軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Frag.7-2 “トーナメント”・最終日 β

□中央大闘技場

いるはずのない参加者、【殲滅王】アルベルト・シュバルツカイザーに会場中がどよめいている。

この“トーナメント”は王国に所属する<マスター>しか参加できず、参加すれば今後三年間……リアルでも丸一年は他国に移籍できない。

加えて、王国内で懲役一年以上の罪を犯せば、他国も含めた全てのセーブポイントが使用できなくなる契約だ。

だからこそ他国の<超級>……カルディナの代名詞である最強クラン<セフィロト>の一角が、この“トーナメント”に参加していることなどありえないはずだった。

アルベルトはカルディナにおける特殊な……<UBM>に限らない特殊性質モンスター討伐の第一人者であり、対モンスターのトラブルでは誰よりも活躍していた。

同時に、決闘ランキングにおいても【闘神】に次ぐ二位についていた男だ。

何か目的があったとしても、王国に三年も預けるにはあまりにも大きい駒と言える。

「……何が狙いなの?」

その姿を、アルティミアも貴賓席から見下ろしていた。

(彼はいつの間に王国の所属に?)

少なくとも、彼女は関知していない。

<マスター>の所属変更権限を持つ領地貴族の誰かが、秘密裏にアルベルトを王国に所属させていたのだろう。

(それに登録者の中にも名前はなかった。なら、参加は当日抽選ということになるわ)

もっと前に登録されていれば気づけたはずであり、事前の接触など対策も打てただろう。

しかし、アルベルトは登録していない。

今日も数人分の枠が空いていた抽選枠に当選し、参加してきたのだ。

偶然(・・) に。

(……確率は低い。けれど、不正は発生しない仕組みになっている)

抽選は当日抽選希望者からランダム選出することで当落を決定する。

その結果の意図的な変更や操作が行えないように、職員は【契約書】で縛られている。

だからこそ参加は偶然以外にあり得ず、当選をなかったことにもできない。

(あり得るとすれば……カルディナの議長)

未来を読む魔女と呼ばれる人物。

情勢を読む力に秀でているという意味だと思われていたが、本当はより直接的な意味だったのかもしれない。

それこそ、『当日抽選に当選する参加タイミング』までも予知できるとすれば……バケモノだ。

そんな人物が王国と皇国の戦争に介入し続けてきたことや、今回アルベルトを送り込んで来たこと。その両方にどれほどの意味があるかは窺い知れない。

(カルディナからの協力打診はずっとあった。拒否していたけれど、強引に王国に貸しを作りに来たということ? 一時的な援軍ではなく、<超級>の所属を変更してまで)

そこまでするメリットが、カルディナにあるというのだろうか?

(……? そもそも、カルディナは一体いつ【殲滅王】を……)

アルティミアが更なる疑問を抱いた丁度そのとき、舞台上ではビシュマルとアルベルトの試合開始を告げる声が上がった。

『試合開始……!』

試合開始の号令が告げられ、ビシュマルとアルベルトの試合が始まった。

だが、二人とも動かない。

一も二もなく突撃するはずのビシュマルも、格上であるはずのアルベルトも、攻撃を仕掛けない。

「……くっ!」

ビシュマルは試合開始で動けなかった自分自身に気づき、苦い顔をする。

ありえない状況に動揺し、自らの黄金パターンを行えていない。

試合前に情報を閉ざして集中していたことが裏目に出てさえいた。

機を逸したため、突撃ではなく構えを取っての見に回っている。

想定外の事態に自分を見失いかけている。

「…………」

対するアルベルトの表情は動かなかった。

まるで鉄でできているかのような無表情は、その思考の一切を他者に悟らせない。

無言のまま、ゆっくりとビシュマルに歩み寄る。

その動きは一見すると隙だらけのようだが、違う。

上体は揺れておらず、見れば分かるほどの安定感を持っていた。

武道の達人か機械仕掛けのような動きのまま、アルベルトは距離を詰めていき……。

「…………」

無言のまま……右手を差し出した。

握手である。

「……!?」

競技者としてのスポーツマンシップに溢れた申し出だったが、その行動によってビシュマルはさらに意表を突かれた。

罠かもしれないと考えるのが当然。

だが、接触によって致命火力を撃ち込むビシュマルに握手を申し出るのは、罠だとしてもありえない。

ビシュマルも、観客の誰も彼も、その行動が理解できないが……会場内で四人だけは理解できた。

無観客試合だった四回戦まででアルベルトと戦った<マスター>達は、アルベルトが試合開始時にそうすることを知っていた。

それに対し攻撃を仕掛けた者もいるし、動揺しながらも応じた者もいる。

共通して言えることは……握手の申し出は罠でも攻撃でもないということだった。

「…………ああ」

思案の末、ビシュマルはアルベルトの申し出に応じてその手を握った。

肉の弾力を感じない鋼のような感触が返ってくるが、何事もなく握手は終わる。

その後、手を離したアルベルトはビシュマルを攻撃することもなく、背を向けて自らの開始位置へと戻っていく。

隙だらけであり、必殺スキルで攻撃すれば一撃で倒せるようにも見えた。

「…………」

だが、ビシュマルはそれをしなかった。

無防備な背中に攻撃することへの躊躇いが半分。

そして、歴戦のランカーであるがゆえの危険察知が半分。

ここで攻撃すれば、それで終わりだという予感があった。

何事も起きることはなく、両者が握手のみを挟んでまたスタート位置に戻る。

ここからが試合開始であり、アルベルトもようやく戦闘態勢をとる。

しかし……。

「……?」

ビシュマルが、アルベルトの構えを見て訝しむ。

アルベルトの戦闘スタイルは、重装備による広範囲爆撃であると聞き知っている。

あらゆるモンスターを討伐してきた超攻撃力の持ち主であり、<UBM>を討伐する様子が偶然にも撮影されたことで、世間にもそれが知られている。

また、決闘においても、特典武具を始めとする火器を用いていたはずだ。

だが、今のアルベルトは武器も持たず、徒手空拳の構えを取っていた。

「武器は?」

「…………」

アルベルトは、無言で首を振る。

武器を使うまでもないという挑発だと受け取るのが当然。

だが、アルベルトのサングラス越しの視線が……観客席へ向けられていることにビシュマルは気づいた。

(……まさか、自分の攻撃で結界を破壊する可能性を考えているのか?)

彼がこれまで戦ってきただろうカルディナの闘技場と、ギデオンの闘技場。仕組みはどちらも同じもののはずだ。

だが、ギデオンの結界はつい先日にも強度重視にした上で<UBM>に破られ、脱走されている。

その 前科(・・) を考え、アルベルトは自らの攻撃力を封印したのかもしれない。

仮にそうであった場合、実際に破れるかは別として想定できることが二つ。

アルベルトは自身の火力にそれだけの自負を持っているということ。

万が一にも観客に被害が出る結果を懸念しているということ。

視れば、武器だけでなく<エンブリオ>のスキルまでも使っている様子がない。

アルベルトは、あえて飛車角落ちでの戦いを選んでいる。

「そうか」

ビシュマルは「舐めるな」とは言わない。

どのような戦い方をしようと、それはアルベルトの選択だ。

だからこそ、ビシュマルも戦い方を選ぶ。

ビシュマルは、アルベルトへと突進する。

しかし――スルトの火力を使わない。

相手が武器を使わないように、まずは自身の格闘能力だけで挑む。

それは相手のハンデに合わせた……というだけではない。

(相手に負い目がある状態じゃどの道全力なんて出しきれねえ! だったら俺もハンデを背負って精神面で対等にやった方がマシだ!)

そして、両者の戦いは<マスター>同士の戦いとは思えない形になる。

武器はなく、炎もなく、超常の力を含まない格闘戦である。

「…………」

いつものビシュマルとまるで違う試合運びに観客がどよめくが、アルベルトは動じない。

ビシュマルの拳打と組み付きの猛攻を、機械の如く正確な格闘技術で捌いていく。

サングラスの内側で眼球が目まぐるしく動き、ビシュマルの動きを捉えてはそれに合わせた最善の動きでカットする。

超級職ゆえのステータスの高さとは別に、技量もまた秀でていた。

「やるな……!」

捌かれながらも肉体が接触する度に、アルベルトのSTRとENDの高さが伝わってくる。

同じ格闘スタイルでもAGI型のライザーとはまるで異なるスタンスだ。

(AGIは俺と大差ないがこいつは目が良い!)

《看破》でアルベルトのステータスを確認しながら、ビシュマルは思考する。

(俺の行動の起こりを正確に捉えて捌いている!)

ビシュマルの行動に対応した最善手をとり続けている。

格闘戦において、アルベルトのガードは鉄壁だ。

しかし反面、攻め気が弱い。

攻撃を捌くことに注力し、ビシュマル側が自覚する隙があっても打ち込んでこない。

結果として捌きながらも僅かに入るダメージで、アルベルトのHPは削れている。

ビシュマル優位での戦闘に、観客が活気づき始める。

だが、当のビシュマルの内心は焦燥を抱く。

(少しずつ早まっていやがる!)

ビシュマルの行動を目視して、それに合わせて捌くアルベルト。

その対応力が、徐々に高まっている。

まるでビシュマルの動きを学習しているかのように、次第にガードの速度と精度が上がっているのだ。

このまま続けばいずれは完全に読み切られ、攻め手に回ったアルベルトに潰されることになるだろう。

攻撃力に秀でた【殲滅王】でありながら、まるで耐久型のような立ち回りだ。

「だったら……!」

ビシュマルはアルベルトの懐に飛び込む。

当然アルベルトはそれに対応しようとするが……サングラスの奥の目が僅かに見開かれる。

一瞬だけ視界が炎の光に遮られ、

直後には眼前にいたはずのビシュマルが消えていた。

炎が消えた後にアルベルトの視界を占めたのは、ビシュマルの着ていた上着のみ。

視界を動かしてビシュマルを捜そうとするが、

「獲った……!」

アルベルトの首の動きが、彼の背後からチョークスリーパーを掛けたビシュマルによって強制的に制止させられる。

ビシュマルの装備は、スルトの力で炎熱化する彼に合わせたオーダーメイド。

ゆえに、布としての状態とは別に、彼同様に炎熱化する装備スキルも付与されている。

今は炎熱化させると同時に《瞬間装着》で装備を外し、自らの体を一瞬だけ後方にスウェーさせた。

結果、体が炎熱化した衣服を置き去りにし、衣服は装備解除によって装備スキルを解除されて元の衣服に戻った。

ビシュマルは炎と布の二重目隠しを隠れ蓑に、タックルのように低い姿勢でアルベルトの後方へと移動。

目の届かない背後から組み付いたのである。

「奮ッ!!」

そしてビシュマルは渾身の力を籠め――硬質なアルベルトの首を一息に圧し折った。

「…………」

アルベルトの首は、右倒しに九〇度以上傾いている。

通常であれば【頸椎骨折】の状態異常であり、即死ではないが間もなく死に至るほどの傷痍系状態異常だ。

猛烈な速度で、アルベルトのHPがゼロへと向かっていく。

従来の決闘ではあまり見ることのない決着に、観客からも歓声だけでなく悲鳴が混ざる。

だが、ビシュマルはアルベルトの首を絞める腕に力を込めたまま緩めない。

まだ終わっていないと、察したからだ。

「…………」

アルベルトは首が圧し折れたまま、眼球を動かしてビシュマルの右腕を見る。

自らの両腕で首を絞める腕を掴むが、ビシュマルはそれでも引き剥がさない。

やがて、アルベルトのHPがレッドゾーンに突入。

カウントダウンのようにゼロへと数字を刻み、

あと一ポイントで死亡するという段階へと到達し、

――そこで止まった。

「――《 α星(ドゥーベ) 》」

――同時に首を圧し折られたままスキルが宣言される。

気管が潰されていることなど関係ないかのような声……この試合初めての発声と共に、アルベルトの身体が光に包まれる。

直後に、二つの変化が起きた。

「!?」

一つはビシュマルが締めている首から手応えが消えたこと。厳密には手応えはあるが……まるでゴム管かスライムでも締めているような感触に変わったのだ。

そしてもう一つは、

「ぐぁ……!?」

――ビシュマルの右腕が砕けた。

アルベルトに掴まれていた腕の骨が砕け散り、肉が攪拌され、皮に詰まった肉袋に成り果てている。

アルベルトは無表情のまま本来の強度を失ったビシュマルの右腕を引き千切り、拘束から脱した。

その両掌ではバチン、バチンと視えない何かが弾けているようだった。

「へっ……<エンブリオ>のスキルを使ったか!」

何が起きたか、ビシュマルには理解できない。

だが、目に見えて確かなことがあった。

HP1にまで減少したはずのアルベルトのHPが、全快しているのである。

「るぉらぁ!!」

ならば再び削るまでとビシュマルは右腕を失くした体を動かし、蹴撃を放つ。

アルベルトも、先刻までのように防御態勢をとる。

左腕を構えてビシュマルの攻撃を受け止める。

だが、先刻とは違う。

まるで一切のダメージがないかのように、微動だにしなかった。

実際に、HPの減少も発生していない。

「ッ!?」

ビシュマルも接触してすぐに察する。

蹴りが命中した瞬間、その衝撃が拡散する感触を得た。

まるでスライムでも殴ったかのように、先刻まであった手応えが消えたのだ。

「…………」

対して、アルベルトの反撃はビシュマルの芯に響く。

右の掌が足に触れた瞬間、体を砕くような衝撃が突き抜けたのだ。

「ぐっ……!」

咄嗟に後方へと飛び跳ねて距離をとる。

先刻掴まれた右腕ほど重傷ではないが、一瞬の接触でも右足のダメージは大きい。

今の攻防で、確定した。

もはや格闘戦では万に一つの勝ち目もない。

勝機を見出すならば、ビシュマル本来の戦い方であるスルトによる突撃以外にない。

観客席からも、同様の旨が叫ばれている。

「…………」

「…………」

ビシュマルとアルベルトの双方が沈黙し、どちらもが動かない僅かな間隙が生まれた。

そして……。

「…………」

アルベルトが回転弾倉式グレネードランチャーに似た銃器を《瞬間装備》し、ビシュマルの足元に撃ち放った。

舞台に着弾した擲弾は、《クリムゾン・スフィア》に酷似した紅蓮の爆発を発生させた。

ビシュマルはそれを咄嗟に回避すると同時に、無言のアルベルトの言わんとすることも理解した。

『自分は武器を使った。そちらも心置きなく武器を使え』、という意味だと。

「ならば、使わせてもらうぞ! 《 爆炎昂(スルト) 》‼」

瞬間、ビシュマルの身体が炎に包まれ――炎そのものに変わる。

人間と炎熱のエレメンタルの中間の如き姿になったビシュマルが、己の十八番である突撃をアルベルトに敢行する。

アルベルトは即応してグレネードをビシュマルに撃ち放つが、炎の身体は擲弾の爆発をものともしない。

やがてビシュマルは肉薄し、アルベルトは即座にグレネードから手を放して自らの右掌を……ビシュマルの右手を砕いた攻撃を叩きつける。

だが、エレメンタルと化したビシュマルにその攻撃……接触式の衝撃波は通じない。

逆に、触れたアルベルトの腕を一瞬で蒸発させる。

アルベルトは動じることなく左腕で新たな武器を取り出そうとするが、それよりも早くにビシュマルがハイキックを放つ。

炎熱の塊から放たれた蹴撃がアルベルトの左腕を肩から溶断し、心臓部にまでもその足を喰い込ませる。

断たれた左腕が舞台に落ち……熔解した鋼の断面を垣間見せる。

「うぉおおおおおおお!!」

アルベルトのHPが二度目のレッドゾーンへと突入するが、ビシュマルは先刻以上の加撃を頭部に対して行う。

アルベルトに強化回復スキルがあるとしても、一切の間隙なく連撃を叩き込んで発動そのものを防げばいいと考えた……否、直感した。

成るか成らぬかを考えるよりも早く、思考よりも先に行動し、突き進む。

事ここに至り、ビシュマルは己の真骨頂を発揮する。

頭部を粉砕、溶断、連撃、炎上させ、スキル宣言不可能状態に追い込む。

やがて再びアルベルトのHPが1へと達したとき、

再びHPは1で停止し、

『――《 β星(メラク) 》』

――虚空から無情の声が響いた。

「……ハッ」

その宣言を聞いてもビシュマルは攻撃の腕を止めなかった。

しかし、二撃三撃と当てたときには既に察していた。

失った頭部と両腕を再構成したアルベルトは、ビシュマルの炎熱を受けてもものともしなかった。

身に纏う衣服は燃えても、その皮膚には焦げ跡の一つも付かない。

そしてアルベルトが手刀を振るえば……炎熱と一体化したはずのビシュマルの体が切り裂かれた。

先刻までは触れるだけで蒸発した体が、逆にビシュマルを砕いていく。

「……そういう仕組みか」

アルベルトの<エンブリオ>の力を、ビシュマルは確信した。

第一効果は、HPの全快。

第二効果は、相手の攻撃手段への完全に近い耐性獲得。

第三効果は、相手の身体に有効な攻撃手段の獲得。

三つの効果が複合した超強力なスキルである、と。

(喰らってすぐに使わなかったってことは、ギリギリの瀕死状態でのみ使えるスキルってことか)

力の代償として、HP1の瀕死状態でのみ使用可能なのだろうと予想する。

しかし、アルベルトの戦法にはもう一つ秘密がある。

(二回とも、あいつのHPはゼロになる寸前で踏みとどまった。いわゆる、食いしばり効果のあるスキルも持ってるか。どのジョブの、何て名前の汎用スキルだった……?)

ビシュマルが詳細を思い出せなかったそのスキルの名は、《ラスト・スタンド》。

兵士系統の下級職【 殿兵(リア・ソルジャー) 】のジョブスキルであり、致命攻撃を受けてもHP1で五秒間生存するというものだ。

ダメージを無効化する訳でもなく、従来のRPGならばともかく身体状態とHPが直結することが多い<Infinite Dendrogram>ではあまり意味がないスキルだ。瀕死ゆえに与えられた五秒をまともには動けず、効果が切れればまず受けているだろう傷痍系状態異常で死亡する。

【死兵】の《ラスト・コマンド》との差異は蘇生魔法ではなく回復魔法で回復可能ということだが、効果時間の短さゆえに間に合うことはほぼない。まだ《ラスト・コマンド》の方が活動時間を考えれば使えるスキルと言えるかもしれなかった。

HPが0にならないので決闘では一応使用可能だが、超級職が死に際の引き分け狙いで最終奥義を撃つのでもなければ無意味である。そもそも勝つことを前提としているランカーが引き分けのためのジョブに就くこともない。

しかし、アルベルトの場合は違う。

数秒だけ……スキルを発動する時間だけでも生き永らえれば、HPを完全回復した上で強化を得られる。

<エンブリオ>とジョブのシナジーである。

(……流石は<超級>、としか言いようがない)

ビシュマルは、アルベルトのスタイルを理解する。

如何なる攻撃も、瀕死状態で耐える。

<エンブリオ>のスキルにより瀕死状態から完全回復し、さらに瀕死に追い込んだ攻撃の耐性を得る。

そして、攻撃した敵を倒しうる攻撃手段も獲得するのだ。

恐らくスキルは無制限ではないだろう。

MPやSPの大きな消耗が見えないため、回数制のスキルだとビシュマルは予想する。

使い切らせれば、もう瀕死からの回復はできない。

逆を言えば、スキルの使用回数以上の攻撃手段を持たなければ、倒せないということだ。

格闘と炎熱以外に攻撃手段がないビシュマルでは、その二つの耐性を獲得された時点で絶対に勝利できない。

むしろ、一芸に特化した者が多いゆえに、ランカーでも勝てる者は極めて少ない。

あのカシミヤでさえも、抜刀術しか持たないゆえに勝利できないだろう。

「ウォォオオオオラアァッ‼」

しかし、それでもビシュマルは攻撃の手足を止めない。

元より後退する戦いなど、彼にはない。

仮に行き止まりの壁だとしても、彼は突き進む。

破れるとしても、破れないとしても、破るまで進む。

それがビシュマルという男なのだから。

「…………」

アルベルトは無言だった。

効かなくなった攻撃を、しかし愚直に叩き込み続ける対戦相手に何を思ったか。

だが、彼はビシュマルを侮りはしなかった。

耐性を得る前と同じようにビシュマルの動きを目視し、その動きへのベストの防御を行い、しかし合間に攻め手を混ぜていく。

その繰り返しの末、ビシュマルにも限界が訪れる。

必殺スキルの発動限界とアルベルトからの攻撃で受けたダメージ、二重の限界に達したのだ。

「……ハ」

結果を見れば、ビシュマルは相手の勝ち筋に乗り続けて敗北しただけと言える。

だが、不思議と彼に後悔はなかった。

少なくとも戦い始めてからの自分は<超級>に臆することなく、突き進み続けられたのだから。

自分らしく戦えた今に後悔はないと、ビシュマルはそう思った。

やがて試合は決着の瞬間を迎え、

「―― Good Game(良い試合だった) 」

アルベルトのスキル宣言以外では初めての言葉と共に、ビシュマルは首を断たれた。

そうして彼は敗れ……アルベルトは準々決勝へと駒を進めた。

To be continued