなかった)

とてつもない地揺れを起こしたが、それでもあの質量からすれば精々で一体分。

加えて、巻き上がった砂の量も少ない。

( 幻(・) か。ともあれ、助かる。今のうちに始めておくか。……!)

「誰だ?」

砂に紛れて自分に近づく存在に気づき、迅羽が誰何する。

「あ! 待って待って!? 敵じゃないから!」

近づいてきたのは、独りの女性<マスター>だ。

「可愛くなって、じゃなくて縮んでるけど<超級>の迅羽、だよね?」

「ああ。お前は……こっち側だな。“トーナメント”で見た覚えがある」

迅羽に声を掛けたのは“トーナメント”の決勝戦まで残っていたので彼女の記憶に残っていた<マスター>、<童話分隊>のソニアだった。

「なら、アレもお前らだな」

迅羽は彼女が【高位幻術師】であることも思い出し、暴れることで『獅子面』を攪乱している巨人の幻が彼女によるものだとも理解した。

「うん。私の幻とアスマのビーンスターク。それで早速だけどあなたを迎えに行くように言われてるから! 今のうちに早く!」

頭上を注意深く視れば、幻で隠されているがそこにもう一人…… 空飛ぶ絨毯(カーペット) に乗ったアスマがいることに迅羽も気づく。

あれでラピュータに帰還する算段なのだろう。

だが……。

「っ! すぐに退避しろ!」

迅羽が空に呼び掛け、――直後に『獅子面』の放った衝撃波がカーペットを貫いた。

アスマは咄嗟に飛び降りて生き永らえたが、カーペットはHPが《送還》の基準値を下回ったために【ジュエル】へと引き戻される。

仮に出したところで、人を乗せて飛べる力は残っていないだろう。

「ちっ……!」

『…………』

攻撃を実行した『獅子面』は増援が来る前から迅羽と相対していた個体……レーダーも含めた特典武具を装備した『獅子面』だ。

幻で隠そうと、特典武具の効果で位置は丸分かりだったのだろう。

そして特典武具の『獅子面』の指示によるものか、『獅子面』達の攻撃が幻ではないビーンスタークに集中し始める。

膨大なHPを持っていても、超級職五人掛かりの攻勢に長く耐えられるはずもない。

「え? え? え?」

ソニアの方はカーペットの撃墜に混乱し、慌てふためいている。

ビーンスタークと幻で撹乱しながら迅羽を回収して帰還という彼女の立てた作戦は一瞬で瓦解し、破綻後の次善の策もなかった。

(あのエレメンタルの耐久時間。こいつらの戦力……いけるか?)

しかし、迅羽にはまだ策があった。

先刻まではなかった変化。この戦場において初めての……彼女を利する変化が。

「おい」

「へ!?」

迅羽は慌てているソニアに声を掛け、そのまま短く告げる。

「お前ともう一人で、 あと一分(・・・・) 稼げ」

ソニアはここにおり、アスマが無事に着地したのも迅羽は確認している。

孤軍奮闘している迅羽の前に現れた、たった二人の援軍。

彼女達の奮闘こそが迅羽の切り札に手を届かせる要因となるのだ、と迅羽は確信する。

ゆえに……。

「その後は――オレが全部片づけてやる」

牙の並ぶ口で笑みを浮かべながら――迅羽は勝利を宣言した。

To be continued