軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十一話 致死の部屋

□【聖騎士】レイ・スターリング

<Infinite Dendrogram>の世界にはジョブシステムが存在する。

俺が【聖騎士】であるように、<マスター>やティアンは何らかのジョブに就いている。

例外は<Infinite Dendrogram>を始めたばかりの<マスター>や、ティアンの子供達だ。

それほどに世界に広まっているものなのでジョブの種類は多岐にわたる。

前衛職だけでも俺の【聖騎士】を含めた騎士系統、剣士系統、戦士系統、闘士系統、拳士系統、武士系統etc、と大量に存在する。

それら全てに発展系の上級職が複数パターン存在すること。

しかもそれらがあくまで前衛戦闘職についてであり、他にも後衛や支援系がある。さらには商人系統のように、(基本的には)戦闘を得意としないジョブも数多存在する。

とてもではないが把握しきれない。

実際、兄から貰った上級職までの転職条件を全て記した【カタログ】には万に迫る数の職業が記載されていたが、今もまだ覚え切れていない。

<Infinite Dendrogram>に現役の<マスター>が数十万人活動しているとしても、等分したら1つの職は100人に満たないのではないだろうか。

もちろん実際の配分には偏りがあるだろう。ルークの【女衒】が<マスター>には好まれていないなどの例もある。

しかし、人数に対する職業の数が通常のMMORPGと比較にならないほど多いのは事実だ。

そんな把握しきれないほどの無数のジョブに……俺が覚えてしまったジョブが一つある。

それは【 死霊術師(ネクロマンサー) 】。

特徴は多種多様な状態異常魔法スキルと闇属性攻撃魔法スキル。

そして《 死霊術(ネクロマンシー) 》……MPを用いて死体をテイムモンスター化するスキルだ。

《死霊術》の対象は人もモンスターも問わない。

当然ながら、強力な生物の死体ほどテイムモンスター化の難易度が高い。

逆を言えば、無力な子供はさしたる労力も掛からずにモンスター化できる。

また、カタログに記載されていた死霊術師系統上級職への転職条件の一つに“《死霊術》の成功回数”の項目があった。

wikiにおいてはティアンの犯罪者の死霊術師の中には、子供や病人を利用して転職のための《死霊術》の成功回数を稼ぐ者もいると書かれていた。

また、「死霊術師系統超級職への転職条件もそれに近いものではないか」とコメントで議論されていた。

その記述を読んだときに、酷く気分が悪くなると共に、死霊術師系統の存在を記憶に刻んでしまった。

そうして今、俺はその系統の存在を思い出していた。

ゴゥズメイズ山賊団が子供を攫っていた理由についてある推論を立てながら……俺は地下の通路を終点目指して進んでいた。

地下通路は一本道になっていて、途中に山賊の姿はない。

代わりに、子供ではなく鎧を纏った成人のアンデッドが警備していた。

ここが軍の砦だった頃に死んだ者を掘り起こしてアンデッドにしたのだろう。

あるいは、彼らが倒した冒険者か何かの死体をアンデッドに変えたのかもしれない。

俺はそれらのアンデッド達も撃破した。

彼らもかつてはヒトだったとしても、立ち止まるわけには行かない。

止まれば、死者はこれからも増えるだけだ。

やがて辿り着いたのは通路の突き当たりにある扉だった。

木製の扉には鋼鉄の南京錠が掛けられており、内部からは死者のものではない気配がした。

「フッ!」

大剣のネメシスを振り下ろし、南京錠ではなく木製の扉を破壊する。

木の破片が散乱すると同時に室内へと飛び込み、周囲の状況を確認し、山賊団員がいたら即座に撃破できるように警戒する。

しかし、室内には檻の中で眠る子供達しかいなかった。

子供の数は七人。皆一様に目を閉じ、眠っている。

この内の一人が、救出対象のロディ君だろう。

まぁ、もうクエスト関係なく全員助けるつもりではあるが。

しかし、不思議なことにこの部屋には子供達以外には何者も見当たらない。

「山賊団の連中はこの部屋にもいないのか?」

『南京錠が掛けられていたしのぅ。子供の見張りをアンデッドに任せていたのではないか?』

「かもしれないな」

警戒しながら子供達の容態を確認する。

檻から手を入れて軽く揺すってみるが目を覚ます気配はない。

『薬か、あるいは状態異常系の魔法かの』

「だろうな」

勘だが、恐らくは魔法だ。

やったのは子供をアンデッドに変えたのと同じ奴だろうな。

この子供達は身代金を待つ身であり、それが叶わなければ殺されて【死霊術師】に死体を弄られることになる。

胸糞が悪い。

『マスター、右だ』

ネメシスが伝えた方向を見る。

そこにはもう一つ扉があった。

扉は鉄製、ノブも鉄製だ。

近づき、少しだけノブを回してみる。

回る手応えから、鍵は何も掛けられていないらしいと分かった。

『行くのか?』

当然。

俺はノブを回すと同時に扉を蹴り開ける。

既にドアを一つぶち破っている。

何者かがいるのならばこそこそと動く意味はない。

「これは……」

果たして室内には人の姿があった。

それは少年であり、手前の部屋の子供達同様に眠りについているようだ。

その少年は部屋の中央、床に書き込まれた精緻な魔法陣らしきものの上に寝かされていた。

『……この部屋の主は、随分と イイ(・・) 趣味をしている』

ネメシスは声音に怒りを滲ませながらそう言った。

床の魔法陣についてだけではない。

むしろ、床の魔法陣以外のこの部屋全体が問題だ。

壁や天井にまで跳ねて消えない血の染み。

壁にかかった、“何か”のなめし皮。

樽一杯に詰まった白骨。

壁に沿って置かれた机の上には無数の器具や素材らしきものが置かれていたが、指が二十本に増やされた右手首の剥製を見た時点で視線を逸らした。

「…………」

ここがあのアンデッド達を生み出した【死霊術師】の実験室に間違いないだろう。

だが、【死霊術師】本人はいないようだ。そいつもユーゴーの迎撃に出ているらしい。

この子供はあわや【死霊術師】の実験台となる寸前で助かった、ということだ。

『どうする? 子供らの安全を確保するか? それとも上でユーゴーと共に山賊団を討つか?』

難しいところだ。

子供の安全を確保するのが最優先だが、意識のない七人の子供を俺一人で安全圏まで運ぶのは難がある。

かと言って、子供を放置して上で戦うのも、人質に取られる可能性を思えば躊躇われる。

ここで子供達を守りながらユーゴーに全てを任せ、山賊団を殲滅してくれるのを待つ線も、ユーゴーが敗れたときには最悪だ。

どうすべきか。

『一先ずはその童をあちらの部屋に移せばいいのではないかの。この魔法陣が何の魔法陣かは知らぬが、子供を寝かせて良い影響があるものではあるまい』

「そうだな」

俺は魔法陣の子供を移動させるために部屋の中に踏み出した。

数歩踏み出したところで、俺の脚はあるモノを踏み、違和感を覚えた。

踏んだのが何かはわかっている、厚手の布だ。

一見するとフェルト地の布団かと思ったが、よく見ればそれは袖などが縫われており、所謂ローブという服であることが分かった。

しかし俺が違和感を覚えたのはそれが服であったことではなく、その下に硬い何かがあることだった。

俺は床に落ちているローブを蹴り上げ、その下にあるものを確認した。

「これは……」

俺の足が靴越しに感じた硬い感触、その正体は骨だった。

人骨が転がっていることに驚きはない。骨ならばあそこで樽一杯に入っている。

しかしその骨は半分人骨で、もう半分は違う骨だった。

人骨に比べて太いその骨は、以前博物館で見た馬の骨によく似ていた。

「何で人と馬の骨が一緒くたになって転がっているんだ?」

『それは 人馬種族(ケンタウロス) の骨ではないかの。あれらの骨が残ればこのようになるものだと、私の知識にはあるが』

人馬種族……そういえばギデオンには亜人達も多くいたし、ギリシャ神話のケンタウロスに似た種族もいたな。

たしかに人骨には下半身がなく、馬の骨には頭と首の骨がない。

人馬種族で間違いないだろう。

しかしこの骨はサイズが大きい。

人馬種族の平均は知らないが、これで子供のものということはないだろう。

なぜここに、成人の人馬種族の遺骨が転がっている?

『たまたま死体を手に入れて実験に使ったのではないか?』

「それでも片づけておくはずだ。もう次の実験の準備はしていたようだからな」

魔法陣の上に寝かされた子供を見れば、次の実験はすぐに始められる状態だとわかる。

だったら前の実験に使った骨を床に転がしたままにするわけがない。

少なくとも、他の骨を樽に収める程度には几帳面な狂人なのだから。

『狂人の思考を理解しようとするのも不毛だと思うがのぅ』

それはそうだが。

「……考えても仕方ないか」

今はあの子供を運ぶのが最優先だ。

俺は魔法陣の中に踏み入り――妙な魔法が発動しないよう事前にネメシスを叩きつけて床の魔法陣を幾らか砕いておく――子供を抱え上げた。

冷たい床に寝かされていたせいか、子供の体温は冷え切っていた。

しかし息はある。

呼吸はしているし、胸も上下している。

一安心して俺はその子供を背負い、部屋を出ようとして……感じた。

子供は呼吸していたし、胸も上下していた。

しかし、言いようのない悪寒が背中から伝わり――

『死ね』

――どこかから声が聞こえた。

同時に俺の首筋に引かれる刃の擦過音。

気づけば、俺が背負った子供の手には短剣が握られていて。

切断された頚動脈から勢いよく血が噴出し……俺は石の床に斃れた。

To be continued