軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十六話 未来を見ない馬鹿でいい

□【装甲操縦士】ユーゴー・レセップス

収監されていた牢から飛び出していったあの人を追いかけて地上に出てみれば、その姿は見当たらず……。

代わりに見えたのは、地獄のような光景だった。

街が燃え、建物が崩れ、光を纏った衛兵やパワードスーツが人々を撃ち殺し、重機が人を轢き殺し、そうして死んだ人々が起き上がって殺戮の群れに加わる。

「何で、こんな……」

悪夢のような光景の中で言葉を失い、立ち尽くす。

こんなことになっている理由は、彼が言っていたように<UBM>なのだろう。

ザカライアさんが言っていたように、回復の珠とされていても実態は危険な存在だったということだ。

「……ザカライアさんは?」

あの人は牢に捕まってはいなかった。

彼にも、この事態に至ることは止められなかったのだろうか?

「ユーゴー」

「……うん」

紋章から出てきたキューコに、手を引かれる。

このまま、ここにいるだけでは何にもならない。

機体のない私は無力なままだ。

早く、没収された【ホワイト・ローズ】を回収しないと何をすることもできない。

……もしかすると、アイツなら勝手に動き出しているかもしれないけれど。

そうして、街の中を駆け回る。

押収された機体が置かれているとすれば公的機関のはずだと考えて、昨日調査した市庁舎へと向かう。

光を帯びた死体や兵器に見つからないように、注意深く。

戦う術がなく、会敵すれば死という状況。

けれど、キューコのセンサーのお陰で光の影響を受けた相手を回避して進めている。

どうやら、あの光自体が<UBM>の 身体の一部(・・・・・) らしく、死体や兵器が帯びた光に対して、キューコは<UBM>が持つ膨大な同族討伐カウントを観測している。

それを避けるように動けば、少なくとも<UBM>に操られた相手と遭遇することはない。

……それにしても、この<UBM>は強い。街一つに影響を拡大する光のエレメンタル。これだけの規模で能力を発揮できるなんて、かなりランクが高い。

もしかすると、コルタナの【デ・ウェルミス】以上かもしれない。

「だけど、一体何が切っ掛けで<UBM>が解放されたんだ……」

「…………」

また、これまでのように<IF>の介入があったんだろうか。それとも別の……。

『――緊急速報です』

物陰に隠れながら進んでいると、崩れた建物に転がっていたラジオからそんな音声が聞こえた。

この街の現状について、カルディナも察知して報せているのかと耳を澄ませば……。

『<北端都市 ウィンターオーブ>にて現地時間一三時、 軍の武装蜂起(・・・・・・) が確認されました』

「…………え?」

告げられた情報は、事実と全く異なるものだった。

その後もラジオは私が立っているこの街のものとは思えない情勢を伝えていく。

さらには……ここをカルディナではなく 敵国(・・) と認定していた。

「どういう……こと……?」

『調査に派遣されていた人員が不当に拘束された』って、私やあの人のこと……?

私を理由の一つにして……このウィンターオーブが敵国扱いに?

いや、それより、ニュースでは<UBM>のことなんて一言も……。

「……ぅ……」

眩暈と吐き気がする。

自分の見ている光景と自分の聞いた情報。

どちらが正しいのか、脳が混乱している。

「ユーゴー、うえ」

「……う、上……?」

キューコの指差す先を見れば、そこには<Infinite Dendrogram>でもそうは見ない光景があった。

空中を走る列車と、その後方に浮かぶ城塞。

後者が黄河所属のラピュータだとかつて見た資料で知ってはいても、現実離れした光景に驚愕を覚える。

けれど、驚愕以上に私の胸を絞めつけたのは、その後の光景だ。

「何で……」

上空を走る列車から、――十機の< マジンギア(・・・・・) >が投下された。

それも……あの客船で戦った【インペリアル・グローリー】と酷似した機体だ。

<マジンギア>は他の兵器と同じように光を浴びて、背中のスラスターを噴かしながら別の街区へと着陸していった。

直後に、エネルギー兵器の発砲音と爆発音が聞こえて……投下された<マジンギア>が街を破壊し始めたことを理解する。

この惨状を助長するような、兵器の投入。

誰が、それを行ったのか。

客船で戦った機械竜に乗った<IF>だと思おうとして……しかしそれを脳の情報が否定する。

「あれは、……あれを」

あの【インペリアル・グローリー】を作れるのは、誰か。

嫌な予感に心臓が気持ち悪い脈を打ち、背中に冷や汗が流れてくる。

リアルと変わらない不快感に、眩暈がする。

「ッ!」

持たされていた通信機に連絡があったのは、そんなときだった。

通信相手として表示されたのは、今思い描いていた人物……カリュートさんの名前。

震える手で通信を繋げれば……私の予感が肯定されてしまった。

――この事態を招いたのは、 私達(カルディナ) だと。

これ(・・) は、カルディナの策謀だった。

<UBM>を解放させて、それを前提に作戦を立て、ウィンターオーブを敵国扱いにして、さらには被害を拡大させるために新兵器まで投入する。

そして、恐らくはこの街だけでなく頭上の飛行要塞……黄河のラピュータも巻き込んで何事かを企んでいる。

それは陰謀であり、テロだ。

かつて、姉さんがギデオンでやったことのように。

かつて、私が加担したことのように。

「また、私は……」

悲劇の加害者側になるのは、これで二度目。

あるいは、これまでの戦いでも……気づいていなかっただけでそちら側に立っていたのだろうか?

「ユーゴー……」

「……こんな……はずじゃ……」

この街の人に被害を出さないように頑張っていたはずだった。

珠の回収も、調査も、そのためのはずだった。

少しでも、マシな未来にするために。

そうした行動の結果は、最悪の形で齎された。

あの日、戦争を回避するためという理由でギデオンの街を恐怖に陥れ、幼い子供を誘拐し、最後には街そのものを滅ぼそうとしたように。

私はまた、悲劇の片棒を担いでいる。

「……どう、しよう……」

今回と前回の違いは、一つを除いて同じことだ。

その違いは私や、私を使った人達についてじゃない。

今回はこんなことをすると聞かされていなかったとしても、珠を回収することで街に負担が生じることは知っていた。

自分が納得するために事前の調査は行った。

けれど結局、この街の状況を悪化させるために動いたことは変わらない。

未来のために動いた結果、未来が私の想定なんかより遥かに悪くなったことも含めて、あのときと同じだ。

「どうしたら……いいの?」

違いは、一つ。

ここには 彼ら(・・) がいない。

私達が齎した悲劇を覆したレイや、彼の仲間達がいない。

ここには 私達しかいない(・・・・・・・) 。

陰謀の絵図を描いたカルディナと……こんな私しか……。

「ッ! ユーゴー!」

キューコの焦ったような声に、顔を上げる。

彼女の視線の先には、轟音と共に巨大な機械の姿があった。

市中の整備工場から飛び出してきたのか、採掘用の重機が光を帯びてストリートを暴走している。

その進行方向には、私達。

二人まとめて轢き殺して、 光の奴隷(同類) に変えようという原始的な思惑すら窺える。

キューコが私の手を引いて、逃げようとする。

けれど、重機は私達より遥かに速く、そのシルエットは間近にまで迫って……。

唐突に――重機の前面に大穴が穿たれた。

重機の暴走を上回る物理的な衝撃が正面から加わり、強制的にその走りを止められる。

次いで、巨大な機影が私達と重機の間に挟まり、動きを停滞させた重機を蹴り倒す。

大破転倒した重機は光の中で再生しようとしたけれど、それを封じるように機影が動く。

『――《ペイント・ナパーム》』

高性能燃料爆薬が浴びせられ、重機は跡形もなく焼き尽くされた。

突然の命の危機は、突然に焼却された。

「…………」

『ようやく見つけたが……実はすでに死んでいるのか? そんな顔色をしている』

爆発の衝撃で尻餅をついていた私に、皮肉の混ざった言葉が投げかけられる。

声につられて見上げれば、そこには私のよく知る兵器の顏があった。

重厚な装甲を纏った白い人型が、狂い咲く花のように数多の武装を八方へと突き出している。

それこそが、改修を経た【ホワイト・ローズ】の姿。探していた私の機体。

パイロットもなく動いているけれど、それを【フーサンシェン】とやらの影響だとは思わない。

カリュートさんの説明もあったし、何より 彼(・) の第一声がそれを証明している。

私は溜息を吐いて……問いかける。

「……何か 言いたいこと(・・・・・・) ある?」

『いや? 私を没収された間抜けなパイロット君こそ、何か弁明はあるかね?』

【ホワイト・ローズ】はまた皮肉めいた口振りで応えた。

正確に言えば受け答えをしているのは【ホワイト・ローズ】じゃない。

機体の心臓部であり、今もエネルギーを供給する動力炉にして補助コンピュータだ。

『こんな有り様では私とこの機体の所有権を預けるのは甚だしく不安だが……残念なことに私は持ち主を変えられないのでね。騒動に乗じて探しに来てやったとも』

【ホワイト・ローズ】は機体の外部スピーカーを介して、私と会話をする。

その言葉は余りにも流暢であり、何よりその声は機械音声とは思えない。

中に人が乗っているのかと思えるほどで、実際それは 半ば正しい(・・・・・) 。

スピーカーから聞こえてくる声は……とある人間のものと同じだからだ。

「……感謝はするよ、【 インペリアル(I) ・ グローリー(G) 】」

【機竜心核 インペリアル・グローリー】。

そして、特典武具の内部に宿った仮想人格……かつて同名の<マジンギア>を操ったティアン最強のパイロット、【超操縦士】カーティス・エルドーナを模した存在。

彼の存在は改修後の実機試験段階で明らかになった。

効果の分からなかった装備スキル、《機心》。

それが『機体を動かす補助システムとして生前の人格を模倣する』ものだとそのとき判明した。

こんなスキルとして成立したのは、<UBM>としての【インペリアル・グローリー】が生まれた経緯が関係しているとカリュートさんは言った。人格を機体に転写する最終奥義の影響だろう、と。

人格は同じだけれど、生前の記憶はないらしい。

機体操縦能力は優秀で、私とは比較にならない。

けれど、かつて敵対して殺し合った相手であるし、テロを画策した犯罪者。その力に頼ることに懸念はあった。

……私が、今更言えることではないけれど。

『さて、状況は理解しているか? 私の状況認識は不快なオーラを纏う連中が寄ってくるので鬱陶しいといったところだ。より詳細な情報があるならば説明を求める』

「……<UBM>が解放された。やったのは……カルディナ。それに、カリュートさんの兵器も投入されてる」

『なるほど。理解はした。作戦内容を聞かされていなかったであろうこともな。まぁ、私でもパイロット君には伝えないだろう』

私の説明に驚くこともなく、【IG】はあっさりとそう言った。

『それでどう動く? 加勢して(・・・・) 街を壊すか? 任務完了として離脱するか? あるいは叛逆でもしてみるか?』

「……ちゅうこ」

こちらの心情を考慮する気がない物言いに、キューコは彼を睨んだ。

対して私は、……私はどんな顔をしているんだろう……。

『とはいえ、私にとっても重要な話ではあるな。この機体のコスト、整備難易度は君も知っているな。現状、破損しても我々は自力での修復ができない。資金と技術力のある後ろ盾が必要だ』

それは、カルディナに他ならない。

そうでなければ姉さん……<叡智の三角>に戻ればあるいはといったところだ。

『 パトロンや友(・・・・・・) と縁が切れるかどうかの境い目だな』

「…………」

友……か。

そう、カルディナでも仲間と……友人と思える人達ができた。

問題ばかり起こすけれど、旅に不慣れだった私の手を引いてくれた師匠。

露悪的で俗物を自称するけれど、優しくて面倒見の良かったマニゴルドさん。

孤児院で忙しいのに、マニゴルドさんと共にあれこれと手を貸してくれたイサラさん。

同じ<叡智の三角>出身で、一緒に【ホワイト・ローズ】を改修したカリュートさん。

カルディナの人々も、私にとっては友人になっていた。

「…………」

そんなカリュートさん達も、今回の陰謀には関わっている。

私にとっては優しい姉さんがギデオンでの陰謀を実行したように。

私に優しい人達が、それ以外の人々にも優しいとは限らない。

――曇った眼で視続けている。

また、憎たらしい彼の言葉を思い出す。

けれど、……本当はとっくに分かっているはずだった。

わたし(・・・) は親しい相手の良いところしか分からない。

酷薄な面や、わたし以外に見せる顔を想像しない。

そんなことは、ずっと昔から知っていたはずなのに……。

父と母のように。

『今後のことを考えて、合理性で言えば加勢か傍観の二択になるだろう。パイロット君の唯一の武器である私としては、それらを推奨せざるを得ない』

後悔を抱く私に構わず、【IG】は言葉を続ける。

彼の立場……兵器としてはそうなるだろう。

カルディナを敵に回せば整備ができなくなるだけじゃない。

それこそ、敵の中に置き去りになるようなものだ。

砂漠を旅することもままならない。

それでも親しくなった人々を敵とするのか。

敵になったとして、その先に未来はあるのか。

だけど、それでも……選べるのならば、私は……。

『しかし、私の推奨案は 合理性だけ(・・・・・) の話だ』

「……!」

音声のトーンを変えた【IG】……【ホワイト・ローズ】を見上げる。

『合理性だけで動くなら 心(・) は要らない』

彼のカメラアイは見下ろしながら、けれど真っすぐに私の目を見ていた。

『時に非合理的であってもロマンを追い求めるように、時に愚かであっても愛に生きるように、理屈に合わない行動こそが生物を生物たらしめる。それに苦しめられるのも、思い悩むのも、生きているならば当然のこと。ゆえに、自分が為すべきと思ったことならば、国も友も捨てて駆け出すこともある』

それは機械の言葉でもなければ、冷酷な軍事テロリストの言葉でもない。

そのどちらにもなる前の、カーティス・エルドーナの言葉のように思えた。

「ねぇ、ユーゴー」

傍らに立つキューコが、私の手を取る。

そして彼女もまた、真っすぐに私の目を見て……。

「――ユーゴーの心はなんて言ってるの?」

その問いかけに、彼女達の言葉に――背中を押された。

「 私(わたし) の心、か」

いま、わたしの心が求めている行動は何かを考える。

そして少し考えただけで…… いま(・・) 本当は何がしたいのか、わたしの心は素直に示した。

後先ではなく、眼前の光景に対してすべきことなんて……一つしかない。

「……うん」

背中を押されて、葛藤を呑み込んで、立ち上がる。

「【IG】。コクピットを、開けて」

私の命令に【IG】は従い、コクピットのハッチを開く。

複座型のシート……私とキューコを乗せる席が見える。

私は搭乗の段差に足を掛けて、コクピットに乗り込む。

キューコもまた、私に続いて機体に乗り込む。

キューコは私の進む道について来てくれるパートナー。

【IG】も皮肉と嫌味は多いけれど、私に付き従ってくれる存在。

だからこそ……私が道を選ぶ。

「これから、どうする?」

「これからのことなんか、―― 考えない(・・・・) 」

『ほう?』

楽しげに、【ホワイト・ローズ】が揺れる。

「馬鹿な 私(わたし) が、未来を憂いて迷っても仕方ない」

昔も、今も。

ギデオンでも、ウィンターオーブでも。

未来のためになんて理由で動いて、迷って、本当に納得のいく結果になったことがない。

「だから、未来以外を見るよ。目の前だけを見て、自分のしたいことをする」

何をしたのか(過去の行い) 、 何をしているのか(今の所業) 。

目に見える、目の前だけ見て……心の示すままに動く。

思えば、この世界で一番心に恥じることなく動けたのは、そんな瞬間だ。

あの人喰いの山賊を倒すために、姉さんの言いつけさえも破って動いたとき。

姉さんの非道に困惑しても、【破壊王】の砲撃の中を姉さんの傍まで駆け抜けたとき。

後も先もなく、そうすべきだと心がしがらみを蹴り倒す。

それが答えだ。

未来なんか知らない。

未来に迷って動けなくなるくらいなら、未来を見ない 馬鹿(わたし) でいい。

未来のことなんて、明日の寝覚めの良い悪いで十分だ。

『開き直りか?』

「そうだよ」

「じゃあどうする?」

楽しそうな声音の【IG】とキューコがさらに問いかける。

前部シートから私を見ているキューコは、久しぶりの微笑を浮かべていた。

「戦おう」

「なにと?」

「今、私達の目の前にある全ての悲劇と」

この事件の元凶になった<UBM>、【フーサンシェン】を倒す。

カルディナがばら撒いた兵器、【グラディウス】も全て壊す。

自分が関与した悲劇を放っておかない。

「だから、力を貸してもらうよ。二人とも」

「うぃ、まむ」

『元より、私はそういう存在だからな。愚行であろうと力を貸すさ』

いつも通りの……かつて通りのキューコと、楽しそうに皮肉を言う【IG】。

二人の力を借りて、私の機体が動き出す。

「ユーゴーが道をえらんだなら、わたしの 進化(進む先) もきまったよ」

キューコが青と白の光の粒子に姿を変えながら、粒子化のそれとは 違う輝き(・・・・) に包まれながら……機械華を雪化粧で覆う。

『初陣だ。この街に跋扈する有象無象の兵器に、格の違いを見せてやろう』

【機竜心核】が唸りを上げて、全身にそのエネルギーを伝導。

私の乗騎――【 ホワイト・ローズ(満開の) ・ フル・ブルーム(白薔薇) 】が動き出す。

「…………ふぅ」

操縦桿を握りしめて、息を吐く。

もう、私の心は定まった。

あの日のように。

計画でも、惰性でもなく。

見捨てられなかったから動き出した……彼と戦ったあの日のように。

今ここで、しがらみも思惑も振り切って。

「――クエスト、スタート」

――走り出せ、 私(わたし) の心。

To be continued