軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグC <超級>

■【エルトラーム号】

事件の終結した翌朝、【エルトラーム号】を大砂漠の朝日が照らし出す。

既に、船内には乗客も乗員も残ってはいない。未明の内にドラグノマドから到着した高速砂上船や純竜飛行便に移乗し、ドラグノマドや昨夜に停泊した最寄りの都市に向かっている最中だ。

護衛艦の全てを失い、動力が停止したために自衛の砲さえも使用できない今の【エルトラーム号】は、砂の上の棺桶に等しい。運悪く純竜クラスのワームの大群にでも目をつけられれば、ひとたまりもない。

ゆえに、貨物の類こそ移されたが、船の備品もそのままに退船している。

そんな船に、一人の<マスター>がログインしてきた。

「随分と寂しい雰囲気になったものだなぁ」

大きく胸元を開いたシャツを着て顔に化粧をした男性……ニアーラとフェイにチケットを渡し、クリスと会話していた<マスター>である。

「これはもしや全滅、あるいは避難の置いてきぼりという展開かな?」

そんなことを呟きながら彼が船内を歩いていると、壁に大きな張り紙を見つけた。

手書きの張り紙に、彼は目を通す。

それは避難時にログアウト中だった<マスター>に向けたものだ。

既に避難が行われたことと、各街にある役所でチケットの払い戻し手続きができる旨が書かれている。

「ハッハッハ、だからどうやってこの船から……ああ! 考えるまでもないことか!」

<マスター>であれば、一度ログアウトすれば最後にセーブした街のセーブポイントにログインしなおせる。

それができない指名手配犯ならば別だが、そうであれば配慮する必要もない。

そういうことだ。

「だとすればまいったなぁ。ミーは街には飛べないからなぁ……。いやぁ、本当に参った。砂漠を徒歩で移動しなければいけないってことだね」

ステータスの関係で地球の砂漠を徒歩で進むよりは速いだろうが、それでも時間はかかるだろう。

「これは結構なタイムロスだよ。この分だと講和会議とやらには間に合いそうもない。元々ギリギリのスケジュールだったけれどね!」

彼はアイテムボックスから一通の手紙を取り出す。

それは、とある人物から彼に届けられたものだ。

送り主の名はドライフ皇国の皇王、ラインハルト。

そこには彼を自国の戦力として迎え入れたいということと、可能ならば今後計画している皇国と王国の講和会議までに集合してほしいと書かれていた。

「まず指名手配を解いて欲しいけれど、流石にその前払いは都合が良すぎるかな!」

彼はかつて皇国で大犯罪……皇王暗殺未遂を行ったがために、国際指名手配されている。

セーブポイントを使えないのはそのためだ。

しかし、だからこそ戦力としての有用性を知る皇王からスカウトされていた。

「いいさ。ゆっくりと歩いていこう。徒歩の旅もいいものだ」

そうして彼は張り紙に背を向けて砂漠へと歩き出そうとして、

「――いいや、旅する必要はない」

――直後に足を消し飛ばされた。

「おや?」

膝から下を失って、彼は床へと倒れ伏す。

そんな彼を見下ろすように、一人の男が姿を現した。

男は肥満体であり、両手に高額貨幣をジャラジャラと握りしめている。

現れたのは、【放蕩王】マニゴルドだった。

「これはこれは。君も置いてきぼりになっていたのかぁい? マニゴルド君」

膝から下を失ったというのに、冷や汗一つ流すこともなく、彼はマニゴルドに言葉を投げかける。

「バカを言え。お前が戻るのを待っていただけだ」

「ミーを?」

「エルドリッジから、<超級>が三人いるとは聞いていた。俺と【殺人姫】、そしてもう一人。ラスカルは外から来たからな。別にいることになる」

「ふむふむ?」

「だが、お前だろうとは思っていた」

「ほぅ! それはなぜ?」

自分に辿り着いた理由を、ワクワクしながら男は問い……。

「この船を襲撃したドライフ正統政府の前身だった第一機甲大隊、そしてエルドーナ家と組んでいたのがお前だからだ」

「うん……うん?」

マニゴルドの答えに首を傾げ……。

「そうだろう――“常緑樹”のスプレンディダ」

導き出された自身の名に、男――スプレンディダは困った表情を浮かべた。

「……おっとぉ。途中計算は間違ってるのに答えだけ合っているとは……すごく反応に困るねっ!」

彼の正体は“常緑樹”のスプレンディダ。

かつてエルドーナ家と手を組み、皇王暗殺計画に加担し、【獣王】を相手に時間を稼いだ男。

それは間違いではない。

だがこの船に乗っていたのはかつての依頼主に協力していた訳ではなく、別の依頼主……クリス・フラグメントに関係している。

しかしそのクリスは正統政府も駒としていたのだから、然程に間違ってもいないのかもしれない。

「ミーはこの船での事件には殆ど無関係だからね! 戦っても何もいいことはないよ! やめておこう! マニゴルド君も忙しいだろう?」

「嘘はないんだろうがな。それでもお前が関わった範囲で知りえることを吐かせるのは、無意味じゃない」

マニゴルドは《真偽判定》が発動しないことから、嘘ではないと判断する。

だが……。

「それに、お前は指名手配犯だ」

「うん? だけど皇国での国際指名手配なんてカルディナでは特に意味ないだろう? 仮想どころじゃない敵国なのだし」

「ああ。その件じゃない」

マニゴルドは《金銀財砲》の発砲準備をしながら、言葉を返す。

「お前が、 カルディナで(・・・・・・) 重ねた犯罪の分だ」

「ああ。 そちら(・・・) がバレてるなら仕方ないね!」

スプレンディダはニヤリと笑って、 両足で(・・・) 立ち上がった。

マニゴルドが《金銀財砲》で消し飛ばしたはずの両足が、既に元通りになっている。

ただし、靴と膝下の衣服は消滅したままだ。

身体だけが、元通り。

「これは困った。これから砂漠を素足で歩かなければいけないのか……それは大変だよ。そうは思わないかい?」

「思わんさ」

笑いながら冗談めいた言葉を吐いたスプレンディダに、マニゴルドは《金銀財砲》を撃ち放つ。

それも一撃ではない。

連射に次ぐ連射。あたかもガトリング砲の如き破壊の連打。

スプレンディダの頭が消し飛び、腕が消し飛び、胴が消し飛び、全てが消し飛ぶ。

ラスカルや正統政府との戦いでは制限されていた力。

船体が砕けて消え去っても構わないという、無差別砲撃。

そうして間違いなく、一片の肉片も残らずにスプレンディダは消滅した。

「…………」

だが、マニゴルドの表情は硬い。

警戒を一切解かないまま、両手に貨幣を保持し続けている。

数秒の沈黙の後……。

『攻撃力に自信のある方々は、一度はやるよねぇ。『跡形もなく消し飛ばす』って!』

空間に、スプレンディダの答えが木霊した。

「ただ、それで死ぬならミーは【獣王】に殺されてるはずだけどねっ!」

やがて、彼が消えた場所から…… 頭が生えた(・・・・・) 。

頭から順に胴が、手足が生えていく。

あたかも、樹木が枝葉や根を伸ばすが如く。

やがて、装備はすべて消失したが……傷一つない体でスプレンディダが立っていた。

「これだから安物しか装備できない。装備もミーの身体くらい簡単に再生してくれれば助かるのだけど」

メイクの落ちた顔でそんなことをのたまう。

メイクは頭部が吹き飛んだ際に落ちており……今は手配書と同じ顔が露わになっている。

「ッ……」

マニゴルドが舌打ちし、《金銀財砲》をさらに連打する。

船体が消し飛んでいき、スプレンディダの身体も削れて消えていくが……再生していく。

その光景は……あまりにも死から遠い。

「……不死身の<エンブリオ>、か」

「そうなるねぇ。あの【殺人姫】ちゃんとは違う原理だけど」

「HPをゼロにして、即死級の傷痍系状態異常……全身を完全に消し飛ばしても復活するのはどういう理屈だ?」

「ジョブと<エンブリオ>のシナジーだよ。少しマイナーで印象の悪いジョブだが、汎用スキルがミーにぴったりなものだから。ああ、【 死兵(・・) 】というんだけどね」

「……?」

スプレンディダの発言を、マニゴルドは訝しむ。

こいつは何を言い始めているのか、と。

「死んだ後に数十秒は生存するスキル、《ラスト・コマンド》。それとミーの<エンブリオ>であるティル・ナ・ノーグの能力特性、 自動回復(オート・リジェネレーション) の組み合わせさ。生きていればHPは回復し続けて、部位欠損だろうと自動で治るんだよ。それこそ、 全身欠損(・・・・) でも生きていれば(・・・・・・・・) 時間経過で完治、というわけさ!」

マニゴルドは理解する。

いや、理解させられたと言うべきか。

死んだ時点で、《ラスト・コマンド》で生存開始。

身体の全てが消滅していようと仕様上、スプレンディダは生存している。

そして生存しているがゆえに、オートリジェネレーションでHPを回復し、部位の欠損も修復。

HPが1以上になることで、蘇生。

そしてまた死んだときには《ラスト・コマンド》が再起動。

無限の蘇生ループで、死ぬことがない。

残機制の不死だったエミリーとは、別種の不死身だった。

恐るべきシナジー、コンボ、あるいは バグ技(・・・) とでも言うべき芸当。

「…………」

無論通常の自動回復スキルならば、HPがゼロの状態から回復するなどという芸当は出来まい。

だが、スプレンディダは<超級>。際限ない自動回復こそが、ティル・ナ・ノーグの<超級エンブリオ>として他を超越した部分ということだ。

生存性能特化型ビルドの、極致の一つと言える。

しかし、最大の問題は……そこではない。

「なぜ、 手の内をバラす(・・・・・・・) ……?」

恐ろしいことに……嘘が混ざっていない。

ブラフでもなく、これこそがスプレンディダの不死身の理由。

あの【獣王】を相手にしてさえ生き延びた理由、スプレンディダの強さの要そのもの。

それをあっさりと暴露した理由が、意味不明で……不気味だった。

「こっちのタネを知ってもらった方が、無駄なく戦闘を終わらせられるかもしれないじゃないか。【獣王】のときと違って、時間稼ぎがしたい訳じゃないからね。ミーとは戦うだけ無駄だよ。時間の無駄、金達磨のトゥの場合は金銭の無駄でもあるね! ハッハッハ!」

何が面白いのか、スプレンディダは自分の言葉に笑っていた。

「手の内がバレても誰にも倒されない自信がある、ということか?」

「いや、ただの事実さ。ああ、ちなみに傷痍系以外の状態異常も時間経過で回復するよ」

「そうか」

マニゴルドは、今度は 低威力(・・・) の《金銀財砲》を撃ち放った。

消し飛ばして即死させるのではなく、心臓や肺、脳といった重要器官の働きを阻害するように狙い撃つ。

だが、それらの傷もやはり自動で回復していた。

「無理だってば。今は、ミーを、絶対に、殺せなぁい」

スプレンディダは笑みを浮かべたまま、

「―― 安全圏(ティル・ナ・ノーグ) は崩れない」

――自らの安全を断言した。

「それでも、やるかぁい? 単純火力と、時間制限型の防御能力の君じゃ、今のミーには絶対に勝てないけれど?」

「こちらもカルディナの国営クランのメンバーだ。お前を放置もできないから、な」

「ふぅん。ところで、トゥの護衛だった彼女はどこだい?」

「仕事を任せてドラグノマドに先に帰したとも。お前がどんなバケモノか分からなかったからな」

そして、マニゴルドの想定を超えるバケモノでもあった。

「その判断は正解さ! だが、継戦を選ぶ判断は間違いと言えるね!」

スプレンディダは両手を広げる。

彼の掌からは……毒々しい煙が溢れ出していた。

それだけではなく、背中から樹木の枝葉が翼のように広がり、顔面にも木製の仮面のような覆いが為される。

『ここからは、ミーも 攻撃(・・) に移るからね』

「……そこはカルルと 同じタイプ(・・・・・) か。生存特化型は自然そうなるらしい、な」

苦笑しながらも、マニゴルドは所有していたアイテムボックスの一つを砕き、貨幣を床にばら撒く。

(さて、やるとしようか。早々に自ら明かされはしたが、こいつの手札をより多く把握していくことは無駄にはならんだろうさ)

相性の良い倒し方を探す指針になりえる。

そう考えて、マニゴルドはスプレンディダと向かい合う。

戦いに挑む中、自身の敗北は既に計算に入っていたが……。

それから二時間近くの時を経て、一人分の人影が砕け散った船から現れる。

その人影は……皇国へと歩き出していた。

To be continued