軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七十五話 脳筋式迷宮攻略法

□■皇国<砦>

(ラビリンスの一種かな。彼らに展開の時間を与えてしまったね)

フィガロは《フィジカルバーサーク》を解除し、周囲の状況を探る。

迷宮に立つのはフィガロと【黒曜】のみであり、他には迷宮の通路しか見えない。

装備中の【紅蓮鎖獄の看守】は反応せず、試しに両手の双剣を打ち合わせ……反響音で周囲を探ってみるも誰かが隠れている様子はない。

本当に、この迷宮にはフィガロしかいないのだ。

(やっぱり、守りの仕掛けがあったみたいだ)

先刻の皇国勢への攻撃。

フィガロは、 彼らごと(・・・・) 後方のフラッグを破壊する心算で剣を振るっていた。

鎖以外に装備していたのは衝撃波を飛ばすシンプルな機能の剣だ。

それでも限界強化状態で今のフィガロが振るえば、肉壁の【ギーガナイト】を粉砕してもなおフラッグの破壊に十分な威力を発揮する。

しかし、そんな衝撃波が命中してもフラッグは砕かれていなかった。

何らかの防御手段……恐らくはそれに特化した<エンブリオ>があったということだろう。

この<トライ・フラッグス>で最も壊されてはいけないものであるため、それくらいはあって当然と言える。

あるいは切り札である【グローリアα】を使用していれば、防御ごと破壊できたかもしれない。

だが、フィガロはそれを避けた。

理由として、多数の……そして未知の<マスター>がいる状況だったからだ。

相手にとっては準備を重ねた防衛戦という状況。

ならば、『相手の攻撃を倍返しにする』などの防御・カウンター型の<エンブリオ>の持ち主がいる可能性は十分にありえた。

接触という条件付きだが、ネメシスのように下級時点で備えている者もいる。

王国よりも<マスター>の数が多い皇国ならば、適した人員を捜して配置しても不思議はない。

だからこそ、フィガロは仮に反射されてもどうとでも対処できるレベルの――しかし敵にとっては伝説級悪魔でさえも致命的な――攻撃を仕掛けていた。

結果として僅かに時間がかかり、この空間に転送されたが……失策とは言えないだろう。

未知の敵がいるかもしれない環境では、対応するための安全マージンはとる。

それがダンジョン探索時のフィガロだ。

(さて、単なる檻や密閉空間ではなく、迷宮。それなら踏破すれば脱出できるタイプだとは思うけれど……)

この状況に陥っても、フィガロは慌てていない。

しかし問題がない訳でもない。

この迷宮、フィガロ以外は誰も……敵さえもいない迷宮を踏破して脱出する上でネックとなるのは……。

(《生命の舞踏》がクールダウンする前に脱出しないとね)

非戦闘状態での一定時間……実時間三〇〇秒経過による《生命の舞踏》の 解除(・・) 。

流石のフィガロもフル・ウォーミングアップ状態の自身と拮抗してみせた悪魔軍団を、クールダウンした状態で相手取るのは分が悪い。

だからこそ、タイムリミットまでにフィガロはこの迷宮を脱出しなければならない。

どれほどの広さと罠があるかも分からない、この迷宮を。

「…………」

フィガロが無言のまま、【黒曜】の手綱を引く。

しかし、【黒曜】は嘶くばかりで何も起きない。

「操作不能だね」

今、フィガロが【黒曜】に命じたのは迷宮そのものを【黒曜】で変形させて道を作ること。

しかし、それはできなかった。

この壁や床も鉱物ではない。

迷宮の形をした空間そのもの、といったところだ。【黒曜】では操れない。

それを理解したフィガロは【黒曜】を格納し、自分の足で迷宮に立つ。

次いで、悪魔と皇国の<マスター>達を切り刻んだ双剣も仕舞う。

代わりにアイテムボックスから出したのは……ダウジングロッドにも似た武器だった。

ダンジョン内で次の階層への階段や中心部を指し示す装備である。

効果範囲に制限はあるが……今のフィガロであればその範囲の広さは言うまでもない。

「うん」

ダウジングロッドの反応を見てゴールまでの凡その方角を確認したフィガロは、一つ頷いてダウジングロッドを仕舞い込み……。

「―― 試し斬り(・・・・) かな」

――新たな武器をアイテムボックスから取り出す。

フィガロが手にしたのは、黒い鞘に金の装飾が施された……日本刀だった。

◇◆

「放り込んだ……! やってやった、ぞ……!」

「ダーガス! やったな!」

フィガロが消えた瞬間、一人の男が天に向かって吼え、仲間達が彼を讃えていた。

吼えた男の名はダーガス。今しがた、フィガロを『迷宮』に送り込んだ<マスター>だ。

彼の『迷宮』は<砦>防衛の要の一つ。

<砦>を攻めてきた者の中でも、特に秀でた猛者を排除するための仕組みである。

彼の<エンブリオ>の銘は、【迷宮増築 ダイダロス】。

銘の如く迷宮作成の<エンブリオ>である。

一日に一定のポイントが加算され、そのポイントを消費してトラップや通路をメイキング。アイテムをコストとして捧げることで、更に追加ポイントを得ることもできる。

自家製ダンジョンを作っては、訓練施設やアトラクションとして提供する。

それがダーガスの率いる中位ランカークラン、<迷宮マニファクチュア>だ。

彼の迷宮は亜空間にあり、本来ならば実空間に配置した入り口から侵入する。

だが必殺スキルでは発動した瞬間に、対象を迷宮のスタート地点に送り込む仕様だ。

入口から出ることはできず、脱出するためにはゴールするか専用のアイテムを使うしかない。

無論、フィガロの手にそのアイテムはない。

「とっておきの超迷宮。できれば、そのままくたばれ、……ムリか」

『迷宮』を戦場で使うならば罠で死ぬのを期待する。

しかし……今のフィガロが罠で死ぬはずもない。

彼にとっては、ただゴールまでの迷路があるだけ。

長く、破壊不能なだけの迷宮であり、時間稼ぎにしかならないだろう。

だが、その時間こそが重要だった。

「ダーガス。目算は?」

「今使ったのは、俺が<神造ダンジョン>超えを目指して一年かけて作った傑作。広大かつ、複雑。ゴールより、餓死が先になる代物。……暫くはもつ」

ダーガスはタブレット――ダイダロスで迷宮を作成する際に使う端末を掲げる。

そこには複雑な迷宮の通路と、フィガロを示す光点が表示されていた。

音速を凌駕する今のフィガロの踏破速度でも、迷宮のゴールまでは時間がかかる。

そう理解しつつも、先刻のあまりにも鮮烈な戦いぶりに、ダーガス自身も不安の色を隠せない。

だが、これしかないのだ。

「迷宮のマップとあいつの現在位置、俺が確認できる。ゴールに近づけば、分かる」

「そうか。ローガン……いや、エイリアス。悪魔軍団はまだ展開できるか?」

『勿論さ。ただ、召喚時間の都合もあるからゴールの数分前に最大数を展開するようにセッティングするよ』

『右ニ同ジダゼ!』

イライジャの呼びかけに二体のエイリアスは胸を叩きながら、状況に沿った動きを自ら立案した。

悪魔の召喚には時間制限がある。

今すぐ展開して、フィガロの脱出前に消滅しては目も当てられない。

「ロッシ」

「フラッグは無事だよ。……運よく、僕やママに被弾しなくてよかった」

イライジャが次に呼び掛けたのは、眼鏡をかけた少年だった。

決闘ランカーの一人であり、大柄な鬼女に抱きかかえられている。

鬼女は【鬼守仏親 ハーリーティー】。 鬼子母神(ハーリーティー) をモチーフとしたガーディアンの<エンブリオ>であり、必殺スキルの効果は『対象の庇護』。

ハーリーティー自身が倒されるか、あるいは五〇メテル以上離れない限り、対象へのダメージを無効化する。

決闘では<マスター>であるロッシを対象とするが、今は<砦>を対象として使用していた。

ハーリーティーが倒されない限り、このフラッグを破壊されることはない。

それこそ、フィガロの攻撃ですら弾いている。

「ペールゼン姉妹」

「…………」

「『駄目です。全く通りません。デバフも状態異常も、事前に設置した妹の<エンブリオ>の効果がフィガロに及んでいません。恐らくは各種状態異常の耐性を高めるアクセサリーを強化しているのでしょう。デバフ耐性、呪怨系状態異常耐性、拘束系状態異常耐性といった大枠での耐性は余程の名品でも一〇%程度……気休めの耐性が限界。ですが、それも今のフィガロが装着すれば無効化も同然。あの【獣王】と同じです』と姉様は言ってるよ」

それは二人組の女性だった。一人は眠っているかのように目を閉じてしゃがみ込み、もう一人はその傍らに立っている。

目を閉じているのが姉のケイシー。

他者には聞こえない姉の小さな呟きを代弁したのが妹のシビルだ。

シビルは皇国では【発破王】アンダースタンドと並ぶトラップの使い手として知られている。

彼女の<エンブリオ>である【絶望未知 パンドラ】は地雷のように配置するテリトリーであり、踏んだ人物にランダムのステータスデバフ、状態異常、行動制限を付与する。

通常スキルではシビル本人も効果を選択できない代わりに出力が高いが……限界強化した耐性装備を身に着けたフィガロに通じるものではなかった。

「ファウンテン」

「イライジャよぉ。あれじゃあ、まだ駄目だ。あんなもん、あのチート野郎に取っちゃ小パンだよ。跳ね返しても意味がねえぜ。まぁ俺が死んだら設定どおりに発動しちまうがね」

溜息を吐きながら呼びかけに答えたのは、サークレットを装着した男だ。

彼のサークレットは【七天罰頭 カイン】。

彼が被弾した攻撃と同じ攻撃を相手に放つ<エンブリオ>であり、致命ダメージの場合は威力を七倍にして放たれる。

フィガロが危惧した純カウンター特化の<マスター>である。

「……そうか」

ここまでイライジャが呼びかけたのは、エイリアス以外はこの<砦>……防衛という形式だからこそ抜群に力を発揮する者達だ。

彼らが残っている限り、まだ防衛の術はある。

だが、純粋な戦闘を得手とするメンバーは先ほどの攻防で七割が死んでいる。

十秒前後の戦闘で、それだけの被害が出ているのだ。

かつて王国が味わった<超級>の恐ろしさを、今度は皇国の彼らが知った。

生き残った<マスター>の中には、『あんなものにどう勝てばいいんだ』と表情に諦観や絶望を浮かべている者もいる。

(強化を……強化を切るんだ)

それでも、イライジャはまだ諦めていない。

(事前に集めた情報によれば、フィガロの<エンブリオ>は戦闘時間に比例して強化される。奴はきっと、存分に強化を引き上げてから乗り込んできた)

<編纂部>やフランクリンが戦争前に蒐集した情報。

それらの中には、確度の高い情報としてフィガロのコル・レオニスの性質もあった。

ゆえにフィガロ自身が危惧する欠点を、彼らもまた知っている。

(戦闘が終了……途切れたと<エンブリオ>が判断すれば、初期値に戻るはず。今は、ダーガスの迷宮で時間を……!)

フィガロ以外に誰もいない迷宮に放り込み、その強化の継続を断つ。

初期状態のフィガロならば……エイリアス達と皇国勢が合力すれば対抗できる。

その勝機を祈り、イライジャと皇国勢は時間の経過を待つ。

だが――【超闘士】は彼らの思惑を超えていく。

「……ァ?」

ダーガスの端末に表示されたのは移動する光点。

――通路の壁がないかのように 直進(・・) するフィガロだった。

◇◆

ダイダロスの作る『迷宮』は空間そのものだ。

人間が移動可能な空間として存在するのは通路のみであり、壁は物質的なものではなく破壊できない『仕切り板』に過ぎない。

むしろ、存在しないと言っていいだろう。

だからこそ、壁を破壊して移動するなどという手段は取れず、順路にして迷路を進む以外に踏破の道はない。

例外は転移や空間破壊のように、空間そのものに干渉するスキルだろう。

もっとも、空間に干渉するスキルやアイテムは希少で、都合よく手に入れられるものではない。

だが……。

「思ったよりも使えるね」

フィガロは手にした刀を振るい、――空間の壁を切り裂いて存在しなかった道を作っていく。

そう、皇国勢にとっては最悪なことに……フィガロは それ(・・) を持っていたのだ。

それも折悪しく、つい最近手に入れたばかりである。

彼の振るう刀こそは、フィガロが“トーナメント”で挑戦権を得た<UBM>の特典武具。

空間を操り、惑わし、数多の敵を屠った神話級の大天狗、【夜天大将 オオイミマル】。

しかし、フィガロと対峙し、敗れ、特典武具となり果てたモノ。

新たな銘は【夜行開斬 オオイミマル】。

空間の隔たりや防御さえも断ち、切り拓く妖刀である。

恐らくは婚約者であるハンニャのサンダルフォンを見ていたがために、それに対抗、あるいはシナジーする形でのアジャストをしたのだろう。

あるいは、彼が<墓標迷宮>の深層で覚えたとある違和感を破るためのものか。

武器としても、近接の防御突破力では【グローリアα】をも上回るかもしれない代物。

今この時は……迷宮の壁を壊すツルハシ代わり。

そして限界強化された【オオイミマル】は易々と 迷宮の壁(空間の隔たり) を破壊して、

◇◆

「ふっざけんなよおまえぇええええ!?」

一人の<マスター>のメンタルまでも破壊した。

自分が一年間コツコツと、迷わせながらもちゃんとスタートとゴールが繋がるようにしながら編み続けた傑作迷宮。

そんな迷宮の通路を切り抜いて直進する脳筋に……ダーガスは白目をむいて絶叫した。

To be continued