軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十三話 “轟雷”

□■アルター王国北西部・平原

互いの攻撃を封じあったが、その一度で攻防が終わりではない。

『ッ……! 次弾が来る! シールド交換を!』

黒三鬼の呼びかけに、サポート用機体に乗った仲間が機能不全に陥ったシールドの代わりを【FSC】背面に装着していく。

その間にアルベルトは更なる殲滅武装を装着し、再び爆撃コースを取りながら向かってくる。

アルベルトの矛と黒三鬼の盾、どちらが先に尽きるかのデッドヒート。

その間にも、両軍の戦力は動く。

「行くよ! ブチかまそうじゃないか!」

森林部から飛び出した王国勢が、スコールに閉ざされた皇国陣地に向けて土煙と共に駆け抜ける。

先陣を切るのは必殺スキルによって強化状態となった狼桜であり、地竜や【セカンドモデル】に乗った一団が彼女に続く。

『大佐! 【電波大隊】は!』

「この雨が晴れないことには無理だな」

『ならばこの局面、我らが動きましょうぞ!』

時代がかった台詞と共に、皇国陣地で幾つもの機体が動き出す。

『ええ! 黒三鬼が【殲滅王】を阻んでいるんです! 俺達だってやってみせますよ!』

『うむ! 総員……出撃である!』

雨に煙る皇国陣地から飛び出したのは、無数の機械兵器。

それらはいずれも【マーシャルⅢ】。

だが、<フルメタルウルヴス>が運用していた素の機体は一機もいない。

いずれも【FSC】のようなカスタム機であり、中には本体よりも巨大なサポートマシンに騎乗しているモノもある。

加えて、機体色もパーソナルカラーに塗り分けられていた。

それこそは<叡智の三角>パイロット部隊。

個々人のオーダーに合わせたカスタム、そして『<マジンギア>がある環境を前提として進化した<エンブリオ>』を組み合わせた機体群である。

『各々方! 的は小さいが外すでないぞ!』

『『『了解!』』』

機械虎の<エンブリオ>に騎乗したカスタム機のパイロットが仲間達に呼びかけ、先陣を切って王国勢へと飛び込んでいく。

「皇国のガラクタ共のお出ましかい!」

『抜かせぃ!』

機械虎に騎乗した機体が巨大な双刃斬馬刀を振るい、狼桜は自らの纏う外骨格の刃で迎え撃つ。

『我が愛機【武后】! 我が<エンブリオ>、【 ウー(五) ・ フー(虎) ・ ジィアン(将) 】! その 細腕(・・) で止められると思うてか!』

「言ってくれるねぇ! ならその細腕で機体ごとアンタをブチ抜いてやるよ!!」

両軍の先頭に立つ二人の激突を皮切りに、王国と皇国の戦力が激突する。

超人的な身体能力の王国前衛に対し、人を超えた性能の機械がぶつかる。

かつての戦争ではほとんど見られなかった騎士の国・機械の国としての、<マスター>の激突。

これは国家の趨勢をかけた戦いであったが、同時に戦に臨む<マスター>達の心を躍らせもする。

それは、<超級>も同じ。

「フッ、ハハ……」

通信を切った戦車の車内に、一人の男の声が染み込む。

それはマードックのもの。

しかし、無精な軍人といった風情とは少し異なる笑い。

腹の底から笑声を堪えきれないような、そんな笑い方だった。

「フフ、ハハハハ……楽しいなぁ、おい」

頭上からは翡翠の雲がスコールを降らせ、爆音を放つ破壊兵器が巨大なバリアシステムに阻まれ、眼前の戦場では人と機械が入り乱れて激突する。

そんな地獄のような戦場を、戦場のような地獄を、しかしマードックは心からの笑みと共に観戦していた。

「こっちの戦術は崩されたが、中々に楽しい展開になってきた。これだよ。こういうのがやりたかったから皇国に来たんだ、俺は。これを望んで、<Infinite Dendrogram>にいた」

万感の思いの、独り言。

「今の今まで待った甲斐があった」

『…………』

彼の言葉に乗員は反応しない。

無表情な顔のまま(今はスイッチを) 、 手元を動かしている(切っているから) 。

「これは一人じゃできない。みんながいるからできる。みんなで遊べ。輪になって踊れ」

マードックは愉快そうに呟いて、

「――俺も輪の中で踊らせてくれ」

言葉と共に、車長席に置かれていたスイッチを叩く。

直後、ガシャリという音が車外から響いた。

まるで……重い枷を外すような音だった。

エメラダのスコールの中、王国勢から離れた位置集団が皇国陣地への侵入を果たした。

それは<K&R>の中でもパーティ単位での戦闘を得手とする部隊戦術グループだった。

「姐さん達がロボと戦っている間に、こっちは例の戦車を潰すよ」

「了解。壊し方は《クリスフィ》の【ジェム】で?」

「それでいい。念のため、一両に二つずつね」

豪雨によって目視での索敵が困難になった中、彼女達は気配を隠蔽する各種スキルを併用しながら【電波大隊】にまで辿り着く。

ミスリルでできた銀色の車体。しかし主砲である電磁投射砲を封じられ、今は戦場の置物と化している。

「雨降ったときの火縄銃みたいですね」

「……まぁ、戦国時代風の天地でも火縄なんて使ってなかったけどね」

自分達の出身国を思い出し、この部隊戦術グループのリーダーは苦笑する。

「ああ、爆発するかもしれないから、《クリスフィ》の起爆は離れてからね」

「爆発?」

「レールガンってバカみたいに電力を食うからね。それを賄えるような変な動力なら、爆発もありえる」

リーダーの発言に、部下が首を傾げる。

「そんなに必要なんですか?」

「二五 メガワット(・・・・・) くらい、だったかな。それも、ロスを考えない話だけど」

妙に詳しい――実はリアルで通った高専の課題でレポートを書いたことがある――リーダーの発言だったが、部下は顔を引きつらせた。

「……ここ、一〇〇台はありますよ?」

「火力発電所が何基も必要になるレベルだね。だから実用が難しいって言われてたんだけど。皇国はリアルより効率の良い発電機を開発したのかも」

そんなことを話しながら、彼女達以外も含めた各グループが爆弾代わりの【ジェム】を設置し終える。

皇国陣地の東半分、全一〇〇両あるうちの半数に仕掛けを済ませ、残す半数は今からの爆発で生じた混乱の中で破壊する心算だ。

「起爆」

リーダーの言葉と同時に、【電波大隊】が《クリムゾン・スフィア》による零距離爆破を受けて破壊されていく。

ミスリル製の装甲であろうと、上級魔法最大の火力を持つ《クリムゾン・スフィア》の前には融解していた。

「あっちの 新しい人型(【マーシャルⅢ】) と違って、魔法防御は大したことないですね」

「まぁ、あれはコーティングされてるらしいから、……?」

そうして融解した装甲の内側、雨に濡れる内部構造にリーダーは奇妙なものを見る。

否、正確には……見えないからこそ奇妙だった。

戦車として平凡な駆動装置、コンピュータに相当する物体、リーダーも資料で知っているレールガンの機構。

それだけしかなかった。

「…… エンジン(・・・・) 、どこさ」

発電機どころか、動力を生み出す装置が存在しない。

無人戦車であるがゆえにコクピットも存在しないため、乗組員の魔力を変換することもできない。

リーダーは、奇妙な悪寒に背筋を震わせた。

例えるなら、軽快に走るミニ四駆のカバーを開いたら、電池とモーターが入っていなかったかのような……気味の悪さ。

「あの、なんだか車体からケーブルが伸びてませんか?」

「え? あ……」

豪雨の視界不良の中だったが、部下からの指摘で車体の中央に繋がる黒いケーブルがあり、それが地中を通っていることに気づいた。

「 送電線(・・・) ?」

リアルでは見慣れた機材、だからこそリーダーは訝しむ。

それではまるで電気を引く発電所までもあるかのようではないか、と。

「地属性魔法を使いますか?」

「……お願い」

爆破による混乱の中で、他のパーティは残る戦車の爆破に動いている。

だが、この疑問がどうしてもひっかかり、リーダーは部下の提言に頷いた。

ケーブルの先に、何があるのか。

「出します!」

地中のケーブルが地属性魔法で地面へと露出していく。

一直線に伸びるケーブルは一本でなく、周囲の戦車全てから延びている。

幾つもの戦車から延びる送電線はやがて束ねられ、その終着点には……何もない。

いや、何も無いように――見えた。

しかし注視すれば、降りしきる雨粒が何かの表面を滑るように動いている。

「光学迷彩……?」

空中の王国勢を砲撃した【電波大隊】と同じ、光学的なステルス機能。

それを使ったまま、無数の戦車に送電線を接続していたモノがそこに在る。

「爆破するよ……!」

「了解!」

この物体が敵の要であると、彼女達は理解した。

それゆえに【ジェム】を手にして、隠されたモノへと投擲する。

だが、それと同時に……ガシャリという音が響き、送電線の一端が地に落ちた。

透明な何かの表面で、《クリムゾン・スフィア》の爆炎が広がる。

この戦場において、五十両もの戦車を破壊した実績のある爆炎。

それは空気を歪ませ、光学迷彩という隠れ蓑を剥がし、

――その奥にある存在には傷一つつけなかった。

爆炎の奥には黒い車体の戦車がある。

だが、爆炎は――黒い戦車が展開した発光する壁によって阻まれていた。

「これ、は……!」

それは<マジンギア>ではなく、居並ぶ銀色の戦車とも違う。

ただ一両だけの、漆黒の戦車。

その特別な車両が誰のものであるかを、彼女達は即座に理解した。

「マードック・マルチネスのものと思われる戦車発見!」

この戦場を支配する< 超級(スペリオル) >が、そこにいるのだと。

「攻撃をかける!」

ジェムによる攻撃は効果がないと判断し、自分達のパーティ戦闘でのフォーメーション……<エンブリオ>も用いた連携戦闘に入らんとする。

アームズの<エンブリオ>を構え、前衛の仲間達と共に光の壁に守られた戦車へと振り下ろす。

――瞬間、光の壁は紫電へと変じ、膨大な電流が彼女達を貫く。

連続する雷撃が彼女達を灼き、【ブローチ】の即死回避を経ても連続する電撃によって瞬く間に感電死した。

「リーダー!」

後衛にいた地属性魔法を使う部下はその電撃に巻き込まれなかった。

咄嗟に自分のすべきこととして、戦車の真下から地属性魔法のスパイクを発生させ、車体をひっくり返さんとする。

しかしその直前に、眼前の戦車は消えた。

光学迷彩ではない証明のように、スパイクが戦車の存在した空間を貫いている。

しかし、戦車は既にそこにはない。無限軌道の轍さえもなく、移動していた。

いや、そもそも……。

(あの戦車、車輪が……!?)

その思考の、最中。

一瞬にして彼女の背後に回り込んだ戦車は、至近距離から電磁投射砲を発射して【ブローチ】を砕き、続く突撃で彼女の身体と命を轢き潰した。

あるいは轢き潰したという表現も間違いかもしれない。

その戦車に、無限軌道はない。

装輪戦車の如き車輪さえも持っていない。

黒い戦車は、自らの放つ電磁場によって宙に浮遊していた。

地に着かぬがゆえの高速移動は、とある煌玉馬によく似ている。

『寄られたときの脆弱さ。分かっちゃいたが【電波大隊】はまだまだ改善の余地があるな』

黒い戦車からは溜息と共に、半数を潰された【電波大隊】を嘆くマードックの声が聞こえた。

部隊戦術グループのリーダーが考えたように、この戦車はマードックの乗騎。

そして彼女の疑問であった【電波大隊】の動力の謎の正体は、彼の<エンブリオ>。

発電・蓄電・送電・帯電の四原則こそが、“轟雷”――マードック・マルチネスが有する<超級エンブリオ>の能力特性。

その電力は単独で大都市を賄うことも可能であり、だからこそまともな動力を持たぬ【電波大隊】を運用できる。

しかし今、マードックは【電波大隊】に繋いでいた送電線を外し、大電力の全てを単騎の運用に集中させていた。

『どの道、晴れなけりゃ【電波大隊】は使えない。参加方法を切り替えるぞ』

『アイアイキャプテン』

マードック周辺の動きに気づき、他の<K&R>のメンバーが黒い戦車に攻撃を集中する。

<K&R>の部隊戦術グループが連携して動き、集団戦術グループがタイミングを合わせて無数の矢の雨を戦車へと降らせる。

スキルによって強化された矢は、ミスリルの装甲であろうと傷つけ貫く力があった。

だがそれらの矢は一つたりとも光の壁――電磁バリアを貫けず、前衛が近づくよりも電磁浮遊する戦車が遠ざかる方が遥かに速い。

相手の攻撃を寄せつけないまま、引き撃ちの電磁投射砲で王国の<マスター>を削っていく。

最硬にして、最速にして、最強。

バルドルの如き殲滅力はもたないが、純粋な戦闘力に特化した戦車。

それこそがマードック・マルチネス大佐の愛機、【トールハンマー】である。

『さぁて、【トールハンマー】を潰すために 王国(お前達) はどの札を切るんだ?』

【トールハンマー】の車中で愉快そうに笑いながら、マードック・マルチネスは心から 戦争(ゲーム) を楽しんでいた。

To be continued