軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話 電遊研

□椋鳥玲二

俺達は店内にある自販機横のベンチに座り、ジュースを飲みながら世間話をしている。

なお、ジュースは俺が何か言う前に部長から奢られていた。

「相変わらずバースエイルやってたんですね」

「あれだけではないわ。遊〇王、MT〇、ポ〇モン、ウィク〇ス、他にも色々……ね」

……そんなに並行してやっていてルールがこんがらがらないのとか、トータルでどれだけお金を使っているのかとか、気になるところは色々あるけれど昔からそうだったなこの人。

「部長はこっちの大学でしたっけ」

「ええ。家から近いもの。都会に行くのは遠征の時だけで十分よ。ところで、東京の大学はどう? 大学で友人はできた?」

「はい。中々に個性的な面々で……」

「講義を初日からすっぽかした人や、フェイスペイントにモヒカンサングラス、四六時中メイド服着てる人でもいるのかしら?」

「…………」

浅田……昨日話した後輩に聞いたのだろうか?

でも、浅田と部長は三年違うから高校での接点はないはずだが。

「――カードゲーム占いよ」

きっと疑問全開だっただろう俺の視線に対して、部長はそう答えた。

「部長、流石にそれは苦しいと思います」

カードゲームどころか水晶玉を覗いても、そこまで具体的には出てこないだろう。

昔から様々なことをズバリと言い当てては「デッキ構築占い」や「カードゲーム占い」で片づけようとする人だけれど。

部員の間では「部長って実は本物の予知能力者では?」なんて噂もあった。

「どうでもいいことだわ。それより玲二君。一つ確認したいのだけれど」

「はい」

「<Infinite Dendrogram>のレイ・スターリングって玲二君よね」

「……分かります?」

「前に他のゲームでも似た名前使っていたもの」

……まぁ、分かるよな。

格ゲーはともかく、電遊研のみんなで遊んだ携帯ゲームのプレイヤー名もレイだったし。

「玲二君も私も、ついでに 左右田(そうだ) 副部長も名前のひねりが足りてないわ」

左右田副部長こと、左右田エルモ先輩。

あの人は名字と名前の末尾をカットして『左右エル』……『 ザウエル(・・・・) 』というネームをよく使っていた。(なお、カットした方を繋げて タモ(・・) さんと呼ぶと怒る)

調べてみたらデンドロでも天地に同名の銃使いランカー……ザウエル・ウルガウルという人物がいたので、恐らくは左右田副部長だろう。

ウルガウルは……たしかFPSのウォーグラウンドで左右田副部長が好んで使ってたゲームオリジナル銃の名前だ。

射程距離と弾道が死んでる代わりに威力と静粛性の両立した……ちょっと物理法則おかしな銃だった。

「ところで、星空部長もデンドロやってます?」

「ええ。もちろん」

「ネームは?」

「天空院 翼神子(ヨミコ) 」

「…………」

星空→天空。暦→コヨミ→ヨミコ。院はinと掛けているのだろうか。

なるほど。たしかに俺達と同レベル。

「あまり捻らない方が身内には伝わりやすいからいいのよ」

「…………」

俺、捻らなかったせいで女化生会長にまで目を付けられたんですけど。

もしかすると、他にも名前でレイは俺だと気づいてる人がいるかもしれない。

「部長はどこの所属ですか?」

「レジェンダリアよ」

「…………」

「意味深な沈黙をやめなさい。私はHENTAIではないわ」

まぁ、たしかに。レジェンダリアの人がみんな変って訳でもないだろう。

……俺が遭遇したレジェンダリア出身者はフィガロさんと魔王だったけど。

「ちなみに、どうしてレジェンダリアに?」

「ガチャで良いものが引けるのよ」

「…………うん?」

ガチャって……アレハンドロさんの店にあったような?

「ああ。アイテムのガチャとは違うわ。召喚の話よ」

「召喚?」

「ええ。召喚師系統の、《 召喚契約(コントラクト) 》スキルね」

部長曰く、召喚師系統は媒体となるものを用意し、コストとなるMPやアイテムを捧げて自然界の中の形なき召喚モンスターと契約を結ぶ。

契約が成立すると、媒体に召喚モンスターが宿る。

以降は召喚師系統のスキルでMPを注いで時間制限のある仮初の身体を作ることで、媒体の中の魂を宿らせる形で召喚するらしい。

契約後の挙動は俺の《瘴焔姫》とほぼ同じだ。

「ただ、契約相手はランダムなのよ」

どんな召喚モンスターと契約を結べるのか、それは呼んでみるまで分からない。

最初の一回は召喚師ギルドに申請をすると、新人のためにコストやMPを代替するアイテムを供与してくれる手厚い新人サポートがあるらしい。

だが、二回目以降は全て自力で用意しなければならない。

そして《召喚契約》のクールタイムは一ヶ月とかなり長い。

それゆえ、『月一召喚契約ガチャ』などと揶揄されているそうだ。

……うちのクランにも召喚師系統中心に取ってる霞がいるけど、そういう仕様だとは知らなかった。

ちなみに、長期のクールタイムを含む手間が必要な《召喚契約》と比較して、【魔将軍】を始めとする悪魔召喚は『インスタント召喚』と言われることも多い。

ランダム性がなく確実に狙ったものを呼べるが、あの【 魔将軍(ローガン) 】が使うのでもなければ、通常召喚よりも性能とコスト面で大きく劣るらしい。

「そして契約相手はランダムだけれど、 上寄り(・・・) にすることはできなくもないわ」

契約の際は、捧げるコストが大きいほど良いものが出やすい。

さらには召喚する場所の自然魔力が豊富なほど、強力な召喚モンスターと契約しやすいらしい。

だから自然魔力が豊富なレジェンダリアは、召喚師系統にとって土地自体がブースターであるらしい。

増幅器であり、ブースターパックだ。

「コストと土地だけでなく、ジンクスを気にする輩も多いわね」

「たとえば?」

「午前零時教、断食教、満月教、ダンシング教、スキップ教、PK教、レベルアップ教」

「…………」

名前聞くと何となく想像できるが……ガチャかな?

レジェンダリアの印象がHENTAIと指名手配とガチャでいよいよカオス。

「リアルのガチャと違って当たるまで引くことはできないから。限られたチャンスで少しでも良い召喚モンスターを引こうと努力しているのよ」

「…………」

分からないでもない。

俺も、ネメシスにガチャを一日一回制限されていたし。

「あまり強い召喚モンスターを引いてもまともに使えないけれど。強いほどMPの消費は増大するもの」

「ああ……そうですね」

うちのガルドランダも大喰らいだ。

先日も極大召喚のテストで貯蔵していたMPを一気に持っていかれた。

……あいつ、闘技場の結界使うとテストでも出てきてくれないしな。

「部長はどうなんですか?」

「私は普通ね。珍しい場所で引く教、といったところかしら。水辺では水棲、高所では飛行の性質を持ったモンスターが比較的でやすいから、その発展形ね」

「なるほど」

ガチャとは言うが、召喚契約の儀式だ。

山の頂上とかで引くなら見た目も幻想的に……。

「レジェンダリアの玉座で引いたときは、流石の私もドキドキしたわ」

「何してんの!?」

それガチャに使っていい場所じゃないよ!?

下手すると誘拐よりも不敬じゃない!?

どの口で『普通』とか言ってるの!?

「……そこまでして何か良いもの出ましたか?」

「ジンクスはジンクスに過ぎないのよ、玲二君」

「キリッとした顔で『駄目だった』と言われましても……」

契約ガチャの後、どうなってしまったのだろうか……。

「……まぁ、部長が卒業から二年経っても変わってないことはよく分かりました」

「ええ。私は私よ。それで玲二君の方だけど、王国はもうすぐ戦争じゃなかったかしら?」

「はい」

「準備は……ああ、皇国にマークされているのかしらね」

「……みたいです」

今頻繁にログインしない理由の一つは、事前のトラブルを避けるため。

<墓標迷宮>でレベルアップしていたのは皇国との接触・交戦を避けるためでもあったが、どうやら俺は輪をかけて皇国からマークされているらしい。

パトリオットさんも言っていたように、俺は皇国側の<超級>との交戦回数が多く、そのために警戒され……あわよくば開始前にデスペナしておこうと狙う輩もいるらしい。

だからあまり人目につくところにはいない方が……というか開始前は不必要にログインしない方が良いと言われている。

「皇国との関わりは三月の中旬から。大方、受験を終えて新生活に入ってすぐ、事件に遭遇したというところね。それからずっと首を突っ込んでいるのでしょう?」

「お察しの通りで……」

『巻き込まれた』、ではなく『首を突っ込んだ』という言い方。

そのニュアンスの違いが、きっと俺という人間への理解度なのだろう。

「玲二君も変わらないわね」

俺が部長を変わらないと評したように、彼女も俺に同じ感想を抱いたらしい。

「…………」

不意に、部長は沈黙して宙を見つめていた。

何かの癖なのか、この人は昔から時折こうなることがある。

「そうしましょうか」

そして何事かを決めたのか、そう呟いていた。

「一つ、質問してもいいかしら?」

「何です?」

「玲二君って実は王国を内部から転覆させようなんて思ってないわよね」

…………どういう質問?

「聞かれる理由が分からないくらいには思ってないです」

「そう。それなら私も そちら側(・・・・) にしておこうかしら」

そちら側、がどういう意味かも不明だ。

でも部長は昔から俺や副部長が理解しきれない発言をよくしていたっけ。他の部員はもっと分からなかったらしいけど。

「レジェンダリアから王国に来るってことですか?」

「難しいわね。今の私って、砂漠にいるから」

「砂漠?」

「ちょっと副部長に会いに行こうと思って。カルディナの大砂漠を横断して黄河から天地の道行きよ。色々あって同行者が帰ってしまってソロなの。しかも徒歩で」

……砂漠を歩いて一人旅って、デンドロでも死にそうだ。

「砂漠ガチャも引いたし、そろそろ黄河には着いておきたいわ。だから、 移動手段(・・・・) を見つけたら乗ることにしましょう」

「……えっと?」

カルディナでは砂上を走る船が普及しているらしいけど、そういう話だろうか?

部長はかなりの頻度ではぐらかした話し方をする上に、意味を教えてくれない。

そんな風だから内外で「実は占い研の部長では?」とか言われてたな……。

この人が使ってるカードはタロットじゃなくてTCGだが。

「気にしなくていいわ。きっと、あなたとはマッチングが違うから」

「…………」

思わせぶりな、未来を予見するかのような言葉。

そういえば、先日思い出した記憶の中でも部長は俺にこんな風に話をしていた。

“トーナメント”初日にあった出来事を、暗示していたかのような三年前の部長の発言。

あれは偶然なのか、それとも本当に……いや、思わせぶりな発言が多い人だから、俺が当てはまるように解釈しただけかもしれない。

……まぁ、『世の中には不思議なことがある』なんて、姉の影響で知っているけれど。

「色々と考えが回ってるようね。そういう風に、急に思考に集中する癖も変わらないわ」

「あ、すみません……」

「あの口癖も変わらないのかしら?」

「……たまに言いますね」

俺の返答を聞いて、部長はクスリと笑った。

「そう。じゃあ今度の戦争……<トライ・フラッグス>だったかしら、頑張りなさい」

「はい」

「……最初はアドバイスの一つでもしようかと思っていたけれど、やめておきましょうか。昔と変わらない玲二君なら、言われるまでもないことだろうから」

「…………」

「きっと玲二君なら、そのときになっても迷いはしないでしょう」

そう言って部長はベンチから立ちあがり、持っていた空き缶をゴミ箱に捨てた。

「久しぶりに会えて楽しかったわ。また会いましょう。あちらでも、こちらでも」

「はい」

「東京に遠征に行ったときは連絡するわ」

部長はそう言って踵を返し、俺の前から去っていった。

その後は、特に大きなことはなかった。

気分転換に高校時代に最もよく遊んでいたアーケードゲームの新作を遊び、電話で母に頼まれて帰りに明日の誕生ケーキの予約とパル二世のエサの購入を済ませた。

ついで、気になってネカフェで少しだけデンドロにログインした……五月四日にあったのはそのくらいのことだ。

そうして五月四日は終わり、 五月五日(姉の誕生日) がやってくる。

To be continued