軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 彼にとっての『夢のゲーム』

■とあるプレイヤーについて

彼が<Infinite Dendrogram>を始める前、二〇四三年のこと。

彼はとあるゲーム大会で優秀な成績をあげ、表彰台に上っていた。

参加した種目である<妖精大戦>は、事前に構築したユニットを盤面上で動かすRTS……リアルタイムストラテジーに分類されるものだった。

彼は優れた戦術とテクニックを持ち、何より未発見の……所謂 クソコンボ(・・・・・) の発見が得意なプレイヤーだ。彼が大会で使ったコンボは次大会では修正されて使用不可となるほどに。

今回の大会決勝で使用した『無制限増殖加速』も半ば 優位バグ(グリッチ) であり、ゲーム機自体の性能が低い時代であれば処理能力の圧迫でゲーム自体が停止する類のものだった。

それもあって、表彰台に上った彼に向けられる声も半分はブーイングである。

(禁止事項でもなし。ルール上、それができるならやっていいと思うのだけどね)

彼はブーイングなどどこ吹く風でトロフィーと賞金を受け取っていた。

それから、チラリと自分の左側…… 他の表彰台(・・・・・) を見る。

このゲーム大会は大規模で、彼が参加したゲーム以外にも複数のゲームの大会を同時開催した一種のカーニバルだった。

彼が頂点に立ったRTS以外に、格闘ゲーム、ロボットアクション、FPSのソロ部門とチーム部門、それとデジタルカードゲームが同時開催されていた。

今は全大会が終了したイベントの締めであり、各大会の上位入賞者達が同時に表彰されている。

彼の目を引いたのはデジタルカードゲーム……<バースエイル>で優勝していた少女だ。

彼から見ればまだ小学生のようだったが、どうやら高校生らしい。

(やっぱりアジアの人達の年齢って若く見えるね)

そんなことを、別ジャンルの 世界王者達(・・・・・) を眺めながら思考していた。

彼は今回、RTSとデジタルカードゲームのどちらの大会に参加するかを悩んでいた。

構築力と戦術を好む彼からすれば、どちらも趣味のゲームジャンルだ。

そして最終的に『運が絡まない』という理由でRTSを選択した。

どれほど強くとも運次第で敗北がありうるのがカードゲーム。そうでなければつまらないと理解はしていたが、それはそれ、これはこれだ。

だが、それでも一つ決めていたことがある。

表彰後には大会参加者が集まる 懇親会(パーティー) が開かれていた。

交流用として今回の大会種目でもあった各ゲームの大型筐体まで置かれた豪華絢爛な会場であり、並ぶ料理や集まった人間の数からも相当の金銭が掛けられていることは明らかだ。

逆を言えば、スポンサー達はその出費が惜しくないということだ。

昨今、ダイブ型VRを除けばゲーム業界は好調だ。管理AIを用いた情報処理技術や開発能力の向上によってゲーム自体のクオリティが大きく上がっている。

かつては高スペックのハードを作っても、上がり過ぎたハード性能を埋め切るのには膨大なマンパワーが必要となり、性能を活かしきれないケースも多かった。

しかし近年は大企業ならばゲーム開発に管理AIを用いてそのマンパワーを補うことができる。逆に管理AIを持たない中小の会社は高スペックハード以外の媒体で出し、グラフィックではなく工夫で勝負するようになった。二極化が進んでいるとも言われている。

そんなゲーム開発において、ある種の極点に達したとされているのがアーケードの大型筐体だ。

立体映像技術を用いた大型筐体での遊戯。

その演出や臨場感は人の目を惹きつけ、プレイヤーや精通した者達だけではなく素人でもスポーツ観戦のように楽しめるようになっている。

スポーツのように大会の観戦チケットの販売数やテレビやネットでの配信収入も数十年前よりも遥かに多く、専業のプロゲーマーとして食べていける人間の数も増えている。

人間の感覚をゲーム内に移すダイブ型の開発は<NEXT WORLD>の致命的失敗を挙げるまでもなく難航しているが、それ以外の面ではかつての人々が夢見た未来に到達していると言えた。

さて、そのようにゲームがEスポーツとしての地位を固めた時代、最高峰の大会の打ち上げにおいて……彼は浮いていた。

ここぞというときに未発見の優位バグを使うため、そんな手で敗れた相手からの評判は悪い。

何より大会でゲームの不具合を利用、世間に喧伝されてしまうため……当然のように開発会社からの受けも悪い。

そんな事情で彼の周囲は一種のエアポケットのようになっているが、彼は気にした様子もなく豪華な食事に舌鼓を打っている。

(来年からは出られないしねぇ)

彼は今回の優勝……幾度目かの大規模大会優勝により、<妖精大戦>において初の『殿堂入り』となった。

裏を返せば、『出禁』である。

まさか事前に確認されていなかった不具合を利用したからと言って失格にするわけにもいかず、更なる不具合を晒される前に彼自身を表向き円満に排することにしたのだろう。

彼はその決定に怒りも悲しみもない。

大会を楽しみ、賞金も得ているが、ゲーム大会に依存した生活を送っていたわけでもない。

生きる上で、ゲームはあくまでもゲーム。楽しむためにやっていることだ。

それゆえ、彼にとってこの大会における心残りは一つだけだ。

パーティー開始から一時間ほどが経ち、会場の雰囲気も落ち着いたころ。

彼は、他の参加者から離れたところに立っていた人物へと近づいた。

『ミス・ ホシゾラ(・・・・) 』

彼は<バースエイル>の優勝者である少女……星空暦にこう声をかけた。

『よければ僕と<バースエイル>で対戦しないかい?』

それが彼の唯一の心残り。

RTSで優勝したならば、デジタルカードゲームの優勝者にも挑もう、と。

自分が選ばなかった道の頂点はどれほどのものかを試すために。

そんな彼の申し出に対して星空暦は……。

『構わないわ』

少しも動じずに、流暢なイタリア語で了承した。

二〇四三年度、RTS世界王者とカードゲーム世界王者。

会場に設置されていた筐体で、参加者が注目する中で行われた世紀のエキシビジョンマッチ。

しかしその結果は……。

「…………参ったな」

彼の、 完敗(・・) である。

先行ワンターンキルを喰らったわけでもないのに、『何もできなかった』。

(……どうやら<妖精大戦>を選んで正解だったらしいね)

完全に読み切られていた。

戦術も構築も対策されて、完封された。

見ていた者達も、その通常では考えられないほどのワンサイドゲームに言葉もない。

多くの者の視点ではヒールであるはずの彼が破れた事よりも、異常な圧勝を見せた少女にこそ慄いている。

強いて言えばFPS部門……<ウォー・グラウンド>ソロ部門の優勝者が、少女に向けて渇いた拍手を送っていたくらいだ。

いや、それは本当に少女に向けられたものだろうか。

むしろ彼に向けて憐れみを込めて、『サンドバッグお疲れさまです』と贈られたのではないだろうか?

そんなことを考えてしまうほど、圧倒的な敗北だった。

彼とて、かつては国内大会で幾度も優勝した程度には<バースエイル>にも習熟しているはずなのに。

(けれど……不思議だね)

彼は現環境での大会には出ていない。

今のデッキもオンライン対戦では練磨したが、最近は<バースエイル>の方では公的な大会に参加していなかったため彼が如何なるデッキを使うかは誰も知らない。

だというのに、どうしてここまで完璧に対策したデッキを使うことができたのか。

まるで未来予知でもされたかのような、謎と神秘と気味の悪さがあった。

(まぁそれはそれとして楽しくはあったな)

『ありがとう。ミス・ホシゾラ。かつてない体験ができて楽しかったよ。君に会えて幸運だった』

本心の言葉と共に手を差し出し、彼は少女と握手を交わす。

最先端技術を尽くしたゲーム大会の会場に身を置きながら、どこか人智を超えた神秘を感じさせる少女を心から称賛した。

『ええ、ミスター・シルヴェストロ。けれど、RTSならきっと貴方の勝ちよ』

『ははは、かもしれないね』

彼女の言う通りなのだろう。

きっと、RTSならば彼は彼女に勝利できる。

RTSは構築や読みだけでなく、指揮のハンドテクニックも重要だ。

彼女はターン制のカードゲームにおいては比類なき強さだが、リアルタイムでユニット部隊の操作を要求され続けるRTSはそこまで得意ではないだろう。

『……少し惜しいね』

『そうね』

彼と彼女の才能は違う。

そしてそれを比較しようとすれば、どちらかが相手の舞台に上がり、ハンデ戦をするしかない。負けたことは気にしないが、それは少し惜しい気がした。

(異種格闘技戦みたいに競い合えるゲームができればいいのに)

別種の才能と研鑽と知恵を同じ舞台でぶつけ合えるゲームがあれば、と彼は思った。

自身の適性や本質が形となり、それを練磨し、運も含めた実力を競う。

(そんな『夢のゲーム』は……出やしないだろうけどね)

自分の舞台で覇者となり、違うジャンルの覇者に彼女の舞台で敗れたその日。

彼は諦めながらも……それを求めた。

◇◆

――翌年、彼は<Infinite Dendrogram>に出会う。

To be continued