軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

死出の箱舟・■■の■ その十一

□■【エルトラーム号】・特別ホール

特別ホールではマニゴルドとユーゴーとイサラ、エルドリッジと、彼からの提言でニアーラが加わり、イサラの鋼糸で作戦会議をしていた。

時折、兵士が鋼糸の張られた間を通るときもあるが、その都度イサラがコントロールしているので引っ掛かることはなく、気づかれてもいない。

『それで、行動のタイミングはいつ頃になる?』

『このホール以外のブロックで騒動が起きたときだ。そちらの抵抗が成功していれば、このホールとそのブロックは被害が抑えられる。連中が脅し通りの行動を取るなら動きを察知できるしな』

エルドリッジの問いに、マニゴルドはあっさりとそう答えた。

それで少なくとも最初に反抗したブロックと彼らがいる特別ホールで同時に動くことができ、彼らだけで動くよりは被害が抑えられる。

同時にきっかけが外部であり、ドライフ正統政府による人質への攻撃からホールを守るためという言い訳も立つ。エルドリッジと同様のことはマニゴルドも考えていた。

『……それでも、多くのブロックで犠牲者が出るのではないですか?』

だが、その判断をユーゴーは承服しかねた。

『さて、どうだろうな。ドライフ正統政府は皇国の第一機甲大隊からの脱走者で構成されているし、そいつらの総数や名前は皇国が公表している。最大で二〇〇人にも満たない』

今後脱走者が他国で何かしでかそうとも、皇国とは無縁と宣言するためのものだ。

『それなりに規模は多いだろうが、このホールに五〇人以上の歩兵を配し、【マーシャルⅡ】にいたっては十二機も置かれている。人質の重要度を考えれば、【エルトラーム号】を襲撃した戦力のほとんどをここに集中させ、他はさほど多くないはずだ』

マニゴルドの言う通り、戦力の数で言えばここにはドライフ正統政府の戦力の八割が集められている。

個としての最大戦力であるカーティスはホール内にはいないが、それでもここを守れば乗客への被害は相当に抑えられる。

『それに打ち明けてしまえば、カルディナという国にとっての命の価値はこのホールの面々で外の全員を上回る』

『マニゴルドさん……!』

マニゴルドの打算的な言いように、ユーゴーは怒りを露わにした。

怒声が口から漏れなかったのは奇跡と言っていい。

『二人とも落ち着け。マニゴルドは明け透けすぎるし、ユーゴー・レセップスは感情的すぎる』

二人の間で……というよりもユーゴーがマニゴルドに対して燃え上がらせかけた怒りを沈下させたのは、エルドリッジの仲裁だった。

『ユーゴー・レセップス。マニゴルドが外部の動向を待って行動を起こそうとしているのは、ここだけを守るよりも被害を減らそうと考えているからだ。でなければ既に動いているはずだ。そうだろう?』

『…………』

マニゴルドは弛んだ頬でニヒルに笑うだけだったが、それが肯定であるのは窺えた。

『それより、実際に行動するときに俺達がどう動くかを詰めるべきだ。外での騒動がいつ起きるかは予測できない。一分後にそうなるかもしれないのだから、作戦の概形だけはすぐに話し合っておくべきだ』

『そう……ですね』

ユーゴーはエルドリッジの言葉に、怒りを抑えて頷いた。

同時にエルドリッジについて、『誰か知らないけど判断力と冷静さを持った人物だな』とも考えた。

マニゴルドからエルドリッジについての詳細を聞かされてはいないユーゴーだが、『カルディナの有力クランのオーナーか何かなのだろうか』と予想している。

『それについては、俺から提案がある』

マニゴルドは視線をホール内の四方の壁に目をやりながら、

『俺から見て正面と右側の壁に面した連中は俺が 消す(・・) 』

決定事項のように、そう述べた。

『ついでに、攻撃も俺に引きつけておこう。先制打で連中が浮足立つ間に、後方をイサラが、左方をエルドリッジとそのメンバーが抑える』

『承りました』

『【マーシャルⅡ】三機と、歩兵が十六人か。……承諾した。ニアーラ、【マーシャルⅡ】から離れている歩兵の処理を頼む』

『了解しました』

エルドリッジは内心で『獲物が減るが、致し方ない。マニゴルドの担当する六機は どうしようもない(・・・・・・・・) が、【鋼姫】イサラの担当した三機は可能なら拾っておこう』とも考えた。

『私は?』

自身の名が上がらなかったことについて、ユーゴーが尋ねる。

『控えておいてくれ。ここでキューコのスキルが有効でない以上、後から使える展開が来るまで伏せておく。連中、あまり乗客に関心がないらしく、まだ気づかれていないからな』

『……<超級>の存在にも気づいていない杜撰さだからな』

マニゴルドの言葉に、<超級>戦力の恐ろしさについて一言あるエルドリッジがしみじみと呟いた。

だが、これに関してはドライフ正統政府の性質上、仕方のない話でもある。

彼らは内戦で味方側<超級>であるスプレンディダが【獣王】を倒せず、【獣王】もまたスプレンディダを倒せなかった経緯から、<超級>の戦力を不当に低く見積もっている節があるためだ。

そもそも、<マスター>の戦力としての有用性を世に知らしめたのが、彼らの嫌悪する皇王ラインハルトが彼らの離脱後に起こした第一次騎鋼戦争である。

そのため、彼らは本当に<超級>の脅威を理解していない。

いっそ稀有な立場ですらあった。

ティアンの超級職であるイサラは気づかれるかもしれなかったが、しかし現状はその様子もなかった。

『…………』

作戦の段取りを話した後、エルドリッジは思考する。

(粗い作戦だ。だが、極論それでどうにかなってしまう。俺達の担当は処理能力の範疇。【鋼姫】イサラも同様だろう。何より、本来ここの戦力を潰すだけならマニゴルド一人でいい)

マニゴルドが正面と右側の壁の戦力を担当するといった理由を、エルドリッジは既に気づいている。

予め船の構造は頭に入れている。正面と右の壁の向こうには 外気しか存在しない(・・・・・・・・・) 。

つまり、そういうことだ。

『残る問題は、反抗が起きなかった場合か』

他のブロックが大人しくしたままでは、自分達も動き出す契機が見出せないとエルドリッジは危惧する。

だが、それをマニゴルドは否定する。

『その心配は要らない。この【エルトラーム号】の周囲には護衛艦が配備されている。そちらは戦闘艦であるし、護衛依頼を受けた<マスター>も乗っている。そうでなくとも、この状況に率先して行動しようとする正義感はあれど頭の足りない<マスター>が乗船している可能性はある』

『……なるほど』

既に通信の遮断で異常は外部にも伝わっている。

護衛を請け負う戦力が行動することは考えられるし、<マスター>が事件に際して行動するのもよくある話だ。

『何より……この船には 時限爆弾(・・・・) が積まれているだろうからな』

『あ……』

『時限爆弾? 何の話だ?』

マニゴルドの言葉にユーゴーが何かに気づいたように声を出し、エルドリッジは不穏当な単語に警戒心を強める。

『この船には……【殺人姫】エミリーも乗っている可能性があります』

『…………何だと?』

想定外の名前…… 大陸中央部(カルディナ) 最強のPKの名が挙がったことに、エルドリッジは驚愕する。

そして……。

『どういう巡り合わせだ……。因果応報というにも程がある……。何でよりにもよってこのタイミングで、<超級>が 三人(・・) も乗り合わせている……』

そんな言葉を……マニゴルド達も聞き逃せない言葉を漏らした。

『三人? それは一体どういう……』

だが、マニゴルドの発した問いの答えをエルドリッジが返すことはなかった。

それよりも早く……状況は急転する。

ホール内を警戒する軍人達の通信機から……異常を報せるサイレンが鳴り響いたのだ。

「ッ!」

それが彼らの話し合っていた『他のブロックの動き』によるものだとは、すぐに察しがついた。

想定よりも早いが、しかし行動の機は逃せない。

軍人達がサイレンに呼応して武器を構えるよりも早く、彼らは動き出す。

「手筈通りだ」

マニゴルドがそう言って立ち上がり、そしてホールの中で周りに乗客のいない空間に飛び出して、

「Hoooooooooooo!!」

サイレン以上の大音量で吼えつつ、懐から銃器を取り出した。

「ッ! 照準‼」

それに対する軍人達の反応は素早かった。

銃器を取り出し、明確に反攻の意思が見られる相手。

ゆえに、彼らの銃口は他のどの乗客よりもマニゴルドに集中した。

自分を的にさせることが、マニゴルドの狙いだった。

それは他の乗客を狙わせないためであったし、それよりも重要な狙いもあった。

「撃ェ‼」

身を隠してすらいないマニゴルドに、ドライフ正統政府の銃火が殺到した。

それは【マーシャルⅡ】の携行した火砲……クリス・フラグメントの提供した先々期文明の銃器も含む一斉射。

《クリムゾン・スフィア》にも匹敵する威力の砲弾が、幾つもマニゴルドに突き刺さる。

耐久型の上級職でも、即座に死亡する威力。

まして、マニゴルドのENDはAGI型と大差ないほどに脆いのだ。

直撃すれば死ぬだろう。

「――《 金甌無欠(ジパング) 》」

―― 直撃すれば(・・・・・) 。

「……?」

マニゴルドの立っていた位置を包み込む、爆炎と爆煙。

しかし軍人達は炎と煙の隙間に……金と銀の輝きを見た。

炎が爆ぜる音の只中に金属が触れ合う涼やかな音が響く。

そうして煙が晴れたとき、彼らは見た。

当然のように無傷で生き残っているマニゴルドを。

その足元に……うず高く積まれた 金貨銀貨(・・・・) を。

「 ご提供(・・・) 感謝する」

そうしてマニゴルドは肥えた顔でニヤリと笑い、

「だが俺は金持ちだ。施されるのではなく施す側だ」

そう言って、財布代わりのアイテムボックスの一つを逆さにする。

「ゆえに――俺から くれてやる(・・・・・) 」

足元の金貨銀貨の上に、更に金貨が積まれていく。

同時に、マニゴルドは左手に持っていた銃器を捨てて……自分の指で銃を象る。

子供の鉄砲遊びのように、銃口に見立てた二本の指を正面の壁に……その前に並ぶ軍人達に向ける。

「―― 二〇〇〇万チャージ(・・・・・・・・・) 」

マニゴルドが床を強く踏みつけ、直後に彼の足元の金貨銀貨が宙に浮かび……。

「――《 金銀財砲(ゴールドラッシュ) 》」

彼が指し示した方向――正面の壁に並ぶ正当政府へと飛翔した。

一瞬後に、幾つもの光と音が重なる。

金の輝き、銀の輝き、衝突音、破裂音、破砕音、短すぎる断末魔。

そうして一秒も経たぬ内に室内の風景は一変する。

マニゴルドの正面の壁はなくなっている。

並んでいた軍人達も、【マーシャルⅡ】もなくなっている。

跡形もなく消え失せて、後には砂漠の夜を覗かせる大穴だけが残っている。

「え、あ……?」

軍人達がその光景に忘我した一瞬に、

「《金銀財砲》」

二射目が右側の壁の軍人達を消し飛ばした。

僅か数秒で、このホールに配されていた戦力の半数が消え失せた。

圧勝という言葉が生温いほどの蹂躙がそこにはあった。

しかしそれこそが【放蕩王】マニゴルドと……その<超級エンブリオ>であるTYPE:アナザールール【金城鉄壁 ジパング】の力だった。

ジパングは、単機能に特化したテリトリー系列の<エンブリオ>である。

同系のスキルの上位互換を重ね、必殺スキルもそれに準じたもの。

【魔将軍】ローガン・ゴッドハルトのルンペルシュティルツヒェンと近い型だ。

そしてジパングの有する唯一の能力が、『ダメージの金銭への変換』である。

ダメージ吸収の更に先、吸収したダメージの硬貨への変換能力。

使用に際して一定時間ごとに決まったMPを消耗するが、その間に受けたダメージは多寡に関係なく全て金銭に変わって足元に落ちる。

それなりに消耗するためあまり長時間の発動はできないが、発動している限りマニゴルドは欠片もダメージを負わない。

<セフィロト>において、“万状無敵”カルル・ルールルーと“蒼穹歌姫”AR・I・CAに次ぐ防御能力と謳われている。

だが、それだけならば耐えるだけの<エンブリオ>。

それも時を置けば必ず限界が生じる不完全な盾である。

ゆえに、マニゴルドには矛が存在する。

己の盾が破れる前に、敵対者を消滅させる矛。

それこそが、【放蕩王】の奥義……《 金銀財砲(ゴールドラッシュ) 》。

【放蕩王】とは、金銭を浪費する 道楽者(プレイボーイ) 系統の超級職。

その奥義の効果は至ってシンプルなもの。

――『捧げた金銭に応じた威力の砲撃』である。

一〇〇〇リルならば一〇〇〇リルの、

一〇〇〇万リルならば一〇〇〇万リルの、

一〇〇〇億リルならば一〇〇〇億リルの……砲撃が放たれる。

最大威力は……マニゴルドですら知らない。

際限なく金銭を生み出せる盾。

際限なく威力を跳ね上げる矛。

それこそが、マニゴルドの力である。

「終了、だ」

そう言ってマニゴルドが葉巻を取り出すと、いつの間にか横に立っていたイサラが指――に纏わせた金属で吸い口を切る。

彼女も既に担当した軍人達の制圧を完了している。

彼らの有していた銃器と【マーシャルⅡ】は、イサラの金属操作によって彼らを縛る手錠に……あるいは棺桶に変貌していた。

また、エルドリッジとニアーラもそれに少し遅れたものの、【マーシャルⅡ】三機を強奪し、歩兵も撃破している。

急に【マーシャルⅡ】をエルドリッジのアイテムボックスに仕舞いこまれた軍人達は操縦姿勢のまま床に落ち、困惑した表情で倒れ伏していた。

「中々、手際が良いな」

「そちらの派手さのお陰で、一度奪ってから再装填するまでの余裕があった」

【強奪王】が持つアイテムを強奪するスキル、《グレータービッグポケット》は両手に一回ずつセットできるが、それも二機の【マーシャルⅡ】を奪えば残弾が切れて再装填が必要になる。

しかしマニゴルドが防御と砲撃で耳目を集めたため、労せずにエルドリッジは再装填を終えて【マーシャルⅡ】を三機とも強奪できた。

制圧しながら歩兵の装備を奪う余裕さえもあった。

「まして、こちらはAGI型だ。【マーシャルⅡ】さえ押さえてしまえば、後は速度差でどうとでもなる」

補正込みのAGI型超級職と、レベルカンストにも遠い上にAGIより銃器使用のDEXに振られたティアン歩兵。

速度差によってあちらに人質への銃撃を許す間もなく制圧することは可能だった。

通信機のサイレンと眼前の仲間の消失で、二重に浮足立っていればなおさらだ。

(さて、ホール内の制圧は済んだ。次は他のブロックの救援か。ここ以外にも【マーシャルⅡ】がいれば実入りも増えるというものだが……)

三機だけでも成果には十分だったが、エルドリッジとしてこの機会を逃すのは惜しかった。

(どちらにせよ、マニゴルドからは引き続き協力を要請されるだろう)

ホール内の乗客に<セフィロト>……議会直属のクランの一員として説明を行っているマニゴルドの姿を横目に、エルドリッジは今後の動きを考える。

(マニゴルドと協力関係でも、他の二人の<超級>がどう動くかが分からない。間違っても敵対などしたくない……)

戦力が可視化され、容易に制圧可能なのが分かっていたホールと違い、他は鬼が出るか蛇が出るかという状況だ。

(そういえば、一体どこの誰が最初に動いたのか。その行動で被害が出ていれば責任追及の的になりかねないが……ん?)

不意に、足元をつつかれる感触を覚えてエルドリッジが視線を足元に向ける。

そこには彼のよく知る<エンブリオ>……フェイのゲシュペンスト弐号の姿と、彼女の筆跡で書かれた『アタシ、モール。指示求む』と書かれたメモがあった。

「……………………」

『もしや引き金を引いたのはうちのフェイなのでは?』と想像し、エルドリッジは冷や汗を流した。

そうであれば責任追及の的であり……折角の共闘もご破算になりかねない。

彼は超音速機動で素早くメモを拾い上げ、ゲシュペンスト弐号に『早く戻れ! ハリーアップ!』と無言のまま手振りで伝えた。

「エルドリッジさん、どうかしましたか?」

「……いや、何でもない。それより他ブロックの救援に向かうのだろう? 急ごう」

ユーゴーが顔に冷や汗を浮かべているエルドリッジに問いかけると、彼はホールの出口へと早足で歩き始めた。

事情を察したニアーラもそれに付き従う。

ユーゴーも他ブロックの救援を急ぐべきとは考えていたのでそれに続く。

マニゴルドの方を見ると、彼も頷いて出口へと移動を始める。

マニゴルドは既に説明を終えて、以後のホール内の防衛は他にいた<マスター>に任せていた。

そうして最初の戦闘をあっさりと片付けて、彼らはホールを後にしたのである。

ドライフ正統政府の主戦力を打破し、残るは正当政府の残敵とどこかに潜んでいるだろう【殺人姫】エミリーを相手取るだけだと考えながら。

しかし彼らはまだ知らない。

正当政府の主戦力を撃破したこの戦いが、【エルトラーム号】における彼らの戦いで最も 容易(・・) なものであったことを……。

To be continued