軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十三話 オープン・コンバット

□■<ターミナル・クラウド>周辺空域

ケイデンスに迎撃を命じられた瞬間から、雲の上の粗末な施設は様相を一変させる。

施設からは防寒航空服を着こんだ<マスター>達が次々に飛び出し、自らの<エンブリオ>に騎乗して出撃に備え始める。

次いで普段は旅客の防護を担当しているバリア能力の<マスター>や【 障壁術師(ウォールマンサー) 】・【 結界術師(バリアマンサー) 】達が、合力して<ターミナル・クラウド>を保護するように巨大な多層防壁を形成。

その内側では対空バリスタ等の対空兵装の数々を展開。

変化はそうした人の動きだけではない。

周辺で空気が唸り、風が強まり、風速を増していく。

あたかも<ターミナル・クラウド>の建っている雲を台風の目とするかのように、小型の嵐が生まれていた。

それはケイデンスが発生させた人工の天災。近づくモノに暴風の洗礼を与え、その身に纏う偽装を剥ぎ、弱き翼ならば圧し折る。

嵐、多層防壁、対空設備、そして人。

雲上の拠点は……空中要塞へと変貌していた。

「さて、皇国の飛行部隊。いつ攻めてきますかね」

雲の大地に立ち、渦巻く嵐を内側から眺めながら、中核メンバーの一人……航空戦闘管制官【閃光術師】フォールは呟く。

「フォールさん、皇国がこの拠点を攻めてくるなら俺達も従魔を出して……」

「この戦争が始まる前にクラン内の会議で決めた通りに。今回の戦争、メインの従魔を出す必要はありません」

フォールは右手に【ジュエル】を装着した<マスター>の進言を拒否する。

「<エンブリオ>ならばともかく、愛騎を失うのはリスクが高いですから。今回の戦闘でも、従魔型の人員は大型の<エンブリオ>に同乗するか、<ターミナル・クラウド>上での迎撃に専念してください」

<ウェルキン・アライアンス>は空の戦闘や移動を生業とする<マスター>が集まったクランであるが、その手法は<エンブリオ>式と従魔式の二種……と 魔法で単身飛ぶ者(ケイデンス) に分かれる。

そしてこの戦争における戦闘……<ウェルキン・アライアンス>としての業務外の活動での従魔のロストを避けるため、メインの従魔は出さないことを決めていた。

それは、自分達の拠点が襲撃されることになっても変わらない。

先ほど食堂で話していたように、防衛すべき自分達の拠点でもメンバーが愛用する従魔には代えられない。

フォールら中核メンバーの意図を付け加えるならば、従魔をロストしたショックで従魔式のメンバーにリタイアされた方が困るからだ。

「……了解です」

進言した従魔式のメンバーは不承不承といった様子で頷き、他のメンバーのヘリコプターと鳥を混ぜたような<エンブリオ>へと向かっていった。

彼を見送りながら、フォールは考える。

(拠点の防衛、というよりも王国の命運を賭けた戦争で手を抜くことへの嫌悪感ですか。やはり従魔式のメンバーは世界派寄りの思考になりやすいですね)

フォールを含め中核メンバーは遊戯派寄りの思考だが、世界派を悪いとは言わない。

ただ、クランとして優先すべきこととそうでないことがあり、クランの方針に従ってくれればいいと考えている。

<ウェルキン・アライアンス>は形式こそクランに分類されるが、実態はこの<Infinite Dendrogram>における航空会社…… 企業(・・) なのだから。

「来ましたね」

嵐の壁を注視していると、巨大な物体がそれを突破しようとしている様が見える。

嵐から先端を突き出したその物体は、不規則に明滅している。

姿を現し、消し、安定しない様子で……けれど次第に<ターミナル・クラウド>へと近づいてくる。

やがて完全に姿を現したソレは、ガレー船に似た大型の櫂船だった。

船体の側面から突き出した十六対三十二本の櫂が、水面の波ではなく空と雲を掻きながら空中を航行している。

(《光学迷彩》。加えて探知から逃れるスキルもあり、なおかつ飛行能力を有している。中々に多機能ですね。オーナーの嵐も突破してきている。まさか未知の<超級エンブリオ>を投入してきたとも思えませんし、外部コストを要するタイプか稼動までに長時間充填が必要なタイプの第六でしょう。……そういえば皇国で船の<エンブリオ>を使うそれなりに有名な<マスター>がいましたね)

フォールは櫂船から見て取れる情報を分析し、そうする内に記憶の中に思い当たる名があった。

「…… カロン(・・・) 」

フォールは記憶にある<エンブリオ>の名を口にする。『空を飛ぶ』、『光学迷彩』、『気配遮断』などの情報はなかったが、冥界の渡し守の名はあの櫂船には相応しい。

そしてフォールがこの名を知っていたのは、扱う<マスター>が有名だからだ。

「あのクランの戦闘員は北西部の戦いで壊滅したものと思っていましたが……どうやら、この戦場は 企業と企業の戦い(・・・・・・・・) になるようで」

カロンの名をフォールが知っていた理由は、とある有名クランのサブオーナーの<エンブリオ>であるがゆえ。

そして件のクランこそは、皇国における最大の商業……技術開発クラン。

即ち、<叡智の三角>。

◇◆

「既に迎撃態勢に入っていますね」

空中要塞と化した<ターミナル・クラウド>を見下ろしながら、この巨大櫂船……【富賃艦 カロン】の<マスター>は確認するように独言する。

彼女の名は、ホールハイム。

皇国最大のクラン<叡智の三角>……そのサブオーナーにして財務担当者である。

「こちらの動きを察知していますね。探知型の<エンブリオ>にでも掛かりましたか。ステルス機能も、《リーズナブル・オプション》で付与していたのですが」

彼女は本作戦……<ターミナル・クラウド>奇襲作戦における中心人物の一人であり、カロンは特別攻撃隊の母艦の役割を務めている。

その理由はカロンの機能性にある。

カロンの固有スキルである《リーズナブル・オプション》は、『貨幣』をカロンに捧げることで選択式のオプション能力を獲得できる。

今こうして空を航行していることも、嵐で剥がれるまでは機能していた《光学迷彩》も、その嵐に耐えている風属性耐性もこの固有スキルによって獲得したものだ。

数十のオプション項目はものによって値段も変わるが、比較的安い飛行能力は一時間で一〇万リルである。現実の飛行機の燃料代よりは高いが、ここが<Infinite Dendrogram>であることを考えれば リーズナブル(適正価格) と言えるだろう。

金を投じるほどに多機能化する。そして最初から外部コストを前提としているためにコストに対するリターンの率が良い。それがこのカロンの特性でもある。

「準備はよろしいですか?」

そう言って、ホールハイムは船内を振り返る。

ガレー船であるはずのカロンには、特別攻撃隊の百人以上の<マスター>が特に窮屈そうもなく乗り込んでいた。

これも《リーズナブル・オプション》による内部空間の拡張だ。

余談だが、満載したままオプションが切れると悲惨なことになるため、使用に注意が必要なオプションでもある。

「ああ。問題ない」

特別攻撃隊の一人である【幻獣騎兵】ツィクロンがホールハイムの言葉に頷く。

他の参加者も同様で、【ジュエル】を掲げていつでも空中に飛び出す準備ができていた。

彼は<叡智の三角>ではなく、<フルメタルウルヴス>のメンバーだ。

騎兵系統であり、空中戦も可能だったために今回の空中拠点攻撃のメンバーとして選出された。

特別攻撃隊は皇国内で空中戦闘能力を持つ者達が所属を問わず集められ、戦争前から連携訓練を行っていた。それゆえにツィクロンも<フルメタルウルヴス>の防衛していた拠点が襲撃された際も居合わせず、生き延びている。

「だが、相手は迎撃態勢こそ整えてはいるが、戦力の展開が遅いな。何より、従魔を出している奴がいない」

「恐らくは商売道具を損なうことを警戒しているのでしょう」

ロストの危険がある従魔を出さないという<ウェルキン・アライアンス>の方針を、ホールハイムも察していた。

「こちらと同じ運用はできないでしょうから」

特別攻撃隊の騎兵系統は従魔式の者も多いが、しかし彼らには普段騎乗しているものとは違うモンスターが予め与えられている。

「レックレスシリーズは最初から短期運用を前提にスペックを上げています。損耗に構わず、ここで使い潰すつもりで戦ってください」

「了解した」

命知らず(レックレス) 。

そう名付けられたのはフランクリンの作成した新たなモンスター群である。

自我と呼べるものがないのはスーサイドシリーズと同様だが、こちらは騎乗されなければまともに動きすらせず、寿命も一週間と短い。

しかし騎兵系統が運用することを前提に一回か二回の戦闘を行うだけならば、何も問題はない。他の<マスター>との連携を前提に、フランクリンが用意した代物だ。

それらに加え、飛行型のスーサイドシリーズも作戦開始と同時にカロン搭載の【ジュエル】から順次解放し、攻撃目標として刷り込ませた<ターミナル・クラウド>を襲わせる。

それが特別攻撃隊、第一の戦術。

「先陣は我々が、二陣は彼らが務めます。こちらは相手の必殺スキルや手の内を晒させるための囮のようなものになるでしょう」

<ウェルキン・アライアンス>は王国の上位クランであり、七大国家最大の空輸クラン。

そうでありながら、メンバーの手の内が知られていない。

空の上、雲の上は人の過ごすフィールドではなく、間近で戦闘を見る機会もない。望遠の観測も限界がある。

例外は大規模風属性魔法の使い手とされる【嵐王】ケイデンスと、数千羽の影鳥による蹂躙戦術を用いる【飛将軍】リーフくらいのもの。

「構わないさ。元より、奴らを相手に無傷で勝てる訳もない。こっちも空を戦場にしてきた<マスター>の端くれなんだ。<ウェルキン・アライアンス>の怖さと底知れなさは知っている」

ツィクロンはそう述べ、【ジュエル】から呼び出した翼竜型レックレスシリーズに跨る。

じきに<ターミナル・クラウド>周辺に展開されている嵐を完全に突破する。

そうなれば、戦闘開始だ。

「しかし相手がどれほどであれ、 自分達の役割(デコイ) くらいはこなしてみせるさ。……発進する!」

そう言って彼はホールハイムに敬礼し、カロンから飛び立った。

彼に続いて、他の特別攻撃隊第一陣も離陸する。

「スーサイドシリーズ、 懸架解除(リリース) 。【ジュエル】より順次開放」

ホールハイムも彼らを見送りながら、スーサイドシリーズの解放を実行。

特別攻撃隊第一陣は一〇〇人二〇〇〇頭の飛行戦力を展開。

この瞬間、<ターミナル・クラウド>を舞台とし、<Infinite Dendrogram>のサービス開始以来最大規模の空中戦が始まった。

To be continued