軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十一話 静かな開戦

□■国境地帯・隔離施設

国境に建造された施設の造りは、かつて講和会議で使用したものによく似ていた。

生産にスキルを使用し、尚且つ構造を流用することで手間を省いたのだろうが、差異はある。

今の議場の内装は、椅子が二つと時計が一つあるだけだった。

間隔をあけて置かれた椅子には、王国と皇国のトップが……アルティミアとクラウディアが腰かけていた。二人の傍にはリリアーナとバルバロス元帥の姿もある。

時計は午前二時五九分を指している。

草木も寝静まる深夜だが、二人に眠たげな様子はない。

元より戦闘系超級職でのトップクラスの二人。戦い続けるならまだしも、単に活動を続けるだけなら三日程度は問題ない。

もっとも、ただ起きている訳ではなく……互いの動きに注意を払い続けている。

言ってみれば、この施設での隔離自体が互いの監視目的である。

二人だけでなく、施設の外にいるインテグラやクラウディアの隣に立つバルバロス元帥も、各々が魔法や人形で周囲を警戒していた。

二人が警戒しているのは第三国からの干渉だ。

機に乗じた契約に縛られない勢力の介入への対処も、当然必要となる。

両国の国境地帯という他国から最も遠い位置の施設ではあるが、それでもここまで忍び寄る者がいないとも限らない。

懸念事項としてはカルディナから西方にやってきたはずの<超級>が二人、行方知れずになっている。

【神獣狩】カルル・ルールルーと【神刀医】イリョウ夢路。

彼らが国許に帰ったのか、前回の介入のように何かを狙っているのかは定かでない。

両者共に個人戦闘型……個人生存型に類するため、戦局への影響力はさほど高くない。

しかし、カルディナを警戒すべきという見解は両国で一致していた。

「……時間ね」

「そうですわね」

二人は時計を……『戦争開始を告げる時』を見ながら言葉を交わす。

今このとき、戦争結界は起動して王国と皇国の最後の戦争が始まった。

あっさりとしたもので、体感するような変化はない。

あるいは<マスター>ならばイベント告知のアナウンスもあったかもしれないが、ティアンである彼女達には何もなかった。

前後で大きく違うのは、戦争の勝敗を定めるフラッグが有効化されたことだろう。

「以後は戦場から全フラッグが消失した側の敗北、ね」

「ええ。他に細かな規定は設けましたけれど、タイムアップは訪れないはずですわ!」

「アナタはそう思うのね、クラウディア」

「三日目の昼頃には終わると読んでいますわ! 今日に至るまで、小競り合いもありましたもの」

前日までの両国の潰し合いにも意味はある。

戦争開始までは<命>のフラッグの変更も可能だが、開始後は不可能だ。

参加するランカーを削れば削るほど、任せる選択肢が減る。

生き残って参加できる者の中で、誰に預けるのか。

双方ともに、戦争の開始時点である程度は絞れている。

「さて、戦争も始まったことですし、フラッグの答え合わせをしませんこと?」

「……何を考えているの?」

<トライ・フラッグス>はまず情報戦ありきだ。

<砦>の位置。<宝>の預け先。そして、<命>の任命。

それらが不明だからこそ意味があり、答え合わせなど論外である。

「ああ、少し違いますわね。私の推測を聞いて欲しいだけですもの。返答は無言でも構いませんわ」

クラウディアはそう言って愉しげに、有無を言わせず言葉を続ける。

「実は、王国の<砦>の所在がもう分かっておりますの」

「…………」

アルティミアの《真偽判定》に反応なし。ブラフではない。

正否はともかく、クラウディアは本当にフラッグの所在を確信している。

「<砦>は<月世の会>に守らせているのでしょう? 人員移動で砦の位置を掴ませないために、警備に当たる者を少しずつ月影永仕郎の影で移動させたのですわね。移動先は……王国で最も堅固な防衛拠点」

「…………」

防衛拠点とは言うが、かつて<城塞都市>と呼ばれたクレーミルは既にない。

そもそも都市部はフィールド外であり、そこに設置してしまった時点で<砦>は<砦>足りえない。

「今の王国で最も堅固な防衛拠点がどこか、考えるまでもありませんわね」

クラウディアはそう言ってアルティミアに微笑み、

「――カルチェラタン地下遺跡」

――かつてアルティミア自身が戦った地の名を挙げた。

「…………」

アルティミアは無言のまま、肯定も否定もしない。

《真偽判定》の材料を与えないためであり、――彼女の推測が正しいからだ。

王国の<砦>は、カルチェラタン地方……その山中の地下遺跡にある。

手筈通りならば、地下遺跡において先々期文明の決戦兵器である【アクラ・ヴァスター】が格納されていたブロックに……今は巨大なフラッグが屹立しているはずだ。

あらゆる条件から、その地は<砦>に最適だった。

ギリギリでカルチェラタン市街の範囲外であり、戦場の範疇。

同時に、大規模攻撃でカルチェラタンを巻き込みかねない位置でもあり、戦域外のティアンへの被害がデスペナルティに繋がるルールでは広域殲滅も使用しづらい。

また、この地下遺跡の構造は極めて堅固である。【アクラ・ヴァスター】の質量爆撃の後も、内部構造は健在だった。

隔壁を破壊しての侵入は困難。攻略するには王国側がインテグラ主導で修復した防衛機構を突破し、一〇〇〇人近い<月世の会>を打倒しなければならない。

間違いなく王国にとって最適の<砦>であり、あえてここを外してもメリットとデメリットの差が大きすぎる。

しかし最適であるがゆえに、推測するクラウディアも確信していた。

むしろ、カルチェラタン以外の候補を潰すように<マスター>を動かしてさえいた。

「皇国はそこまでの候補地を確保できませんでしたわ。攻め落とすのは大変そうですわね」

クラウディアの言葉に偽りはない。王国内が戦場であるため皇国には地の利がなく、<砦>の設置は最初から圧倒的に不利な状況である。

天然の要害とも言えるマップは幾つかあり、さらには<クルエラ山岳地帯>のように廃棄された砦もあるが……いずれも地下遺跡とは比較にもならない。

事前に王国側も設置場所の候補はリスト化していた。

皇国はそのどこかに<砦>を設置していることだろう。

あるいは、皇国は最初から<砦>を捨てているのかもしれないと考える者も多い。

皇国は個人生存型の<超級>を用意していた。それゆえ戦争での狙いは<命>一つ残して攻勢に力を注ぎ、王国のフラッグを全滅させることではないか、と。

「…………」

アルティミアもその可能性は高いと考えた。状況的にはそれが正しく見える。

だからこそ、油断はしない。

相手の思惑を読んで裏を掻くことに関して、王国は皇国の後塵を拝している。

自分達の思いもよらない手を、クラウディアならば考えるはずだと理解している。

アルティミアの眼前の彼女は笑顔を保ち、その内心を読ませはしなかった。

「さて、二人で開始も見届けたことですし、今夜は休ませていただきますわ」

クラウディアはそう言って席を立った。

この施設には王国と皇国それぞれの宿泊棟が用意されており、三日と言わず滞在は可能になっている。

「それではおやすみなさい、アルティミア。あと三日間、よろしくお願いしますわ」

戦時中の指導者同士とは思えぬ様子で、クラウディアはアルティミアに声を掛けた。

彼女の退室に伴って、バルバロス元帥もついていく。

「……ええ、おやすみなさい」

アルティミアは応えながら、しかし心に幽かな違和感を抱く。

それは国を担う王族や【聖剣姫】としての直感ではない。

クラウディアの友人として、彼女の様子や言動の端々に奇妙な感覚を覚えたのだ。

その理由が戦争のためか、それ以外かまでは……今の彼女には分からなかった。

自室に戻ったクラウディアに対し、付き従っていた元帥が言葉を発する。

「<砦>の攻撃は三日目の朝のはず。今こちらが気づいていることを伝える意味は?」

それは段取りと異なる発言をした姪にして主への問いだった。

元帥である彼と皇都に残っている宰相のヴィゴマは、クラウディアの推測と戦争に関する展望を既に聞いている。

だからこそ、この時点で皇国側が<砦>の当たりをつけていると伝えたことを戸惑ったのだ。あの場では努めて無反応で通したが姪と二人の場ではその疑問を口にした。

「<砦>の設置場所に気づいていると知ったとき、王国側が対応しようとすればそれだけこちらが有利になります」

対してクラウディアは、『兄』にして策謀の担当であるラインハルトの人格に切り替えて答える。

「襲撃への警戒を強めれば、三日目を待たずに防衛側の疲労が溜まって集中力が落ちます。バレているからと<砦>を捨てるなら、浮いたフラッグをとる。どちらでも構いません」

「……なるほど」

情報を伝えることで、ある程度は王国側の動きを制限しようという意図。

「ランダムな動きは対応に苦慮しますから。特に、同格同士の戦いに多大な影響を及ぼすデバッファーの扶桑月夜と、対人即死の最終奥義を持つ月影永仕郎。この二人に奇襲目的で動かれると、ベヘモット達が落ちかねません。その場合は最優先で処理する必要がある」

だからこそ、開始を夜にした。

あと三時間も経てば次の夜まで二人は最大のパフォーマンスを発揮できなくなる。

この短い夜に奇襲目的で二人が動きだすなら、予定を変えて一日目の日中に彼女達を落とす。

「既に二人が奇襲のために動いている状態で、王国が<砦>を守ろうと思うなら呼び戻すでしょう」

計画を変更する必要があるか、見定めるための開始時刻と先ほどの発言だ。

「最善は?」

「計画通りに進むことです。<砦>に釘付けにしつつ他の戦力やフラッグを折り、最終日にこちらの残存戦力全てで<砦>を落とす」

「…………」

元帥はラインハルトの発言に、内心で考え込む。

彼としては、カルチェラタンに被害が及びかねない最終決戦は避けたい。

都市内のティアンへの加害はルールで禁止されているが、戦力が集まり過ぎれば暴発や事故も起きる。

皮肉なことに、彼個人としては王国が<砦>を捨ててくれた方が助かる状況だった。

しかし、そんなことは口に出さないし、提言もしない。

皇国元帥として、皇国軍を預かる自身の職責に反することだと知っているからだ。

両国の命運を左右する戦争で、国を背負う立場の者が私情を優先するべきではない。

内心の焦燥は、別として。

「問題はありませんよ、叔父上」

そんな彼に対し、ラインハルトはそう声を掛けた。

元帥はまたも自身の内心を見破られたかと思った。

「彼女には『<砦>の所在が分かった』と言いましたが……<命>と<宝>の一方。あるいは両方の所在地も読めています。そちらも踏まえて、手は打ってあります」

「……ああ」

だが、ラインハルトの口から出たのは彼の内心とは無縁のものだった。

普段のラインハルトならば、彼の内心を読んでいただろう。

その様子に叔父として、師として、長く接した元帥は違和感を抱いた。

(……焦っているのか?)

表面上はそうは見えないが、どこか結論を決めて動いているようにも見える。

その疑念は、アルティミアがクラウディアに感じたものと似ていた。

To be continued